No.104 只の一介の冒険者です・・・!
No.104 只の一介の冒険者です・・・!
通された大広間には、大きなシャンデリアに絵画。美しい壁紙に彩られた部屋に置かれたテーブルに着き、4人で朝食を取る。
朝から豪華な食事が並べられ、デザートの果物まで何種類も用意されていた。
いくら社会人をやっていたとはいえ、テーブルマナーも完全に出来る訳も無く、ヴィクターさんの食べる様子を真似て同じ順で食べる。
手元が覚束ない中、まさかの初心者にありがちなフォークを落としてしまう失態。こう言う時は確か自分で拾わず、メイドさんに目配せして────・・・
目線で探そうとした瞬間「どうぞこちらをお使い下さい」と、テーブルに置かれる新しいフォーク。
「ありがとうございます・・・ビトレーさん・・・えっ?」
その声は、昨日お世話になったビトレーさんだと思い、お礼を言いながら振り返った。
だがそこに立つ人物は、見た目は確かにビトレーさんの筈なのに、どこか違和感がある。
「モルドー、今朝は早くに言伝を届けて済まなかったな」
「お久しぶりでございます、ジルニード様。仰せの通り、ビトレーとフレアはいつもより遅く迄休みを取り、先程本日の業務に合流致しました」
「それは何よりだ。メグミ、紹介しよう。ビトレーに良く似ているが、双子の兄モルドーだ。ヴィクター家で筆頭執事を任せている」
「ふ、双子ですか!」
双子の兄弟・・・通りで瓜二つの外見をしている訳だ。私の感じた違和感は正しかったらしい。
「ふふっ、私もヴィクター家に嫁いできた時は驚いたわ。つい先程まで主人と話して別れたはずなのに、直後全然別の所から現れるんだもの・・・」
「お恥ずかしながら、小さい頃から一緒に居る私でも、間違えそうになる時がありますわ」
「そうなんですね・・・」
「まぁ馴れだな・・・そのうち見分けられるようになるさ」
ヴィクター家の人間でも内でも間違うほどの、よく似た2人。
馴れればと言う話だが、この短い滞在期間で見分けられる自身は私には無いが、名前を間違って呼ばない様には、したいと思う。
「えっと、モルドーさんでしたよね?メグミです宜しくお願いします」
「はい、こちらこそ宜しくお願い致します。メグミ様」
目尻を細め、微笑む顔は昨晩見たビトレーさんと瓜二つで、ますます見分けが付かなかった・・・幸先不安である。
歓談しながら、全員が概ね食事を終わらせた辺りで、エーデルさんが一呼吸置いて口を開く。
「───時に、メグミさんはヴィクターと、お付き合いをされているのかしら?」
「ごふっ!!?」
「当たり前では無いですかお母様!お義姉様がヴィクター家の一員となられます事、楽しみにしておりますのよ」
「違うぞ」
「ほら、お兄様もこう仰って・・・・・・えっ!?違うのですかっ!?」
突然投下された誤解的爆弾発言に、食後の紅茶を咽せ返した私はモルドーさんに間髪入れずにフキンを手渡された。
「モルドー。先に届けた手紙には、メグミの詳細について書いてあったはずだが・・・」
「はい。冒険者である旨を奥様とお嬢様、それぞれに再度お伝えしましたが"今まで縁談を断り続け、女性の影すら無かったにも拘わらず、5年振りのご帰宅に連れて来るとなれば、只事では無い"と仰り・・・私共も、判断に困りまして。申し訳ございません」
「いや、責めてはいない。そう言う事か・・・普段の俺の動きが仇となった訳だな・・・」
成る程、合点が行った。
恐らくヴィクターさんの手紙には私の事について詳細が記してあった。
だが、お風呂のフレアさんの件と言い、リティさんの開口一番のお義姉様発言と言い・・・
ヴィクターさんが縁談を断っている話は、アルシュさんに聞いていた。その事実が相まって、誤解を生んでしまう条件が揃ってしまった・・・と。
「そうなの?メグミさん」
「あ、はい!私は冒険者としてお世話になっている身分で、決して皆様が思われる様な存在ではありません。只の一介の冒険者です」
「そうでしたの・・・」
私とヴィクターさんの否定の言葉に、お2人はシュンッと小さくなる。
状況的に、婚約者候補が現れたと言う期待を裏切る流れになってしまい、申し訳無いと思う。
「色々あって、俺とメグミは師従関係を結んでいます。一人前になる迄、面倒を見る約束で。今回王都に戻った理由は別になります。詳しくは話せませんが・・・明日王城にて沙汰が下れば、内容によってはその限りでは無いかと」
「あら?先週からグラディウスがお屋敷に帰っていない事と、何か関係があるのかしら?」
「それも含めて、明日の登城の結果次第。母上に申し上げられるのはここ迄です」
「それはそれは・・・でも、弟子と言えどシルビアに残さず、わざわざ連れて来たと言う事は、彼女も関係者なのね?」
す、鋭い・・・!話し方がフワフワと温厚な雰囲気で、油断していた。
今の僅かな会話だけで、私の立ち位置を見抜いてしまうその鋭さは、正しくヴィクターさんのお母様だ。
「・・・まぁ、否定はしません」
「そうねぇ、明日の夕食の際に詳しく聞かせて頂くわ。その頃にはグラディウスもお屋敷に戻って来るでしょう」
「そうして頂けると」
明日の王城の予定は、ウルを王様達に会わせる・・・要は面会だ。
レオニア王国が信仰している雷竜だ。ただ会って終わり・・・とは行かないと思う。
国として、ウルを今後どの様に扱って行くのか。恐らく、その辺りの決定の場にもなるだろう。
「───それでお兄様、それまでの時間は・・・いえ、本日のご予定は?」
「今日は、メグミに王都を軽く見せてやるつもりだ。観光とまではいかないがな」
「でしたら、私も同行させて下さいませ!メグミ様がお義姉様とは行きませんでしたが、お友達としてのお付き合いを希望致しますわ!」
「お嬢様、なりませぬ」
片手を胸に、もう片方をこちらにかざし、舞台女優顔負けのビジュアルで声高らかに宣言するリティさんを、モルドーさんが制する。
「どうしてですか?折角の機会ですのに」
「お嬢様は、本日ドレスの採寸をされた後、ダンスの仕上げを予定しております」
「そんな・・・予定を見直す事は出来ませんか?」
「本日を逃しますと、仕立屋の予定が狂ってしまいす。ダンスも先生に来て頂きますので、外遊はお控え下さい」
そこを何とか!と言いたげな表情のリティさんの言い分は、取り付く島も無くピシャリと却下される。
「あ、あの・・・私達今日明日だけで無く、何日か滞在予定ですので・・・ご予定の合う日に、お出かけしませんか?」
「───良いんですの・・・?」
「はい!良いですよね?」
横のヴィクターさんに確認を取れば「好きにすると良い」と無事許可を貰う。
その返事を一緒に聞いていたリティさんは、今日一番の絶望の顔から、部屋に飛び込んで来た時と同じ、最高の笑顔に変わる。
「絶対、絶対ですわ・・・!お薦めのお菓子のお店がございますの!是非一緒に参りましょう!勿論、お兄様も!」
「はい、是非!」
もう直ぐ19歳のリティさんが余りにも可愛らしくて、年甲斐も無く一緒にはしゃいでしまった。お薦めのお菓子のお店も楽しみだ。
「さて・・・そろそろ、出ようか。メグミ、着替えて来ると良い。"上着も忘れずに"な?」
「はい!」
こうして私達は、エーデルさんとリティさんに見送られながらヴィクター家を出発した。
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