No.56 挨拶回りが裏目に出る事があるんですか?!
No.56 挨拶回りが裏目に出る事があるんですか?!
それから2人の合理的かつ正論を交えた説得で、グランさんは渋々諦めてくれた。
「───ただ、ワームに使った時を1回として、今それが回復して再度使用が出来るのであれば、回復条件を知っておいた方が良いとは思うが・・・そうなると、シルビアの外で検証するしかない」
時間が経って再使用が可能になったのかとか、これが窮地にしか使用できない物なのとか、その辺りも詰めなければ"何だか分からないけど凄い力が手に入った"と言う、持ち腐れ状態になりかねない。
「だがそれは後回しだ。先に等級を上げる方を優先した方が良い。そう何度も、そのスキルが必要になる場面も無いだろう」
あの規模の魔物に頻繁に出会すとは考えにくい。等級を上げ、経験をもう少し積んでからにしようとの見解だった。また、限界を超えて倒れられても困るしな、と。
確かにあの時、満身創痍だったから倒れたのか、それとも単純に私のステータスや経験にも左右されていたのなら、直近の予定が決まった中で試すのはリスクがある。
これを検証する為にも、早い所ランクアップの件を進めよう。
「さてと、身の振り方が決まった所で今日はお開きにするか?」
「そうしよう、また何かあったら報告に来る。後、これは数日空けていた詫びだ」
ヴィクターさんが、マジックバッグから大きな木製の樽を3つ取り出し、執務室の床に置く。
「何だ?これは」
「要らなければ、ギルドの食堂にでも降ろしてやると良い。他の冒険者が喜ぶさ」
「ドルガニルの酒か!?」
当然だと言わんばかりの顔で「エールだ」と酒樽の蓋をノックする。
中身がしっかりと詰まった音が響き、グランさんは喉を鳴らす。どうやら、お酒が大好きの様だ。
「ありがとよ。ま、まぁ2個は食堂にくれてやっても良いぞ」
「任せるさ。俺達はこれで」
「はい、お疲れ様でした」
「失礼します」
2人に会釈をして退室するが、グランさんは酒樽に目が釘付けで・・・これは、定刻が待ち遠しくてソワソワして仕舞うパターンだ・・・その姿が容易に浮かぶ。きっと、今晩は酒盛りになるのだろう。
執務室を後にし、1階に降りると丁度カレンさんの前の行列が捌けていた。これはチャンスと走り寄る。
「カレンさーん!」
「メグミ様!怪我は!?途中大変な事はありませんでしたか?!ご飯はちゃんと食べてますか?!無茶な事とかしてませんか?!」
「無事帰還しました!元気です!」
駆け寄るが早いか、怒濤の質問に反射的に返事をする。
怪我も、大変な事もあったが、この様子では正直に話してしまうと卒倒して仕舞いかねない。取りあえず、現在元気である事だけを伝えさせて貰おう。
「それなら良いのですが・・・」
「はい!それより、カレンさんにお礼を言いたくて!前、薬草とスライムの依頼を受けた時の事なんですが」
「はい、その時の事がどうされたんですか?」
「えっと、実はあの時のスライムは私が、その・・・修行の一環として私自身が倒した・・・と言う事はお気づきかと思いますが・・・」
気が付いている事は確定なのだが、一応確認を先にして置いた方が無難だと思い、自供すると、カレンさん自身も心なしか気まずそうな表情に変わる。
「あぁーえっと、はい・・・」
「それで、その時の依頼完了の実績を、私に付けて下さっていますよね?」
「・・・差し出がましいかと思いましたが、実績分を捨ててしまうのは勿体ない気がしまして。すみません勝手に」
「違うんです!カレンさんがその手続きをして下さってた事で、私とても助かってて・・・えっと私、近日中にD級に上がるようにグランさんに言われたのですが、あと依頼1つで条件が満たされると分かりまして、ありがとうございました!」
両手を包み込み、心の底から感謝を伝える。
勝手な手続きをした事に苦情を呈されると気構えていたのか、カレンさんはポカンとした表情で固まる。
そもそも、ちゃんと伝えなかったのは私達なのだから、逆に申し訳ない。
「ポイントの件はグランさんやエリスさんからも、大丈夫だとお墨付きを貰いましたので、大丈夫ですよ!」
「そう言う訳だ。D級に上がるに適した、依頼を見繕ってくれると助かる。明日の朝受けに来る」
「は、はい。事情は分かりかねますが、何件か用意して置きます」
「よろしくお願いします!」
呆気に取られるエリスさんに、ヴィクターさんが明日の予定を取り付け、去り際に"グラマスに土産を置いて来た、後で振る舞われると思うから、一杯やってくれ"と耳打ちをして、会館を出た。
・ー・-・-・-・-・-・-・-・ー・-
