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2セットの下着

亮太は真之介へ電話を入れる。


「久しぶり、真之介」


「亮ちゃん。最近会ってないね」


「うん、実は、春香と付き合うことにしたんだ。報告遅くなってごめんね」


「おお、マジか。嬉しいよ。紹介したかいがあったよ」


「それなんだけど、ちょっと気になることがあってさ」


亮太は、今までの春香の行動を伝えた。


「それはね。きっと恥ずかしがってるだけだよ」


「恥ずかしがってる? そうは思えないんだけど」


「本人とちゃんと話してみなよ。亮ちゃんなら、うまく伝えられるって」


「そうかな……」


亮太は話題を変える。


「真之介は、彼女とどうなの?」


「やっぱりね、亮ちゃんと遊んでばっかりいたのを気に入らなかったみたい」


「だろうな、謝っておいて」


「俺の写真が切り刻まれて送られてきたもん」


「……お、おう」


問題があるのは、うちだけじゃないのか。


亮太はそう思った。


「じゃあ、またな」


そのまま真之介との電話を切る。



翌日。


二人は都内のデパートにいた。


春香が買い物をしたいと言い出したのだ。


春香は服や靴に目がなく、セール品の棚を熱心に見て回っている。


亮太は完全に放置され、壁にもたれながらスマホを見ていた。


しばらくして、春香がにたにたした笑顔で戻ってくる。


その顔を見た瞬間、亮太は嫌な予感がした。


「ねえ、そこにランジェリーショップあるじゃん」


「うん」


「すごく可愛いのがあってさ」


「ふーん」


「買ってもらえないかな?」


「えっ」


春香が少しだけ身を乗り出す。


「ほら、亮太もさ。いつか私の可愛い下着姿見られたら嬉しいでしょ」


亮太は正直、いらっとした。


まだ、誕生日までは待ってほしいと言われている。


そのうえで、この言い方は少しずるい。


「いくら?」


「上下で六千円くらい」


まあ、そのくらいならいいか。


亮太は財布から一万円札を取り出す。


「じゃあ、これで買ってきなよ」


春香の顔がぱっと明るくなる。


嬉しそうに店へ入っていった。


二十分ほどして、春香は小さな紙袋を持って戻ってくる。


「すごく可愛いの買えた」


「そう。よかったね」


亮太はそう言って、手を出した。


「おつり返してよ」


「ないよ」


春香は平然と言う。


「一万円、全部使ったの?」


「うん。自分で二千円足して、二セット買ったから」


「えっ」


春香はそれだけ言うと、さっさと歩き出す。


亮太はその場に立ち止まった。


意味が分からない。


二セット欲しいなら、先に確認するべきだろう。


お釣りを勝手に使い、礼の一言すらない。


なのに春香は、まるで当然のような顔で歩いていく。


亮太の顔から、少しずつ表情が消える。


「あのさ、ちょっといいかな」


春香の手を引き、駅ビルの広場へ向かった。


人通りはあるが、立ち止まって話せるくらいの場所だ。


「どうしたの?」


春香は、本当に分かっていない顔をしている。


「なんか、春香っておかしくない?」


「へ? 何が?」


「わざと俺を怒らせようとしてる?」


「いや、そんなことないけど」


「さっきだって、お礼くらいあってもいいと思うけど」


「え? だから言ったじゃん。亮太も得するって」


亮太は怪訝そうに春香を見る。


「今日だけじゃない。予定を決める時も、俺には何の相談もないよね」


春香は黙る。


「デート代だって、ほとんど俺が払ってる。でも、お礼を言われた記憶もほとんどない」


春香はヘラヘラと笑い出した。


「みみっちいこと言うなよ。たかが数千円でさ」


まるで、当たり前のような口調だ。


亮太の中の何かが冷える。


「何笑ってんだよ。怒ってるんだけど」


春香は、痛いところを突かれると笑って誤魔化そうとする。


「今までの彼女に、こんな事されたことないから」


「また始まった。なにそれ前カノとの比較?」


「そんなつもりないけど」


「じゃあ別れる?」


亮太の顔つきがきつくなる。


「別に、俺は構わないよ」


さすがに春香も笑うのをやめた。


長い沈黙。


「……分かった。分かったよ。私が悪かった」


春香は軽く息を吐き、頭を下げる。


「ごめんね」


亮太は黙っている。


春香は少し困ったように笑った。


「また、お互い嫌なことあったら話せばいいじゃない」


それで話を終わらせるつもりらしい。


亮太は深いため息をつく。


謝っている。


謝ってはいる。


けれど、絶対に何かが違う。


すると春香が急に顔を上げた。


「今日さ、うち来る?」


「え?」


「両親、旅行でいないんだよね」


意外な誘いだ。


亮太は春香を見る。


春香なりのお詫びなのだろうか。


迷った末、その誘いを受けることにした。


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