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亮太の誕生日

亮太の誕生日。


その日は、春香の家に招かれていた。


両親は外泊中で、香澄と、その婚約者も来るらしい。


――香澄さん、結婚するのか。


なぜか少しだけ、胸が寂しくなる。


それでも香澄に会えると思うと、春香と二人きりよりは気が楽だった。


春香の家に着き、玄関へ入る。


「いらっしゃい」


春香は、つまらなそうにそれだけ言う。


亮太はキッチンにいる香澄へ挨拶に向かった。


「あら、亮太くん。お誕生日おめでとう」


「あ、ありがとうございます」


「ケーキ作ったから、あとで食べてね」


「えっ、手作りですか?」


「うん。簡単なものだけど」


香澄が優しく笑う。


それだけで、亮太は涙が出そうなほど嬉しくなった。


日が暮れると、香澄の婚約者、直樹もやってくる。


「直樹さーん!」


春香は亮太を押しのけるようにして、直樹へ抱きついた。


「ちょっと、直樹さんを困らせないで」


香澄の声が少し厳しくなる。


「君が、春香ちゃんの彼氏かな。よろしくね」


直樹は春香に抱きつかれたまま、困ったような笑顔を見せる。


「亮太です。よろしくお願いします」


亮太も慌てて頭を下げた。


さすが香澄の婚約者だ。


俳優のように整った顔立ちで、人当たりもいい。


まさしく、お似合いの二人に見える。


食事が始まると、香澄と直樹が自然に亮太へ話を振ってくれる。


仕事は忙しいのか。


どこに住んでいるのか。


どれも何気ない質問だ。


それでも、自分のことを見てくれているのが分かる。


しばらくして、直樹が春香へ尋ねた。


「そういえば、亮太くんへの誕生日プレゼントは?」


春香は、今思い出したような顔をする。


「あ、忘れてた。取ってくる」


数秒後。


春香がラッピングされた袋を持って戻ってきた。


「ありがとう。開けさせてもらうね」


亮太は、通勤で使えるワイヤレスイヤホンが欲しいと、それとなく伝えていた。


けれど、袋の中に入っていたのは服。


明るい色のシャツで、亮太ならまず選ばないデザインだ。


「……服?」


「うん。いつも黒い服ばっかりだから、似合うと思って」


春香は得意そうに言う。


「見てよ、お姉ちゃん。これ、おしゃれじゃない?」


亮太の手からシャツを取り上げ、目の前に広げた。


「う、うん。明るくて……アメリカの子どもみたいね」


香澄なりに褒めようとしているらしい。


その様子を見ていた直樹が、鞄から新品のネクタイを取り出す。


「ちょうど未使用のものがあるんだ。よかったら使って」


ブランド物のネクタイだった。


「いえ、初対面なのに。そんなの悪いですよ」


亮太は慌てて断る。


「いいのよ。この人、お気に入りのやつしか使わないんだから」


香澄も受け取るよう勧めてくれた。


「じゃあ……ありがとうございます」


亮太は両手でネクタイを受け取る。


そのあと、香澄の手作りケーキも食卓へ並んだ。


自分のために作ってくれた。


そう思うだけで、胸がいっぱいになる。


そんな亮太を見て、春香が笑った。


「私と付き合えてよかったな」


亮太は何も返さない。


帰る頃になると、香澄と直樹が玄関まで見送りに来てくれた。


香澄は、亮太の顔をまっすぐに見つめる。


「亮太くんが、我慢してくれているのはわかるんだけど」


少し迷ってから、言葉を続けた。


「でも、もう少しだけ春香に付き合ってもらえないかな」


亮太は答えに詰まる。


香澄も直樹も、春香のことを本気で心配しているのだろう。


「……分かりました」


亮太は小さく頷く。


香澄の表情が、ほっとしたように和らいだ。


その笑顔を見ると、また胸の奥が痛くなる。



夜。


自宅へ戻った亮太は、もらったネクタイをタンスへ丁寧にしまう。


その時、スマホにメッセージが届いていることに気づいた。


エリナからだ。


『亮太くん。助けてもらえませんか』


「何があったんだろう?」


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