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No.54 帰還と私と言うノイズ


No.54 帰還と私と言うノイズ






「あ!ヴィクターさん、ついにシルビアが見えて来ましたね!」



ドルガニルを出発した私達は、徒歩と途中で行き合わせた商人に交渉し、短い区間を乗せて貰ったりと、行きよりも時間を掛けて来た道を戻った。


実に3週間ぶりの帰還である。夜にシルビアを出発した日が随分と前のように感じる。

この世界に来て間も無く一ヶ月と言うのも、信じられ無いくらいだ。



「割と掛かったな」


「ですね。まずは、グランさん・・・ギルドに行かれますか?」



このペースなら昼一番には着いて、そのままギルドへの報告に向かう流れだろう。

日々歩き詰めではあるが、このブーツが歩きやすく疲れにくいのか、街に着いても即帰宅からの、ベッドに倒れ込む!なんて事も無さそうだ。


「そのつもりだ、その後にカイルの所に続けて向かうか、明日にするかは終わってから考えよう」


「はい!」





・ー・-・-・-・-・-・-・-・ー・ー





こうして、予定通りシルビアへの帰還を果たしたのだが、門を潜った辺りから、いつもと違う気配に居心地が悪くなる。



「あ、あの・・・何ででしょうかね・・・以前より視線が・・・。ヴィクターさんへの物はいつも通りですが、今日は私にも刺さって来ているような・・・気のせいですかね?」


「どうだろう、余り普段を気にした事が無かったからな」



そうか、ヴィクターさん的には普段から他の人に話しかけられたり、遠巻きに見つめられたりは日常茶飯事で、今更なのだ。いやでも明らかに、視線の位置が低い・・・気がする・・・。


