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性格の悪いお嬢様  作者: violet
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メリーアンジュの涙

ベルンストはメリーアンジュに嘘泣きされていた。


それは、お互いがわかっているが、惚れた方の負けである。

「怖いベルンストは、嫌いよ」

クスンクスンと本物の涙を流すからプロだ。

儚く美しい容姿を最大限に利用している。


体力、能力、兄達に劣るメリーアンジュが身につけた技である。

力一杯、かまってと訴えるメリーアンジュは可愛いのだ。

いつもアーレンゼル、ロイと堕落していき、最後はベルンストまでも落ちるのだ。

「私を除け者にして寂しかったの、役に立ちたかったの」

そっとベルンストの袖を掴む。

「無茶をしたわ。心配かけて、ごめんなさい」


ベルンスト陥落。

「わかっているならいい」

きっとまたする、とわかっていても許してしまう。


「ベルンスト」

「なんだ?」

「助けてくれて、ありがとう」

ベルンストはメリーアンジュの頬を撫でて抱き締める。

「怒って悪かった。

アンジュを無くしそうで」

アンジュが生きる為なら、何でもするだろう。

ロイが、ベルンストにアンジュを託したように。



「だから、自分で命を粗末にしないで欲しい。

君を大切に思っている人間は、たくさんいるのだから」

徐々にユークレナ結社の包囲網を狭めているが、簡単にはいかない。

メリーアンジュを直接に狙う(やから)は直ぐに排除するが、ユークレナ結社を弾圧し、壊滅するには時間がかかる。


メリーアンジュの生き血で望みが叶うなど、噂も潰さねばならない。





「それで、どうしてアンジュがここにいるんだ?」

王太子の執務室のソファーに座っているメリーアンジュを見て、部屋に入ってきたロイがため息をつきながらベルンストに問いただす。

「無駄だ、ロイ。

どうせ、側に置いておいた方が安全だとか、言うに決まっている。

ベルンストはアンジュに攻略された」

常に攻略されているアーレンゼルが、ロイに諦めろと言う。


ロイはメリーアンジュの前に膝をつき、顔を見る。

「これから、さっき捕まえた近衛兵の尋問の様子を話し合う。

女性には聞かせたくない話だ。

メリーアンジュに聞かせたくないのではなく、女性に聞かせたくないのだ。

護衛をまわすから、部屋で着替えておいで。疲れたろう?」

メリーアンジュはロイを見つめ返す。

「わかったわ。

私は役に立った?」

「ああ、あの男の持っている情報は重要だ」

だが、二度とこんな事しないでくれ、と言いたい言葉をロイは飲み込む。


よかった、と笑ってメリーアンジュは護衛に守られて部屋に戻った。



キー、と音を立ててベルンストの座っている椅子がきしむ。

「何か、吐いたか?」

殺したか、とベルンストは組んだ手に顔を預けて目だけで聞いてくる。

「よく訓練された近衛だ。指を全部潰したが、何も言わない」

潰したのは指だけではなかったが、何も言わなかった。

「さすが、我が国の近衛というべきか。

私が行こう。悪夢を見れば話す気になるだろう」

立ち上がるベルンストの周りに気温が下がるような冷気。

慣れているアーレンゼルでさえ凍りつくような冷気。

先程まで、メリーアンジュといた時のベルンストの表情ではない。

メリーアンジュは、ベルンストのアキレス腱だ。


アーレンゼルとロイは、ベルンストの後ろに付き添い、地下牢に戻っていく。

ベルンストの巨大な魔力で、男の脳はどれ程の苦痛を感じるのだろうか。

それは身体に与える拷問よりも残酷な拷問になるのだろう。



アーレンゼルは、疑問を持ってしまった。

メリーアンジュはロイの公爵家で穏やかに暮らすのがいいと思っていた。

だが、違うかもしれない。

ロイは一人でも生きていける。

ベルンストは生きる為に、メリーアンジュが必要なのだ。

ベルンストの巨大な魔力を抑える為に、メリーアンジュという(にえ)が必要なのかもしれない。


メリーアンジュがムクレヘルムに召喚されたのは、メリーアンジュの力だろう。

我々がムクレヘルムに跳んだのは、メリーアンジュが呼んだだけではなく、ベルンストの力ではないのか。

メリーアンジュが内包する魔力は、思った程はないのかもしれない。

人の身体には収まりきれないほどの魔力を持っているのは、ベルンストだ。

ベルンストを人として存在させる為に、メリーアンジュが使える魔力は少ないのかも知れない。


もし、我々がユークレナ結社に負けたなら、メリーアンジュだけでなく、ベルンストも失うかもしれない。

ベルンストは壊れる時に何を道連れにするのだろう。


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