No.51 ふとした懸念
No.51 ふとした懸念
その日、私の装備の試運転は夕方近くまで続いた。
修練場に施されていると言われていた耐衝撃魔法は、私の起こす衝撃を殆ど吸収した事で、建物への被害は心配無さそうだ。
そんな衝撃に対して、折れずに攻撃を受け続けたヴィクターさんの大剣にも感謝である。
肝心の私はと言うと、馴れない動きをし続けた事で全身ヘトヘトになり、大の字で床に倒れている。
+(プラス)の効果で体力が強化されているとはいえ、さすがに限界値の様だ。自分の底が知れて非常に良い機会だった。
今日分かった事は、攻撃や防御態勢を取る場合、それから不意に攻撃を受けた際にも必ず発動している。つまり普通の日常生活を送っている時は、F級の数値のままなのだ。理屈はやはり分からないけど。
仰向けのままヴィクターさんの方を向くと、ローデンさんと2人で話しているのが見えた。
集中し過ぎてローデンさんの存在を忘れていたが、ずっと見学をしていたのだろうか?
2人は少し会話を交わした後、お辞儀をしてローデンさんは修練場から出て行く。
こちらに歩いて来るヴィクターさんに慌てて起き上がる。
「そろそろ、宿に帰るぞ」
「あ、はいっ!今、ローデンさんと何をお話されていたんですか?」
会話自体はよく聞こえなかったが、ローデンさんが退場の際に嬉しそうな表情だったので気になったのだ。
「あぁ、この修練場の使い心地を聞かれたから、良い造りをしていると伝えた。それと、王からの伝言で、この修練場はドルガニル滞在中は自由に使って良いそうだ」
「王様から直々に・・・!」
「ワーム駆除の謝礼を断ったから、これくらいは受け取って欲しいと言われた」
詳しく聞けばワームを駆除した後、卵の件は事を要すると進言した際に謝礼を打診されたが、不要だと辞退。再度ローデンさんに打診されたが断った結果、最終代案として修練場の自由使用を提示されたそうだ。
「ま、明日使うかどうかはお前の状態次第だな。立てるか?」
「は、はい」
差し伸ばされた手を掴み立ち上がる。足も疲労困憊で若干立ち辛かったが、許容の範囲内だ。
「すまなかったな、自分で言っておきながら昨日の今日で無理させて」
「いえいえ、私も新しい装備に嬉しくなってしまって、必要以上に動き回ってしまったと思っていた所でした」
テンションが上がって、その気持ちだけで動き回わり勝手に無理をしたのは、私自身なのである。
立ち上がって改めて装備を確認すると、防御面の確認で何度もヴィクターさんからの攻撃も受け、あれだけ派手な衝撃だったにも関わらず、朝リンダさんのお店を出た時と変わらず傷一つ無い。
「装備、良さそうだな」
「はい!本当に素晴らしいです」
「このまま歩いて帰れそうなら、途中でマリーへのお土産を買ってから宿に戻ろう」
そうか、お土産を買う前に先にここに来たから、予定がずれてしまっていたのだ。
「全くの無問題です!お土産買って帰りましょう」
「そうか、なら街まで戻ろう」
行きは入り組んだ王城の敷地でも、ローデンさんの後を着いて行くだけで、帰りの道順を覚えているか不安だった。
だが、ヴィクターさんの頭には完全に入っているようで、迷う事無く門の所まで辿り着く事が出来た。門番の人に会釈をし、私達は城を後にする。
街には明々と光が灯り、活気を失うこと無く人々が行き交う。
そう言えば、夜の街の賑わいも見るのは初めてだ。
日中、鉱山に潜っていたであろうドワーフ達が、店先でアルコールジョッキをあおり、絶えず響く笑い声や、嬉しそうに仲間と話す声が、あちこちの店から聞こえて来る。
ワームを駆除する前の静かすぎる夜の街を思い出すと、全く別の街に来て居るかの様な錯覚を覚えるほど。
大通りの一角に見つけた酒屋に入り、マリーさんへのお土産を選ぶ。
ヴィクターさんは、店主に希望するお酒のタイプを伝え、試飲しつつじっくりと吟味。
私はその間、店内に置かれた酒瓶が照明でキラキラと琥珀色に輝く様をずっと眺めていた。
程なくして、ヴィクターさんに声を掛けられる。
「良いお酒が見つかりましたか?」
「あぁ、何本か見繕った。マリーの好みに詳しい訳では無いからな、薦められた物を買って帰り、その中から本人に選んで貰う」
ドワーフの国の酒は稀少だから、全部欲しいと言われる場合もあるが・・・と苦笑する。
おそらくヴィクターさんは、初めから全部渡すつもりで買っている。そんな気がした。
「宿に戻る前に、モーゼ殿の家に顔を出して置こうかと思う」
「そうですね!」
玄関をノックをすると、ラナさんが静かにドアを開けてくれる。
夕食を食べて行くかと聞かれたが、モーゼさんが工房に籠もっていると知り、お邪魔になったらいけないと丁寧に断る。
