想いを叶えて
「ロイ様」
ローラは剣を持つロイを見つめるが、腕からは血が流れ出て足下に落ちていく。
「どうして、私ではダメなの?
ずっと見てきたのに」
ロイは、たくさんの女性に同じ言葉を言われた。
だが、メリーアンジュの友人として認めるのに、自分達に興味がない女性というのが絶対条件だった。
ローラは上手く隠してきたという事だろう。
「血を流しながら、凄い迫力だな」
決して受け入れる事はないが、無下にも出来ないのがロイだ。
「ローラ嬢、貴女のした事は許される事ではない」
ローラを守ろうとする男達が、ロイの前に立ちはだかる。
この男もローラの魅了の魔術で囚われているのか、麻薬のせいか、ユークレナ結社の結団力かはわからないが、ローラに心酔しているようだ。
魔力も剣技も劣る男達だが、命を捨てて向かってくるから簡単には倒せない。
腕を押さえながら、ローラが痛々しい笑みを浮かべる。
「ここで、ロイ様と一緒に死ねたらいいのに」
男達の後ろでクスクス忍び笑いがもれ、小さな呟き。
ローラは治癒魔術は使えないが、出血を止める事はできるらしい。
アーレンゼルが魔力の攻撃波をローラに撃つが、弾き飛ばされる。
「伯爵令嬢にしては、中々の魔力だということだな」
燃え盛る炎を背にして立つアーレンゼルは、神々しいほど美しい。
「私にはこんなに魔力があるのよ。
ずっと秘密にしてきた。だって、知られたら何処かにお嫁にいかされてしまうもの。
なのに、あの女はいつまでも婚約者を決めない。ロイ様が自由にならない」
貴族は魔力を高める為に、魔力の高い女性を望む。
ローラのこの魔力であれば、魔力の強い子供を望む侯爵家、公爵家でも縁談があるだろう。
「私こそが、ロイ様に相応しい。」
こうやって、メリーアンジュの魔力が低い事を蔑みながら、メリーアンジュの側にいたのだ。
爵位の低い貴族であっても、稀に強い魔力を持つ子供が生まれる。
伯爵家ならば爵位は低くないが、ローラの魔力は突出しているようだ。
バン!!
爆発したような音が辺りに響き、炎がさらに舞い上がる。
誰も、そんな事に気をとられはしない。
芥子畑は焼失し、部下たちは教会の外にいるヨハネの護衛に回ったようだ。
後は、教会に残っている残党と、精製された阿片がないか探すのみである。その残党の中にローラがいる。
「アーレンゼル、ここは俺がやる。神父のところに行ってくれ。町は火で混乱の最中だ」
ロイが叫ぶと、アーレンゼルは踵を返し教会の外に向かう。
この教会のことは、すでにキルフェ王家に縁のある枢機卿には伝えてある。
中央教会を昨日出立した枢機卿は、今にもこの町に着くかもしれないのだ。その枢機卿がヨハネを大司教に推薦することになる。
枢機卿の出迎えも必要なのだ。魔法陣で移転したアーレンゼル達と違い、枢機卿は馬車で向かって来ている。
ローラの足元にはすでに息のない男達の身体が横たわる。
血の海に立つローラ・アイサイム。
「ダメね、男では生け贄の血にはならない」
「おまえ!」
ロイが怒りの声をあげるが、ローラを喜ばすだけである。
「今日はいろんなロイ様を見れるわ。
こんなに側にいれるなんて。
貴方の瞳に私が映っている」
嬉しくて仕方ない、とローラが微笑む。
「あの女さえいなくなれば、何度も思った」
独り言のようにローラが語る。
「大好きだったのよ、奢っているくせに可愛くて。
でも、王太子殿下だけでなく、ロイ様までも独占して。
どうして、両方を得ようとするの?」
それはメリーアンジュの事なのだろう。
「ロイ様を自由にしてあげる、あの女がいなくなればいいのよ」
ローラが興奮しているのがわかる、力の高まりを表すように身体が地面から浮いていく。
高い魔力ならロイも同じだ、ローラの魔力の壁を自身の魔力で切り開き、ローラに向かう。
ローラは想いの全てを込める。
見ているだけでよかった。
メリーアンジュのお茶会で、ロイに会えた日は嬉しくて眠れなかった。
姿が好き、声が好き、話し方が好き、全部好き。
魔力だけでなく、剣技は見惚れるぐらい奇麗なのよ。
軍の公開練習には何度も行ったわ。
もうちょっと、私を見て。
少しは私の事、知ってくれているかな。
メリーアンジュは兄に話すようにロイに話す。
やめて、ロイ様はメリーアンジュが好きなのよ、わかってあげて、可哀そうよ。
私なら、ロイ様だけを好きでいられるのに。
願いを叶えてくれる教会があると聞いた。
ロイ様を私にちょうだい。
メリーアンジュがいなくなれば、私を見てくれるかな?
ほら、ロイ様の瞳には私しか映っていない。
願いが叶ったのかな?
ザン!!
ロイの剣は、今度は腕ではなく、ローラの胸を突き刺した。
「ロイ様、好き」
吐き出す血とともに、ローラの口から洩れる言葉。
ロイが剣を引き抜くと、ローラが倒れこみ赤い血が溜まる。
声は出ないが、ロイにはわかった。
ロイ様、と言っている。
屈んでローラの頭をなでてやる。
うれしい、声にならない言葉が聞こえる。
ロイと一緒に死にたいと言っていた。
けれど、ロイに攻撃をしなかった。あんなにも魔力が高まっていたのに。
芥子畑を燃やした炎は、くすぶり始め、辺りを煙が包む。
火の勢いは落ちてきているが、それでも夜の闇はない。
ロイの影が大きく揺れる。




