表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/22

胸糞花火大会

春香に何度も言われ続けた結果、亮太は中古車を買った。


年式もそれなりに古い。


できれば、もっといい車が欲しかった。


しかし、社会人二年目の給料で買えるのはこれが精いっぱいだ。


それでも、休日に出かけるには十分だった。


「やっと買ったね」


車を見た春香が、嬉しそうに言う。


「まあ、中古だけど」


「いいじゃん。これで好きなところ行けるし」


春香は助手席に乗り込むと、当たり前のようにシートを倒した。


「最初はさ、開港祭の花火大会行こうよ」


「花火大会?」


「うん。車なら行ってもいいかなって思って」


亮太も、海から上がる開港祭の花火は好きだった。


それに、車があると春香の機嫌がいいことにも気づいている。



週末。


二人は花火大会へ向かった。


会場の近くは混むらしく、亮太は少し離れたデパートの駐車場へ車を停める。


「ここから歩けば、三十分くらいだって」


春香がスマホの地図を見ながら言う。


「それでよさそうだね」


珍しく、二人とも機嫌がいい。


ここまで一度も喧嘩をしていなかった。


手をつないでデパートの中を抜けようとした時。


春香が突然、手を離す。


亮太は振り返った。


「ちょっと寄らせて」


春香は、デパートの中にある靴屋へ吸い込まれるように入っていく。


亮太は時計を見る。


「ねえ、あと四十五分で始まるから急がないと」


「すぐ終わるから!」


春香はセール品の棚を夢中で探し始めた。


五分。


十五分。


時間だけが過ぎていく。


亮太はしびれを切らし、声をかける。


「ねえ、もう間に合わなくなるよ。靴なんていつでも見られるだろ」


「うるさいな! もう少しだって言ってるでしょ」


怒鳴り返された。


亮太は説得を諦め、デパートの外へ出る。


三十分後。


遠くから、パン、パン、と音が響いた。


花火が始まる。


最悪だ。


亮太は近くの歩道橋へ上がった。


遠くに見える花火を、無表情のまま見つめ続ける。


せっかく買った車で、初めての遠出がこれか。



四十分後。


花火が終わる頃になって、春香が紙袋を下げてデパートから出てきた。


「もう終わったと思うよ」


亮太は感情を抑えて言う。


「……行ってみる」


二人は会場へ向かって歩き出した。


春香は途中で何度か、


「もう終わっちゃったかな」


と呟く。


亮太は無視した。


――当たり前だ。


会場から大勢の人が帰ってくる中、逆方向へ歩いているのは亮太たちだけ。


幸せそうなカップルと何組もすれ違う。


やり場のない怒りと虚しさで、亮太の機嫌はさらに悪くなっていく。



会場へ着いた頃には、人もまばら。


露店も店じまいを始めている。


「終わってるね。帰ろう」


亮太は無表情で言った。


それにしても。


どうして、この状況であの言葉が出てこないのだろう。


『ごめんなさい』


たったそれだけなのに。


ありえない。



再び三十分かけてデパートへ戻り、駐車場から車を出す。


春香は買ったばかりのパンプスを箱から取り出し、嬉しそうに眺めている。


「それ、いくらしたの?」


「二十%オフで二千九百八十円」


春香は笑顔で答える。


「ふーん」


亮太は駐車券を精算機へ入れながら、適当に返事をした。


駐車料金は二千円。


黙って自分の財布から紙幣を入れる。


二時間かけてここまで運転してきて、その成果がこれか。


花火大会に間に合うなら、倍の値段の靴でも買ってやったのに。


「このあと、どうする?」


時計を見る。


二十時四十五分。


「もう遅いし、危ないから帰ろう」


亮太は棒読みのように答えた。


そのまま春香を家まで送り届ける。


「じゃあな!」


春香の返事を待たず、亮太は車を発進させた。



エリナからメッセージが届いていた。


『今日はお休みですか?』


亮太は少し迷ってから返信する。


『花火大会に行ったんだけど、見られませんでした』


『そうなんだ。じゃあ今度、一緒に行きませんか』


亮太はドキッとする。


――デートに誘われてる?


しかし、その直後。


『みんなも誘って行きましょう』


亮太は苦笑した。


「ですよね……」


一人でそう呟く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