No.62 How old are you?
No.62 How old are you?
あの後、刺さる視線に身を縮めながら、何とかスティールバードの羽根を素材買い取りに出したのだが、お金を受け取ったタイミングで2度目の放送が始まってしまい、逃げるようにギルド会館を後にした。
本当ならグランさんに昇級の挨拶をしたかったのだが、とてもそんな空気では無かった。ヴィクターさんに相談し、大変申し訳無いのだが、明日以降と言う事になった。
「はーーーー・・・注目されるって、こう・・・居心地が悪いですね・・・」
「・・・まぁ、慣れだ」
「ヴィクターさんは、こんな風に人から見られる事に強そうですね・・・」
「どうだろうな」
否定も肯定も無い、だが余裕の表情。その凪いだ顔を見つめ、そう言えば、ヴィクターさん自身の話って余り聞いた事が無いなと、ふと思った。
余り自分を語らない人だとは理解しているので、根掘り葉掘り聞きたい訳では無いが、基本的な所謂・・・世間話程度の内容は知って置きたい。
「何か言いたそうだな・・・?」
「あー・・・えっと、そうですね・・・ヴィクターさんについて少し知っておきたいな、と思いまして。あ!駄目そうなら大丈夫です!」
「・・・答えられる範囲の内容なら。何が知りたい?」
もっと渋い顔をされるかと思った。眉間に皺の1つや2つは刻まれると・・・
私の予想と違い、ヴィクターさんはサラリと受け入れてくれた。
「えっと、年齢とか・・・家族構成とか・・・」
いきなり家族構成は、踏み込み過ぎた話題だったかと、言ってしまった後に後悔する。
「年齢は32歳だ。家族は父母と兄、弟、妹が一人ずつ。皆、王都に居る」
「王都ですか・・・!」
ギルドの説明を受けた時にも聞いた言葉。私達の住むシルビアは、レオニア王国の西方に位置する。順当に考えれば、王都は国の中枢。恐らく国土の真ん中辺りにあるのだろう。
今度、地図的な何かを見せて貰おう。
「他には?」
「えっと、好きな食べ物・・・とか?」
「何だその質問は・・・」
あれ?よくある定番の質問だと思ったが、この世界では定番では無いと言う事か・・・
「別段、飛び抜けて好きな物は無い・・・同様に嫌いと言う物も無いな」
「大人ですね・・・」
「お前は?」
「私ですか!?」
ヴィクターさんは、私の能力以外に興味は無いと思っていたから、反対に聞き返された事に驚いた。
「甘い物は基本何でも好きです。辛い物も。嫌いな物は・・・・・・苦い物・・・でしょうか」
「漠然としているな・・・まぁ、今日までの食事は全て美味しそうに食べていたから、苦手な物は偶々無かった、と言う事か」
「あ、焦げた魚とか肉は苦手です。苦いので」
「それは誰でもそうだろう」
「ふふっ、そうですよね」
「ふっ・・・質問、まだありそうか?」
次の質問を考えていたら、前方から「あらー?楽しそうね」とこちらに話しかける声がした。
声の方に顔を向けるとマリーさんが立っていて、いつの間にかレオノラの前まで帰って来ていた事に気付く。
店前の花に水をあげていた手を止め、私達に手を振っている。
「マリーさんこんにちは!」
「はぁい、こんにちは。で、どうしたの何か良い事でもあった?」
「ありました!冒険者ランクが今日、D級になりまして!」
「え!凄いじゃない!この前冒険者になったばかりだったのに・・・!」
マリーさんに褒められ、序でに偉い偉い!と頭も撫でて貰った私は、照れて「えへへ・・・」と緩みきった返事を返す。
「それで、軽く祝おうと思っていたんだが・・・この時間に店の外に居ると言う事は・・・」
「そう、今日は定休日なのよ」
「だな。そうだったと、今思い出した」
この町に滞在したのが、実質数日の私はレオノラがどういう営業状況か知らなかったが、定休日が設けられているらしい。
前世では個人の飲食店は比較的、火曜日が定休日と言うイメージがある。これは火曜の"火"が火事を連想させるからだと言う俗説による物らしいが、この世界にもそういった概念があったりするのだろうか。
「お店はお休みだけど、もし良かったら一緒に晩ご飯どうかしら?いつもの席を用意するわ」
「良いのか?」
「全然構わないわよ、上に住んでるお得意様だもの!凝った物は出せないけど、メグミちゃんのお祝いしてあげなきゃでしょ?」
「あ、ありがとうございますっ!」
ふふふっと笑うマリーさんは楽しそうで、すみません私の為に・・・なんて無粋な事は言えなかった。折角のご厚意だ、甘えさせて貰おうと思う。
「いつもの時間になったら、降りて来て。用意しておくから」
「あぁ、そうさせて貰う。ありがとうマリー」
