追跡
メリーアンジュは飛び出しそうな程動悸する胸を手で押さえながら、身を隠していた。
そこは、王宮の東端に向かっていた。
建物の影に身を隠し、息を潜め、じっと前を歩く人物から離れないように着いていく。
前を歩く軍服の男に見覚えはなかったが、近衛兵の軍服なので貴族の子弟なのだろう。
だが、王家主催の舞踏会に出席するほどの身分ではないのかもしれない。
メリーアンジュは、シスコンの兄のおかげで、滅多に社交界には出席しないが、王家の舞踏会には出席せざるをえなかった。
それも、アーレンゼル、ベルンスト、ロイと踊れば、兄達に囲まれ隠されていたので、男性の知り合いが少ない。
メリーアンジュにとって、高位貴族は知識として知っているが、知らない貴族の方が多い。それは相手にとっても同じことだった。
だが、アーレンゼルは時期宰相として出仕しており、有名である。アーレンゼルによく似た美しい妹姫と知れ渡っている。
不審な男を追跡するメリーアンジュが圧倒的に不利だ。
それは分かっている、ベルンスト達がメリーアンジュを守る為に暗躍しているのも知っている。
ネズミから逃げて室内に入ろうとした時に感じた違和感。
人々が王宮の庭に駆け寄って集まって行く中、歩きながら離れて行く男が目についた。
いっそ、走っていた方が、あの騒乱の中では気にならなかったかもしれない。
思わず男の後ろを隠れて着けていた。
どうして誰もあの男が変なのが気が付かないの?
誰かに声をかけよう、その間に男に逃げられたら、と思うと全身の神経を男に集中して、気づかれないように追うしかなかった。
あの男を逃がしてはいけない、その思いだけがメリーアンジュの全てであった。
その頃、王宮では、いなくなったメリーアンジュの捜索が行われていた。
攫われたと万人が思っていた、まさか自分自身で追跡をしているとは思いもされていない。
すでに王宮の外に連れて去られたとさえ、思われている。
「魔術を使った痕跡はない! 馬車か荷車だ!」
たくさんのネズミの死骸、王宮の庭は踏みつけられ、無残な姿になっている。
侍女達の女性は、部屋で救護され、庭にいるのは、兵士達男性ばかりである。そこに一人の女性が近づいてきた。
「マドラス宰相補佐官様、お話したいことがあります」
直接話したことはないが、メリーアンジュに生成の魔術を指導していた庭師であると、アーレンゼルは報告書で知っている。
この緊急事態に声かけてくるとは、よほどのことなのだろう。
「こちらへ」
ブリニアはアーレンゼルを踏みつぶされていない花壇に案内した。
そこには、メリーアンジュが魔術で芽を出した種が植えられているところだ。
芽は大きくなり、15センチほどになっていた。
緑の瑞々しい葉が風に揺れている。
「これはメリーアンジュ様の魔力で育てている植物です。
メリーアンジュ様の魔力が弱いので、成長が遅いです。この大きさだと、メリーアンジュ様から遠く離れると弱ってきます。」
そういうと、ブリニアは下を向いた。
「ありがとう」
アーレンゼルは、兵士達に王宮内の捜査の支持を出すと、ベルンストとロイのところに向かった。
魔力で芽を出させると、芽は一気に大きくなり庭師の魔力が無くとも枯れたりしないのだろうが、メリーアンジュは魔力が足りなかった。
あの植物の葉が生き生きしているという事は、メリーアンジュは近くにいる。
王宮から出ていない。
「ベルンスト、ロイ。
アンジュは場内にいる、探れないか?」




