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No.50 修練


No.50 修練






「そう言えば、ヴィクターさんの剣は3日くらいかかると言う話でしたが、今後の予定はどうされますか?」


私個人の予定は今しがた完了してしまった為、後はヴィクターさんの予定に着いて行こうかと思っているのだが、どうだろうか。



「そうだな、マリーへの酒と・・・ギルドに土産を買うくらいか?」


「明日以降は未定ですか?」


「───折角だ、明日はお前の新装備を試してみるか?帰りにいきなり魔物と戦闘になったら困るだろう?」


「!」



確かにそうだ、今までは完全に素手での戦闘経験しか無い。

武器の攻撃力が加わった場合も知って置かないと・・・防具もそうだ。体に合った着心地は勿論、最高の防具職人リンダさんの最高傑作の逸品。きっと今までとは何もかも違って来る。予行練習大事!



「是非!」


「よし、後は場所だな・・・。出来れば、フォートレスの地下の様な強固な場所が良いな」



「では、うちの修練場を使用されては?」



突如、知らない声が会話に加わる。トンっと、テーブルに手を置く声の主は全く知らない人で・・・驚いて見つめるしか出来なかった。



「探しましたよ、昨日早々に帰られるんですから・・・」


「ワームの件は昨日で片付いただろう。後は、そちらで良いようにやってくれ。俺はあくまで通りすがりの冒険者だからな」


「はい、ですので、その通りすがりの冒険者に改めてお礼をと思いまして」


若干嫌そうなヴィクターさんと、その雰囲気を物ともせずに食い下がる姿にあっけに取られていると、彼はこちらに向き直る。



「ヴィクター様のお連れの方ですか?申し遅れました、私大臣をしております、ローデン=ノースと申します」


「メグミです。冒険者です」


「初めまして、メグミさん。それで、話は戻りますがヴィクター殿、うちの修練場を使われてはいかがでしょう?」


失礼にならない程度の挨拶を済ませると、ローデンさんは再びヴィクターさんに同じ質問を投げかける。


「いや、ありがたい申し出だが・・・」


「王より"謝礼を受け取って貰えないのなら、代案として苦慮の際には力添えをするように"と名を受けております」


「・・・もし壊してしまった場合が・・・」


「心配には及びません、うちの修練場はこのドルガニル最高の職人が、造り上げている上、耐衝撃の魔法が施されています。S級冒険者のヴィクター様にもご満足頂けるかと」


「いや・・・」


「この場所を除いて戦闘が許可出来る場所はございません。国の外であっても、地形や雪の状況から戦闘は緊急時を除いて禁止としております。聞けば、あと3日はご滞在との事、もし宜しければ、その間貸し切り・・・なんて事も可能ですが」



ヴィクターさんに対するアプローチの圧が凄い・・・しかも合理的かつ魅力的な提案で。

この人は一体いつから私達の話を聞いていたのだろうか?



「はー・・・分かった、少し借りるだけだ」


「左様ですか!では、ご案内させて頂きます。こちらにどうぞ」



ヴィクターさんの良い返事を、待ってましたとばかりに誘導を始めるローデンさん。

どうあっても逃さないと言う強い意志を感じる。



「はぁ・・・まぁ、せっかくだ使わせて貰おう」


「・・・良いんですか?余り関わりたく無いようでしたが・・・」


「そうだな、ワームの件も終わった事で完全に手が切れると思っていたが、この国に滞在している限り、そうもいかないか」



はーーー・・・と言う長いため息をつきながら、ローデンさんの後ろを付いて歩く事となった。




・ー・-・-・-・-・-・-・-・ー・-・-・





「すっごいですね・・・」



ローデンさんに連れられて修練場に着いた訳なのだが、グランさんの地下と同等の広さでいて、壁や床の造りがかなり堅牢そうに見える。


「お分かりですか?こちら最高峰の鉱石を使用しておりまして、ちょっとやそっとの攻撃では傷一つ付ける事は出来ません。武器のお試しには最適かと」



傷一つ付けられない強度の修練場・・・意図せず壊してしまう恐れがある私にとっては、持って来いの場所では無いだろうか?

