No.101 夜景を見るのはポピュラーでは無い?
No.101 夜景を見るのはポピュラーでは無い?
王都上空に向け、ゆっくり浮かび上がり始めた体。
抱えられる緊張で、何処を見てれば良いか分からない私は苦し紛れに夜空を見上げようと試み、バチリとヴィクターさんと目が合ってしまい、力を緩る所かより固くなる。
あからさまに目線を逸らすのも失礼か、などと、完全にタイミングを見失ってしまい・・・そんな、ドつぼに嵌まる思考の自分が恨めしい。
どう目を逸らすのかを考えていたら、ヴィクターさんから世間話を振られる。
「────ここ数日は地面より空中にいることが多かったが、体調に問題は無いか?」
「はい!大丈夫です、それに意外と楽しめています!」
「それは何より。長時間、または長期に渡り地上から離れていると、騎士団の中でも体調を崩す者もいる。高い所が得意では無い者を除外したとしてもな」
「そうなんですね・・・高所が苦手な人は、どうするんですか?」
「入団の際、その辺りの得手不得手も聞かれる。苦手な者は、なるべく地上を主軸に行動出来る地域や仕事が割り振られる」
「適材適所・・・」
「そう言う事だ。・・・そろそろ見下ろすには良い高さだろう。眺めて見ると良い」
会話しながら上昇した事で、どのくらいの高さまで上がったのか感覚的に掴めなかった。
ヴィクターさんの目線が私から外れ、つられて同じ方向を見る。
「す、凄い・・・」
見下ろした夜景で、まず目に飛び込んできたのは、王都中央、一番高い位置に聳える立派な建物。今まで見たどの建物よりも大きく、立派なそれは、ひと目で王城だと分かる。
その王城を中心として放射線状に、レンガ造りで統一感のある街並みが拡がっている。
綺麗に区画分けされ、通りも広く取ってある為、ひしめき合って窮屈に見える事も無い。
適度な間隔に配置された、大きめのお屋敷や広場・・・王城の側にある白い塔を携えた建物は、シルビアにある神殿を思わせた。
ワイバーンから見た王都は、低く薄い雲が視界を遮っていた為、街並みが余りよく見なかった事と、かなり手前にある門を目標に直ぐ下降した事で、しっかりとは見る機会は無かった。
だが改めて真上から見る景色は、想像を優に超えて来る物で・・・
ヴィクターさんは夜景である事を気にしていた様だったが、この美しさは夜景であっても・・・いや、ここまで来ると昼夜関係無いのでは?と思わせる程に美しい物だった。
「素晴らしいです、十分魅力の伝わって来る夜景です・・・!良い物を見せて頂いてます」
「・・・夜の景色で、そこまで喜べるのか?」
「え?はい!前世では、百万ドルの夜景と言う言葉がありまして、夜景を見る為にわざわざ観光地へ行くツアー・・・視察があったり・・・後は、人によっては女性に婚約申し込む際に、夜景の見える場所を選択する方も居る程で。人気のある景色の一つです」
工場の夜景と言うジャンルもあるくらいだ、夜の暗がりに浮かぶ光の魅力に、自然と心が引き寄せられるのだろう。
「夜の景色を、そう言う風に捉えているのだな・・・いや、楽しめて居るようで良かった」
「こっちでは、あまり一般的では無いのですか?」
「────いや、夜に対しての印象の違いになるのだろうな。夜は夜行性の魔物が活性化する時間帯だ。魔物を退ける魔装具や魔法がある街は、基本的に安全と言って良いが、その効力の及ばない場所で対峙する夜は、危険な場所。身を守る手段が無い事への不安、襲われる可能性への恐怖が前提にある。明るい街の中であっても、光の直ぐ上に在る暗い夜闇を怖いと感じる者が多い」
「確かに光が包む目の前とは対照的に、後ろや上空は昼間に比べ圧倒的に暗い闇・・・怖いと感じるのも分かります」
「あぁ、街明かりが全体を照らす下を歩く分には、そこまで気にならない様だがな。王都の外壁の向こう、夜の景色迄見えてしまう様な高い場所には、王都住民も夜の間は出向かない・・・不安を煽られるのだろう。故に、夜の景色を眺めると言う行動は、特異的な趣向になる」
ここは異国では無く、異世界。魔物や魔法、冒険者と明らかに違う世界観を思えば、共通点の方がむしろ少ないはずなのだが、こうして表面化する迄は案外気にしていないものだ。
「メグミは普段から、余り夜を怖がる様子も無かったから、平気かと思って提案してみたが、存外悪くなかった様でなりよりだ。しかし、今日分かった事がある。今までメグミの世界の話を余り聞いた事が無かったが・・・今の生活とは全く無縁の場所だったんだな?」
「え?あ、そうですね!比較的、治安の良い法治国家で生まれ育って来ました。魔物も魔法も存在しないので、冒険者なんて職業も無いですが、その代わり規律と社訓に則った労働社会が待っています!・・・まぁ、就労時間が勤め先でかなり違うので、そこで人生の命運を分ける感じですが」
「あぁ・・・メグミのステータスやスキルが特殊な理由か」
「そうですね、かなり無茶な働き方をしていたと思います。でも今となっては後悔は有りませんし、この世界でやって行けているのも、前世の激務生活があっての事です。それに、縛られ過ぎない今の冒険者の方が、性に合っている気がしています!」
