No.65 シャトルラン的鬼ごっこ
No.65 シャトルラン的鬼ごっこ
ヴィクターさんに追いすがる、1人の聖職者。・・・聖職者、であっているだろうかと不安が過る。
「おい、一先ず立ってくれ。それから、そこの椅子に座って落ち着け」
「ぅ・・・は、はいっ・・・」
先程の勢いはどこへやら、ヴィクターさんに促されて礼拝用の長椅子に座ったその人は、さめざめと泣く。
顔立ちからして20代後半だろうか?同じくらいに見える。
「今日は司祭は不在か?」
「ぅ・・・はい、数日ほど前から王都の大聖堂へ行っております・・・」
「つまり、アンタが今の責任者と言う事か?」
「はい・・・留守を任されているにも関わらず、この有様で。司祭様になんと申し上げれば良いか」
話を聞くに、この教会のトップは王都に行って不在。ここを任されているタイミングで今回の騒ぎだ、心中お察しする。
「話はギルマスから聞いている。運が悪かったな」
「はい、我々だけではどうすることも出来ずに、冒険者ギルドに依頼をさせて頂きました。よろしくお願いします」
消え入りそうな声で下を向く。
「頑張って、依頼を完遂しますね!えっと・・・」
「あ、申し遅れました。私、アデルと申します」
「アデルさんですね!私はメグミって言います。よろしくお願いします!」
「ヴィクターだ。落ち着いたところで、問題の鐘楼に連れて行ってくれ」
「はい、案内致します。こちらへどうぞ」
聖堂を出て、教会の中庭に伸びる外廊下を歩く。生い茂る草花が綺麗に剪定され、よく維持管理されている。
「鐘楼は、この中庭を抜けた先にあります。毎日、決められた時間に担当の者が塔の上に登り、鳴らしているのですが・・・」
そこ迄言いかけたまま、続きの言葉が無い。無言のまま鐘楼の入り口に到着した。
「真下で見るとやはり高いな」
「鐘の音が遠くまで響き渡るようにと設計され、必然的にシルビアで1番高い建物になりました。階段を登り切るにはかなりの段数がありますが、鐘を鳴らしそこから見える景色は格別な物があります・・・どうぞ中へ」
扉を開けて中へと入る。言われている通り、上に続く階段は正確に数えてはいないが、優に400を超えていたと思う。
「今日は私が鐘を鳴らす担当でしたが、もう3度程鐘を鳴らすべき時間に遂行出来ず・・・鳴鐘は厳格に定められていますので、報告書と始末書が・・・あ、すみませんこちらの話です・・・」
間もなく頂上と言うタイミングで、アデルさんが震える様な声で心情を吐露する。
成る程、口ぶりから察するに鐘を鳴らし忘れたりすると、上からかなり詰められるのだろう。出会い頭に、切羽詰まった様子だった事にも合点が行く。
アデルさんの、いや、街全体の為にも一刻も早く解決してげなければ。
「───この扉の向こうが、鐘の間になります。お2人とも、お願い致します」
薄暗い階段を背に開かれた扉の向こう。外からの光が一気に瞳孔を狭める。
「・・・これは、すごいな・・・」
「わぁっ・・・!」
鐘の間は割と広く、60畳くらいはありそうだ。中心に吊り下げられる大きな鐘は、本来であれば存在感を保ち、そこに在るのだろう。
だが、現段階では全体像をを見ることは出来ない。なぜなら、部屋に張り巡らされた白い糸の様な物で、見える範囲に制限が掛かっているからだ。
「この、白いカーテンみたいな物は一体・・・」
「ラガルレットの仕業だ。こいつらは、巣作りをする為に尻尾から糸を出す。粘着性は断面のみで、表面はかなりの強度がある。蜘蛛の糸と違い、簡単には千切れない・・・・・・いや、メグミには関係無かったな」
近くに伸びていた糸の束を興味本位で触って引っ張ったのだが、プチンッと簡単に千切れた瞬間をヴィクターさんに見られてしまった。
「すみません・・・」
「いや、ラガルレットを捕獲するにあたり、この糸は邪魔になる。先に撤去するぞ」
アデルさんには、扉の向こうの階段で待っていて貰って、私達は部屋に張り巡らされた糸をせっせと処理する。
ヴィクターさんに、この糸も防具や衣類の材料になるから、なるべく丁寧に取って置くように言われたので、私なりに力加減を調節しながら作業を行った。
黙々とその作業を続け、部屋の壁にくっ付き、伸びていた物は殆ど取れたと思う。残すは鐘自体に巻き付いている糸だけとなった。
「そう言えば、まだラガ・・・トカゲは出て来ませんね」
「呼びやすい方で呼べば良い。・・・こちらの様子を見ているのだろう。俺達は危害を加えるつもりは無いから、そのうち出て来るさ」
そう言って、鐘に巻き付いた糸を半分まで取った辺りだろうか、何かが鐘の中から滑るように出て来た。
その動きは余りに速く、目にも止まらぬ内に鐘の外側を駆け上がったのだ。
「!!!」
「ようやく出て来たな、残りの糸は捕獲後にしよう」
「は、はい!」
抱えていた糸を壁際に降ろし、ヴィクターさんの横に立った。
「ヴィクターさん、あの!もしよければ私にやらせては貰えないでしょうか?」
「・・・・・・構わないが・・・ギルマスも言っていたが、かなり捕まえ辛いぞ?」
