後始末
精製された阿片を探して、ロイは部下達と焼け残った教会内部を探索していた。
焦げ臭い匂い、明日の朝には軍本隊が到着して事後処理をするだろう。
ヨハネは町人の治療を終え、枢機卿と共に中央教会に向かった。
すでにベルンストは、魔方陣を使い王宮に転移して戻っている。
馬車で着いたばかりで疲れているであろう枢機卿は、ベルンストとの取り引きで異様に元気な様子だった。
ましてや、有能な後継者が出来たことで、教皇選への意欲も高まったようだった。
アーレンゼルとロイも明け方までには、魔方陣で王宮に戻る予定である。
「どうした?」
ロイの後ろからアーレンゼルが声をかけてきた。
暗がりの中でも、アーレンゼルには気付かれたらしい。ロイは涙を流していた。
「女を斬ってしまった」
ロイはアーレンゼルに振り向くでもなく、淡々と答える。
自分にあれほど想われる価値があるのだろうか?
何もかも捨ててローラは、ロイを望んだ。
理解は出来ないが、哀れに思う。
したことを許すことは出来ないが、他に道はなかったかと思う。
「そうだな」
アーレンゼルもロイの言いたい事がわかったのだろう。
「だがな、守るべき存在の女性ではない。悪意をもってメリーアンジュを狙い、王国に謀反をする犯罪者という人間だ。そこに男も女もない」
メリーアンジュは、見た目に反して善良で思慮深く、不器用な人間だ。
守ってやらねばと、目が離せなかったが、これからはベルンストがいる。
「戻って一杯するか?」
アーレンゼルは、ロイにも自分にも必要だと声をかけた。
ガラガラ、夜中に不審な音が部屋の中から響くが最近は毎日の事と、扉の前に立つ護衛兵は慣れていた。
そこはマドラス公爵令嬢メリーアンジュが王宮で与えられた部屋。
警備兵は近づいて来た人物に敬礼をする。
「ああ、いい」
ベルンストは警備兵を手で制すると、部屋の中に入って行った。
メリーアンジュは、深夜だというのに、何かの箱を探しているようだった。
「お手伝いしましょうか?」
侍女とは違う声を掛けられ、メリーアンジュが飛び上がる。
「ベルンスト!」
「何をしているんだ?」
たくさんの箱が散らばった部屋にメリーアンジュは座っていた。
ベルンストと視線が合ったメリーアンジュは頬を染め、プイと横向くが耳まで赤い。
ベルンストは、そんなメリーアンジュの反応に長い想いが報われたと知る。
「だって、ベルンストの瞳の色の糸が見つからないのですもの」
どうやら、刺繍をしていて、糸を探していたらしい。
「私に作ってくれていたのか?」
「だって、何日もベルンストに会ってないんですもの。
毎日、何しているかな、って気になって。
刺繍でもしたら、落ち着くかと思って」
横目でチラチラ、ベルンストを見ながら話すメリーアンジュは可愛らしすぎる。
ベルンストは、ウッと口を片手で抑える。
今、メリーアンジュにねだられたら城でも何でも与えそうだ。
ベルンストも一呼吸して、メリーアンジュに話しかける。
「でも、私の瞳の色って?」
「だって、ベルンストの瞳は綺麗だから。
って、きゃああああ!!」
両手で顔を覆ってメリーアンジュが床に伏す。
真っ赤な顔を上げて、メリーアンジュが顔から手を外す。
「ベルンスト、お帰りなさい。
出かけていたのでしょう?」
「ああ、ただいま」
ベルンストがメリーアンジュを抱き寄せると、メリーアンジュがピクンと肩を揺らす。
「メリーアンジュに話さないといけないことがある。」
「メリーアンジュをムクレヘルムに召喚したのはムクレヘルムの公爵だが、それに協力していた人物を処分したんだ」
ベルンストの胸に預けていた顔をあげるメリーアンジュ。
「アイサイム伯爵令嬢ローラ」
ベルンストからもたらされた言葉に、メリーアンジュの目が見開き、うそ、と言葉が漏れる。




