No.48 社畜人生の弊害と自信
No.48 社畜人生の弊害と自信
お店を出て、ヴィクターさんのやや後ろを歩く。
街を見て歩くと言う話だったからだろうか、歩くスピードや歩幅が私のペースに合わせてくれいている気がする。
「ヴィクターさん、ありがとうございました」
「ん?」
「この装備の事です。ヴィクターさんの大切な素材が・・・」
「あぁ、あれは俺の剣の為の口利き料が殆どだ。お前の装備は、2人共お代を貰う気はさらさら無いようだったからな。ついでだ」
・・・また、ヴィクターさんはそうやって丸め込もうとして来る。手口と言うか、常套手段なのだろう。
ラッキーと思うか、情けないと思うかは人によるだろうが、完全に後者の私はジトリとした目を向ける。師従関係ではあるが、このくらいの反抗心は露わにしても良いだろう。
「ははっ、お前がいずれ俺の横に立てるようになったら、その不満を聞いてやる」
だから、今のうちは大人しく享受しておけ。口には出していないが、続きにそう聞こえた。
「街での食事は私が出させて貰います!まだ一度もまともに買い物をした事が無いので、硬貨の使い方を知る良い機会ですよね、練習させて頂きます!」
「あぁ、そう言えばそうだったな・・・」
"初めてのお使い"そんな番組のタイトルが頭を過ったが、悔しいかな。紛れもなく私は、お金の支払い方を一から学ぶ立場なのである。
さすがに、大の大人。そろそろ1人でも買い物が出来るようにしてしまいたい。
「まだ、朝食を摂ってから幾分も経っていない。散策しながら適当な頃合いでそうしよう。街で何か気になった装備やアイテムがあれば、そこで試し買いしてみると良い。分からない事は教えてやる」
「よろしくお願いします」
・ー・-・-・-・-・-・-・-・ー・-・-・
改めて街を見てみると、初めてドルガニルに来た時に見た、人通りの無い寂しい景色はもうどこにも無かった。
「昨日ヴィクターさんが言われていた通り。見違える様に活気に満ちていますね」
「あぁ」
自分達のおかげだなんて、そんな傲慢な事は思わない。だが、頑張った末の結果がこの状況なら、働きとしては満点ではないだろうか。
あのトロッコの答えは、私にとっての正解だったのだ。
「今日は1日かけて見れるだけ見て回りましょう!」
「俺は構わないが、無理しすぎるなよ?」
「もちろんです!」
新しい装備を揺らし、街を軽やかに歩く。
今まではヴィクターさんの外套にお世話になって居る事が多かったが、これからは自分の服で堂々と歩ける。幸いフードも付いているので、万が一顔を隠さなければならない事があっても対応可能だ。
ガントレットは重厚感のある見た目をしているが、露店などで商品を見る際も特に負担になる感じも無かった。本体が差ほど重くないのか、私の筋力がそれなりだからなのか・・・
「さすが、職人の街ですね。見る物全てが精巧かつ丁寧に作られていて、こう・・・手軽に買うとなると尻込みしてしまいます・・・」
「そうだな、素晴らしい品が多いが、無理に買う必要も無い。本当に欲しいと思った物だけ買うと良い」
ヴィクターさんは、こう言った品々は見慣れている様で、適度に手に取って見たり、店主と商品について話したりと軽快に買い物を楽しんでいる。
かたや私はもっぱら社畜人生で、たまに取れる休日は1日寝倒す日々。こう言ったウィンドウショッピングは学生以来だ。
本来の健康かつ文化的な生活からほど遠く、いかに"日々を生きていく事だけ"を優先していたかを思い知らされる。
────欲しいと思う物。
お腹を満たす食事以外の"物欲"を前世に置いて来てしまったのだろうか?
