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No.100 "お姫様抱っこ"は、不敬

 

 No.100 "お姫様抱っこ"は、不敬








「何だ、まだ浮かない顔だな」


「いえ、ただ・・・今の話を受けて、自分の至らぬ部分と向き合う機会になったと言いますか・・・」


「・・・・・・何と向き合っているのかは詮索しないが、もう少し肩の力を抜け。常に気を張る戦闘ではその状態で正解だが、日常まで持ち込み過ぎると、潰れるぞ」


「あ・・・」


「俺がこれまで見ていた限りの話だ。思い悩む事が度々ある様だが、全部を同時に何とかしようと思うな。自分の悪い部分なんて考え出したらキリが無い。ある程度は、切り捨てるのでは無く割り切れ」



 真っ直ぐな目線は、その場凌(しの)ぎの嘘や慰めの物では無かった。

 言葉に芯があり、まるで自身の経験を語っている様な・・・



「まぁ、これはかつて、俺が父上に言われた言葉だ。要は受け売りだな」


「ヴィクターさんも、自分の至らぬ部分を考え悩む時があったのですか?」


「それなりにな。この言葉を聞いた時、絡まっていた思考が一つ一つ解けた感覚がした。俺はその後直ぐにスキルの開花が始まった。恐らくヴィクター家と言う騎士の家系に産まれ、偉大な存在の父上と優秀な兄が目の前に居て、焦りと重圧があったのかもしれない。剣聖の特性を持ちながら、スキルを何一つ発現出来ず、修行に明け暮れる日々が続いた最中(さなか)の話だ」


「そんな過去が・・・今のヴィクターさんからは想像出来ません」


「・・・いや、俺の事は話のついでだ。つまり、考え出すと沸いて来るそれらは、目指す先を見据え、焦らず一つずつ積み上げて行けば、以外と気付けば片づいていたり、取り留めの無い物になっていたりする。ある日突然出来るようになっていたりな・・・」


「ヴィクターさんのスキルが開花した様に、ですか?」


「例え話だ。悩んでいた事が、返って余計な作用を生むくらいなら、割り切って目標を追う事を優先しろと言う話だ」



 そうだ、今の私はあれやこれやと、必要以上に手を伸ばしそうになっている。


 目標は一人前の冒険者になる事、次いで理想の気ままな人生を送る事。


 その目標を達成する頃には、私の脆弱な部分や至らぬ部分が少しでも改善されている・・・なんて展開もあり得るかもしれないし、最悪その二つが達成出来た後に改善して行けば良い。



「そうですね、そうします・・・!重ね重ねありがとうございます」


「・・・・・・説教じみた事は、余り得意では無いんだが・・・・・・本当に受け売りだと思ってくれ」


「ふふっ、はい」


「それで、疑問は晴れたか?」


「はい!モヤモヤもすっきりです!」



 社会人で一人暮らし、友人とは疎遠。誰かに真っ向から相談をする機会を永らく失っていた。

 師従関係を結んだとは言え、知り合ってたった2ヶ月のヴィクターさんに、情けない悩みを丁寧に聞いて貰えると言う何とも恵まれた状況・・・何も持たない私が、こんなに素晴らしい人に出逢えた事が奇跡で、もし神様が居るのならこの巡り合わせに、心からの感謝を伝えたいと思う。




「それは何より。さて、ここからの話だが・・・上空から街を眺めて見ないか?」


「街を、ですか?」


「あぁ。ここで生まれ育った俺には分からなかったが、初めて王都を訪れる人々は口々に、王都の街並みの美しさを褒めるそうだ。本当なら明るい時間に見るべきなのだろうが、生憎と到着がこの時間だ・・・雰囲気だけでも伝わるかと思ってな・・・目指すヴィクター家まではまだかかる。残りの距離は、飛行魔法で街を眺めながら進めば良い」



「是非!見てみたいです!夜ですが王都はシルビア以上に街明かりがありますし、問題ありません!」



 王都の夜景を遊覧飛行とは、何て優雅な提案だろうか。



「なら、そうしよう。────先に言っておくが、翼は出すなよ」


「はっ!そうでした、危うくスキルを発動してしまう所でした!どう、飛行しましょうか?」


「・・・?前の様に抱えれば────・・・」


「・・・崖の時の話をされているのでしたら、ダメです。他の方法を希望します」


「ギルマスの時の様に小脇に抱えるのは、体制的にメグミの方が負担が掛かるぞ」


「もっと、こう・・・例えば、騎士団で負傷した誰かを運ぶとしたら、どうされますか?」


「同様に横抱きにして運ぶ。1番安定しているから、運ばれている方に負荷が掛からない。抱える人間の持久力を鑑みるなら、背負うのも有りだな」



 質問の仕方を間違えた。ヴィクターさんは基本、最も効率的な方法を取る人だと言う事を、加味していなかった。



「効率重視なのは分かりました。だとしても、この歳で"お姫様抱っこ"はちょっと・・・抵抗感がありまして・・・」



 正確に言えばこの歳であっても、お姫様抱っこをされたいと言う人は沢山いると思うし、むしろ憧れが実現するする機会があれば、ドンドンして貰って欲しい。


 しかし、私がされるとなると話は別だ。

 前回は状況が状況だったから、受け入れたのだが今回は違う・・・何としてでも、別の移動方法をお願いしたい。



「すまない・・・"おひめさまだっこ"と言うのは、何だ?」


「・・・・・・・・・えっ!?・・・・・・・・・えっと、あの状態は何と呼びますか・・・?」


「さっきも言ったが"横抱き"だ」


「ああー・・・」



 まさかあの体勢、もしかして日本独自の呼び方だったりするのだろうか・・・?