ヴィクターさんの陰に隠れつつ、極力目立たないようにギルド迄辿り着いた。

扉を開け、受付の所まで進むといつものように、カレンさんが冒険者への対応業務を行っている。



「戻った」



順番が回って来て、ヴィクターさんが先に挨拶をする。非常に簡素で、何週間も期間を空けていなかったかの様。


「カレンさん、ただいま戻りました」


長期任務の帰還で何と言えば適切なのか分からず、やはり私も簡素な物だった。



「────っお帰りなさい!!!」


弾ける笑顔とギルドに響き渡る声に、安堵する。

以前、カレンさんに迎え入れて貰える事で、張り詰めた神経が解けるのでは無いかと仮説を立てていたが、まさに今私がそれを感じた。

ギルドと言う、家に帰って来たのだと心の底から実感する。



「当たり前だけどメグミちゃん、よね?一瞬見間違いかと思ったわ!良い装備ね!」


「あ、えっと、はい!向こうで、計らずして装備が整って帰って来ました!」



何をどこまで話せば正解か分からずに、装備の完了部分だけ伝えた。

その辺りの事はヴィクターさんが、先にグランさんに伝えられてからの方が、良いと思ったのだ。


「ギルマスは?」


「今日は特にご予定は無いと伺っています。執務室にいらっしゃると思いますよ」


「それは良かった。それなりの期間不在にしていたからな、挨拶をして来る」


「はい、ごゆっくりどうぞ」



この時間は、午前中に依頼を終えた冒険者が完了の報告とを行う組と、昼食を終えた冒険者が依頼を受注する組で受付が混み合う為、長い間留まると、後ろが渋滞してしまう。

挨拶は手短に済ませ、グランさんの部屋へと向かった。




ノックの後に中から「どうぞ」と言うエリスさんの声が聞こえ、入室する。



「ただ今戻った」


「失礼します」


「おう!戻ったか!久しぶりだな!!」



いつもの様に促されるままソファーに座り───・・・いや、私はまだ座る訳にはいかない。その場でグランさんの方を向き、直立する。



「グランさん、まず初めに謝罪させて下さい!」


「お?おぉ・・・?」


「この度のドルガニルへの遠征にて、支給して頂いたギルドの制服を、全て消失させてしまいました!!大変申し訳ございませんでした!!」



謝罪と同時に勢い良く腰を90度に折り、頭を下げる。やっと帰って来た事で気が抜けかけていたが、この件については何が何でもお詫びをしなければならない。



「しょ、消失?それも全部?」


「はい!諸事情により、布の切れ端一つ持って帰る事が出来ませんでした!」


「待て待て、何があった?」



"何があったか"その質問は至極当たり前で、真っ当な質問だ。貸主からしたら、会社の備品を無くされてしまった訳なのだから。



「・・・その件も含めて、今から報告しようと思っていた」


「おう、聞かせて貰おうじゃないか。嬢ちゃんも座れ、床じゃ無くてソファに、だぞ」



その場に正座をしようとしていたのだが、先手を打たれてしまった。

ヴィクターさんもそうなのだが、グランさんも私の次の行動を先読みして、封じている様な気がしてならない。


「失礼、します・・・」


流石にソファの上で正座とも行かず、言われた通りに座る。その様子を2人が確認してから話が再開した。




無事ドルガニルに着いたものの、巨大ワームが現れて街は活気を失っていた事。

実質鉱山を失ったも同然で、ミスリルの剣はおろか定番のブレード一つ作れない事。


そこにたまたま居合わせた我々が、ワームの駆除をした。

だが、実はワームが二体いた事が発覚し、別場所で待機していたドワーフを護る為に私が戦ったのだが、その際にギルドの制服を失ってしまった事。


この報告は、グランさん個人への物で、ワーム駆除自体は依頼として受けた訳では無いし、ドルガニルとはギルド協定が無い為、そもそも規約違反が成立しない。


あくまで、剣を造って貰う課程での"ついで"のものだった事を強調しつつ、一連の流れを報告し終える。



驚きと困惑で、開いた口が塞がらないとばかりの反応のグランさん。先に、報告内容について反応したのはエリスさんだった。


「ドルガニルから、危機に瀕していると言った報告は上がっていませんでしたが、確かに以前に比べ、武器の供給が減退していました。ワームの件が背景にあったと言うことであれば、納得ですね」



「はーーーー・・・なるほど。取りあえず、無事帰って来てくれて良かったよ。この先その状況が続いて、ドルガニルの武器や防具が完全に流通しなくなると、国も冒険者もかなり困るからな、そう言った面で良くやった」


「ワーム駆除については、不意にどこかで概要が漏れてしまっても、皆さんがよく使われている"ゲリラ依頼"と言う、自己責任に基づくやり方と似てはいますが、金銭的な報酬を辞退されているとの事ですので、本当に善意の手助けと言う事で処理出来ますね」



頭を抱えながらのグランさんの横で、エリスさんが淡々と議事録を取っている。



「あ、これはフォートレスとしての物で、本部には上げませんのでご安心を」


「助かるよ」


「あーーー・・・まぁ、本部には報告しないさ。ドルガニル側の体裁もあるだろうしな」



ギルド本部と国は情報共有を行う場合がある。今回の件は間接的にドルガニルがレオニアに貸しを作る流れになりかねない。場合によってはそう言う流れもあるが、そこまで大事にする為に駆除した訳では無いからな。ここだけで留め置く。とその辺りの細かい理由を個別で聞かされる。


なるほど、オフレコと言う訳だ。組織図や国の勢力図は全く分かっていないが、ヴィクターさんがそう言うのなら、そう言う事なんだろう。



「それから、ギルドの制服消失の件は構わん。───それより、立派な装備を揃えたな」


「マスター、もう曖昧にしておくには限界かと・・・」


「・・・どうした?」


「?」



ワームの件より深刻そうな表情のグランさんとエリスさんに、私達は首を傾げた。


「いや、それがな・・・俺がお前に師従関係を結べと言った手前であれなんだが・・・お前が嬢ちゃんを連れているのを見た他の冒険者が、その・・・・・・」


「何だ?」


煮え切らず言い淀むグランさんに代わり、エリスさんが明瞭な声で発言する。


「《ジルニードさんと一緒にフィールドに出ている、ギルドの制服のやつは誰なのか?》」

「《ギルド職員の新人研修でもしているのか?》」

「《ソロで誰とも組まないジルニードさんが、まさか新人とパーティを組んだのか?俺達だって組めるなら組みたかった》」


「────と、他にも有りますが、概ねこう言った声が寄せられています。我々もこの様な声が上がる可能性は考えて居ましたが、思いの外多く・・・」


「ギルドの制服で、まぁ職員が同行しているんだと思っている奴の方が多いが、今日その装備で帰って来た事で・・・恐らく冒険者であると確信した奴も多いかもしれん」



要は、制服来ている内は職員ないし、関係者としてスルーされるかと思っていたそうなのだが、予想外にヴィクターさんが誰かを連れている事が不可解で、不用意に注目を集めてしまっていたらしい。



「装備も見る奴が見りゃ、それが相当のモンだって分かっちまう。そう言う事もあって、明日"ギルドマスターからの特例措置"の通達を出そうと思う。済まねぇが、なるべく早いとこD級・・・いや、C級に上がった方が良い」



「そうだな・・・他の冒険者も結局、実力主義だと痛い程分かっているからな・・・強さを示せば、瞬く間に何も言われなくなる。ただしお前の強化状態は、ギルド内では引き続き秘匿としてな」



やはり、私が想像した通り、ヴィクターさんは他に冒険者からの憧れの的だったのだ。


誰とも組まない孤高の剣士。私は現状その剣士の周りに居るノイズである。

S級冒険者から教えを請うに値する存在として、冒険者の方々からの公認を貰わなければ・・・!



「フォートレス所属冒険者のその辺りの心情を、甘く見ていた俺の判断ミスだ、すまん。だが、その規格外の巨大ワームを1人で倒した嬢ちゃんなら、すぐにランクが上がるはずだ。頑張ってくれ」


「はいっ!頑張ります!」




この旅で学んだ事は多く、出発する時よりも多少なりとも自信が付いてきた。

・・・ちょっとだけだが。

小規模の魔物と対峙する時でも、慌て過ぎず対処出来る様になって来ている。


帰りの旅路で何体かの魔物と戦闘にもなったが、ヴィクターさん曰くD級に上がり、小型の魔物の討伐依頼を受けるようになっても問題無いとお墨付きを貰った。

油断は禁物だが・・・。


目下の目標は、早々にD級に上がる様に務める事だ。





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