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亜美と志乃の電話

しかし、何も変わらないまま、二カ月が経過した。


「あーあ、亮太がもっといい大学出てたら自慢できたのにな」


亮太は隣を歩く春香をちらりと見る。


だが、何も返さない。


今の春香のセリフは、何か話の途中で出たわけではない。


独り言のように、いきなり呟いたのだ。


どうせ聞き返したところで、「思っただけ」と流される。


真之介の言っていた言葉を思い出す。


『いつも亮ちゃんを怒らせちゃって反省してる』


『大事にされてるからつい調子に乗っちゃう』


――本当なのだろうか。


耐えられず、亮太の方から数回別れ話をしたことがある。


だが、まるでいつもの痴話喧嘩のようにはぐらかされてしまう。


「別れよう」


「いいよ」


春香は、その場では簡単に了承する。


しかし翌日になると、何事もなかったように電話をかけてきた。


別れ話そのものを、痴話喧嘩くらいにしか考えていないらしい。



その夜。


亮太は亜美に連絡を入れる。


春香の友人に相談するのは、少し迷った。


しかし、春香をよく知っていて、なおかつ話が通じそうなのは亜美くらいだ。


電話をかける。


「ごめんね、急に」


「ううん。春香のこと?」


「うん。正直、もう無理だと思う」


電話の向こうで、亜美が黙る。


それから、小さく息を吐いた。


「そっか」


「驚かないんだ」


「うん。まあ……春香って、昔からああいうところあるから」


「昔から?」


「うん。自分が好きなことは、まわりも好きって思いこんじゃうの。断ると機嫌悪くなるし」


「春香と僕が付き合う前はどうだったの?」


「それがね……」


亜美の声のトーンが少し下がる。


「わたし、親友認定されちゃってさ」


「買い物とか、旅行とかを春香がどんどん決めちゃうの」


――今の僕と同じだ。


電話の向こうで、亜美が苦笑する。


「智也と付き合い始めてからも、二人っきりにしてもらえなかったんだ」


「だから亮太くんが登場して、天の助けだと思ったの」


亮太は思わず吹き出す。


「ババ抜きのジョーカーが俺に移ったってこと?」


「そこまでは言わないけど……」


亜美の声が少し弱くなる。


「でも、正直、亮太くんと付き合い始めてから、私は少し楽になった」


亮太は何も言えない。


「なんか、ごめんね」


「亜美ちゃんが謝ることじゃないよ」


「でも、もっと早く言えばよかったかなって」


「いや、ありがとう。聞けてよかった」


亮太はそう言って、電話を切ろうとする。


「あ、ちょっと待って」


亜美が止めた。


「こんな事言うのもあれだけど、春香と無理に付き合うこともないと思うよ」


「どうして?」


「春香は、昔っから惚れっぽいとこあるから」


「……そっか」


亜美は何か言いかける。


だが、結局そのまま黙った。


亮太も、それ以上は聞かない。


電話を切った後も、亜美の言葉が少し気になった。



その後、スマホが鳴る。


志乃からだ。


「ハロー。亮太ひさしぶり」


「おう、ひさしぶり」


「まだ、純愛の子と付き合ってるの?」


「うん……まだ」


「元気ないじゃん。せっかく浮気に誘ってあげようと思ったのに」


「やめてよ。今、気持ち落ちてるんだから」


一瞬、志乃に会いたいと思ってしまった。


「てか、志乃は彼氏いないの?」


「最近、仲良くしてる男いるよ」


「どんな人?」


「なんか格闘技やってるんだって。顔にタトゥー入ってる」


少しの沈黙。


「志乃。浮気は絶対にしないから、もう誘わないで」


「亮太、なんか焦ってない?」


「……」


――危なかった。


こっちにもジョーカーがいたとは。


亮太は心の中で呟いた。


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