クリスマスプレゼント
クリスマスイブ。
駅前は、待ち合わせの人々で埋め尽くされている。
そこへ、春香がふらふらと手を上げながら歩いてきた。
明らかに体調が悪そうだ。
マフラーに顔を埋め、何度も小さく咳をしている。
「大丈夫?」
亮太が聞くと、春香は少しだけ頷く。
「うん。平気」
とても平気には見えない。
「無理しなくてよかったのに」
「だって、せっかくのクリスマスイブだよ?」
春香は当然のように言う。
「今日は出かけるのやめよう」
「えー」
「その状態で歩き回るのは無理だよ。うちで休もう」
春香は不満そうな顔をする。
それでも、咳をこらえるように口元を押さえ、小さく頷いた。
「……じゃあ、そうする」
亮太は春香を連れ、自分の家へ向かう。
途中のドラッグストアで、風邪薬とスポーツドリンク、ゼリーを買った。
部屋に着くと、そのまま春香をベッドへ寝かせる。
「熱あるんじゃない?」
「38℃くらい」
「何で、外出てきたんだよ」
亮太は苦笑しながら、冷えピタを春香の額に乗せる。
薬を飲ませ、汗をかけばタオルを渡し、何度も熱を確認する。
夜中に春香が咳をするたび、亮太は目を覚ました。
本当なら、食事をしてイルミネーションを見るはずだった。
だが、仕方がない。
クリスマスイブらしいデートができなくても、二人でいられればそれでいい。
その時の亮太は、本気でそう思っていた。
◇
翌朝。
春香の熱は少し下がっている。
「何か食べる?」
「ゼリー」
亮太が冷蔵庫からゼリーを取り出すと、春香はゆっくり体を起こす。
そして、ふと思い出したように口を開いた。
「そういえばさ」
「うん?」
「プレゼントは?」
亮太は一瞬だけ黙る。
「あるよ」
カバンから、小さな箱を取り出した。
「はい、メリークリスマス」
春香の好きなブランドのものだ。
春香は嬉しそうにリボンをほどき、箱を開ける。
中には、ネックレス。
派手なものではない。
けれど、亮太なりに春香へ似合いそうなものを選んだつもりだった。
「……なにこれ?」
春香の声が少し低くなる。
「うん?」
「私が欲しがったやつじゃないんだ」
「欲しがったのって?」
「うん。この前、お店でそれとなく伝えたんだけど」
亮太は思い出したものの、何も言えない。
――もしかして、あの二十八万円のネックレスのことか。
春香はネックレスではなく、箱や保証書の方を確認している。
やがてスマホを取り出し、ブランド名と型番を検索し始めた。
その姿を見た亮太が、吐き捨てるように教える。
「……七万だよ」
少しの沈黙。
「うん。まあ、ありがと」
春香は箱を閉じ、不満そうに口を開く。
「亮太って、実際どれくらいもらってるの?」
「何が?」
「給料」
「なんで?」
「いや、何かあんまり大切にされてない気がして」
「……手取りで二十七万」
もうどうでもよくなり、亮太は正直に答える。
「そこから生活費も出すし、毎月五万とボーナスは貯金してる。デートに使える金なんて、そんなに多くないよ」
「えっ。貯金って?」
「毎月五万とボーナスを貯金してる」
春香は妙なところで引っかかった。
「なんで貯金してるの?」
「それは、将来、結婚とかするのに必要だし」
「は? 意味わかんないんだけど」
「どうして?」
なぜ責められているのか、亮太にはまったく分からない。
「なんで、あんたの将来のために私が我慢しなきゃいけないの?」
「え?」
「なんで、そのお金を彼女に使おうって思わないかなー」
春香が首を傾げる。
――俺の将来は、春香には関係ないってことか。
亮太の中で、何かが切れた。
声が低くなる。
「この金は、俺が稼いだ金なの」
「それをどう使おうが、俺の勝手だろ」
「それに、お前は貯金が一銭もないやつと結婚するのか?」
春香は黙り込む。
「だって、彼女が喜ぶ顔を見たいものじゃないの?」
「金目当てのやつの顔なんか見たくない!」
亮太は怒りに任せ、はっきりと言い放った。
一晩中看病した礼がこれだとは。
「一応、聞くけど。俺へのプレゼントもあるの?」
「あるよ」
春香はバッグの中を探り、紙袋を取り出す。
「はい。これ」
中に入っていたのは、トートバッグ。
「どうもありがとう」
亮太は、わざと満面の笑みを作る。
そしてすぐに真顔へ戻り、深いため息をついた。
「春香」
「なに?」
「俺のこと、本当に彼氏だと思ってる?」
春香はきょとんとする。
「思ってるよ。だから言ってるんじゃん」
「何を?」
「亮太がもっといい男になれるように、いろいろ教えてあげる」
亮太は何も答えない。
ただ、もらったトートバッグについたままの2700円の値札を外した。




