枢機卿
決して高潔と言えないであろう枢機卿は既に到着していて、アーレンゼルが対応をしていた。
アーレンゼルの美貌はこういう時に役に立つ。
似た顔のメリーアンジュを使おうとは思わないが、アーレンゼルは常に対外要員として、為すべき事を理解している。
「ドンゲル枢機卿、こちらがキルフェ王国王太子であります」
アーレンゼルがベルンストの姿を確認すると、枢機卿に紹介する。
ベルンストが子供の頃に会った事があるが、お互いに姿は年齢と共に変わっている。
ベルンストの姿を認めた枢機卿は、目を大きくする。
術を行使して町の人々を治療しているヨハネの能力に、驚いていたところなのだ。
神父であるヨハネと王太子がよく似ているのは一目瞭然である。
「お久しぶりです。王太子殿下。
あの者は、殿下の兄弟であったかな?」
キルフェ王国に王子は一人であった、と確認してくる。
ドンゲル枢機卿は先々代の王の弟の庶子にあたる。
「彼は市井で育ちましたが、あの容姿、魔力で王家の血筋は間違いありません。それ以上は確定出来るものはありません」
ベルンストの言葉になるほどと、ドンゲルは納得する。
何時の時代かの落とし子で、王家の血筋が色濃く出た可能性もあるが、公に出来ないが王太子に近い血筋の可能性の方が高い。
何より、ヨハネは有益であるとドンゲルは理解する。
「これほどの治癒術を見たことはない。神学校出身と聞いたが、教師達を問い詰めねばなるまい。
何故に地方の教会に追いやったのかと」
答えはわかりきっているのに、枢機卿はわざわざ蒸し返す。
寄進の多い貴族の息子を優先したからだ。
「神父殿には、相応しい所で人々に信仰を広めて貰いたいと思ってますよ。
もちろん、それ相応の準備はしています。
ああ、まずはドンゲル枢機卿に教皇になっていただかねば、なりませんね。」
その後は彼ですよ、それはいかほどで? とばかりにベルンストが口角を上げる。
今回のことで、ムクレヘルムには大きな恩を売ってある。
教皇選に、有利に働くであろう。
「この芥子畑の撲滅で、キルフェ王国の教会内勢力は増すだろう。
現教皇は、教会で芥子の栽培をしていた管理責任をどうされるかだな」
それもユークレナ結社と結びついてのことだ。
キルフェ王家、ドンゲル枢機卿の立ち会いとなれば、隠して処理することも出来まい。
この教会がユークレナ結社の中で、どれ程の位置にいたかは分からないが、重点基地の一つであろう。
ムクレヘルムの基地は既に潰した。
殲滅するには、構成員の処理だけでなく、人々の関心を無くさねばならない。
それには、正教会の魅力を高めて人々を惹き付けるのが一番いい。
ヨハネは適任であろう。
地方の教会を回り、治癒とミサ、洗礼と人々に深く関わり、信頼を得ている。
治癒魔術は高度な知識と魔力、清廉さが必要と認知されている。
何よりヨハネの端麗な容姿は万人に受ける。
ケガをした町人の治療の為、力を尽くしているヨハネ当人を除いて、話が進んでいく。
ヨハネの側には、軍人が二人付き添い補助をしていた。
志願した者らしく、ヨハネの治癒魔術に感動を受けているようだった。
彼らは補助をするだけでなく、ヨハネの警護も自覚しており、不用意に近づく人を遠ざけていた。




