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No.49 一人前


No.49 一人前






「か、買うのか?!」


「うん、買う。私に必要な物だから」



勢い良く飛びついた私に慄くハル君を余所に、詰め寄る。



「わ、分かった、分かったけど、先にちゃんと手に取って見てから、納得した上で買ってくれよな」


成る程、現状は押し売りに近い様で、双方納得の上で売買したいと言う事だ。

駆け出しと言っては居たが、こう言う接客ではかなり場数を踏んでいるとみる。


改めて差し出される木箱を受け取り、今度はしっかりと髪留めを眺める。

ガントレットと似た色をした魔法石は、光を受けて石の中まで透き通り、太陽を溶かし込んだ様だ。



「本当だ、色がガントレットとよく似てる・・・」


「緋色が良い感じだろ?」


「うん、本当に・・・。やっぱりこの髪留めを頂くよ。いくらかな?」


「そうだなー、オレの時間を掛けた作品の1つだから・・・」



駆け出しとは言え、品そのものはかなり丁寧に造られていて、素材も良い物を使っているはずだ。

特に魔法石は魔法付与が出来ると言う事は、この部分だけでも相当な価値がある事が容易に想像出来る。



「銀貨4枚はどうかな?」


「銀貨4枚・・・」


銀貨は確か、前回スライムの核を買い取りに出した際に、換金所で受け取っていたはず。


「ちょっと待ってね・・・」



「何か買う気分になったか?」


マジックバッグから取り出したお金を数えていると、自分の買い物を済ませたヴィクターさんが側に来てくれる。


「あ、はい。この髪留めを購入しようかと!」


はい、お願いね。とハル君に銀貨を渡す。


銀貨は、現代で言う所の1枚1000円に相当すると聞いている。つまり、この髪飾りは4000円と言う事になるのだが、正直安すぎなのでは無いだろうか?と、不安になる。



「はい、買ってくれてありがとう!」


「ありがとう、早速着けて見るね」



箱から取り出し、髪を束ねる。先程ハル君が見せてくれた手順で髪留めを固定する。


パチンッと、音と共に固定が完了したのを確認する為に首を振って髪を揺らすと、解けること無く私の頭の上に収まった。



「良いじゃん!よく似合っているぜ!」


「ほ、ほんと?良かった・・・!」


ハル君の声に、思わず聞き返してしまったが横のヴィクターさんも、良いんじゃないか?と賛同してくれる。今は自分では見られないが、宿に戻ったら鏡で見てみよう。



「じゃ!後は知り合いの職人とかに頼んで、魔法付与とかして貰ってな」


「・・・なるほど、その装飾は魔法石か。大ぶりな石だから、付与する魔法も幅が広がるぞ」


「いえ、この魔法石はこのままで大丈夫です!」



折角の魔法石を遊ばせておくのか?と、2人の視線が私に集まる。だが、ちゃんと理由があるのだ。


「この髪飾りはハル君が作者なのだから、もし何か付与して貰うならハル君にお願いしたいの」


「いやでも、オレはまだ駆け出しで何の付与も出来ないんだって」


「今は、でしょ?この先にそれが出来るようになる未来が待ってる。さっきも言ったけど、私もハル君と同じで駆け出しの冒険者で、出来ない事の方が多い。でも、いずれは一人前の冒険者になる予定なんだ。その時にさ、ハル君が改めて付与して欲しいなって・・・」



私は現状魔力がゼロだから、どんなに素晴らしい魔導具も魔法石も使う事が出来ない。

けれど、この先何かの切っ掛けで魔力が発現する可能性も十分あり得る。その時までこのままで良いと思ったのだ。



「ねぇちゃん・・・・・・───分かったよ、オレが絶対付与するから、それまで待っててな!」


「ありがとう、私もその時は一人前になって依頼しに来るから!・・・あ、でも私ただの人間だから、寿命に次第になっちゃうけど」


「そうか、ドワーフのオレと人間のねぇちゃんじゃ、時間の流れが違うのか・・・。じゃあ、なるべく早く付与を学んで、出来るようになって見せるよ」


「うん!約束ね!」



新人同士、未来への展望を胸に固い握手を交わし、店を後にした。





・ー・-・-・-・-・-・-・-・ー・-・-・






「────またここを訪れる予定が出来たな」



小腹が空いた私たちは、テラス席のある店で昼食を摂る事にした。

もちろん宣告通り、私の手持ちからお支払いをさせて頂いた。ちゃんと自分で買って食べる事の出来るご飯は久しぶりである。


この世界に来てからと言うもの、ご相伴に預かり過ぎていて心苦しさが極値状態だったが、ようやく心置きなく食事を食べられてホッとしたのは内緒だ。



半分くらい食べ進めたタイミングで、ヴィクターさんが静かにそう呟く。



「はい、思わず予定が出来ちゃいました!」


「知り合いが増えて行く事で、人脈や繋がりが得られる良さもあるが、そこで知り合った誰かと互いに目標を掲げ合う。そう言うのも良いと思うぞ」


「はい!」



初めて自分を軸とした知り合いが出来たこと。それにより、早々来られる場所では無いと言われるドルガニルに、また来るきっかけが出来た事。


それは、これまでの出逢いの中で、きっとより鮮明に濃く記憶に残って行くのだろう。



「私、この世界に来られて凄く嬉しいです。まだ少ししか経って居ないのに、こんなにも色々な方に出逢えて、色々な出来事も起きて・・・。前世よりずっと大変で過密なはずなのに、心がワクワクします。ヴィクターさん、あの時私を討伐してくれようとして、ありがとうございます!」


「・・・・・・そこには感謝しないでくれると、ありがたいな」



苦笑しながら食後のお茶を飲むヴィクターさんに、私は「はい!」と元気よく返事を返したのだった。






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