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クリスマスプレゼント

クリスマスイブ。


駅前は、待ち合わせの人々で埋め尽くされている。


そこへ、春香がふらふらと手を上げながら歩いてきた。


明らかに体調が悪そうだ。


マフラーに顔を埋め、何度も小さく咳をしている。


「大丈夫?」


亮太が聞くと、春香は少しだけ頷く。


「うん。平気」


とても平気には見えない。


「無理しなくてよかったのに」


「だって、せっかくのクリスマスイブだよ?」


春香は当然のように言う。


「今日は出かけるのやめよう」


「えー」


「その状態で歩き回るのは無理だよ。うちで休もう」


春香は不満そうな顔をする。


それでも、咳をこらえるように口元を押さえ、小さく頷いた。


「……じゃあ、そうする」


亮太は春香を連れ、自分の家へ向かう。


途中のドラッグストアで、風邪薬とスポーツドリンク、ゼリーを買った。


部屋に着くと、そのまま春香をベッドへ寝かせる。


「熱あるんじゃない?」


「38℃くらい」


「何で、外出てきたんだよ」


亮太は苦笑しながら、冷えピタを春香の額に乗せる。


薬を飲ませ、汗をかけばタオルを渡し、何度も熱を確認する。


夜中に春香が咳をするたび、亮太は目を覚ました。


本当なら、食事をしてイルミネーションを見るはずだった。


だが、仕方がない。


クリスマスイブらしいデートができなくても、二人でいられればそれでいい。


その時の亮太は、本気でそう思っていた。



翌朝。


春香の熱は少し下がっている。


「何か食べる?」


「ゼリー」


亮太が冷蔵庫からゼリーを取り出すと、春香はゆっくり体を起こす。


そして、ふと思い出したように口を開いた。


「そういえばさ」


「うん?」


「プレゼントは?」


亮太は一瞬だけ黙る。


「あるよ」


カバンから、小さな箱を取り出した。


「はい、メリークリスマス」


春香の好きなブランドのものだ。


春香は嬉しそうにリボンをほどき、箱を開ける。


中には、ネックレス。


派手なものではない。


けれど、亮太なりに春香へ似合いそうなものを選んだつもりだった。


「……なにこれ?」


春香の声が少し低くなる。


「うん?」


「私が欲しがったやつじゃないんだ」


「欲しがったのって?」


「うん。この前、お店でそれとなく伝えたんだけど」


亮太は思い出したものの、何も言えない。


――もしかして、あの二十八万円のネックレスのことか。


春香はネックレスではなく、箱や保証書の方を確認している。


やがてスマホを取り出し、ブランド名と型番を検索し始めた。


その姿を見た亮太が、吐き捨てるように教える。


「……七万だよ」


少しの沈黙。


「うん。まあ、ありがと」


春香は箱を閉じ、不満そうに口を開く。


「亮太って、実際どれくらいもらってるの?」


「何が?」


「給料」


「なんで?」


「いや、何かあんまり大切にされてない気がして」


「……手取りで二十七万」


もうどうでもよくなり、亮太は正直に答える。


「そこから生活費も出すし、毎月五万とボーナスは貯金してる。デートに使える金なんて、そんなに多くないよ」


「えっ。貯金って?」


「毎月五万とボーナスを貯金してる」


春香は妙なところで引っかかった。


「なんで貯金してるの?」


「それは、将来、結婚とかするのに必要だし」


「は? 意味わかんないんだけど」


「どうして?」


なぜ責められているのか、亮太にはまったく分からない。


「なんで、あんたの将来のために私が我慢しなきゃいけないの?」


「え?」


「なんで、そのお金を彼女に使おうって思わないかなー」


春香が首を傾げる。


――俺の将来は、春香には関係ないってことか。


亮太の中で、何かが切れた。


声が低くなる。


「この金は、俺が稼いだ金なの」


「それをどう使おうが、俺の勝手だろ」


「それに、お前は貯金が一銭もないやつと結婚するのか?」


春香は黙り込む。


「だって、彼女が喜ぶ顔を見たいものじゃないの?」


「金目当てのやつの顔なんか見たくない!」


亮太は怒りに任せ、はっきりと言い放った。


一晩中看病した礼がこれだとは。


「一応、聞くけど。俺へのプレゼントもあるの?」


「あるよ」


春香はバッグの中を探り、紙袋を取り出す。


「はい。これ」


中に入っていたのは、トートバッグ。


「どうもありがとう」


亮太は、わざと満面の笑みを作る。


そしてすぐに真顔へ戻り、深いため息をついた。


「春香」


「なに?」


「俺のこと、本当に彼氏だと思ってる?」


春香はきょとんとする。


「思ってるよ。だから言ってるんじゃん」


「何を?」


「亮太がもっといい男になれるように、いろいろ教えてあげる」


亮太は何も答えない。


ただ、もらったトートバッグについたままの2700円の値札を外した。


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