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No.47 粋


No.47 粋






「おぉー!何だ先に来てたとは!」


「モーゼさん!」



防具の着心地の良さに感動していると、お店の入り口からモーゼさんが顔を出す。

あれ?お店に来られると言うお話では無かった気がするが、もしかしたら私達がちゃんと辿り着けているか心配で、見に来られたのだろうか。



「やっと来たか・・・遅いんだよ」


「すまねぇ、最後の調整に手間どっちまってよ・・・お!良いじゃねぇか嬢ちゃん!」


「ったりまえさ!希少素材をを余す事なく使ったアタシの傑作だぜ?」


「そいつを着こなすとは、流石だぜ」


「そ、そうでしょうかっ」



急に沢山褒められてしまい、恥ずかしくなる。大人になってから着姿を褒められる機会なんて、経験が無くソワソワしてしまう。



「じゃ、後はコイツだな!」


そう言って、ショルダー型のバックからモーゼさんが取り出したのは、バーガンディ色が鈍く光グローブ・・・いや、グランさんが腕につけられていた小手に近いだろうか。



「これは、随分と・・・」


「モーゼ、こいつは・・・」


「?」


その小手を見やり、ヴィクターさんとリンダさんは面白い物を見た、と言う顔をしているが、私にはこれが小手だとしか分からず、モーゼさんの方を見るしか無い。



「嬢ちゃん、おめぇのだぞ?手に嵌めてみろ」


「え?!」


「え?も何も、嬢ちゃん近接戦闘だろう?・・・嬢ちゃん専用武器のガントレットだ。・・・それとも何か?俺の作品が気に入らねぇか?」



突然手渡される小手改め、ガントレットに動揺する。


武器、私の?専用?理解が全く追い付かず困惑していると「何だぁ付け方が分からねぇか?こうすんだよぉ!」と半ば強引に装着される。



「はい、鏡」


振り向くと、全身姿見をリンダさんが運んで来てくれていた。



「わっ・・・かっこ良いです。凄く・・・」



先程から試着しているリンダさんの傑作防具に、モーゼさん作のガントレット。

それら全てを見に纏う自分の姿に感動する。


至って普通の自分が、何の違和感も無く冒険者に見えるのだ。

形から入る・・・ではないが、相応の雰囲気が出ている。



「気に入ったみてぇだな!作って良かったぜ」


「よっしゃ!なら決まりだな!全装備揃ったと言う事で!」



モーゼさんとリンダさんは、とても嬉しそうに和気藹々としている中、私はと言うと・・・脳内で分かりもしない装備の総額の計算をしていた。


マジックバッグが金貨10枚で、高価ではあるが冒険者なら皆持っている。


テアドルさんの闇を照らす照明が大層高価で、持っている商人の方が少ない。冒険者に護衛を頼んだ方が安い。


知っている数少ない情報を基準にして考えてみるが、希少素材の使用、お2人の技術料、製作時間等を加味するとなると・・・金貨何百枚?何千枚?もしかしたらそれ以上の価格になるのでは無いだろうか。



「で、合計いくらだ?」


「あん?野暮な事聞くなよ、少年」


「・・・少年・・・?」


「アタシらドワーフからしたら、お前達人間は等しく子供だからな」



リンダさんに少年と呼ばれたヴィクターさんは、眉間に大層な皺を作り言葉の意味を反芻している様だった。



「あー嬢ちゃん、悪いが値段が付けられねぇんだ。そのガントレットは誰に依頼された訳でもねぇ、俺が作りたいと思って作った。まぁ、趣味みてぇなもんでな」


「しゅ、趣味・・・ですか??」


「アタシのも、お代は要らんぞ。素材の余りを使って作った趣味の物だからな」


「そんな・・・この素晴らしい物が趣味・・・そんな・・・」



そんなことがあって良いはずが無い。仮に余った素材で作った物だとしても、素材以外の料金が発生している。

それ分は請求して頂かなくては、困るのだ。



「だ、ダメです!!それは私のポリシーに反します!売買契約を結んで下さい!この作品に対する対価を支払わせて下さい!」


「えぇー固ったいなー!」


「嬢ちゃんは真面目だな・・・」



・・・・・・何故だ、なぜ2人とも溜め息を付いているのか。

私はおかしな事を言っているだろうか?それともこの世界では、こう言う時は有り難く受け取って置く物なのだろうか?



