2セットの下着
亮太は真之介へ電話を入れる。
「久しぶり、真之介」
「亮ちゃん。最近会ってないね」
「うん、実は、春香と付き合うことにしたんだ。報告遅くなってごめんね」
「おお、マジか。嬉しいよ。紹介したかいがあったよ」
「それなんだけど、ちょっと気になることがあってさ」
亮太は、今までの春香の行動を伝えた。
「それはね。きっと恥ずかしがってるだけだよ」
「恥ずかしがってる? そうは思えないんだけど」
「本人とちゃんと話してみなよ。亮ちゃんなら、うまく伝えられるって」
「そうかな……」
亮太は話題を変える。
「真之介は、彼女とどうなの?」
「やっぱりね、亮ちゃんと遊んでばっかりいたのを気に入らなかったみたい」
「だろうな、謝っておいて」
「俺の写真が切り刻まれて送られてきたもん」
「……お、おう」
問題があるのは、うちだけじゃないのか。
亮太はそう思った。
「じゃあ、またな」
そのまま真之介との電話を切る。
◇
翌日。
二人は都内のデパートにいた。
春香が買い物をしたいと言い出したのだ。
春香は服や靴に目がなく、セール品の棚を熱心に見て回っている。
亮太は完全に放置され、壁にもたれながらスマホを見ていた。
しばらくして、春香がにたにたした笑顔で戻ってくる。
その顔を見た瞬間、亮太は嫌な予感がした。
「ねえ、そこにランジェリーショップあるじゃん」
「うん」
「すごく可愛いのがあってさ」
「ふーん」
「買ってもらえないかな?」
「えっ」
春香が少しだけ身を乗り出す。
「ほら、亮太もさ。いつか私の可愛い下着姿見られたら嬉しいでしょ」
亮太は正直、いらっとした。
まだ、誕生日までは待ってほしいと言われている。
そのうえで、この言い方は少しずるい。
「いくら?」
「上下で六千円くらい」
まあ、そのくらいならいいか。
亮太は財布から一万円札を取り出す。
「じゃあ、これで買ってきなよ」
春香の顔がぱっと明るくなる。
嬉しそうに店へ入っていった。
二十分ほどして、春香は小さな紙袋を持って戻ってくる。
「すごく可愛いの買えた」
「そう。よかったね」
亮太はそう言って、手を出した。
「おつり返してよ」
「ないよ」
春香は平然と言う。
「一万円、全部使ったの?」
「うん。自分で二千円足して、二セット買ったから」
「えっ」
春香はそれだけ言うと、さっさと歩き出す。
亮太はその場に立ち止まった。
意味が分からない。
二セット欲しいなら、先に確認するべきだろう。
お釣りを勝手に使い、礼の一言すらない。
なのに春香は、まるで当然のような顔で歩いていく。
亮太の顔から、少しずつ表情が消える。
「あのさ、ちょっといいかな」
春香の手を引き、駅ビルの広場へ向かった。
人通りはあるが、立ち止まって話せるくらいの場所だ。
「どうしたの?」
春香は、本当に分かっていない顔をしている。
「なんか、春香っておかしくない?」
「へ? 何が?」
「わざと俺を怒らせようとしてる?」
「いや、そんなことないけど」
「さっきだって、お礼くらいあってもいいと思うけど」
「え? だから言ったじゃん。亮太も得するって」
亮太は怪訝そうに春香を見る。
「今日だけじゃない。予定を決める時も、俺には何の相談もないよね」
春香は黙る。
「デート代だって、ほとんど俺が払ってる。でも、お礼を言われた記憶もほとんどない」
春香はヘラヘラと笑い出した。
「みみっちいこと言うなよ。たかが数千円でさ」
まるで、当たり前のような口調だ。
亮太の中の何かが冷える。
「何笑ってんだよ。怒ってるんだけど」
春香は、痛いところを突かれると笑って誤魔化そうとする。
「今までの彼女に、こんな事されたことないから」
「また始まった。なにそれ前カノとの比較?」
「そんなつもりないけど」
「じゃあ別れる?」
亮太の顔つきがきつくなる。
「別に、俺は構わないよ」
さすがに春香も笑うのをやめた。
長い沈黙。
「……分かった。分かったよ。私が悪かった」
春香は軽く息を吐き、頭を下げる。
「ごめんね」
亮太は黙っている。
春香は少し困ったように笑った。
「また、お互い嫌なことあったら話せばいいじゃない」
それで話を終わらせるつもりらしい。
亮太は深いため息をつく。
謝っている。
謝ってはいる。
けれど、絶対に何かが違う。
すると春香が急に顔を上げた。
「今日さ、うち来る?」
「え?」
「両親、旅行でいないんだよね」
意外な誘いだ。
亮太は春香を見る。
春香なりのお詫びなのだろうか。
迷った末、その誘いを受けることにした。




