エリナへの想い
翌日。
亮太はエリナへメッセージを送る。
『彼女と別れました。話したいことがあります。会ってもらえませんか』
すぐに既読がついた。
亮太はスマホを握ったまま、返信を待つ。
しかし、何時間経っても返事は来ない。
意を決して電話をかけてみる。
呼び出し音が続いたあと、通話は切れた。
「もしかして、嫌われたのかも……」
亮太の顔から血の気が引く。
◇
三日後。
亮太はエリナのことが気になり、ほとんど仕事にならなかった。
――カヤちゃん達なら何か知ってるかも。
『エリナのことで相談があります。会ってください』
メッセージを送ると、すぐに『OK』のスタンプが返ってきた。
その日の夜。
待ち合わせたファミレスへ、カヤとマリがやって来る。
「久しぶり」
二人が軽く手を振った。
亮太は、これまでの経緯を説明する。
カヤとマリは顔を見合わせた。
「それで、エリナに送ったのがこれ?」
カヤがスマホの画面を見る。
マリは小さく首を横に振った。
「亮太くん。エリナね、振られてからものすごく落ち込んでたんだよ」
「うん……」
「まだ亮太くんのことは好きだと思う」
カヤが続ける。
「でも、いきなり彼女と別れたから会ってほしいって言われても、怖いんじゃないかな」
「怖い?」
「エリナ、半年前に彼氏が元カノと浮気して別れてるの」
「え……」
「だから、亮太くんを本当に信じていいのか分からないんだと思う」
マリが亮太のスマホを指さす。
「このメッセージだけ見ると、自分の都合しか書いてないように見えるし」
亮太は黙り込む。
「彼女と別れたんだから、今度は付き合ってくれるよねって思われたのか……」
前の彼女のことを思い出す。
あの時も、自分はこんなにしているのに、どうして応えてくれないんだと思っていた。
そして、うまくいかない理由を全部、相手のせいにした。
「どうすれば、エリナに信用してもらえるかな」
カヤとマリが腕を組む。
だが、すぐには答えが出ない。
しばらくして、亮太が顔を上げた。
「分かった」
スマホを手に取り、画面ロックを解除する。
続けて、指紋認証や顔認証も外していった。
カヤとマリは、不思議そうにその様子を見ている。
亮太はスマホを二人へ差し出した。
「これを、エリナに渡してほしい」
「え?」
「全部、この中に入ってる」
カヤが目を丸くする。
「マジで? スマホごと渡すの?」
「春香とのメッセージのやり取りを見てくれたら、全て分かると思う」
マリも驚いた顔でスマホを見る。
「本当にいいの?」
「いい」
亮太は頷く。
「三日後。前に待ち合わせた場所へ、スマホを返しに来てほしいって伝えて」
カヤとマリは、もう一度顔を見合わせた。
それから、静かに頷く。
◇
三日後。
駅前の待ち合わせ場所に、亮太は立っていた。
何となくズボンのポケットを探る。
――あ、そうか。スマホないんだった。
時計を見る。
約束の時間を過ぎても、エリナは現れない。
さらに一時間が経ち、夜の九時になった。
――来ないか。
亮太が諦めかけた、その時。
横から人影が近づいてくる。
エリナだった。
「……ごめんね。遅くなって」
すでに泣きそうな顔をしている。
亮太は無理に笑った。
「ううん。来てくれてありがとう」
エリナはバッグからスマホを取り出し、亮太へ差し出す。
三日ぶりに、自分のスマホが戻ってきた。
二人の間に、長い沈黙が流れる。
「今日、車で来てるんだ」
亮太が先に口を開く。
「よかったら、家まで送るよ」
エリナは小さく頷いた。
◇
エリナの家へ向けて車を走らせる。
もうナビを見なくても、道を覚えていた。
最初は軽い雑談を交わしていたが、亮太にはずっと聞きたいことがあった。
「スマホ……見た?」
エリナが頷く。
「ごめん。ほかに、どう伝えたら信用してもらえるか分からなくて」
エリナは少し笑った。
「カヤとマリから渡された時は、びっくりしたよ」
「だよね」
「でも……」
「でも?」
「嬉しかった」
亮太は思わずエリナを見る。
信号が青に変わり、すぐに正面へ向き直る。
「春香とは、ちゃんと別れた」
「見てもらえたなら、分かると思うけど」
エリナは静かに頷いた。
「亮太くん、大変だったんだね」
「うん。かなり」
亮太は大きく頷く。
「だからってわけじゃないけど、またエリナに会いたいと思って」
「うん」
少しの沈黙。
「どうして、私が告白した時に言ってくれなかったの?」
亮太は少し考える。
「もし、あの時。自分の想いを伝えてたら自分勝手だと思われる気がして」
「誰かを傷つけてまで、人を好きになってもいいのか分からなかった」
エリナは亮太の横顔を見つめる。
「今は、どう考えてるの?」
「今は……」
亮太はハザードランプを点け、公園の脇へ車を停めた。
エリナへ向き直る。
「どうやったらエリナを落とせるか、一生懸命考えてる」
エリナは思わず吹き出す。
「じゃあ、頑張って」
「応援してる」
笑顔でそう言った。
短い沈黙。
亮太は、ゆっくりとエリナへ手を伸ばす。
エリナは逃げない。
肩へ手を回すと、そっと目を閉じた。
二人の唇が重なる。
キスが終わる。
二人とも、恥ずかしそうに見つめ合った。
「じゃ、じゃあ送るね」
亮太は前を向き、車を発進させる。
しばらくして、エリナが口を開いた。
「そういえば、亮太くん」
「うん?」
「一つだけ確認しておきたいことがあるの」
「何?」
「志乃さんって人は、大丈夫なの?」
亮太は顔を強張らせ、エリナを見る。
「そ、そこは詳しく説明させて」




