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17/22

4カ月前の回想

■ 約四カ月前


話は、亮太と春香が出会う少し前に戻る。


十一月のはじめ。


駅前のイベントスペースで、小さな街コンが開かれていた。


春香は亜美と一緒に参加している。


「こういうの、緊張するね」


亜美が小さく言う。


「大丈夫だよ。適当に話してればいいんだって」


春香はそう答えながら、会場を見回した。


男たちは、どれも似たり寄ったり。


春香の中では、せいぜい五十点くらいだ。


友達に羨ましがられるような男。


一緒に歩くだけで、自分の価値まで上がったように思える男。


春香が求めているのは、そういう相手だった。


その時。


「こんばんは」


軽い声が聞こえる。


振り返ると、真之介が立っていた。


整った顔。


人懐っこい笑顔。


初対面とは思えない距離の詰め方。


春香は一瞬で目を奪われる。


「あ、こんばんは」


「二人で来たの?」


「うん。友達と」


亜美も軽く頭を下げた。


「亜美です」


「春香です」


「真之介です。よろしく」


真之介が笑う。


その瞬間、春香の中ではもう決まっていた。


――この人がいい。


それから春香は、ほとんど真之介ばかり見ている。


話の内容は、正直それほど面白くない。


それでも、笑顔で反応してくれるだけで十分だった。


会場を出たあと、亜美が小声で言う。


「真之介くん、ちょっと慣れてる感じしない?」


「慣れてる方がよくない?」


「うん。でも、遊んでそう」


「そんなことないよ。彼女を大事にするタイプだと思う」


亜美は、それ以上何も言わなかった。


春香には、忠告というより負け惜しみに聞こえていた。


その夜。


真之介からメッセージが届く。


『今日は楽しかった。春香ちゃん、また飲もうよ』


春香はスマホを見て笑った。


――やっぱり、私を選んだ。



翌日。


春香は真之介と二人で会った。


食事をして、酒を飲む。


真之介は優しく、春香は完全に舞い上がっていた。


ようやく自分にも春が来た。


そう思っていた。


カラオケボックスへ入ると、真之介は酔ったふりをして距離を詰めてくる。


春香も拒まない。


その夜、二人はホテルで一夜を共にした。



一週間後。


春香は、真之介へ何度もメッセージを送っていた。


『ねえ、連絡して』


『なんで連絡くれないの?』


既読はつく。


だが、返事はない。


『これから家に行くね。住所は東京都○○だよね』


ようやく返信が届いた。


『免許証を勝手に見るのはルール違反じゃないかな(汗)』


『あのさ、私たち付き合ってるんだよね?』


『いや、付き合ってはないと思うぞ』


『私、初めてだったんだけど!』


『ごめん。酔っててよく覚えてないや』


『ふざけないでよ。責任取って』


真之介は画面を見ながら、鳥肌を立てていた。


『あのね。僕、三年付き合ってる彼女がいるんだよ』


『はあ? 浮気してるの?』


『いや、向こうが本命かな』


『じゃあ別れて。私と付き合ってよ』


『三年も付き合ってるから、そんな簡単には別れられないよ』


『やっぱり今から家に行く』


真之介は画面を見ながら、頭を抱える。


『そろそろ別れようとは思ってるんだよ。喧嘩ばかりだし』


『本当に?』


『別れたら春香ちゃんと付き合うから。少し待っててよ』


『どのくらい?』


『三カ月くらいかな』


『えー。クリスマス過ぎちゃうじゃん』


『じゃあさ、友達紹介するから。それまで繋ぎで付き合いなよ』


『繋ぎ? どんな人?』


『顔はまあまあ。でも性格はすごく優しいよ』


『まあ、それならいいけど。ちゃんと彼女と別れてよね』


『分かった、分かった』



現在。


亮太は、すべてのやり取りを読み終えた。


「くくくくく……」


ようやく理解できた。


全部、つながった。


真之介は春香から逃げるため、亮太へ押しつけた。


春香は自分こそ真之介の本命だと思い込み、亮太を一時的な“繋ぎ”として見ていた。


だから、人前で悪く言うことにも、金を出させることにも、何のためらいもない。


真之介が迎えに来ない苛立ちまで、亮太へぶつけていたらしい。


俺だけが、何も知らずに本気で恋人を演じていた。


あまりにも馬鹿らしい。


また、乾いた笑いが漏れる。


「くくくくく……」


亮太の目からも、感情が消えていく。


「これは、きっちりお返ししなきゃな」


スマホのスケジュールを開く。


春香の誕生日まで、あと一週間だった。


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