No.38 ポーションって、そう使うんですか?
No.38 ポーションって、そう使うんですか?
余計な音を立てずに、ひたすら階を下って行く。
採れる鉱石ごとに大幅に階が変わり、その度に大きな集積所を兼ねた空間に着く。
とすれば、今着いた場所は4回目の集積所で、かなりの道のりを来た事になる。だが、未だ巨大ワームとは出会していない。
「こりゃあ、最下層まで潜る羽目になりそうだな」
「後、2階層ですね・・・」
「・・・・・・・・・」
「ヴィクターさんどうされましたか?」
静かに集積場を見渡すヴィクターさん。
ここ迄の集積場では、そこまでしっかりと周囲を確認する姿は見られなかった。
何か危険を察知されたのだろうか?
「───今、鉱山は完全に稼働していないと言っていたな?」
「あぁそうだ、もうずっと前からな」
「ここ迄の集積場には、雑多ではあるが必ず鉱物を乗せる為のトロッコが置かれていたが、この階の集積場にはそれが見当たらない・・・何故だ?」
確かに言われてみると、大きな箱に車輪の着いたトロッコが無い。
景色と一体化していて余り意識はしていなかったが、思い返せば今までの階の集積場には置いてあったと思う。
放置されているかもと言われて居たが、どの階層も集積場にもトロッコは停まっていた気がする。
「ここのトロッコはどこにあるんでしょう?」
「初めてワームが出た時に当然各層で普段通りに稼働していたから、その時に退避を優先したって話だから、トロッコもそもまま置き去りになっていると思ったが・・・」
「それなら、今までの階層もそうなっている筈だ・・・・・・おかしいと思わないか?」
その時たまたま、他の階のトロッコは集積場に戻っていたタイミングだったのだろうか?
「たまたま、お昼前で皆さんが集積場に戻られた時間だった・・・とかでしょうか?」
可能性は低いと思うが、そう言うパターンも考えられなくもないかと、多い当たる事を述べてみる。
「どうだろうな・・・遭遇時間がはっきり分からないから、その可能性もあるが・・・」
「すまん、いつ遭遇したのか迄は覚えちゃいねぇ・・・」
「そうだな・・・仮説だが・・・いや、もう少し進んでみよう・・・それから判断する」
ヴィクターさんには、この違和感の原因について思い当たることがあるようだ。
私達はこの場で少しの休息を取り、次の集積場迄の道程を歩き始める。
「今、何か気配を感じるか?」
「あ・・・えっと、いえ・・・私の分かる範囲には何も・・・」
「そうだな・・・俺もまだ何も察知できていない」
「今の質問の意図を伺っても良いですか?」
経験の浅い私に投げ掛けられた問い。数日前に気配を悟る事が出来るようになったばかりの私に聞くのは不自然だ。
「・・・植物の気配を感知出来るお前の察知能力なら、そろそろ何か捉えている様な気がしてな・・・俺は殺意に近い気配の方なら気付けるが・・・」
「何か・・・とは」
「そうだな、例えば・・・襲って来ないワーム。殺気が感じられないのは、俺達に気が付いて居ないからなのか、寝ているからなのか・・・。───後は、例えば俺達の他に、この坑内に誰かが居る・・・とか」
「ヴィクターさんが気が付かない物に、私が先に気が付くなんて――・・・・・・あれ?」
一歩先に進んだ瞬間、前方から人の様な気配がした。
それまで周囲に気を付けては居たが、気配を察する程までに意識していなかった為か、もしくは、気配を察するに必要な範囲に入ったのか、唐突に存在に気が付いた。
「この先・・・誰か居ます・・・」
「そんな筈はねぇぞ?!」
「・・・・・・・・・」
そろそろ、次の集積場に辿り着く筈だ。
とすれば、この人の様な気配はそこから感じるのだろうか?
