No.59 今までと、これから 【ヴィクターside】
No.59 今までと、これから
【ヴィクターside】
ドルガニルからの長旅を終えて、家に帰って来た。
熱いシャワーを浴び、リビングに戻ると旅を共にした彼女は、ソファーに寄り掛かり寝息を立ている。
幼さの残る寝顔に、ふと妹の事を思い出す。妹とは年齢が16歳離れているが、よくこうやって実家のソファーで寝入っていたなと・・・
俺の気配に気が付かない程の深い眠りだ。暫くは起きないと見て、部屋からブランケットを持って来て掛ける。
───無理もない、新人冒険者としては異例の出来事がこの旅で起きたのだから。
いや・・・そもそもだ、彼女自身が異例そのもので、それを取り巻く環境も普通では無い。
怒濤のように過ぎた日々は早いもので、もう直ぐひと月になる。
初めて見た時は、俺から言わせれば魔物でしか無く、異様な存在だった。
異世界から来た為、知識量はそこら辺にいる幼児と変わらない。力加減も知らず、およそ人間とは思えない能力値。
身元不明、後見人無しのはっきり言うと"厄介者"の印象しか無く、さっさとギルドに引き渡して手を引くつもりだった。
それが、何の因果か俺と師従関係になり、文字通り手取り足取りの親代わりだ。
初めは面倒事を抱えてしまったなと、気乗り半分でいたのは事実。受けたからには、任務遂行はするつもりではいたが。
目を離すと直ぐ床で寝ようとする変なやつだが、知識が無い割に物事の理解度は悪くない、分からない事は即座に聞いて来るし、こちらの返答や指示にかなり的確に答えてくれる。
それもあって、非常にやり易い。
新人としては人間的成熟度が高い事が意外だった。職業柄、荒くれ者や自身過剰、反抗的な態度を取る冒険者も多い。それが結果として事故になりかねないが、メグミはそう言った面は皆無だった。
素直、柔軟、勤勉・・・その辺りの言葉がよく当てはまる。冒険者と言う職業では珍しい毛色だ。
寝食を共にする内に、内面的な部分が分かって来て、次第に面倒くさいと言う感覚は薄れて行った。
ステータスの狂い具合は相変わらずで、力加減を身に付けつつも、まだまだ荒い。
この辺りはもう少し長い目で見る事にはしている。
ドルガニルで巨大ワームに対峙した際は、冷や汗が背中を伝った。
まさか、あのクラスの特殊な個体が2体もあの鉱山に潜んでいると想定しておらず、またメグミが真っ向から打ち勝った事も想定外だった。
事前に、万が一の時は全力でいけと伝えていて良かったと、後から思う。
巨大ワームは、ほぼS級に匹敵する強さと言って良いだろう。
稀少鉱石をたらふく取り込んだ体は、並の装備では傷1つ付かなかった・・・それを身一つで受け止め、天井に叩き付ける程の能力。
本人はスキルのおかげだと言っているが、あの瞬間的な破壊力はもはやSS級を凌駕しているだろう。
本来なら慎重にかつ速やかに能力を安定させなければ、国益どころか厄災になりかねない危うさがあるが・・・まぁ、本人の性格を織り込むと敵対する未来像は全く浮かばない。
そう言う所が、ギルマスも気に入っている要因だろうな。
出会った相手が皆、不思議と好意的・・・いや絆される、が近い言葉かもしれない。
誰もが自然に手を差し伸べ、目を掛け、背中を押す。人柄か・・・人たらしの片鱗か────・・・
こればかりは、一種の産まれ持った才、可視化出来ないスキル。
規格外の破壊の力を持ちながら、同時にそれも持ち合わせているのなら、末恐ろしい存在である事には間違い無いが。
後はそうだな・・・謙虚、と言うより人に世話になったり、借りを作る事を異常に嫌がる。
特に金銭が絡むと、殊更。
新人のうちは大人しく享受して置けば良いものだが・・・まぁこれはランクが上がれば解決する問題だから、放って置こう。
今日迄の出来事を交えながら、メグミとの師従生活を振り返ってみたが、起きた内容が余りに過密で僅かひと月の事だと誰かに話したとしても、何の冗談だと信じて貰えないだろう。
「本当に、やっかいな拾いものだな」
フッと、口元が緩んだついでにそんな言葉が漏れた。
まぁ、良いさ。冒険者になって5年、目的は手詰まりで有益な情報も掴めないままだ。
このまま残りの期間を同じ様に過ぎるのを受容するよりかは、幾分か救いがある。
日常に突如として現れた異世界からの転生人と、違った期間を歩いて見るのも良いかもしれない・・・。
この国の周りにはドルガニル以外にも、多くの国がある。一通り渡り歩いたが、折角だ。メグミを育てる傍ら、再度回ってみるのもありだな。
何か、変化があるかもしれない・・・いや、既に否応なしに変化の中に居るのだから・・・とそんな淡い期待を抱く。
明日からは、きっとまた何か変化が起きるのだろう。それは想像もしない結果や展開になる事だろう。それを真横で見るのも案外面白いのかもしれない。
そんな風に思える心境の変化に内心驚いてはいるが、そう思わせてくれる存在に、より興味が湧いた・・・そんな所だ。
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