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【完結】ご報告いたします。妃殿下が現場で神がかっております  作者: 楽歩


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24.妃殿下の小さな頼み事

 調薬院へ来て数日。


「ティナ、こっちの調合を見てくれないか?」


「この薬でしたら、こちらの方が成分が安定します。それから、この薬草はまだ乾燥が足りません。あと半日待てば薬効も落ち着くと思います」


「なるほどな。昨日から何度試しても上手くいかなかったのは、そのせいか」


 朝からあちこちで名前を呼ばれる。こんなに頼られるなんて思ってもいなかったわ。




「ティナさん、この配分ならどちらが効果的だと思います?」


「こっちは薬草を一種類減らした方が効率がいいです。代わりにこちらを少量加えると、効果はほとんど変わりません」


「ティナさん、こちらもお願いします!」


「この論文のどう思う?」




 気付けば、私は調薬院中を歩き回っていた。質問に答え、調合を手伝い、フェリに頼んで集めてもらった珍しい薬草を必要な調薬師さんへ配る。


 倉庫へ薬草を取りに行き、図書室で読んだ論文の内容を思い出して説明し、また別の調合台へ向かう。


 ようやく一段落した頃には、窓から差し込む日差しはすっかり西へ傾いていた。




「それでは、少しマーカスさんのところへ行ってきます」


 そう告げて、私は調薬院を後にし、温室へ向かった。温室へ入ると、土を耕していたマーカスさんが顔を上げる。




「ティナか。今日はどうした?」


「以前お話ししていた種を持ってきました」


 袋を差し出すと、マーカスさんは中を覗き込み、目を丸くした。




「おお、これがあの暖層草の種か。よく手に入ったな」


「ええ、まあ」


 フェリがとってきてくれたとは言えない。でも、嬉しそうに種を受け取るマーカスさんを見て、私もほっと胸をなで下ろす。




「そうだ。それと、もう一つ見ていただきたいものがあるんです」


「なんだ?」


 私は小さな布に包んでいた木の実を取り出した。青と緑が溶け合ったような、不思議な色合いをした木の実。フェニが集めてきた種の中に、一つだけ混ざっていたものだ。



「何の木の実なのかわからなくて」


 マーカスさんは手に取ると、光にかざしたり指先で感触を確かめたりしながら、じっくり観察した。




「見たことはないな……。しかし、ずいぶん綺麗な色をしている。何の木の種だろう」


 最近はフェニと過ごす時間が増えて、何となくだけれど、伝えたいことが分かるようになってきた。


 この木の実を渡されたときも、「植えてほしい」と言われているような気がしたのよね。




「植えられそうな場所はありますか?」


「正体の分からない種だからな。温室で育てるのは少し危険だ。植えるなら王宮の裏手にある試験区画が一番だろう」


 マーカスさんは少し考えてから続けた。





「ただし、あそこを使うには宰相の許可が必要になる」


「そうですよね……」


 オスカー……許可してくれるかしら。


 私は手の中の不思議な木の実を見つめながら、どう説得したものかと考え始めた。




     ◇




「お父様」


 午前の執務が一段落した頃、しばらく顔を見せていなかったアリシアが執務室を訪ねてきた。



「アリシアか。どうした」


 アリシアは籠を机の上へそっと置く。



「こちら、以前妃殿下がオーブンを借りて作った物です」


「おお、これがそうか」


「お父様は仕事に夢中になると食事を忘れてしまわれますでしょう? 妃殿下が持たせてくださいました」


「それはありがたい」


「私も、お父様のお体が心配ですので」


 娘からそんな言葉をかけられるとは。嬉しい反面、何やら胸騒ぎもする。


 


「……何か頼み事か?」


 そう尋ねると、アリシアはにこりと笑った。




「勘が鋭いですわね、お父様。さすが宰相です」


 やはりか。


「それで、どんな話だ」


「妃殿下が木の実を植えたいそうで、許可をいただきたいのです」


「木の実?」


「庭師長のマーカス様もご存じない種類だそうです」




 正体の分からない木を王宮に植える? そんな許可を軽々しく出せるはずがない。




「その木の実は、どこから手に入れた?」


「フェニ様が集めてこられた種の中に混ざっていたそうです。妃殿下のお話では、『植えてほしい』とフェリ様が伝えているように感じられたとか。最近は意思の疎通も以前よりできるようになったとおっしゃっていました」


 神獣フェニ様か。フェニ様ほどの存在が、わざわざ持ち帰った種。



「それに今回は、珍しい薬草も数多く運んでくださったそうです。調薬院では大変助かっていると聞いております。だから、望みは聞いてあげたいのだと」



 珍しい薬草……。


 その報告は受けていないぞ、アリシア。


 王国内で採れるものなのか? フェニ様なら物流も国境も意味をなさないから、国外かもしれない。そもそもあの小さな体でどうやって運んだのだ? 


 神獣とは、やはり常識では測れない存在だな。


 もっとも、フェニ様が妃殿下へ害を及ぼすものを持ち帰るとも考えにくい。未知数だが、危険性はないはずだ。



「お父様、いかがでしょう?」


 私はしばらく考え込んだ。


 木であれば、芽が出ても大きく育つまでには何年もかかる。その間に種類を調べることもできるし、危険と判断すれば伐採や移植も可能だ。


 試験区画なら、万が一の時にも対処できる。



「……いいだろう。試験区画への植樹を許可する、と妃殿下へ伝えてくれ」


 アリシアの表情がぱっと明るくなる。



「本当によろしいのですか? お父様なら、正体の分からない植物など却下なさると思っておりました」


「妃殿下には、私の体まで気遣っていただいたからな」



 アリシアは拍子抜けしたように笑う。説得する次の手まで考えていたのに随分簡単な父だな、とでも思っていそう顔だ。



 ……まあ、実際そうかもしれんがな。










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