地元飲み会
『今週末、地元の友達と親睦会になったから』
春香からメッセージが届く。
亮太はスマホの画面を見つめ、無表情のまましばらく黙った。
――またかよ。
たまには二人でゆっくりしたい。
それなのに春香は、次々と自分の予定へ亮太を巻き込んでいく。
しかも、参加して当然だと思っている。
勝手に転職の面接を頼んだ件も、まだ話せていない。
一度、ちゃんと話した方がいい。
そう思った時だった。
スマホが震える。
着信画面には、志乃の名前。
志乃は亮太より二歳年上で、十八歳の時に初めて付き合った相手だった。
亮太の初体験の相手でもある。
亮太のことは好きだったらしいが、浮気だけは簡単にした。
それに耐えられず、三カ月で亮太の方から別れている。
それでも志乃は、今も友達のような顔で時々電話をかけてくる。
「亮太、久しぶり」
「久しぶり」
「最近どう? いいことあった?」
「うん。彼女ができたよ」
「お、やったじゃん。どんな子?」
「明るい子かな」
「もうやったの?」
志乃は昔から軽い女で、地元でも有名だ。
「いきなりだな」
「大事でしょ」
「してないよ。初めては誕生日まで待ってほしいんだって」
電話の向こうで、志乃が鼻で笑う。
「はぁ? 二十歳すぎて、何子どもみたいな事いってるの」
「うるさいな、純愛ってやつだろ」
「その子可愛いの?」
「まあ、普通だと思う」
「ふうん」
志乃が少し黙る。
それから、軽い声で言った。
「じゃあさ、私と浮気してみない?」
亮太は苦笑する。
「それが原因で、俺と別れたんだけど」
「あれ、そうだったっけ?」
「そうだよ、どんだけ傷ついたと思ってるんだよ」
「あはは、ごめんね」
志乃は悪びれずに笑う。
「自分まで浮気したら、あの時のことを責められなくなる。だから無理」
少しの沈黙。
「わたしはいつでも待ってるからね」
「もう、いいから」
亮太は呆れて電話を切る。
志乃の軽さは相変わらずだ。
それでも、自分を認めてくれる言葉を聞き、少しだけ気持ちが軽くなった。
◇
週末。
亮太は春香の地元の飲み会に参加する。
店には十人ほど集まっていて、亜美と智也もいた。
亮太が春香の友人たちに挨拶をしていると、春香が笑いながら口を挟む。
「亮太のこと、彼氏だからって気を使わなくていいからね。全然大したことないんで」
「ほんと。フリーの方が気楽だったかも」
前回、あれだけ嫌だと伝えたのに。
春香は何ひとつ変わっていない。
「車も全然買わないし、本当に使えないんだよね」
「あのさ、簡単に言うけど駐車場を借りるのだってけっこう高いんだよ」
亮太が言うと、春香はわざとらしくため息をつく。
「はいはい。都会自慢、始まった」
「そういう話じゃないだろ」
「絶対、私たちの地元を馬鹿にしてるよね」
その時、智也が口を挟んだ。
「春香ちゃん。いい加減にしなよ」
春香が驚いた顔をする。
「亮太くん、何もおかしなこと言ってないよ。なんでそんなに悪く言うの?」
周囲の友人たちも、笑わずに春香を見ている。
「あれ? 私が悪いみたいになってる?」
春香は笑ってごまかす。
だが、その声には先ほどまでの勢いがない。
その後、亮太は隣に座ったソノという女の子と話していた。
「グラス空いてるけど、何か頼む?」
「あ、ありがとう。ウーロン茶お願いしていい?」
「いいよー」
ソノは気が利き、亮太の話も楽しそうに聞いてくれる子だ。
亮太は春香の方を一切見ず、そのままソノと話し続ける。
飲み会が終わり、駅へ向かう途中。
春香が不機嫌そうに言った。
「ずいぶんソノと仲良くしてたじゃない」
「うん。ソノちゃん優しいからね」
亮太はわざと厭味っぽく返す。
「はあ? 彼女の前で他の子口説かないでくれる?」
亮太は少し笑った。
「やきもち焼くくらいなら、もっと大切にしたら?」
春香の顔が、はっきりと歪む。
亮太は初めて、少しだけ胸がすっとした。




