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【完結】ご報告いたします。妃殿下が現場で神がかっております  作者: 楽歩


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32.報告書の追伸が一番怖い

 執務の合間に、届いた報告書へ目を通した。


『本日、妃殿下は魔獣の群れを殲滅いたしました』


「……ん?」


 思わず、もう一度読み返す。


 魔獣の群れが王宮へ接近し、それを騎士団が討伐したことはすでに聞いている。


 さすがは我が国が誇る騎士団だ。世界樹から溢れ出す膨大な魔力に引き寄せられた魔獣の群れを、速やかに排除したのだから。


 そう思っていたのだが――。



「妃殿下も魔獣討伐に参加されたのか?」


 知らなかった。いや、待て。この書き方だと『妃殿下が殲滅した』そう読めるのだが。



「……まさかな」


 私は小さく呟き、報告書に目を落とす。詳しい戦況については書かれていない。


 妃殿下がどの隊を率いたのか。何体ほど討伐したのか。騎士団との連携はどうだったのか。


 肝心なところが、まるで書かれていない。



「またか……」


 先日の報告書も恐ろしく簡潔にまとめていた。


 今回も同じらしい。ならば、追伸もまたあるのか?


 私は頭を抱えながら、紙を裏返す。すると、そこに小さく『追伸』と書かれている。




『追伸。お父様が最近お帰りにならないので、お母様が浮気を疑っておりました。私から丁寧に説明しておきましたので、ご心配なく』


「――何!?」


 思わず立ち上がった。椅子が大きな音を立てて後ろへ下がる。



「浮気!?」


 誰もいない深夜の執務室に声が響いた。そういえば、私は何日、屋敷に帰っていない?


 世界樹が出現してからというもの、朝から晩まで王宮に詰めている。着替えなどは届けてもらっているから生活に困ることはなかった。


 妻にも、「しばらく王宮に泊まり込む」と伝えたつもりだった。


 ……いや。伝えたよな。しかし、世界樹騒ぎで王宮は大混乱だとは、言えるわけがない。


 確かに、事情を知らなければ妙な誤解をしてもおかしくはない。妻から見れば、夫が何日も帰ってこないのだから。何か、詫びの贈り物でもした方がいいか? ほしいものは何だろう……。いや、余計なことをするとますます疑われるだろうか。



「はぁ……アリシアが、どのように説明したのかが気になる」


 私は再び追伸へ目を落とした。




『私が丁寧に説明しておきました』


「……丁寧」


 私は天を仰いだ。アリシアの『丁寧な説明』か。いや、もちろん娘を疑っているわけではない。


 ……ないのだが。


「余計なことまで説明していなければいいが……」


 私は祈るような気持ちで目を閉じた。さらりと書かれる追伸が、私の心臓に悪すぎる。


 本題である魔獣討伐については、言うまでもなく、ほとんど何も分からないという始末だ。深いため息をついた、その時だった。





 コンコン。


 執務室の扉が叩かれる。


「宰相様、失礼いたします」


 騎士団長の声だな。ちょうどよかった。



「入れ」


 扉が開き、騎士団長が姿を見せた。


「失礼いたします」


「本日の魔獣討伐について、ご報告に参りました」


 騎士団長がそう言って頭を下げた。


「私も騎士団本部へ向かおうと思っていたところだ」


「そうでしたか」


 騎士団長は頷いた。


「実は、魔獣が王都へ向かっているとの報告を受けまして、急いで出撃の準備をしていたところ、先陣で行っておりました隊が討伐させたとの知らせが入りました」


「討伐はどの隊が?」


「それが……ティナが率いる第六小隊でして」


 騎士団長が苦笑した。


「……ティナが?」



 やはりか。先ほどの報告書にあった一文が脳裏に浮かぶ。


『本日、妃殿下は魔獣の群れを殲滅いたしました』


 


「はい、その後、会議を開き、状況と今後を確認していたのですが、バレリー小隊長の話を聞いているうちにティナの剣技の話になりましてな」


「剣技?」


「ええ。それはそれは見事だったそうです」


 騎士団長の顔が、子供のように輝く。




「魔獣の群れへ真っ先に飛び込み、流れるような剣技で次々と仕留めていったとか。しかも、後ろの騎士たちへ的確に指示を出しながら戦っていたそうです」


「…………」


 なるほど。やはり、妃殿下がほぼお一人で殲滅したのだな。 



「そうなると、私も一度、直接その剣技を見てみたいと思いましてな」


 騎士団長が嬉しそうに続ける。


「そこで、明日ティナと手合わせをすることになりました」


「……何?」


 思わず聞き返した。



「ははは。もう交代の時間で不在だったたのてすが、ぜひ一度、直接手合わせをとアリシア様を通して申し出たところ、承諾の連絡が先ほど来ました」


 騎士団長は満面の笑みを浮かべている。


 ……アリシアよ。これこそ、報告しておくべきことではないのか?



「ティナは私と同じように魔法も使えるそうですから、久しぶりに、魔法と剣を組み合わせた戦いができそうです。いやあ、今から楽しみで眠れそうにありません」


「…………そうか」


 

 本人は知らない。明日、自分が手合わせをする相手が王太子妃であることを。


 私は乾いた笑みを浮かべた。騎士団長は、明日が待ちきれないといった様子で話を続けている。


 騎士団長が大怪我をする可能性は低いだろう。


 


「……見に行った方がいいかもしれんな」


 思わず口に出た。



「宰相様もご覧になりますか?」




 私は机の上に山積みになった書類を見た。そして、帰宅していない日数を考える。


「……残念ながら、時間が取れんな」


「そうですか。それは残念です」



 私だって見たい。しかし、私が仕事を放り出して手合わせを見に行けば、アリシアから妻の耳に入る。今度こそ妻に何と言われるか分からない。



「明日の手合わせについては、詳しい報告を聞きに行くかもしれん」


「承知しました。では、失礼します」


 騎士団長は嬉しそうに頷き、扉に向かった。私はその背中を見送りながら、再び机の上の山積みの書類に目をやった。



 


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