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No.103 私への体当たりは死を意味する

 

No.103 私への体当たりは死を意味する







 差し込む朝日に、ゆっくり意識が浮上する。

 もぞりと手足を動かせば、素肌がサラサラのシーツの感覚を拾う。


 えっと、確か・・・・・・そう、昨日の夜中に王都へ到着して、それから・・・ヴィクターさんのお家迄、夜景を見ながら飛んで・・・


 お風呂と夕食は・・・お屋敷で、執事のビトレーさんとメイドのフレアさんにお世話になって・・・


 眠って、それで・・・・・・


「そうだ・・・今日は王都を見てみる予定だった・・・・・・」


 昨夜紅茶を飲んだのが最後で、カラカラに渇いた喉からは掠れた声が押し出された。


 ベッドから這い出しカーテンを開けると、部屋が一気に明るくなる。



 昨日は暗がりで気が付かなかったが、ベッド横のサイドボードに、グラスと水差しが置いてある事に気が付いた。


 おそらく自由に飲んで良い物だろうと、グラスに水を注ぎ一気に飲み干す。かなり水分不足だったらしく、渇いた身体に吸い込まれる様だった。


 2杯目を飲む前に、予備のグラスに水を注ぎウルの口元へ持って行くと、匂いを確認後、美味しそうに飲む。


 その様子を眺めながら2杯目を飲んでいると、遠くの方より足音と共に人の話し声が聞こえて来た。そしてそれは、この部屋の方に向かってドンドン近付ている気がする。



 隣のヴィクターさんのお部屋関係かな?と思い様子を窺っていると、ノックの音が響いたのは私の部屋の扉だった。


 部屋間違いかと思いつつも、取り敢えずは返事をしないまま扉に近付く。

 少し間があって、再度ノック音。これは確実に私の部屋への来訪者である。



「はい・・・」


 私に直接、用がある人物を考えればヴィクターさんか、昨日のお屋敷の従業員のお2人。しかし、ヴィクターさんであれば、ノックをしつつ「俺だ」と自己表明があるはず・・・となると────・・・



「どちら様でしょうか」と扉を開けながら聞くつもりだったのだが、どちら・・・迄言いかけて、最後まで言葉にする事は出来なかった。


「おはようございます!!お義姉(ねえ)様!!!」


 隙間から扉を押し開ける様に、聴き覚えの無い可愛らしい声と共に、1人の女性が飛び込んで来る。いや、私を目掛けて飛びついて来た。


 その女性の入室の勢いが良過ぎて、反射的に受け止める姿勢に入るが、いや待てと1度動きを止める。日常生活では何故か上手くいっている"力の加減について"が頭を過ったからだ。


 ドアノブを回す、ドアを開ける、椅子に座る、誰かの肩を叩く・・・これら全ては、前世で培った感覚的な加減が上手い具合に作用しているのか、破壊的な状況には至っていない。

 理屈も理由も分かっていないが、これに関しては"そう言う物なんだ"と解釈している。



 逆に、今までの流れからすると、予期せぬ挙動または咄嗟の行動において、私への体当たりは"死"を意味する。それは、今までの魔物達で実証済みだ。


 つまり今まさに予期せぬ出来事が起き、驚いた状態で受け止めた場合、この女性の体は只では済まないだろう。そして、この勢いだ・・・最悪が起きる可能性が高い。


 ・・・極めてゆっくりと、そっと・・・硝子細工(ガラスざいく)に触れる時の感覚を思い出せ。今から私が触れる物は、決して壊してはならない。



 女性が私に触れる、僅かコンマ何秒の世界。この間、私の脳はフル回転で冷静さを取り戻し、意識全てを触れる者へ向ける。受け止めるが、抱き締めるなっ!