「───なら、支払いの代わりに素材と交換はどうだ?」


引く様子の無い私を見かねたのか、ヴィクターさんが物々交換の提案を2人に示す。




「んー・・・まぁ、それなら・・・受け取ってやっても良いか・・・」


「そうさなぁ・・・・・・まぁそれなら・・・・・・」


「よし、ならコレを丸ごと置いて行く」



そう言って、ヴィクターさんは腰のマジックバッグを机に置く。



「これ、とは?」


私を含め3人で首を傾げる。



「俺がこの1年狩った魔獣の素材全てが入っている。当然、狩ったばかりの巨大ワームも含まれている」



「「「えっ!?」」」



私達の驚きの声が重なる。



「巨大ワーム!?お前達が倒したって奴か??!!」


「まままままさか、本当か!?それにワーム以外も入っとるのか?!それを全部!?」


「あぁ、全部だ。巨大ワームなんて前例が無いから、素材としての市場価格は不明。そうだな、唯一の用途は・・・武器や防具くらいか?」



淡々と話すヴィクターさんとは裏腹に、ドワーフのお2人は目をキラキラさせながらマジックバッグに触れない程度に手を近付けている。


「ギルドに持ち帰った所で、コレを扱える鍛冶屋なんて・・・あぁ、カイルの工房があったな「「乗ったー!!!交渉成立!!!」」


「そうか、良かった」



「巨大ワームなんて初めての魔物、弟子に先に扱われちゃ師匠の名が廃る」


「まだまだ半人前のカイルより先に俺が扱うぞ・・・」



職人魂に火がついたのか、ハァハァと息荒く、カイルさんに対抗心を燃やしている。

成る程、新しい素材に挑戦するとなると、息子も弟子も関係無く、本能に従う。職人とはそう言う物なのだと言う事が分かった。



「他の素材は、ほんの気持ちだ。俺の剣の事もあるしな。勿論、剣のお代はキッチリ払わせて貰うぞ」


「分かってるさ!俺に任せとけい!」



豪快でいて流れるような彼らの交渉劇は、堅い握手と共に私を置き去り、早々に締結してしまったのだ。




「───さてと、これで心置き無く貰ってくれるな?嬢ちゃん」


「っう・・・ありがとうございますっ!大切に使わせて頂きます!!」


もうヴィクターさん達の交渉は成立してしまっている。ならば私は、感謝を伝えると共に受け取るしかない。


「はははっ!大切と言わず、ガンガン使って貰いたいもんだな!」


「そうだぞ!武器も防具も使われてなんぼだからな!」



普段の調整はカイルに頼むと良い!目の色変えてやってくれるさ!と、アフターケアも行き届いた万全の装備で頭が上がらない。




「───そろそろ街を見に行くか。リンダ殿世話になった、礼を言う」


「こっちも良いモン貰ってしまって感謝するぜ!」


「おう!行って来い!ミスリルの剣は鉱石が手に入ってから3日くれぇ待ってくれ」


「あぁゆっくり待つさ、よろしく頼む。ほら行くぞ」


剣の約束を取り付け、早くも退店しようとするヴィクターさんに着いて行く。



「リンダさんモーゼさん、本当にありがとうございました!!」



私達に「行ってらっしゃーい」と手を振る2人に、ドアを閉める直前までお礼を伝えてお店を後にする。








ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・



【閑話47.5:モーゼ】





「・・・モーゼ、あれもしかして”ヒヒイロカネ”か?」


「ちっ、気がつきやがったか・・・」



2人が店から出て行った後に、すかさずリンダが嬢ちゃんに渡したガントレットについて聞いて来る。相変わらず、目利き・・・いや、目敏いぜ。



「お前、さすがに新人冒険者に誂える物じゃ無いだろ。大体お前がかつてカタナと言う武器を打てる様にと、修行をした国から持ち帰ったって言っていた・・・大切な素材だろ?」



カタナは、この世界の果ての海に浮かぶ小さな島国で打たれる武器だ。


余りに希少な物で、俺達の住む地域ではまずお目に掛かれる事はねぇが、偶然冒険者が携えていたのを見た時、その美しさに魅了され居ても立っても居られず、単身で海を渡った。


20年に渡る修行の末に、その技術を修得。その際に最高峰と言われるヒヒイロカネの加工技術も教わった。


ヒヒイロカネの加工はドワーフのミスリル同様、その民族が代々受け継ぐ秘匿技術の一つで、本来他種族への継承は例を見ない。それを修得させて貰えたのは本当に運が良かったのだ。


国を発つその日に、皆伝の証に渡されたヒヒイロカネの鉱石。"打つも打たぬも心次第。己を信じる良き仕事人であれ"と。




「良いんだよ、もう200年以上前の話だ。いつかこの素材に足り得る冒険者が現れたら、使うつもりだった。嬢ちゃんはそれを満たすのに十分だと思ったまでよ」



今までそう思うようなやつは居なかったし、これからも現れないと思っていた。

だが、俺の職人としての人生をかけて嬢ちゃんの為に、最高の武器を誂えてやりたくなった。それだけだ。なんとも俺の手前勝手な話さ。



「命の恩人・・・ってだけじゃ無さそうだな」


「まあな」


命の恩人ってだけじゃねぇ、職人としての矜持をも守って貰えた。国も仲間も。



「───全部ひっくるめて、俺が嬢ちゃんを応援してやりてぇってだけの話だ」



そんな風に思える存在に出逢えたって事も含めて。







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