慎重に進んだ先、暗いはずの坑道が少しづつ明るくなって行く。坑内は閉鎖されていた為当然灯りは灯されず、光源は我々の魔法石のみのはずだが、どう言う訳か煌々と照らされた集積場には、数名のドワーフ達が居た。
「おめぇら!何やってる!?」
「!!!!!」
モーゼさんが開口一番、怒鳴り声を上げる。
まさか、中に我々以外が居ようとは思わなかった。
ドワーフ達は、何かを囲む様にして集まって居たのだが、モーゼさんの声に驚いて円陣が崩れる。
「ここは立ち入り禁止になっている筈だ!!何してやがった!!?」
狼狽えるドワーフ達に、ドカドカと大股で詰め寄った。
そんな立ち入り禁止区域に、私達も許可無く侵入した訳だが、その事は今は黙っておこう・・・
「巨大ワームが出るって知らねぇ訳じゃねぇよな?!死にてぇのか??」
「余り大声を出さない方が良い・・・」
胸倉を掴む勢いで、檄を飛ばすモーゼさんをヴィクターさんが諌める。
そうだ、ここは敵地のど真中・・・声を聞き付けられると非常に困るのだ。
「あの、何をされて居たんですか・・・?」
モーゼさんのやり取りを他所に、ドワーフ達が囲んで居た物が気になり、集団の中を覗き込む。
中心には一台のトロッコがあり、中には――・・・
「え!?けっ・・・怪我されているじゃないですか!?」
1人のドワーフが横たわっていた。
息はあるが額から血が流れ、身体も所々擦り切れている上、右腕は折れているのか添木に布が巻かれている。
「何があった・・・?」
「すまない・・・こんな事になるとはっ・・・」
青ざめながら1人のドワーフが話し始める。
事の流れはこうだ、数ヶ月の閉鎖に痺れを切らした一部のドワーフ達が、坑内に残したままになっていた採掘済みの鉱石を何とか回収できないかと画策。
十数人で結託し、何週間も時間を掛けて運び出して居たらしい。
危険を考えて、初めは生活に欠かせない燃料用の炭石だけのつもりだった。だが、思いの外それが上手く行き、もっと深い層に残した鉱石も回収しようと言う話になり、今日この日までせっせと、運び出し作業を続けていた。
既に3階層までは回収し終わり、この層まで降りて来た。上の階のトロッコが他の層と違って置いて無かったのは、下の階層の回収用に使う為だった。
しかし、当たり前ではあるがワームはここを寝城としている。
それまで運良くワームに出くわさなかったのだが、遂に昨日接触。
命かながら逃げ上がって来たそうで・・・その際仲間の1人が重症、他のメンバーもよく見ればまぁまぁの負傷具合だ。
「お前ぇら・・・何て無茶を・・・」
「仕方なかったんだ!このまま何もせずに居たら、いずれ生活が立ち行かなくなる!家族を凍え死なせる訳にもいかないだろ!」
「だからって・・・」
「・・・あんた、鍛冶屋のモーゼだろ?良いよな鍛冶屋は暖を取る為の燃料なんか幾らでもあんだろ?」
「それは・・・」
「こっちはそんな余裕も無いんだ!少しでも何かしないと・・・」
皆口々に生活の困窮を口にする。
国の所有物に勝手に侵入し、資源を持ちだす行為は横領だ・・・だが、追い詰められて居る状況で、国の末端である国民はどうすれば良いのだろうか・・・
「大体、あんたらも何でここに居るんだ?ドワーフはともかく、人間が・・・何だ、国の窮地を良い事に、鉱石を盗みに来たってか?」
「え?違いますよ!?」
不意に私達に矛先が向く。マズい・・・非常にマズい・・・。こう言う怒りや鬱憤、負の感情は、どうしようもならなくなった時、自分以外の誰かに向いてしまいやすい。
「私達はっ・・・!」
誤解を解こうと言いかけた瞬間、目の前を何かが横切った。
「わっ!?」
「何だ!冷てえ!!」
「何すんだ!?」
横切った何かは、私の前に居たドワーフ達に降り掛かる。
「・・・頭を冷やせ。ご託はここを出て国のお偉いさん方に言え」
ヴィクターさんの方を見ると、掌の上で何かの液体を風で浮かせ、それから勢い良くこちらへ投げ飛ばす。
再び頭から全身にかけられ、怒りを露わにするドワーフ達だったが、3回目を掛けられた所で意気消沈する。
ずぶ濡れになった事で物理的に冷静になったのだろうか?
「・・・あ?これは?・・・傷が治ってるだと?」
「本当だ!!俺の切り傷も治ってる!!」
「ワシもだ!!足が治って!!」
ボロボロだったドワーフ達は、自身の体を見ながら歓喜の声を上げる。もしかして今の液体は・・・
「あんた・・・今のは・・・!」
「余り騒ぐな、治ったなら静かにしていろ」
ヴィクターさんは何も説明する気はない様だが、おそらく街で買ったポーションを怪我をしたドワーフ達に振り掛けたのだろう。
しかもかなり雑に・・・
満身創痍のドワーフ達に、冷静になって貰うには1番手っ取り早い方法ではあるが・・・
怒りよりも傷が癒えた事に感動している様子を見ると、これで正解だった・・・と言った所か。
場が落ち着いた所で、ヴィクターさんは口を開く。
「───先程の質問だが・・・端的に言う。俺達はワームを駆除しに来た」
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