No.53 別れ
No.53 別れ
「っと!そうだ、嬢ちゃん!忘れねぇ内に!」
「?」
お酒のグラスを置き、ポケットからモーゼさんは何かを取り出す。
差し出された大きな掌には、小さな剣を模した模型の様な物が乗っている。
「これは?」
「嬢ちゃんへの、まぁ所謂・・・餞別みてぇなもんだ」
受け取り、改めて見てみる。どこか懐かしい・・・見覚えのあるデザイン。
───あ、思い出した。
遙か昔、小学生の修学旅行の時に、バスの休憩の為立ち寄ったサービスエリアの売店で、男子達がこぞって購入し、車内で見せびらかし合っていた・・・金属製の竜の剣のキーホルダーだ。あれにちょっと似ている。竜は付いていないが。
このキーホルダーも金属の素材で、柄の部分にはミスリルの様に青い石が装飾としてあしらわれている。
「キーホルダーですか?」
「きー?何だそれは?・・・お前さん、魔力が殆ど無いんだろ?」
「え?!何でそれを・・・!」
ご存じなんでしょう?いえ、正確にはゼロになるんですが、そこは重要では無い。
「やっぱりか、いやガントレットの甲に魔法石付いてんだろ?装備した時点で魔法石に反応があるはずなんだが、それが無かった。ってことは、そう言う事になるだろ?」
「あー・・・」
と言う事は、普通は装備者の魔力に反応し、魔法石の力も加わって追加効果がある筈の仕様が、私が装備することで綺麗な装飾になってしまったと言う事か・・・。ごめんよ、魔法石。
「いやな、嬢ちゃんワームの時に、防御行動をかなぐり捨てて真っ向勝負を挑んだろ?結構無茶な戦い方をするって分かったから、防護面の魔法石を組み込んでみたんだが・・・設計を間違えちまったな・・・」
「いえ、そんな・・・!私の魔力がアレなだけです。それに本体のガントレットが凄く扱いやすくて、気付きませんでしたよ!」
完全に私のせいなのに、悔しそうに語るモーゼさんに慌てて弁明する。
「それは、良いんだ。今後魔力が増えてきたら問題ないしな。で、だ。その剣の形をした魔導具だが、持ち主の危機を察知して自動で防護壁を作り出す」
「自動で防護壁、ですか?」
「おう!そうそう発動するもんでもねぇが、本当の危機に直面した時に・・・と思ってくれてりゃ良い。世話になった嬢ちゃんを護ってやりてぇってな、妻とも話し合って作ったんだ」
ボロボロで帰って来たあの日、モーゼさんとラナさんが2人で決めていたそうだ。
「妻はああ見えて、防護魔法はかなり得意でな。戦闘やそれ以外の魔法は全くだが、防護に関しちゃピカイチよ!嬢ちゃんの魔力に頼らねぇ、込められたラナの魔力で発動する魔導具さ。商人御用達の光魔法の照明器具と同じ要領だって言えば分かるか?」
奥でお昼を作って居るラナさんの方を見ると、こちらの視線に気付いたのか左手でVサインをくれる。
「ありがとうございますっ!こちらのお代は「いらんいらん、ミスリルの剣を造った時の余り素材で、ちょちょっと作っただけだからな。さっきも言ったが完全に俺達からの餞別だ」
ちょちょ?魔導具が、ちょちょっと?大変疑わしい発言に引っかかりを覚えるが、これ以上追求しても、きっと上手に躱される。そんな気配がする。
もうここ迄来てしまったら、素直に受け取るがマナーなのかもしれない。
本当に何から何まで、感謝の言葉がいくつあっても足りない。胸いっぱいで渡された魔導具を握りしめる。
「ちなみに、ラナの防護魔法は面白いぞ。一度発動展開したら、危険対象を排除する為に壁の外側で圧縮爆発が起きる。ちなみに直撃すれば、魔物だろうが崩れ落ちて来た建物だろうが跡形も無くなるぜ!」
がはははは!と豪快に笑いながら、魔導具の説明をしてくれているが、もしそれが本当ならば、ちょっとシャレにならない程に強力な魔導具ではないだろうか??
