合コンの人数合わせ
日曜日の夜。
広いオフィスに残っているのは、亮太一人。
「今回は、マジでやらかしたな……」
平日に納品したプログラムから、重大なバグが見つかった。
急きょ検証からやり直すことになり、土日を使って、ようやく再納品までこぎつけた。
本当なら、今日は春香と出かける約束をしていた。
仕事を理由に断ったため、お詫びに何か奢れと言われる覚悟はしていた。
しかし、春香の返事は意外なほどあっさりしている。
『あっそ。別にいいよ』
それだけだった。
夜七時。
仕事を終え、亮太はオフィスを出る。
その時、スマホが鳴った。
雅也からだ。
「おう、亮太。今から合コン来られない?」
「いや、俺、彼女いるけど」
「分かってるけどさ。頼むよ」
「男が一人来られなくなって、誰か呼べってうるさいんだよ」
電話の向こうから、女性たちの叫び声が聞こえてくる。
「確かにうるさそうだな」
「一時間座ってるだけでいいから。よろしく」
それだけ言い残し、電話は一方的に切れた。
亮太は教えられたカラオケボックスへ向かう。
「三〇三号室……ここか」
ドアについた丸い窓から、中の様子をうかがう。
三人の女の子がソファの上に立ち、ノリノリで歌っている。
視線を下へ向けると、雅也が一人、大人しく酒を飲んでいた。
亮太は小さく息を吸い、勢いよくドアを開ける。
「イ、イェーーーイ!」
女の子たちが驚いて目を丸くした。
「補充要員の亮太くんです」
雅也がマイクを片手に紹介する。
女の子たちは、よく分からない歓声を上げた。
亮太は手を引かれ、そのままソファへ座らされる。
すぐにグラスを渡され、流れのまま一気に飲まされた。
三杯目を飲み終えてグラスを置く。
すると笑いながら拍手が起こった。
「みんな、名前は?」
「奥に座ってるのがマリ。隣がエリナ」
「そんで、私がカヤちゃん」
「もうベロベロじゃねえか」
三人は声を上げて笑う。
「亮太くんも何か歌ってよ」
マリがマイクを差し出してきた。
亮太は歌が得意ではない。
それでも、ここで断れば空気を壊しそうだ。
仕方なく立ち上がり、思いきり歌う。
歌い終え、おそるおそる反応を確かめる。
「きゃー! 亮太くん、上手!」
三人は手を叩き、大げさなくらい盛り上げてくれた。
亮太も思わず笑ってしまう。
自分が上手くないことくらい分かっている。
それでも、楽しそうに褒めてもらえるのは嬉しい。
ちなみに春香とカラオケへ行っても、亮太の歌などほとんど聞いていない。
気づけば、一時間はあっという間に過ぎていた。
カラオケボックスを出ると、雅也が声をかけてくる。
「亮太、助かったよ」
「こちらこそ。意外と楽しかった」
そのまま帰ろうとした時。
「ちょっと待って」
エリナが亮太を呼び止める。
全員の視線がエリナへ集まった。
「亮太くん、来てからまだ一時間しか経ってないよ」
「え? でも、補充要員だし」
「いいから、いいから」
そう言われ、半ば強引に三次会へ連れていかれる。
三次会の店は、座敷のある居酒屋。
薄暗いカラオケボックスではよく見えなかったが、三人とも可愛い顔をしている。
エリナは、肩まで伸びた明るいブラウンの髪と、よく笑う目元が印象的だ。
カヤは金髪のショートカット。
細身だが、三人の中で一番声が大きい。
マリは長い黒髪で、落ち着いた雰囲気の美人。
三人とも二十二歳の社会人らしい。
居酒屋へ移ってからは、少し落ち着いて話せるようになった。
ただし雅也からは、亮太に彼女がいることを口止めされている。
「ねえ、亮太くん」
カヤに呼ばれ、亮太が振り向く。
「彼女にするなら誰?」
三人が楽しそうに笑った。
合コンでは定番の質問なのだろう。
亮太は少し考えるふりをする。
「みんな可愛いから選べないよ」
「えー、つまらないこと言わないの」
マリがすかさず突っ込む。
「じゃあ、浮気しない子でお願いします」
カヤとマリが、そろって目をそらした。
エリナだけが、くすっと笑う。
居酒屋でも時間はあっという間に過ぎ、今度こそお開きとなった。
駅へ着くと、それぞれ別のホームへ向かう。
亮太も到着した電車に乗り、発車を待った。
何気なく窓の外を見る。
隣のホームに、エリナの姿。
さすがに気づかないだろう。
そう思った瞬間、エリナがこちらを見る。
そして、笑顔で大きく手を振ってきた。
亮太も慌てて、車内から手を振り返す。
その直後、電車がゆっくりと動き始めた。
◇
家に着いたのは、午前0時を回った頃。
亮太はベッドに腰を下ろし、深く息を吐く。
罪悪感が押し寄せてきた。
仕事を理由に春香とのデートを断ったくせに、その帰りに合コンを楽しんでしまった。
浮気と思われても仕方がない。
迷った末、春香へ電話をかける。
「もしもし」
春香はすぐに出た。
「ごめん。ちょっと謝らないといけないことがあって」
「何が?」
「今日、仕事帰りに友達から呼ばれて、合コンに参加したんだ」
「デートを断ったのに、ごめん」
短い沈黙。
「別にいいよ。私も合コン行ったし」
「は?」
亮太は思わず聞き返す。
「仕事で会えないって連絡きたから、街コン行ってきた」
「マ、マジで?」
「うん。友達連れて、たまに行くよ」
亮太は、それ以上詳しく聞かなかった。
聞いてしまえば、朝まで眠れなくなる気がする。
「……じゃあ、おやすみ」
それだけ言って電話を切る。
布団へ入っても、なかなか眠れない。
――もしかして、合コンを浮気だと思う感覚の方が古いのか?
亮太は暗い天井を見つめながら、いつまでも答えの出ないことを考え続けた。