「これ良かったら、息抜きに飲んでくれ」
そう言い、ヴィクターさんは先程買ったお酒をラナさんに手渡す。成る程、モーゼさんへの差し入れも含まれていたようだ。
「あらっありがとう。あの人一度工房に入ると出来上がる迄出て来ないの。完成して出て来た時に渡すわね。ふふっ、きっと喜ぶわ」
「完成を楽しみにしている」
「伝えておくわ!それじゃあ、2人ともお休みなさい」
手を振り家の中に戻るラナさんを見送って、再び街を歩く。
「夕食はどうする?何か買って宿で食べるか?」
「そうですね、それも良いかもしれませんね!」
大通りに一度戻り、屋台であれやこれやと買い込んでから宿に戻った。
訓練場で全身汚れている為、先にお風呂にしようと言う話になり大急ぎで準備する。
この宿も魔力を流さなければ湯が出ないシステムなので、ヴィクターさんに魔法石に魔力を込めて貰う。
「これで、使えるぞ。俺も自室でシャワーを浴びるから、先に上がったら食べ始めても良い」
そう言って、こちらの部屋に買った物を置いて行ってくれる。
早く上がっていても食べないで待つつもりだが、買った物が冷めないうちに手短にシャワーを完了させて出て来る。
マジックバックから皿やフォーク、コップを取り出し、すぐにでも食べられるように準備を整える。
包みを開けようかどうしようかと考えていると、部屋にノックの音が響く。やはりヴィクターさんはお風呂が早い、ささっと済ませてしまって良かった。
すぐにドアを開けてヴィクターさんを迎えると「丁度だったか?」と聞かれたので、バッチリでした!と答える。
2人でテーブルを囲み、購入した物を広げる。色々な串焼きや、大きなソーセージや、芋の様な揚げ物。買っている時は知らない名前の料理ばかりだったが、テーブルに広げてみると、前世の食べ物に近い雰囲気の物で安心する。
「美味しそうですね!」
昼以来の食事に対する期待値から、滑るように食い気味の感想が出てしまった。
「あぁ、先に取って良いぞ。俺は軽く酒を先に飲む」
自室から持って来たのであろう、琥珀色の瓶。これも先程買った物だろう。
ヴィクターさんは適度にアルコール類を飲む人だ。毎回では無く、飲みたい時に飲みたい量を飲む。そういった感じだ。
私はと言うと、この世界に来てから一度もお酒を飲んでいない。全く飲め無いと言う訳では無いが、甘い酎ハイ缶に馴れすぎた子供舌では、本格的なお酒はたいして飲めないだろう。
・・・先々気が向いたら、試してみよう。
「お前はどうする?」
「私はお水で、頂けますか?」
コップにお酒と、水がそれぞれ注がれる。
美味しい屋台ご飯に舌鼓しながら、今日までの事を話す。
出会った頃は寡黙で、怖い印象の方が強かったが、この1~2週間でかなり印象は変わった。
不必要な口数が少ないだけで、話しかけると必ず返事を貰える。雑談も多少増えた。
今も、話を振るとちゃんと返事が返って来る。
最初は、師従関係も不安だったが、理想の上司過ぎて私には勿体ない存在だ。
よく考えて見ると、S級ランクの冒険者なのだから、引く手数多・・・むしろ組みたい人しか居ないのでは無いだろうか・・・。
本当に運が良かったと言うべきか、出逢いに何度目かの感謝をした。
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【おまけ】
「そう言えば、ラナさんは人間だとおっしゃってましたが、息子さんのカイルさんは100歳だと言われていましたよね?・・・・・・ラナさんは今おいくつなんでしょうか・・・」
人間で100歳以上となれば、もう結構なお婆ちゃんだと思うのだが、ラナさんは40歳くらいに見える。この世界の人間は寿命の平均が違うのだろうか?
「当たり前だが、100歳は超えているだろうな。言っておくが、俺達人間の普通の寿命は100歳も行かない奴が多い。だが、魔力量や属性によって個人差が出る場合がある」
「なるほど・・・!」
「後は、魔導具の効果だったり・・・寿命を延ばす魔法や薬もある。ドワーフと人生を共にするとなると寿命が違い過ぎるからな。
そう言った面で何かしらの手段を取っている───・・・いや、あまり詮索すべき事でも無いな・・・まぁ、場合によって人間の寿命が必ずしも100歳以下と言う訳では無い。知識として知っておけ」
素朴な疑問だったが、そうか、デリカシーに欠ける質問だったなと反省する。
だが、分かった事は"魔力の無い私"は人間としての寿命が当てはまる。
新しい人生も後、72年。大切に悔い無く生きて行こうと心に刻んだ。
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