満開の花
残酷な表現があります。
満開の花。
それは、合言葉だった。
「誰がそれを使うのだ?」
「会話に混ぜて・・同志か確認をする」
それで? ベルンストが片眉をあげると、男は苦痛に泡を吐き出す。
ベルンストの魔力が、男の脳内に圧力をかけているのだろう。抵抗する術もなく震えた声が続く。
「同志ならば・・・月を応える」
なるほどな、三日月でも月明かりでもいい、話にいれるという事だな。
「主宰の名は?」
何代目になるかはわからないが、主宰はいるだろう。
「ワイバ・・」
言葉を言い切る前に鼻と耳から血を流し、男の息は途絶えた。
死体になった男を、ベルンストは足で反転させる。
「ワイバ、適当だな。どこの国の人間かもわからないか」
それでも、かなりの情報を得た。
「ロイ、アーレンゼル」
ベルンストが呼ぶのは、自身の側近である子供の頃から信頼する腹心の男達。
「私は父上にお会いしてくる」
地下牢には、僅かな者しかいない。
筆記する事務官も、男の始末をする武官も王太子執務室付きのベルンストの懐刀達である。
「では、僕は侵入する者の選定に入りましょう」
自分がしたいが、顔が売れすぎていて無理がある。
ロイは、ヤマンド軍務長官と打ち合わせの算段をつけに地下牢を出て行く。
キールッヒ・モーレンシュワルツが逃走していることで、第2部隊に調査は入っていたが、ユークレナ結社の捜査と表向きは出来ないので、キールッヒの行方不明の捜査としてである。
近衛の中にまでも、ユークレナ結社が入り込んでいるのが今回わかった。
近衛は、貴族のみの王近くにいる精鋭軍だ。
いろんな噂があるが、ユークレナ結社は長い歴史を持つ慈善団体だ。
たくさんの国に構成員を持つが、規模は大きくない。
長い歴史の中、力を欲することで、規模は小さくなり、深く闇に潜ったということになる。
全部が深淵に手を染めているのではないのだろうが、合言葉が必要な人員は、ユークレナ結社の力を大きくする為に動いている人間なのだろう。
それが、ムクレヘルム王国の時は若い王に代わり前王の弟が王位を取る事であった。
キルフェ王国は、王と王太子を亡き者とし、容姿の似た神父を傀儡とし、王太子が生きているかのように操るつもりなのだろう。
どちらにも女神降臨の名義と力がいるのだろう。
女神として選ばれたメリーアンジュに大きな力まであった事が、ユークレナ結社をさらに活気つかせているのかもしれない。
王の執務室に向かうベルンストの後ろをアーレンゼルが歩く。
二人の周りには護衛騎士と、信頼のおける事務官、武官が付き従う。
すでに、王から王太子へと権力が移行しているものが多い。
それでも、戴冠式を迎えるまでは、王の意向を確認せねばならない。
若い王太子が間違わないように、ストッパーの役目もしている。
ベルンストと別れ、軍務長官と対面しているロイは、潜入部隊を選んでいた。
その中に、ロイ自身も入れるつもりだ。
ロイの顔は、知れわたっているが、髪を染め、顔をケロイドで覆い隠せば別人に成れる。
魔力で染めることも可能だが、潜入先に魔力防御がされていれば、魔術は解けてしまう。
髪粉で髪を染め、松脂を固めた樹脂を顔半分に貼る。
軍のどこにユークレナ結社の構成員がいるかもしれないのだ、自分と信頼した数人の部下だけを信じるしかない。
「長官、我々の想像以上に軍は侵食されているらしい。
1000人の部隊に一人でもいれば、情報が漏れる。」
ロイの言葉に長官も頷く。
「私から推薦する者達も、きっと参謀の役に立つでしょう。
我が国の精鋭です、隠密行動にも慣れています」
すでに報告されている、いくつかのユークレナ結社の基地に夜明け前に向かう。
近衛の男が捕まったことは、どんなに隠しても直ぐにわかるだろう。
警戒が強まる前に潜入するのだ。