ヴィクターさんの騎士時代の話を聞かせて貰ったお返し・・・と言う訳では無いが、私も前の世界の話をする。
ヴィクターさんに比べたら平坦で、面白みの無い物かも知れないが、世界の違いについて興味を持って貰えた様で、少し嬉しくなる。
「でも夜景でこれ程の物でしたら、昼間も圧巻の景色なんでしょうね・・・明るくなったら、街を見て回る時間とかありますでしょうか?」
「時間、取れると思うぞ。目が覚めたら少し見て回るか?」
「ありがとうございます!是非お願いします!」
「よし。なら早々にヴィクター家へ向かうぞ。メグミは引き続き、街の景色を眺めていると良い」
「はい!」
地上を歩くより遙かに早いペースで王都の上空を移動し、途中王城に最接近した時はかなり興奮気味に身を乗り出し眺めた。
ヴィクターさんに"また2日後に王城に来るから、その時にゆっくり堪能するように"と体勢をすぐに戻される。
そうしてヴィクター家へと辿り付いた私は、ヴィクター家・・・いや、ヴィクターさんのご実家のお屋敷前で、そびえる外壁をあんぐりと口を開けたまま見上た。
「だっ、大豪邸・・・だ・・・」
「いや、そうでも無いだろう」
「いえいえいえ!ご実家、大きすぎやしませんか!?門から続くお庭もっ!!」
シルビィ辺境伯のお屋敷も十分大きかったが、それの2倍はある気がする。
しかも王都と言う限られた敷地に建つには、恐ろしい坪面積を有しているのでは無いか。
大豪邸を前にし、以前アルシュさんがヴィクターさんのお家は、貴族だと言われていた事を思い出す。
「ここから見える範囲の窓の数だけでも、相当な・・・」
「言っただろう?無駄に部屋数があると。入るぞ」
「こ、これが・・・貴族・・・!」
動揺する私を横目にヴィクターさんは、玄関の扉に付いた金属のドアノッカーを数回鳴らす。
日付が変わってから随分と経つ。お屋敷は最低限の正面の明かりを残し消灯しているが、この時間の訪問大丈夫だろうか?ご実家とは言え流石に────・・・
そう思った直後、扉が内から開き、室内から明かりが漏れ出す。
「お待ちしておりました。ジルニード様、メグミ様。長旅お疲れ様でございました」
そう私達にお辞儀をして挨拶をするのは、燕尾服に身を包む中老の男性。
ローズグレイの髪色にマルベリーの瞳、細められた目尻を皺が縁取る。
「5年振りだな・・・ただいま、ビトレー。こんな時間に帰宅して悪かった」
「いえいえ、とんでもございません。お顔を見れました事大変嬉しく思います。ささ、お入り下さいませ」
「あぁ、メグミも付いて来るように」
「は、はいっ!お邪魔致します!メグミと言います、王都滞在にあたり、当面の間ご厄介になります!」
「これはこれは、ヴィクター家に遣えております、ビトレーと申します。以後お見知りおきを」
「こちらこそ、宜しくお願いします!」
本当はもっと元気よく行きたい所だが、時間帯が時間帯だ。お屋敷の方々を起こしてしまわない様に、抑えめに挨拶をした。
「ジルニード様の私室と、その横のお部屋をご用意させて頂きました。どうぞ、こちらへ」
エントランスを過ぎ、奥へ続く暗い廊下は、私達が通る前に壁の照明が灯り、過ぎ去るとゆっくりと消灯する。
まるで玄関先に設置される、センサーライトを彷彿とさせた。
「皆は?」
「はい、旦那様は変わらず王宮警護でご不在です。クローガ様につきましても同様にございます。オネット様は引き続き、ご領地にてご研鑽を。ただ今お屋敷には、奥様とリスティラ様がいらっしゃいますが、お2人ともお休みになられています」
「2人には、朝目覚めたら挨拶をしよう。一先ず、俺達も休ませて貰う」
「かしこまりました。湯浴みと、お食事はいかが致しましょう?どちらも手配しておりますが」
「先に湯浴みを済ませようと思う。食事は軽く入れる程度で構わない、残りは明日の朝にでも食べよう。部屋で夕食を取ろうと思うから用意していて貰えると助かる。湯殿までの付き添いは不要だ」
「承知致しました、では準備して参ります。湯殿に使用人を1人待機させておりますので、ご用命の際はその者に何なりとお申し付け下さい」
「あぁ、すまないな。よろしく頼む」
ビトレーさんは、失礼します。と一言添えて私達とは別の方へと歩いて行く。
私達は屋敷を更に奥へ進み、湯殿へ到着すると、ビトレーさんが言われ通りメイド服に身を包んだ女性が立っている。
先程言われていた、使用人の方だろうか?ヴィクターさんが何かを伝えると「こちらへどうぞ」と促され、右奥の部屋へと案内される。
お風呂だから男女で分かれているのだろうと、付いて行くと完全個室の小さな浴室が現れた。
成る程、プライベートサウナならぬ、プライベートバス。そんなくだらない事を考えいると、メイドさんが一言。
「────では、お召し物をお脱ぎになって下さい」
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