ベルンストの誘い
ヨハネは渡された包みを開いてみる。
中には指輪が一つ。
「私は、神父殿の後援になろうと思ってね」
ベルンストは楽しそうに言うが、ヨハネの方はその意味することに戸惑うばかりだ。
ユークレナ結社を調べて、神父の名前は出て来なかった。上手く隠しているのか、関係ないのか判定ができず、本人を呼びつけたのだ。
ユークレナ結社と関係なくとも、魔力の大きい神父を放置するわけにもいかない。
アーレンゼルもロイも異論を唱えないことから、ヨハネはユークレナ結社構成員ではない、との判断をしたのだろう。
そうなると、教会に繋がりをもてる人物ということになり、教会内で地位を得て欲しい人物となる。
「殿下、僭越ながら、ユークレナ結社とのお言葉で思うところがあります」
ヨハネの言葉に、ベルンストはかまわない、と続けさせる。
「たまに一時的ですが、アイサイム伯爵の魔力が高まる時がありました。
その魔力を使い、伯爵は私のこの顔を利用しようとした、と殿下はお考えなのでしょうか?」
聞いてはいるが、答えはわかっている。
容姿の似たヨハネを傀儡にするつもりなら、それは王太子を亡き者とするということだ。
王太子を殺いて、ヨハネを王太子として人民を騙すなど、無謀ともいえる。
そのために巨大な魔力を要しているのだろう。
「私は神父殿を利用しようと思っているぞ。
教会を牛耳って欲しいものだ。
もちろん、私は死ぬつもりはない」
ベルンストの言葉を聞きながら、ヨハネは思い出していた。
母を襲った賊から母を助けようとして、魔力が暴発した記憶。
目の前で、優しい母が自分の魔力で傷つき死んでいった。
その魔力が教会の目にとまり、神学校に入れられた。
母を助けられなかった自分を悔やみ、勉学や治癒魔術の訓練に没頭した。
それは結果に繋がったが、平民では司教になれればいい方だ。
神学校では、学問も魔術も抜きん出て優秀であったが、平民のヨハネは中央に残ることはできなかった。
すでに諦めたつもりであった。
大司教になるより、人々に寄り添い、助けていきたいと願った。母を助けられなかった自分ができることだから。
王太子の後ろ楯があるなら、枢機卿も手が届くかもしれない。
だが、王太子の興味が無くなれば、それも終わる話だ。
「その指輪は契約の印だ。
キルフェ王国は教会との協力を強化したい」
教会はキルフェ王国だけでなく、各国で権威を持っている。
教皇を頂点として、枢機卿、大司教、司教、神父、神父助手と階級があるが、大司教以上にならないと権力はないというのをベルンストもわかっている。
「殿下、私は教会に来てくれる信者の方から離れて中央に戻ろうとは思っていません。
人々は苦しい生活の中で、教会に救いを求めて来るのです。
申し訳ありませんが、殿下のお気持ちを受けるつもりはありません」
欲が無いわけではない、母を殺してしまった自分が許されたいのだ。
「ユークレナ結社。
神父殿は、それを探っているのだろう?
ユークレナ結社は、教会にも脅威となるものだ。
それに、私に似ている顔。知らなかった時には戻れまい。」
ベルンストの言っている意味は理解する。
もし、アイサイム伯爵が反意を持っているなら、あの地にいるのは危険だ。
神父では出来ないことが、枢機卿ならば出来るようになる。もっとたくさんの人々を救えるかもしれない。
ヨハネは、指輪を手に取る。
左手の中指にはめてみる。
「それは、キルフェ王家の紋が彫金されている。
私が神父殿の後援となるむねを、教会に通達しよう。
まずユークレナ結社を叩き潰す」
アイサイム伯爵領にもどって、ヨハネが拉致されるわけにはいかない。
「私が、この2年、調べたことをお知らせします」
ヨハネが、観念したかのように口を開いた。