もの凄く、とてつもなく有り難いが、使い所によっては、とんでも無い被害が想定される。
2人の優しさを無碍にしてしまう様で大変心が苦しいが、既に大量虐殺兵器の私には、扱える気がしない・・・ひとまずはマジックバッグの奥底に仕舞って置こう。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・
それから、ヴィクターさんが戻られる迄はお茶を交え、モーゼさんがソファで仮眠に入られてからは、ラナさんのお手伝いをしたりと満ち足りた時間だった。
楽しい時間はあっと言う間で、準備を整えたヴィクターさんと、仮眠から目覚めたモーゼさんと共に、昼食を談笑しながら食べ終えた。
「よし、そろそろ出るぞ」
食後の紅茶を飲み、いよいよドルガニルとのお別れの時間が来た。いざとなると、やはり名残惜しさに歯切れ悪く「そう、ですね・・・」と返事をする。
シルビアに帰る事が嫌な訳では無い。ただ、ここでの時間が過密で怒濤で、色々な出逢いがあって、緊張や危険を伴って・・・でもそれが私にとって、かつて無い程に実りある時間で・・・
まさか、剣を手に入れるヴィクターさんに付いて来た私の"社会見学"がこれ程までに胸に残る出来事として待ち構えて居たなんて、誰が想像出来ただろうか?
「別に、今生の別れでは無い。また来れば良い。装飾屋の子供との約束もあるだろう?」
「───そうですね、そうですよね・・・!」
椅子から立ち上がったものの、明らかに覇気が無い私を諭すような穏やかな声。
そうだ、名残惜しさに感情を委ねる時では無い。少しでも早く一人前になって、またドルガニルの門を潜れば良い。その時まで少しのお別れだ。
「ふふっ、いつでも遊びに来て良いからね。待っているわ」
「おうよ、嬢ちゃん達なら大歓迎だぜ!」
「ラナさん・・・モーゼさん・・・」
ラナさんにふわりと抱きしめられ、私も抱きしめ返す。そうだ、この温かさを私は感じたことがある・・・気を失っていた間ずっと触れて介抱して貰っていた。
記憶は無いが、触れる温度を確かに覚えてる。
「怪我の事、本当にありがとうございました。ラナさんのおかげで、元気になりました」
「良いのよ、驚きはしたけど、元気になってくれて。ううん、それよりも何度目かになってしまうけど、こちらこそありがとう。この国を助けてくれて」
背中から離れた手が滑るように移動し、両手を握り微笑みかけられる。
その表情に、私も思わず手を握り返した。
「いえ、皆さんが頑張って耐えられていたからこその結果です。私達は最後の一押しに過ぎなかった、と思います」
「ありがとよ。この恩は忘れねぇよ」
今度はモーゼさんの差し出す手を握り、握手を交わす。
大きくて厚みのある、しっかりとした手だ。皮膚の硬さが職人の掌だと伝わって来る。
「私も、ありがとうございます。全て助けて貰って、宿の事も、防具も武器も・・・!」
「気にすんな!それだけの価値に見合った・・・いや、それ以上の物を俺達ドワーフは貰ったからな」
「大変世話になった。良い経験もさせて貰った。ありがとう」
私に続いてヴィクターさんも2人と握手をする。
「こっちこそ世話になった。しっかりと嬢ちゃんを育ててやりな!無茶をする質だろうから、潰れちまわねぇ様に気を付けろよ?」
「あぁ、そうするよ」
「元気でね」
それぞれが別れの挨拶を終えると、2人の見送る中モーゼさんの家を後にする。
門に向かって歩く私達の姿が、見えなくなる迄手を振り続けてくれた。最後に角を曲がる際、深々とお辞儀をして気持ちにキリを付ける。
「踏ん切りはついたか?」
「はいっ!帰りましょう、私達の国へ!」
こうして、私の初めての長い旅は無事終わりを迎えたのだった。
来た道を辿る。あの時とは違う様相で、違う気持ちで。
私の物語は、始まったばかりだ────。
《第一章・完 次章に続く》
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ここ迄お読み頂き、ありがとうございます!
この53話で、1章を完結と致します。
突然転生したメグミの冒険は、決して楽では無いけれど、確実に自分に経験と自信を得て行きます。
こらから、更にどんな冒険が待ち受けているのか───・・・
このまま2章に入りますので、次は金曜日の更新予定です。よろしくお願いします!