頭に霞が掛かるような感覚に襲われた。街はこんなにもキラキラとして、沢山の物に溢れて居るのに、自分の欲しい物さえパッと出て来ない。
折角の機会なのだから、何か記念に買っておくべきだと思うのに、何が欲しいのかが分からない。
輝く景色と、溢れる品々が何処か遠くに感じ、私が目で見る景色がまるで液晶の向こう側のようだ。
「なぁ、ねぇちゃん!オレの店見てくれよ」
頭がユラユラと、波打つような感覚で耳鳴りが聞こえそうになる瞬間、後ろから声をかけられて、うっそりと声の方を向く。
声の主は屈託の無い笑顔でこちらを見る。子供のドワーフだろうか、いや見た目こそ幼く見えるが、ドワーフの寿命を考えれば人間の私よりはるかに年上なのだろう。
「そんな辛気くさい面してんなよ、ほら気晴らしにオレの商品眺めて行ってよ!」
小さな彼の声と笑顔を見た事でクリアになった視界。両の手が翳される先を眺める。
工芸品や武器、防具、煌びやかな装飾品と並ぶ通りで、並んでいたのは小ぶりでシンプルな小物。
「えっと、君・・・君のお店は、装身具を扱っているの?」
「君じゃなくて"ハル"な。おうよ!オレは駆け出しの魔法装飾技師だぜ!まだ、付与魔法の塗布や属性効果は出来ないけど、まずはしっかりとした土台作り。商品の強度と便利さには自信あるぜ!」
「君も駆け出しなんだ。私も冒険者になったばかりなんだ」
「へぇ~それは奇遇だね!駆け出しのよしみだ、もし気に入った物があれば、価格は勉強させて貰うぜ?」
勉強させて貰う、前世でもよく聞いたフレーズだ。この世界にもその言い回しがあるんだと驚く。
「ふふっ、じゃぁ見せて貰うね」
ハル君の言う通り、並ぶのはシンプルな指輪や、ブレスレット、イヤリングにネックレス。男女どちらでも使えそうなデザイン。華やかさを出す様に付けられた石は、今後の魔法付与を考えての物なのだろうか?
「綺麗だね、この石は魔法石?」
「お、よく分かったな!駆け出しとは言え一応魔法装飾技師だからな、それを前提とした物になってる。付与できる奴の所に持って行けば魔法付与出来るぜ!」
ま、オレはまだ出来ねーからな!ワハハ!と冗談交じりにまた笑う。
「そうなんだ・・・」
会話を続けながら、全ての商品に目を通す。どれも素敵だが、ヴィクターさんの言っていた
本当に欲しい物なのかは分からない。
「気になるの無さそう?」
二の足を踏む私の表情を察したのだろうか、何と返そうか考えていると、ハル君が台の下から何かを取り出す。
「まったく、おねぇさんは目利きが良いね。じゃ、これはどう?絶対気に入ると思うよ」
取り出された小さな木箱の蓋を開けると、大きな魔法石が填め混まれた・・・これは・・・
「髪留め?」
「当たり!おねぇさんガントレット付けてるし、近接型だろ?着飾る物よりこっちのが実用的だと思うんだ。髪、普段結んでるんだろ?」
反射的に、後ろ首の当たりを手で触る。そうだ、フォートレスで取り合えずと思い、結んだ紐はワーム戦でまたしても失った。その為、今は結ばず垂れ流している。
「よく分かったね、結んでるって」
「ふふーん、結び癖が付いてる。オレ妹の髪を毎日結んでやるから、詳しいんだぜ」
面倒見の良いお兄ちゃんなのだろう。
いや、普段から妹さんを気遣って居るからこそ、目の前に居た様子のおかしい私に、敢えて声を掛けてくれたのだろう。ハル君は私より年上なのだ、見抜かれるのも当然か。
「これ、こうやって髪を束ねて挟む様にして一度留めて、それから上のつまみを押し込むと、ホラこうやって外れないように固定出来るんだ。髪をしっかりとくわえ込むから動きまくっても問題なし!」
「へぇ、変わった造りしているね・・・」
「でも、ま、これを勧めたのは別の理由があってさ。ほら、ねぇちゃんのガントレットに色が似てるだろ?これが1つ」
「2つ目は?」
「この石、この国じゃ"前向きな気持ちと自信"を意味してるんだ」
前向き・・・自信・・・。まさしく、私に足りない物だ。
冒険者として踏み出した事で前向きではあると思うし、今回のワームの件で少しは自信という物が付き始めて来た様な気もした。
けれど、それは所詮一過性の物で、すぐに剥がれてしまうメッキの様な物で、本質的には後ろ向きで、自信の無い私が居る。
本当の意味でのそれは、まだまだ足りていない。
「・・・悪い・・・お節介だったな・・・忘れて」
何も言わない私がショックを受けていると思ったのか、差し出された髪留めの蓋を閉じ、しまい込もうとするハル君の手を捕まえ阻止する。
「うわっ!?何何!?やっぱり失礼だったよな、ごめんっ」
「それ、欲しい。私に買わせて」
「───え?」
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