「お姫様を抱きかかえる仕草を、私のいた世界ではそう呼びます」


「お姫様・・・つまり、王女殿下を横抱きにすると言う話か?レオニアの王女殿下は昨年お生まれになったが、そんな風には言い表さないな・・・そもそも、体調不良者を抱える動作を、王女殿下に例えるのは・・・不敬罪で首が飛ぶぞ」



 つまりこの世界において、お姫様を抱きかかえる仕草を"お姫様抱っこ"と呼ばないと言う事だ。呼び方だけでは無い、そもそも言葉の成り立ちが違うと知る。


 そうか、だから崖上に着いた時にその場にいた全員が、特にその状態に反応していなかった事にも納得が行く。


 前世で、面白可笑しくはやし立てる様な反応をする人は、年齢問わずと認識しているので、皆とても精神が成熟した方々だなと感じたが、違った。



 むしろこっちでは、抱えられて戻って来る事で、体調面に支障をきたしている可能性が先に来る。


「文化圏・・・いえ、世界観の違い、ですかね・・・」



 今後一切、発言をする事の出来ない、禁止(ふけい)ワードだ。




「すみません、この世界ではこの言葉がよろしく無い物と理解しました。この体勢が、誰かを運ぶのに最適である事も・・・・・・ただ、その上で、何か他の体勢で移動は出来ませんか・・・?」


「あるには、あるが・・・以前荷車を浮かせた方法だ。川に落ちかけた時にも使用した。だがあれは安定性が皆無で、ワイバーンの時以上に酔う可能性が高い。加えて、メグミを浮かせる事で、竜が俺の風魔法に反応して雷の力が暴発しないだろうか?」


「た、確かに・・・あの時は恐らく、卵だったからセーフだっただけで・・・孵化してからは魔力への反応を何度もしていて、その可能性が高いのかも・・・」



 魔力を自身に纏うヴィクターさんに抱えられる場合なら、私にもウルにも直接魔力は介在しない。


 逆に風魔法で私自身を浮かせるとなると、フードの中に居るウルにもその魔力が作用して、何かしらの反応が起きるかも知れない。


 そして、ここで私が自分の羞恥心から後者を選んだ結果、万が一事が起きてしまったら・・・と想像した瞬間、首元が急に寒くなる。



「固定観念、捨てます!!予定通りの方法で運んで頂いて大丈夫です、よろしくお願いします!」


「あぁ、それが無難だな」



 中腰で添えられた両腕に覚悟を決め、出来るだけ縮こまって収まって運びやすい体勢を心掛ける。

 自分の意思でそこに収まったとは言え、どこに力を入れれば良いか分からず、全身に力を入れていたのだが"もう少し楽にしていてくれた方が抱え続け易い"と苦笑されてしまった。



「浮くぞ」


「あ!待って下さいっ!・・・ウル?起きてる?今からヴィクターさんと飛行するから、ちゃんとフードの中に居てね?出て来て、身体がヴィクターさんに触れるとダメだから」



 首を後ろに捻り、相変わらず大人しいウルに声を掛けた。いきなり浮遊感に見舞われて、驚き飛び出したら危ない。そんな私のお願いに、キュウ・・・と返事が返って来る。


「大丈夫、みたいです。お願いします」


「あぁ。行こうか」






 .





この度、無事100話を公開する事が出来ました!


厳密に申し上げるなら、初期に10.5話が存在しているので、それを含めるなら101話ですが、話数上ですと100話になります。


小説を上げ始め、9ヶ月……100話到達は感慨深い物があります……


いつも読んで頂き、本当に有難うございます。書き進めるの楽しいですが、やはりそれを読んで頂けると言う事により一層嬉しさを感じております。


お伝えしてます通り、3章より恋愛要素がそれなりに加わります。今迄の我武者羅スピードスタイルとは少しだけテンポが変わりますが、それも含めて楽しんで頂けると嬉しいです。


引き続き、邁進して参りますので、是非これからもご贔屓にして頂けると、幸いです!o(≧▽≦)o


⭐︎⭐︎100話に際しまして、記念絵等考えておりましたが、如何せん計画性の無さで間に合いませんでした。

代わりと言っては何ですが、ウルのイメージ絵を描きましたので、後でみてみんとXに載せようと思います。


お気になられる方がいらっしゃいましたら、是非!

X→@akisamenagumo



長々と後書にお付き合い下さり有難うございました(*´◒`*)


※横抱きに関しては、ヴィクターの筋力のお陰で安定しているだけで、通常成人女性を抱える事に関しては、安定性は見込めないと思いますので悪しからず……

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