防御魔術
地下の部屋は小さな集会室だった。
今は柱が天井を支えているだけで、いつ崩れ落ちても不思議ではない状態だった。
壁にも穴が開いていて、爆風が吹き荒れたのがわかる。
「いつまで手間取っているんだ?」
ベルンストの背後から、ロイが声をかける。
キールッヒは肩で息をしながら、壁にもたれかかっている。
ベルンストも剣を手にして、立ってはいるが大きく息をしている。
「どうやら、魔術が効かないらしくてね。
彼にはダメージを与えられないんだ。こんな事は初めてだ」
王太子として剣技は身に付けているが、キールッヒとて軍人として剣技には自信があるはずだ。
「直接は効かないから、間接的に魔力を使ってやっとだ」
へえー、と言いながらロイが剣を手にする。
キールッヒの調査書には、魔力は低いとしかなかった。防御に徹し、攻撃魔術に不向きということなのだろう。
だが、防御においては群を抜いている。これが、戦地ならばどれ程の威力になるか。
相手の魔力が大きければ大きい程、威力を発する魔力。
大きな魔力保持者から攻撃を受けたことがなかった為に、正しい価値を判定されずにいた、ということなのだろう。
ロイが魔術波をキールッヒに向けるが、キールッヒに跳ね返されるように消滅する。
「なるほど。僕より魔力が高いベルンストでさえダメなら、当然か。」
それならば、とロイが剣を振りかざすが跳ね返される。
ロイの剣にこびりついた血が鈍く光る。
「ふははは」
壁にもたれたキールッヒが笑いだす。
「どうして、上手くいかないんだろう?
俺は誰も持っていない力があるのに、誰も認めてくれない」
キールッヒの力は相手が大きな魔力を持っていないと効果が少ない。
第2部隊第3中隊長、戦争の経験もなく、部隊の訓練だけでは、大きな魔力の者とは当たらなかったのだろう。
力を出す機会がなければ、誰も彼の能力を理解しない。
壁から身体を起こし、キールッヒがゆらりと立ち上がる。
剣を握りなおす手に血が滴り落ちる。ベルンストの攻撃は防御してもダメージを与えていたらしい。
ベルンストはロイを手で制して、手を出すなと言う。
「さあ、黒幕を吐いてもらおうか。君は自分を認めさせたかったかもしれないが、国を狙うようには見えないな」
ヨハネを傀儡として国政を牛耳ろうとしてたとは見えない。実行部隊ではあるが、黒幕ではないというべきだろう。
ベルンストが手を振り上げると、氷の粒が渦を巻いて吹き荒れる。キールッヒが制する間に、ベルンストは別の魔術を繰り出す。
魔力量が違うのだ。キールッヒの防御の発動が次第に遅れてくる。
一陣、二陣、ベルンストの魔術がキーリッヒを追い詰めていく。
ダン!!
とうとうキールッヒが弾き飛ばされ、壁にたたきつけられる。
「簡単に殺しはしない」
メリーアンジュを狙った事を許しはしない、ベルンストがキールッヒに近づくが反応はない。
「チッ、意識がないか」
頭から血を流し、ピクリとも動かないキールッヒを見つめて、ベルンストが吐き捨てるように言う。
ロイがキールッヒを縄で縛り、軍司令部に連行するよう部下を呼ぶ。
「町の火は消せたか?」
ベルンストの問いかけに、ロイはもちろんだ、と答える。
芥子畑に火をつけるにあたって、町には密かに軍を投入して延焼の防止に当たらせていた。
それでも全てを消火するには時間がかかったが、大きな被害にはならずに抑えられた。
「ロイ、芥子畑を燃やすためとはいえ、町に火を点けた王子は私だけだな」
「僕は後悔などしてないぞ、そうしなければ被害はもっと大きくなっていた」
「分かっている、必要だった」
やってきた部下達にキールッヒの警備を指示すると、ベルンストはロイを引き連れて町に向かった。




