表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
20/22

真之介の顎

春香は自宅の部屋で、亜美に電話をかけていた。


「亜美、ちょっと聞いてよ」


『どうしたの?』


「亮太のやつ、マジでひどいんだけど」


『そうなんだ。いつも大変ね』


「今回のは本当にありえないから。他に女ができたって、いきなり別れたんだよ」


春香はベッドに座り、苛立った声を上げる。


「ずっと浮気してて、私のこと騙してたんだよ」


『亮太くんに限って、それはないんじゃない?』


「え? 亜美、亮太の肩持つの?」


『だって春香も、ずっと真之介くんのことが好きだったんでしょ?』


「私のはピュアだから」


電話の向こうが静かになる。


「……亜美、どうしたの?」


『春香、亮太くんを大事にしなかったこと、いつか後悔すると思う』


「いやいや、ないから。むしろ清々したし」


『亮太くんは、春香にはもったいない人だったよ』


春香は黙った。


亜美から、ここまではっきり言われたのは初めてだ。


『私も智也くんも、春香に彼氏ができて本当に応援してたんだよ』


『だから、すごく残念』


電話が切れる。


春香はしばらく、スマホを耳に当てたまま動けなかった。


亜美の言葉が、胸の奥へ深く突き刺さっていた。



数日後。


亮太は志乃に電話をかける。


数回の呼び出し音で、すぐにつながった。


『珍しいじゃない。亮太から電話してくるなんて』


「志乃、頼みがあるんだ」


『どうしたの?』


「浮気してほしい」


『やっとその気になったんだ』


志乃の声が弾む。


「相手は俺じゃない」


『どういうこと?』


「真之介って奴に、ちょっと借りがあってね」


『その人、どんな女が好みなの?』


「軽そうな子」


亮太は即答する。


『なるほど。私が適任ってことね』


志乃が楽しそうに笑った。



翌日。


亮太は真之介を居酒屋へ呼び出していた。


「ういー。亮ちゃん、お待たせ」


真之介は、いつもと変わらない笑顔で現れる。


春香から何も聞いていないのか。


それとも、知っていて平然としているのか。


真之介は席へ着くより先に、亮太の隣にいる女性へ目を向けた。


「こちら、友達の志乃さん」


亮太が紹介する。


胸元の開いたセーターを着た志乃が、にっこり笑った。


「志乃です。よろしく」


真之介の目が大きく見開かれる。


「おお! 初めまして! めっちゃ美人ですね!」


見るからにテンションが上がっている。


「春香のことでは、真之介にずいぶん世話になったからさ」


亮太は笑顔を見せる。


「俺も誰か紹介しようと思って」


「あ、ああ……」


真之介が、少しだけ引きつった笑顔を返した。


やはり、春香とのことが知られたのは分かっているらしい。


それでも何も言わないのは、放置してしらばっくれる気だろう。


しばらく三人で飲んだあと、一軒目を出る。


二軒目へ向かう途中、亮太はスマホの画面を見るふりをした。


「あ、ごめん。会社から連絡来た」


「今からちょっと行ってくる」


志乃が驚いた顔を作る。


「えー。亮太、行っちゃうの?」


「悪いけど、二人で飲んでてくれる?」


「大丈夫!この真之介に任せて!」


真之介が真っ先に答えた。


すでに志乃の肩へ手を回している。


志乃は嫌がる様子もなく、ただ笑っていた。


「じゃあ、また後で」


亮太は軽く手を上げ、その場を離れる。



数時間後。


近くのカフェで待っていた亮太のスマホが震えた。


真之介からだ。


『助けて』


亮太は店を出て、指定された公園へ急ぐ。


暗い園内を進むと、ベンチのそばに人影が倒れていた。


「真之介?」


近づくと、真之介が口元から血を流し、地面にうずくまっている。


「おい、大丈夫か?」


「あぐぐぐ……い、痛い……」


顎を押さえ、うまく喋れないようだ。


亮太は真之介へ肩を貸し、そのまま病院へ連れていった。


検査の結果、顎の骨にひびが入っていた。


処置を終えたあと、亮太は紙とペンを渡す。


「何があったんだよ?」


真之介は震える手で文字を書いた。


『あのあと、志乃ちゃんを公園に連れていって、キスしようとしたら』


『筋肉モリモリの顔にタトゥーがあるやつがきて、殴られた』


亮太は紙を見ながら頷く。


「それは災難だったな」


白々しく言う。


真之介は何も気づいていない。


看護師から、警察へ連絡するか尋ねられた。


「彼女にバレるかもよ? どうする?」


亮太が真之介を見る。


真之介は首を横に振った。


「いえ……よくあることなんで」


看護師が少し引いた顔をする。


亮太は笑いをこらえながら、真之介の書いた紙をくしゃくしゃに丸めた。


「よし。家まで送ってってやるよ」


亮太は真之介の腕をつかむ。


「あぐぐぐ……いたたた……」


真之介が情けない声を上げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