その後予定通り、今度はカイルさんのお店に向かったのだが・・・
「無理です無理です!!さすがに勘弁して下さいっ!!!」
一緒に着いて行った事を後悔する羽目になる。
話の滑り出しは良かった。2週間ぶりに顔を出したヴィクターさんに、おかえりとカイルさんが挨拶し、和やかな雰囲気で。
カウンター越しに出来上がった剣を取り出して渡すと、飛びつくように眺めた後「触っても良いかな?」と了承を取り鞘から剣を抜く。
「これが、父さんの一番最近の仕事・・・。流石父さん・・・見惚れる所しか無い。俺がドルガニルに居た頃とは比べ物にならない・・・まだ、腕が上がるのか・・・・・・こんなの何年掛かっても追いつけるかどうか・・・」
剣の善し悪しは私には分からないが、同職が見れば一目で素晴らしさが分かるのだろう。
憧憬の眼差しが惜しみなく剣に注がれるさまは、絵画を切り取った様に崇高な物に見えた。
以前、剣を手折った時のギラギラとした目のイメージしかなかったが、今日は全くの別人に感じる。
カイルさんは暫くの間、剣と対話するかのように賛美の言葉を紡いでいたが、尽くす言葉が満ち足りたのか「見せてくれてありがとう」とヴィクターさんに剣を戻す。
「なんだ、満足したのか?」
「ああ、久しぶりの父さんの仕事が見られて、感無量だよ。僕もまだまだ精進しないといけないね」
モーゼさんの仕事ぶりに、気持ちを引き締めた・・・といった感じだろうか。
やはり他の人の成果を目の当たりにすると、自分に気合いが掛かると言うのは同意せざるを得ない。
ふわりと前世の仕事の事を考え始めた矢先、ヴィクターさんの一言でガラリと流れが変わる。
「それは良かった。親父さんには、メグミの武器も誂えて貰ったから、大変感謝している」
「────────え?」
「ん?あぁ、ずっと素手だっただろう?それを見かねてガントレットを親父さんが───・・・」
ヴィクターさんが説明し終わる前に、あのギラギラとした目がこちらを向いた。
「っひっ・・・!!!」
完全に気を抜いていた私は、恐怖で喉から引き攣った声を上げる。
これだ、この目だ!私は何を勝手にイメージを書き換えて居るんだ、私の中のカイルさんはこっちのイメージなのだ。
「えぇ・・・?父さんが?君に?それを・・・造ってあげたって・・・?」
ユラユラと幽霊の様にこちらへと近付いて来る。カウンターなんて初めから無かったかのように。
「それもガントレットだって・・・?父さんは基本、剣を得意としていて、それ以外の武器なんて・・・滅多に造らないし、お得意さんの依頼とかでしか・・・・・・それを?君が?」
「ふぁい・・・!!!」
恐怖の余り、返事を噛んでしまう。何なのだ、毎回この人から感じるプレッシャーは・・・!グランさんに睨まれた時より、ワームと対峙した時よりずっと怖い。
「見せて、見せてよ・・・、その武器・・・」
じりじりと壁まで追いやられ、恐る恐る右腕をカイルさんに近付けると、間髪入れずに両手で掴み上げられる。
ガントレットを装着したままの私は、一緒に引き上げられた。
「ひぇっ・・・」
「カイル、せめて外してからにしてやれ・・・」
事の次第を見ていたヴィクターさんから、ようやく助け船が出る。
いや、この場合ヴィクターさんの一言でこの状況になっていた訳なので、初期の段階で救いの手が欲しかった。
一度離して貰えた隙に急いでガントレットを外し、ヴィクターさんに手渡すと、即後ろへ退避する。まだ私には、壁が、隔てる壁が必要だ。
「ほら、存分に見ると良い」
カイルさんは即座に、ヴィクターさんの手から抜き取り、先程に増して目を凝らす。
「───これは、なんて素晴らしい・・・。無骨な造形が主流のガントレットと違い、この曲線は?彼女向きになっているのか・・・?一切の無駄が無い・・・もっと厚みを持たせて造らないと、強度の面で劣る。ガントレットは近接戦闘で打つ受けるを繰り返し、ひたすらその身を酷使する。にも関わらず、この軽さと薄さは・・・・・・・・・この色合い、まさか・・・"ヒヒイロカネ"か────・・・?」
羅列される言葉は殆ど聞き取れなかったが、最後のヒヒ?の辺りだけかろうじて聞こえた。
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"尽くす言葉が満ち足りた"
と言う部分がありますが、こちら
言葉を尽くす
満ち足りる
が正しい使い方ですが
それを褒め称え、自分の中で満足いく言葉を言い尽くした・・・と言う感覚を少し詩的な表現をしたかったので、上の並びになっています₍₍ (ง *´ω`*)ว ⁾⁾