じょうろに残った水を、花にかけ終わったマリーさんはレオノラの方へ。私達は横のアパートへと続く扉へとそれぞれ向かう。
今日も、午前中のスティールバードの件で、土埃や葉っぱ、枝と言った汚れを被っている。
ヴィクターさんにまたしても先にシャワーを使うように言われ、高速で済ませた。
私とヴィクターさんと合わせて1時間弱。約束の時間にはもう少し余裕がある。
装備をもう一度身に付けようか一瞬考えて、気が付いた。私、マリーさんに頂いた部屋着と、リンダさんに頂いた戦闘着以外の普段着を一着として持っていない事に。
前世でもおしゃれとは無縁に近かったとは言え、さすがに何着かは普段着を持っていた。
会社のスーツから、ギルドの制服、そして戦闘服と短期間で失って、手に入れてを繰り返したせいで、"服を最近新しくした"と言う情報で錯覚していたが、手持ちが増えてはいないのだ。・・・・・・近々、街でそれっぽい物を揃えておきたい。
一先ず、今日は部屋着で大目に見て貰おう。
程なくして、ヴィクターさんから声が掛かり2人でレオノラへと降りる。
・ー・-・-・-・-・-・-・-・ー・ー
「2人とも飲み物は持ったわね!───じゃ、改めて。メグミちゃんのD級への昇級おめでとー!!」
「あ、ありがとうございますっ!」
前世の様な乾杯の合図は無かったが、顔の高さに掲げたコップを2人が口を付けたタイミングで、注がれたジュースを一気に飲み干す。
「さ、食べて食べて!」
いつものテーブルに並べられる、種類豊富な夕食。手の込んだ物は用意できないと言われていたが、まるでケータリングの様に、片手で摘まめるタイプの美味しそうな食事に、胃が空腹を訴えて来る。
「頂きます!」
真っ先に手を伸ばしたのは、サンドイッチ。ドルガニルを出発したあの日に食べたマリーさんの軽食を思い出したからだ。美味しくてまた食べたいなと思っていたので、迷うこと無く選んだ。
「ふふっ、それ気に入ってくれたの?」
「はい!とても美味しいです!あ、あの時の軽食ありがとうございました!」
「私こそありがとう、作って良かったわ。普段の店は、主人が奥で厨房を担当しているから私が作る事は無いんだけど、そんなに美味しそうに食べてくれるなら、数食限定で出してみようかしら」
「是非!お願いします!」
最後の一口を頬張った後も、美味しい夕食と会話に花を咲かせた。
旅の道中の出来事だったり、ドルガニルがどんな町並みで何が美味しかったのか、と言ったエピソードが多かった。
マリーさんは、産まれてからずっとシルビアで暮らしているそうで、近隣の村より遠くに出たことが無いからと、楽しそうに私達の話を聞いてくれる。
「ふふっ、ジルはいつも冒険して帰って来るくせに、全然そう言う話を聞かせてくれないから・・・・・・あ、そう言えばメグミちゃん聞きたい事あるんだけど、何でジルの事をずっと家名で呼んでるの?」
「・・・え?あ、えっと呼びやすい、からと言いますか。私の前・・・出身の国では、家名が基本で。名前は結構親しくないと呼ばない・・・気がします」
「ふーん、そうなんだ?」
「・・・別に好きに呼べば良い。こだわりも無いからな」
ジルニードさんといきなり呼ぶには、度胸も気合いも足りない。ヴィクターさんもこう言ってくれているし、今まで通り苗字呼びのままで行かせて頂こう。
そもそも仕事上の上司なのだから、苗字の方がむしろしっくり来ると言う物だ。
「それで?ジルは?何でメグミちゃんの事名前で呼んであげないの?」
「は?」
「お前ーとか、こいつーとか。女の子に対して、もうちょっとあるでしょ」
言われてみれば、名前で呼ばれた事は殆ど無いかも知れない。言われるまで気が付かなかった。グランさんにも嬢ちゃんと呼ばれているから、特に違和感も無く受け入れていた。
私も私で、呼ばれ方にこだわりが無い派だったらしい。
「・・・・・・無意識だった」
「騎士時代に大勢いる部下を呼ぶ時は、そうだったかもしれないけど。今は1人しかいないんだから、名前で呼んであげるべきよ」
「そうだな・・・・・・メグミ・・・言い慣れないな。暫くは違和感があるかも知れないが構わないか?」
「はっ・・・はいっ!問題ありません!」
私達のやり取りを、マリーさんはひどく満足そうに眺めながら、コップのお酒を煽っている。何だろう・・・・・・眼差しが小さい子供を見る様な感じがして、擽ったいような気恥ずかしいような・・・
動揺から、手にしているジュースを一口。
喉を葡萄ジュースが通り過ぎたタイミングで、帰り道にしていた質問の件を思い出した。
折角だから、何か他に聞いてみようかなと考える。
「あ、そういえばヴィクターさん、ギルドで頭を撫でて貰ったのは一体・・・」
