王宮の騒乱
細い抜き身、持ち手にも鞘にも宝石はなく、軽さ重視の実用的なレイピア。だが、施された金細工は名工のものであろう、美しい宝飾品でもある。
メリーアンジュは届けられた小さな剣に見いっていた。
初めて手にする自分だけの剣。
「ピッピ」
メリーアンジュは名前まで付けている。
早速、ドレスの裏に縫い付けて散歩することにした。
侍女や護衛を引き連れて、王宮の安全な庭である。
自分を生け贄にと狙っている人間がいるのだ、冒険はしない。
何より、自分がおとなしくしているのが、皆の迷惑にならない。
閉じ籠った生活に不満がないわけないが、メリーアンジュを守ろうとしているアーレンゼル達や、護衛騎士、侍女達の負担は大きい。
毎日、同じ庭を歩いても、花が咲く、葉の緑が深くなる等、変化は少しずつある。
自らの魔力で芽を出した種を植えた後、毎日観察にいって、魔力を与えているのだ。
きゃー!
女官達の叫び声と喧騒が沸き起こった。
緊張が高まり護衛兵士がメリーアンジュの周りをかため、手には剣を持っている。
だが、異変は足元であった。
ガサガサ!!
庭園の草木の間から、大量のネズミが飛び出してきたのだ。
「きゃあああ!」
メリーアンジュも侍女も、気絶せんがばかりだ。
逃げようとした侍女が転び、助けようとした兵士に掴まるが、自制心を無くし、泣き叫ぶ者もいる。
王宮の庭園は騒乱の渦に巻き込まれていた。
魔獣さえも怯まない兵士達であるが、素早い動きの小さなネズミには翻弄されていた。
魔力で叩こうにも、侍女とネズミが入り乱れ、魔衝波を放つ事が出来ない。
ネズミが1匹、侍女の一人のドレスにはい上ってきて、侍女が倒れそうになるのを兵士が抱き止める。
兵士達も、侍女達が想定外の動きをするために、思うように動けなかった。
ネズミを避けて逃げた為に、王家の居住区分からメリーアンジュは出てしまったようだった。
それでも、王宮自体が魔術防御は強化されている。
問題は、人の出入りが多くなることだった。
ネズミの侵入に兵士が増兵され、ネズミの一掃とパニックが治まった時には、メリーアンジュの姿はなかった。
誰かが側に付いていると思っていた。
守りも侍女も、十分にいたからこその盲点であった。
「マドラス公爵令嬢、行方不明であります!」
飛び込んできた第一報に、アーレンゼルは言葉を失くし、ベルンストは執務室を飛び出した。
ロイは同じ知らせを、軍参謀室で受けているだろう。
ヨハネは言っていた。
アイサイム伯爵領では、キールッヒ・モーレンシュワルツだけでなく、多くの軍人を見た。
「中央の軍内部に潜り込んでいるのでしょう。
殿下、お気を付けください。
力が全ての軍では、心弱くなる時もあるのでしょう。
ユークレナ結社の甘い誘惑に惹かれる者もいるということです。
悪意に魅力を感じる者もいる」
「防御魔術が反応していない。
魔術は使われていないというこどだ。」
ベルンストが王族の居住に向かいながら、指示をだす。
「人の手にで運ばれたという事だ。
まだ、遠くまで運ばれてないはずだ」




