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啼く鳥の謳う物語  作者: フタトキ
旅行 【R15】
139/139

傷痕(3.5)

カーン。

鐘がなる。

「この音ええな」

由宇麻(ゆうま)に肩を借りた洸祈(こうき)はあぁ。と頷いた。


ガチャ。

「はーい……!!!?くぅちゃ―」

「シー。今何時だと思ってんだよ?」

洸祈はピンクのフリル姿の遊杏(ゆあん)の口を封じた。



「にー、呼ぶ?」

ドアを開けた遊杏は小声で尋ねた。

洸祈と由宇麻は挨拶をして中に入る。

二之宮(にのみや)、寝てんだろ?部屋の明かり消えてた。」

「うん。今日までずっと無理してたから」

「お前は何してたんだ?」

「お片付けだよ。あ!余ったにーの大好物食べる?」

リビングに入るとテーブルに様々なパイが残っていた。だがしかし、パイだけ?

床では大きなゴールデンレトリバーがパイを食っていた。

「リュウ君か」

「うん」

「犬や!」

由宇麻は洸祈を椅子に座らせると犬を撫でる。されるがままでリュウ君は気持ち良さそうに喉を鳴らしてパイを食べ終えた。

犬にはしゃぐ由宇麻を見詰めた洸祈は、ソファーの背もたれに身を委ねた。

「くうちゃん」

遊杏は洸祈の隣に座る。

「なんだ?」

洸祈は手を伸ばして皿からパイを掴んだまま首を傾げた。


「おかえりー」


「ただいま、杏」







天蓋付きベッドのレースは下ろされていた。

ベランダに繋がる大窓は開け放たれ、冬の澄みきった空気が冷たい風と共に入り込む。

鳥籠の中の小鳥達は姿を消していた。何処かでこの部屋で冷えきった体を暖めているのだろう。

「寒いな」

月光の射し込む窓。

洸祈はゆっくりとその窓を閉めた。カーテンの棚引く音が消え去り、静寂が部屋に充ちる。

純白のレースを洸祈は指で上げれば、そこには同じく純白のシーツに埋もれるのは金髪の歌姫だ。

そっとベッドの縁に腰掛けた洸祈は二之宮の前髪を薬指で鋤く。

そして、露になったその額にキスをした。

が、二之宮はもぞもぞと布団に潜ろうとする。

「ちょっとぐらい待ってよ」

いつもは二之宮がねだるものだったが、今度は洸祈がねだる番だった。

「二之宮ぁ…」

洸祈は布団を奪い取った。奪い取って感じる温かさ。

「あったか…二之宮の匂いがする」

温もりの残る布団を洸祈は自らに巻き付けた。

「やっぱり、温かいな」

洸祈はほぅっと一息つく。

今日は疲れた。

何をして?

分からない。

ただ、疲れた。

二之宮はというと、

「僕のふとん…」

シーツの端を掴んだ彼は物凄い勢いで引っ張った。

「―!!!?」

その衝撃で洸祈はベッドに仰向けに倒れる。

二之宮の引っ張り方が悪かったのか、洸祈の巻き付け方が悪かったのか、布団が洸祈を締め上げた。

「痛い!二之宮、ごめん!!」

謝っても二之宮は熟睡している。

(れん)!」


――。



「寒い…たか…や」



崇弥。


洸祈の体が固まる。

何となく、体が固まったのだ。

分からない。

何故なのか分からない。

罪悪感を感じる理由も分からない。


「好き…好き……大好き……崇弥…」


二之宮は強引に奪い返した少しの布団に足を入れる。




「愛してる………」

「二之宮…」

「……ごめんね…」

疲れたのか二之宮はベッドの上で膝を抱えて踞った。




洸祈は慌てて布団を剥がすとふわりと二之宮に掛けてやった。

「ごめんは俺の台詞だよ」

二之宮…。


洸祈そっと部屋のドアを閉めた。



ただいま、二之宮。

まだ2に続きます。

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