「っつ!!!!???」


 受け止めた身体は、フワリと衝撃も感じないくらいの軽い。まるで羽を受け止めたかの様。

 私の体は一切の反動を受けずに、無事女性を受け止める事に成功した。



「ヴィクター家へ、ようこそおいで下さいました!一同、お義姉(ねえ)様を歓迎しますわ!」


「お、ねえ・・・様・・・?」



 私の首に腕を回し抱きつく女性と、ごく至近距離で目が合う。

 ウェーブが入ったストロベリーブロンドの長い髪を携えた女性、その髪色よりも少し濃く長い睫と、見惚れてしまいそうなサルビアブルーの瞳。


 その色は、とても見慣れた色をしている・・・そう、その色はここ数ヶ月ずっと目にしている瞳に良く似ていた。



「リスティラ、はしたないですよ。少し落ち着きなさい」


「はっ・・・!失礼致しましたっ。嬉しさの余りつい・・・」


「娘が大変失礼を致しました、お怪我はございませんか?」


「い、いえ・・・大丈夫です」



 私に飛び付いて来た方の、後ろ横に立つ別の女性。全く同じ髪色に、アメジストの宝石を思わせる紫の瞳。一目でこの2人が親子だと分かる。



「申し遅れました、私ヴィクター家当主、グラディウス・ヴィクターの妻、エーデル・ヴィクターと申します」


「初めまして、メグミと申します。ヴィクターさんの弟子をさせて頂いております。宜しくお願いします」


「メグミさん、主人に代わり貴女を歓迎致します。ようこそヴィクター家へ───・・・と、これは先にリスティラに言われてしまいましたね」



 ふふふっと穏やかに笑う目、あぁ・・・やはりこの瞳は────



「すまない、寝過ごした様だ。よく寝られたか?」



 私達が扉を開けたまま話していると、隣の部屋からヴィクターさんが現れる。


 ヴィクターさんは常に先に起きて、後から起きる私が寝起きのヴィクターさんを見るなんてあり得なかった。当然、寝坊するヴィクターさんを見るなんてのも初めてだ。



「もう、お兄様!5年振りのご帰還だと言いますのに、今何時だとお思いですか?とっくに朝になっておりますわよ?」


「そう言うな、リスティラ。昨夜遅く到着したんだ。少しくらい、ゆっくりしても良いだろう?久しぶりだな、元気だったか?」


「変わりはありませんわ。お兄様こそお元気そうで嬉しく思います、お帰りなさいませ」


「ただいま。母上もご無沙汰しております。お元気そうで何よりです」


「お帰りなさいジル。久々だからってそんな固い挨拶、よして頂戴?」


「そうでしたでしょうか?以前もこの感じだった様に思いますが」


「もうっ。皆んなして、大人びた話し方ばかりするんだから」



 リスティラさんに見せる困った様な顔、お母さんに見せるキョトンとした顔。


 す、凄い・・・ここに来てから寝坊に始まり、終始ずっと知らない、見た事の無い表情ばかり。これが実家の力・・・普段とは違う、家族間でしか見られないであろう、本来のヴィクターさん。



 昨日は門の件で勝手にやきもきしていたが、むしろこの王都で起きるヴィクターさんに関するあれこれは、彼の新たな一面を発見出来る場でもあるのでは無いだろうか?


 そう考えると、あの不合理的な私の感覚はプラスに思えてくる。



「・・・・・・何を笑っている・・・?」


「え!?あ・・・えっと・・・ヴィクターさんの瞳が、お2人とそっくりだなって思っていました」


 無意識に笑っていたらしい、指摘されて咄嗟に今の思考を隠した。


「瞳?」


「はい!深い青が時折、光で紫にも見える事に気が付きまして」


「あぁ・・・父上が濃い青で、母上が紫だからな。どちらの特徴も受け継いだのだろう」


「お兄様と私(わたくし)が1番近い色をしていますわよね?クローガお兄様がお父様、オネットお兄様がお母様の瞳の色をしていますもの」


「そうだな・・・あぁ、すまないメグミ。クローガは俺の兄上で、オネットは俺の弟だ。リスティラは一番末になる」


「以前言われていた、19歳になられる妹さん・・・ですね!」


「リスティラと申します。お義姉(ねえ)様、是非リティとお呼び下さいまし」



 後ろ足を少し後ろに引き、ドレスの裾を摘まみながらのお辞儀。

 西洋人形の様な愛らしい顔立ちを、更に際立たせるその優雅さたるや・・・


 その姿に圧倒された私は「宜シク、オ願イマス。メグミデ大丈夫デス・・・」と大層固い声で返事をする。


 アルシュさんにも言えるが、何故立場のある方々は名前では無く、あだ名呼びを推奨なのだろうか・・・。



「お2人共、ご朝食がまだでしょう?私達もまだ頂いておりませんの。ご一緒にいかがかしら?」


「もしかして、待って頂いていたのでしょうか?」


「折角、愛する息子が5年振りに戻って来たのですもの。少しくらい朝食を遅らせて待つくらいは、させて頂戴?」


「お気遣いありがとうございます。メグミ、朝食は大広間で摂ろうと思うが、良いか?」


「────はい!是非!」




 こうして王都初日の朝は、ヴィクターさんのご家族とご一緒する事となった。







.

王都編に入り、ヴィクター家や、王族関係キャラが一気に出て来ます。


キャラ過多につき、どうぞお名前を覚えて読んで頂けると幸いです。

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