31.剣舞、魔獣を討つ
「各隊、配置につけ!」
私の声に、第四・第五・第六小隊の騎士たちが一斉に動き出した。
世界樹出現に伴う警備強化のため、本日は三個小隊合同での実戦訓練である。
「まずは連携訓練から始める。敵を見る前に味方を見なさい。周囲の動きが見えていない者は、本番でも必ず孤立する」
「はい!」
返事は力強い。私は一人ひとりの動きを見ながら歩いていく。
「剣を振る時は肩に力が入りすぎている」
「はい!」
「あなたは踏み込みが浅い。一歩踏み込むだけで間合いは変わる」
「なるほど……!」
「盾役は前へ出てはいけない。後衛が魔法を使えなくなる。気をつけなさい」
「申し訳ありません!」
私は次々と助言を与えていく。ほんの少し姿勢を直すだけで、剣筋は見違えるほど鋭くなる。
「一目見ただけで分かるのか……」
「だからあれほど強いんだ……」
「私にも、指導をおねがいします!」
騎士たちの少しでも強くなりたい、そんな思いがひしひしと伝わってきた。
そこへ訓練場へ一人の騎士が全力で駆け込んでくる。
「ご報告いたします!」
肩で息をしながら叫ぶ。
「魔獣の群れが王都へ向かっています!」
訓練場の空気が張り詰めた。やはり来た。世界樹から溢れる膨大な魔力。
魔獣たちにとって、これ以上ないほど魅力的な餌だ。私は即座に指示を飛ばす。
「第六小隊は私に続いて来なさい!」
「はい!」
「第五小隊は世界樹警備隊の増援へ。防衛線を強化すること!」
「承知しました!」
「第四小隊は騎士団長ならびに各隊へ緊急連絡! 王都の防衛態勢の指示を仰ぎなさい!」
「すぐに行きます!」
三個小隊が迷いなく動き始める。私は第六小隊を率いて王都の外へ駆け出した。
◇
広野へ出ると、遠くで土煙が舞い上がっていた。地面が震える。
「フェリ」
呼ぶとフェリが肩に止まる。フェリの目からの映像が私の頭の中に流れてくる。
その瞳は赤く染まり、飢えた獣のように王宮の世界樹だけを見据えているようだ。20匹といったところ。ならば、我々だけでもいける。
「世界樹の魔力が欲しいのね」
私は静かに木剣を構えた。
魔獣たちは低く唸る声が近づいて来た。生命力そのものともいえる世界樹ほ、魔獣にとっては本能が抗えないほど魅力的なのだろう。
「だけど——あなたたちに渡すわけにはいかない」
背後では、第六小隊の騎士たちが武器を構えている。
その表情には緊張が浮かんでいた。私は振り返らずに言う。
「皆、怯えることはない。魔獣には弱点がある」
剣先を群れへ向ける。
「狙うのは眉間。恐怖は伝染する。気をしっかりと保て! 私について来なさい」
その一言で、騎士たちの表情から迷いが消えた。
「参ります!」
私が駆け出す。同時に、第六小隊も続いた。
最初に飛び掛かってきた魔獣の牙を紙一重でかわし、流れるような剣筋で眉間を打ち抜く。
振り返ることなく次へ。踏み込むたび砂煙が舞い上がり、陽光を受けた砂粒が金色に輝く。
「続け! ティナ中隊長が道を開いてくれている!」
バレリー小隊長の檄が飛ぶ。第六小隊の士気は一気に最高潮へ達していた。
その姿を見て、私は小さく頷く。
魔獣との戦いは、それほど長くは続かなかった。最後の一体が地響きを立てて倒れる。
辺りには土煙が舞い、無数の魔獣が山のように積み重なるように倒れた。
夕日に照らされたその光景を見渡し、私は静かに剣を収める。
「これで終わりではありません!」
第六小隊の騎士たちが一斉に姿勢を正す。
「報告役は二名。騎士団へ戻り、魔獣討伐完了と第二陣の警戒が必要であることを伝えること」
「はい!」
「解体技術を持つ者は残りなさい。魔石と素材を回収します。魔獣は貴重な資源です。無駄にはしません」
「私たちが残ります!」
「馬に乗れる者は私と共に周辺を巡回します。群れは一つとは限りません。逃げた個体や別の群れがいないか確認します」
「承知しました!」
次々と指示が飛び、それぞれが迷うことなく持ち場へと散っていく。
数騎で周辺を巡回したが、幸い、近隣に大きな群れは見当たらなかった。
だが、小型の魔獣が世界樹の方向を気にするように歩いている姿がいくつか確認できた。やはり世界樹の魔力は、周囲の魔獣を引き寄せている。
油断はできない。
◇
王宮へ戻ると、騎士団本部では騎士団長が鎧を着たままで迎えてくださった。
鎧を身に着けた騎士たちも慌ただしく動き回っている。
「ティナ、魔獣を討伐したと聞いたが」
「はい、無事、完了しました」
騎士団長は安堵の表情を浮かべる。
「被害は?」
「ありません。ですが第二陣が来る可能性もあります」
騎士団長の顔から笑みが消える。
「世界樹は膨大な魔力を放っています。一つの群れだけで終わるとは思えません。夜行性の魔獣まで引き寄せられる可能性があります」
「……なるほど。やはり魔法陣が完成するまでは、安心できないな」
騎士団長はゆっくり頷いた。
「警備の交代体制も見直さねばならんな」
「はい。昼だけでなく夜間警備も強化する必要があります」
騎士団長はすぐさま周囲へ命じた。
「緊急会議を行う! 関係者はついて来い」
「はっ!」
騎士たちが駆け出していく。空を見上げると、太陽はすでに西へ傾き始めていた。
「容赦無く斬り捨てる姿は、美しかったわ。ティナ」
声が聞こえ振り返るとアリシアが笑みを浮かべながら立っていた。
「え? アリシア見ていたの?」
魔獣の一報を受けた時、魔法陣の進み具合を確認しに行っていたからいないと思っていた。
「急いで駆けつけたのよ。それにしても、まるで舞を見ているような剣技だったわ」
少し照れくさくなって苦笑する。
「手伝わずに、ただ見ていたの?」
アリシアはくすりと笑う。
「ふふっ。私、ティナの剣が大好きなのだもの。力任せではなく、美しく、それでいて誰よりも強い。それに、あのくらいの数なら手伝わなくても余裕でしょう」
「アリシアったら……」
「ふふ、勿論、第六小隊が力不足なら手伝おうと思っていたわ」
そう言って微笑むアリシアに、私は思わず肩をすくめた。