「それでもヴィクターさんは、おそらく簡単に捕獲してしまうのだと思います。ですので、先に挑戦させて下さい!」
S級冒険者のヴィクターさんは、きっと華麗に難なく捕獲してしまうだろう。
1年に1回の大陸渡って来る貴重な生物の捕獲依頼、この機会を逃したらまた1年後。ならば是非、先に挑戦させて頂きたい。
「力加減だけ、忘れないように」
「はい!ありがとうござます!」
許可を貰って、改めて鐘に近付く。
糸はまだ幾分か掛かっているが、捕獲に邪魔になるレベルでは無い。
先程影が駆け上がった辺りを見上げると、鐘に巻き付く糸の表面に何かが潜んでいるのが見えた。
「あっ、いた!と、かげ・・・?」
四肢を広げ、鐘にピタリと張り付くそれは、確かにトカゲにも見えるが、前足から横腹部に掛けて皮膜の様な織りがある。例えるなら、木から木へと滑空するモモンガの様な。
取りあえず、ジャンプして捕まえて見よう。そう思い鐘の上まで飛び上がる、するといきなり目の前に現れた私に驚くトカゲは、サッと鐘の下まで駆け下りた。
確かに早いが、さっきよりも目で追えている。直ぐに体制を捻り床に降り立つ。
互いにジリジリと目線で相手の出方を伺う。斯くして、私達の鬼ごっこは始まった。
・ー・-・-・-・-・-・-・-・ー・-
鬼ごっこを始めて10分。グランさんやヴィクターさんが言われていた事がよく分かる。
兎に角身軽で、ちょこまかと部屋の中を縦横無尽に動き回る。
掛けだしたかと思えば急に反転、向きを変え逃げ回る機動性に、手を焼く。
加えてあの横腹に見えた折りはやはり皮膜で、手足を広げ高い所からの滑空に一役かっている。部屋の端から端へと何度も、シャトルランの様に走らされた。
「あっ・・・!!」
そうこうしている内に、鐘の横で起きた攻防に、バランスを崩した私が慌てたのと同時に、真横の鐘に頭突きをかましてしまう。
────その日初めての教会の鐘の音が、街に響き渡る。
大きな鐘の上には連動して遅れて鳴る小さな鐘も付いている為、一打で数回の音が鳴った。
しかもだ、普段の綺麗な鐘の音では無く、力任せに神社の本坪鈴を振り鳴らしたかの様な、ガランガランと忙しない音。
「す、すみません!!」
不可抗力とは言え、鐘を鳴らしてしまった事をアデルさんに謝ると、青ざめた笑顔で「大丈夫ですよ・・・」首を立て振るジェスチャーをする。
そこで察した、鐘を鳴らす時間を決められていると言う事は、不要タイミングで鳴らす事も御法度なのでは、と。
より慎重に、距離を詰めなければ・・・
鐘を鳴らす前に比べて、明らかに動きが悪くなった私をトカゲは本能で感じ取ったのか、部屋全体を使っての鬼ごっこは、早々に鐘の周り限定の物になってしまった。
「あっ!!!」
「うっそ・・・!」
「い、今1回手の中に入ったよね!?その状態から抜けられるの!?」
範囲が狭まったとは言え、相変わらずの回避率の高さにずっと踊らされている私。
今度は、鐘の下を通り抜けるかと思いきや、振り返り鐘の内側に飛び上がられた。
顔の上に飛びかかられたも同然の動きに驚いた私は、仰け反ってしまい・・・
「あ゛・・・!!!!」
後頭部による本日2度目の失態が、街に反響した。
1度階段まで戻り、アデルさんに再び謝罪する。
「す、すみません・・・」
「いえ、もうここまで来たら書類が何枚になっても一緒ですから・・・」
───結局、その後3度目の失態を冒し「すみません降参です・・・」とヴィクターさんに申告する。
これ以上鐘を鳴らしてしまうと、顔面蒼白のアデルさんの正気が保てないと思った。
あと、街の人々が困惑しているであろう事も加味して、の遅すぎる判断だ。
「・・・・・・そうだな、ふっ・・・すまない。代わろうか」
一部始終を見ていたヴィクターさんは、何故だろう、心なしか笑いを堪えている様だった。
多分、思った以上に手こずる私への、苦笑いだと思う。
「笑ってすまない。大丈夫だ、直ぐ終わる」
無事敗走した私は、ヴィクターさんの邪魔にならないように、アデルさんと2人で階段の所から見守る事となった。
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いつも読んで頂き、また、リアクションを送って下さり、ありがとうございます!!
こちらの話で、無事20万文字達成しました!!!
書き始めた当初は、文字数と話数について大体10万文字で文庫本1冊くらい……と言うフワッとした知識感覚のまま、見切り発車ぎみに始めました。
ですが、いざ書いてみると思いの外楽しく、いつのまにかこの文字数になっておりました(*´◒`*)!
とは言え、書きたいエピソードやメインストーリー的な話をしますと、現時点(65話)ではまだ半分も行っていないと言う……嘘みたいな話ですが……
これからも楽しく更新を続けて参りますので、メグミのエナドリバフを携えた第二の人生、お付き合い頂けますと幸いです!
よろしくお願いします!