特に今までの素手と違い、ガントレット分のパワーが加わるのであれば、そのワードは魅力的である。



「確かに、造りはかなりしっかりしているな・・・とは言え、お前が全力で来るとなると、どこまで耐えうる物かは分からないから、気持ち手加減をするように」



気が付くと、ヴィクターさんはいつの間にか右手に大きな剣を携えている。


「あれ?えっと、もしかしてですがヴィクターさん相手にって事でしょうか?」


「そうだが。武器を試すなら、相手が居る方が間合いやタイミングが取りやすい」


「え、でもまた剣を壊してしまったら・・・」



ミスリルを壊したうえ、またおそらく貴重な剣を破壊してしまうなんて展開は避けたい。


「さすがに全力でやる必要は無いだろう。あくまでも馴れる為の調整だ」



なるほど、対人での手加減もこれを機に学べと言う事だろう。

今まで、対人の場合私から攻撃するパターンは無かった。魔物ですら軽く叩くだけで弾けるのだから、人間相手となると・・・想像して背筋が、ぞわりとした。

せっかくの機会だ、ヴィクターさんで対人での手加減を会得させて頂こう。



「で、では・・・、お言葉に甘えさせて頂いて。よろしくお願いします」


「あぁ、準備が出来たらいつでも良いぞ」


「はい!あっ、ローデンさん危ないかもしれませんので、かなり離れて頂けると・・・」



冒険者では無い一般の人を巻き込む訳にはいかないので、安全面を考慮して出来る限り離れて貰いたいと伝えると「これは失礼」とローデンさんは後方へと移動。


距離が十分離れた事を確認して、ヴィクターさんの方を向き直る。



「準備出来ました」


「よし、ひとまず軽く撃ってみろ」



軽く、とはどのくらいの力加減だろうか・・・?軽く、軽く・・・



10メートルくらい離れた位置に居るヴィクターさんに、撃ち込むつもりで走り出そうと右足を踏み込んだ瞬間────・・・


「へ?」


「っ!!」


そのたった一歩が、ヴィクターさんの前まで急激に距離を詰めたのだ。

当然そんな事になるとは予想していない私は、攻撃体制を取る事も出来ず、勢いのまま大剣に体当たりしてしまう。



「・・・なるほどな。脚力も装備が整った事で、いつも以上に早い。踏み込みにも注意した方が良い」


「はい・・・ビックリしました・・・」


ぶつかる前、とっさにヴィクターさんが、受け止める様に剣の向きを変えてくれた為、私は剣の刃で輪切りにならずに済んだのだ。



「戦闘時において、自分の想定外に距離が縮まり、相手の武器が目前に迫った場合は何を置いても、腕のガントレットで受け止めるようにしろ」



そうだ、対人においては剣の側面を向けて受け止めてなんて貰えない。

相手の武器には常に自分に向いている、私もそれを意識し続けなければ駄目だ。



「はい!」


後ろに少し下がり、間合いを取る。相手の武器に神経を尖らせて置いて、攻撃の際の足の踏み込みに気をつける。



「行きます!」



大きめの助走は行わずに、軽く体を捻り右手を振ると衝撃波がボンッと生まれ、前方にいるヴィクターさんの所まで衝撃が突き抜けた。


「なるほど。これをE級クラスのスライムがくらうと、爆散するのも頷ける。続けて来い」


「はい!」


今くらいの感覚で、踏み込んで左手を振る。同様の衝撃波を生んだガントレットがヴィクターさんの剣と弾け合い火花を散らす。


「どんな感じだ?」


「そう、ですね・・・ギルドの制服と違って体が軽い感覚で、ブーツもかなり動きやすいので、ついつい力を込めてしまいそうになります」


「なるほどな、今俺に撃ち込んでいるくらいの力は、B冒険者で言うならが死にはしないが吹き飛ぶくらいの威力と思うと良い」



冒険者同士で争うことは基本無いが、知っておいた方が良いとの事だった。


───そう言えば今更ながら、日常生活においてこの破壊力は出ていない。

あの+部分の強化数値は普段の生活には反映されないのだろうか?いや、むしろ反映されると困る。


これも何かしら私だけの条件があっての事なのだろうか・・・?それとも戦闘時のみ適応される便利仕様なのだろうか。



「よし、今度は拳を意識して少し強めにやってみろ」


「は、はい!」



拳を意識して、強めに・・・反動で倒れないように踏み込みつつ、腰も痛めないように捻って・・・


「ふっ・・・!!」


右拳を振るったのだが・・・


予定より力みすぎたのだろう、さっきとは比べものにならないくらいの衝撃が生まれた。

ヴィクターさんの剣に受け止められゴォンッ!!!という鈍く重い音が修練場に響く。


受け止めきれなかった衝撃は左右に波状に散らばり、建物に振動を伝える。



「急に威力が急上昇したな・・・拳を意識した事で、ガントレットによって本来なら剥き出しの攻撃が安定して、密度が上がった・・・か」


「すみません!ちょっと力を込めすぎました!」


「いや、構わない。このまま感覚を掴むと良い」




折角素晴らしい装備を纏っても、自分で扱えなければ意味が無い。

完璧とは行かないだろうが、なんとか最低限のラインは使いこなせる様にならなければ。






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