「ん?」
「ほら、私がD級の身分証を翳した時の・・・」
一瞬の出来事ではあったが、予期せぬ動きに私は大層な衝撃だった。嫌とかでは無く驚き半分困惑半分。28歳アラサーの私にとってその所作は、青天の霹靂だったのだ。
「え?ジル、メグミちゃんも撫で撫でしたの?!」
「まぁ・・・一瞬だが・・・」
「わっかるぅ!メグミちゃんって何だか撫でたくなっちゃうのよねー」
「不快だったらすまない・・・妹を撫でる感覚で・・・」
成る程、確かに妹さんに向ける感覚で、無意識にならあり得る話だ。
仲良し兄妹を想像して、ふふふっと笑みが溢れる。
「妹さんは、ヴィクターさんと年齢が近いんですか?」
「俺より、メグミとの方が近いと思うぞ。今年で成人、18だな」
「えっ・・・!!じゅっ・・・!?・・・・・・私、ヴィクターさんの4歳下です・・・」
今日1番の衝撃の言葉に、潤った筈の喉からはカッサカサのか細い声が出る。
思い返せば、私の年齢について話した事は無かった様な気もする。
待って欲しい、私一体何歳だと思われているのだろう・・・
「え!?待ってちょうだい、え?メグミちゃんいくつ・・・?」
「・・・今、28歳です・・・」
「は?」
転生した事で正確な数は分からないが、前世では28歳だったのでそのままを伝えた。
「にっ、28歳!???え、やだ私てっきり19歳かその辺りかとばかりっ・・・!」
「19歳ですかっ・・・!?」
実年齢より、ほぼ一回り下ではないか・・・若く見られたと言うレベルでは無い。幼く見えていたのだ・・・そんなに顔に人生を刻んでいないのだろうか・・・
「そうなの・・・28歳・・・ごめんね、勝手に勘違いしちゃてて・・・」
「いえ、私こそしっかりして無いばかりに、誤解をさせてしまいすみません・・・」
互いにしょんぼりと肩を落とす。明日から、もっと年相応に見られる様な振る舞いを心がけねば・・・
「・・・あっ!それなら、部屋!部屋を別にするべきよね!?」
「え?あ、ヴィクターさんの所に居候させて貰ってる件ですか?」
部屋を別と言う言葉が一瞬理解出来なかったが、マリーさんの指が食堂の天井を指さすジェスチャーのおかげで、上の居住状況の話だと分かった。
確かに、いつまでもヴィクターさんのお部屋を圧迫する訳にもいかない。今日の依頼で纏まった軍資金が得られたので、そろそろどこか部屋を借りた方が良いなと思案する。
「───直ぐにでも、別にするべきだ」
「そうですよね、いつまでもご厚意に甘えて居座る訳にもいきませんよね・・・」
「違う、そう言う意味では無い。勘違いだっとは言え、まだ子供だと思っていたから、部屋に住まわせた。・・・・・・本来、未婚の女性が男と住むのは御法度だ」
難しい顔をするヴィクターさん。
確かに、前世でもそう言う考えの人もいるが、居候の概念でいた為その考えには至っていなかった。
「この国は、婚約者同士では無い適齢期の男女が一緒に住むのは、実は余り良い顔されないのよ。特にジルはその辺りの規律がしっかりしているから・・・ごめんなさいね、そう言った事も教えてあげられなくて」
「いえ・・・すみません、この国の決まりと言いますか、風習を知らず・・・」
はぁーーー・・・と今度は3人で肩を落とす。
この国の成人が18歳で、私が19歳くらいに見られていたとしたら、32歳のヴィクターさんからすれば十分子供枠だ。実際28歳の私からしても19歳は、高校生と差ほど変わらない。
保護者のつもりでいたのに、それが保護対象は実はアラサーでした!となると話が根本から変わって来る。
恥ずかしいやら申し訳ないやらで、項垂れる。
「・・・と、取りあえず、部屋は明日探します!・・・ですので、今晩だけ何とか・・・」
「お前・・・」
「何言ってるの!部屋なら上にいくらでもあるじゃ無い、そのままジルの隣の部屋に住めば良いわ」
「え!良いんですか・・・?」
そう言えば、ヴィクターさんが4階には自分以外誰も住んで居ないと言っていた。
部屋の扉が4個有ったから、3部屋分は空いている事になる。
同じアパート同じ階に住まわせて貰えるのなら、私としては大助かりだ。
「勿論よ!取りあえず、明日の昼過ぎには入居出来るようにしておくわ。だからジル、今日はメグミちゃんを泊めてあげてね!もう今更、ひと晩増えた所で変わらないでしょ?」
「それは、そうだが・・・・・・・・・分かった・・・」
眉間の皺が深々と刻まれたヴィクターさんは、いつにも増して深いため息をつく。
その晩、私はヴィクターさんのお部屋で最後の宿をお借りした。
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