春待誕生日会 前編
4章の後の話です
木々の間から夕日の光が差し込む林の中を僕は歩いていた。砂利の敷かれた道を進むと、突然視界が開けて、大きな洋館が現れる。ここを訪れるのは二回目だが、やはりホラー感がある。
今日はこの洋館に住む男、春待藤次の誕生日である。その誕生日会にお呼ばれした形だ。
プレゼントは用意したが、正直なところを言えば学校で渡すに留めたかった。この洋館は文字通り春待のホームである。いつもの取り巻きに加え霊的存在も入り乱れる魔境であり、僕のようなただのラップ好きなど淘汰される場所なのだ。
「おめでたい催しなのに暗いわね」
ふわふわと浮遊する銀髪少女が呆れ顔で僕を見下ろしていた。
トリカは人間関係の機微に疎いから僕の気持ちなどわからないだろう。言うなれば僕は招かれざる客、春待の囲いに交じる異分子なのだ。
「でも招かれたじゃない」
「そりゃあ辻村先輩が義理で誘ってきたからな。僕も義理で来たわけだ」
そう、僕をこの誕生日会に呼んだのは辻村先輩である。いつもの仏頂面で僕のクラスにやってきて、こそこそと「土曜日の夕方、来れるなら藤次の家に来て。誕生日だから」と耳打ちして去っていったのである。顔と行動が合っていない。
さすがにそれを無下にするのは感情的にできず、ここまで来てしまった次第である。辻村先輩がご丁寧に春待家までの道のりを送ってきたので迷うことなくこれた。スマホって便利だね。
それにしても夕方ってアバウトすぎないか? 一応遅めの十八時半に来てみたが、遅すぎてパーティーも佳境でした、なんてことになったら目も当てられない。いや別にそれでもいいか。
足元の砂利道を見つめながらぼそっとつぶやく。
「実際、何人くらいいるんだろう」
「……何が?」
怪訝な顔をしたトリカに、吐き捨てるように言う。
「春待の女」
「……トウジの認識だとゼロなんじゃない?」
「そこがまた腹立つ~」
トリカはやはり呆れ返った顔をしていた。まあそんな顔するな。
いよいよ春待邸が近づいてきていた。
足取りが重い。あの観音開きの扉を開けたら少なく見積もっても一時間は抜けられないだろう。僕はその一時間を耐え抜くことができるのか?
「耐えられないってどういう状況なのよ」
「ひたすら春待ハーレムを見続けるのは、精神衛生上明らかに良くないと思うんだけど」
「はぁ……」
トリカは呆れて物が言えないようだった。
さて、牛歩で進んでいたがもう扉の前に着いてしまった。インターホンがないのでノッカーに手をかける。十秒ほど躊躇した後、三回音を鳴らした。
すぐに扉が開き、金髪を編み込んだメイドさんが姿を見せた。ヘッドドレスの付喪神で、春待家に仕えるエマさんである。
「守谷様、お待ちしておりました。本日はお越しくださりありがとうございます。あら? あなたは……?」
エマさんはトリカの姿を見て戸惑っていた。そういえば前回春待邸に来たときトリカは指輪の中に身を潜めていた。
今は地面に足をつけているトリカが、自信満々に名乗りを上げる。
「私はアキラの用心棒、超絶天才美少女魔法使いのトリカよ。よろしくね」
自己紹介ついでに軽く圧をかけていた。用心棒って、まるで春待の家に行くにつけ用心する必要があるみたいじゃないか。相手方に印象が悪い。
しかし、エマさんは表情一つ変えずに応対していた。
「左様でございますか。私は藤次様に仕えるメイドのエマです。……では、食堂に皆様お揃いですので、どうぞこちらへ」
そうして先導するエマさんである。
見事にスカされたトリカは拍子抜けした顔をしていた。僕がトリカを指して笑うジェスチャーをしていると、軽く足を踏まれた。
ていうかもう皆様お揃いなの? やっぱり出遅れた?
エマさんの背に付いていきながら僕はごくりとつばを飲み下す。
この誕生日会にどんな人間が集まっているのか僕は知らない。僕は春待と辻村先輩くらいしか知っている人がいないのだから、当然知らない人の方が多く集まっていると思われる。食堂から漏れ聞こえる喧騒は男女のポジティブな声が混じり合い、楽しんでいることが窺える。
こんな空間に僕のような新参が入り込む事を考えたら、もう死にたくなってきた。なぜ空気が出来上がっているところに水を差しに行く必要があるのか。
まずい、お腹痛くなってきた。そもそも誕生日会ってなんだよ。高校生ってそんなことするの? 家族でやるならまだしも、友達をたくさん呼んでやることなの? むしろそっちがスタンダード? クラシック?
精神状態が極限に達し、誕生日会というものに疑問を覚え始めている間にも、着々と食堂までの距離は短くなる。
ええい、こうなったらエマさんの背後に身を潜めて何食わぬ顔で席に着こう。
エマさんの影に隠れて食堂に足を踏み入れると、目の前のメイドさんが突如横にスライドした。クイックブースト!?
パリピの面前に僕の妙な中腰姿勢が晒される。
「守谷様がお見えになりました」
エマさんの声は喧噪の中においてもよく通り、一瞬で注目を集めた上に場を静めた。これが嫌だったのに!
エマさんはトリカが可視化されていないことを察してくれたようで、トリカの名前は出さなかった。やっぱりできるメイドは違うなぁ。僕の気持ちも察してくれれば……!
食堂内はぱっと見た感じでも十人くらいは居るように見えた。二つのテーブルが繋げられ、いわゆる誕生日席に春待が座っていた。テーブル上にはたくさんの料理が並べられ、準備は万端のようだった。
僕が泣きそうなほどに動揺していると、春待の呑気な声が聞こえてくる。
「お! 守谷たちも来てくれたのかー!」
その春待の声に反応し、囲いの人間がざわついた。「守谷って誰?」「何組の人?」「守谷たち?」というような不審な声が聞こえた。僕は一年一組です。
「どこでも適当に座ってくれ。ちょうど始まるところだったんだよ」
春待はテーブルの料理に目を落として言った。
春待の声に促されるまま、空いていた端っこの席を陣取る。空席は僕の対面しかないが、周囲の反応から察するに僕が最後の来客のようである。
僕の隣の席に座っている女子に目をやる。セミロングの髪が綺麗な女子だ。当然面識はない。その女子の対面にはメガネを掛けた理知的な男子が座っているのだが、こちらも当然面識はない。
春待のそばに辻村先輩、そして以前勉強会に来ていた二人組の女が座っている。これ以外の人は面識がない。
……ざっと見回してみてもカースト上位に属していそうな人間ばかりだ。僕のような地味を体現しているようなやつはひとりもいない。
これでは僕など猛獣の檻に放たれた毛虫である。餌にもならず、関心も向けられない哀れな虫けらなのだ。
“よくそこまで被害妄想ができるわね”
否、客観的事実である。
そういえば、今日のトリカは実体化も可視化もしていないが、ここに入ってきたときの反応からして省エネ状態のトリカを認識できる人間は(春待と辻村先輩を除けば)いないようだ。
僕はいったい何しに来たのだろうと思いながら肩身狭く縮こまっていると、エマさんが飲み物の入ったグラスを僕の前に置き、椅子を僕のすぐ横に置いた。トリカの席だろう。
「ありがとう」
トリカが礼を言うと、エマさんはペコリと頭を下げた。
他の者はすでにグラスを持っていたので、慌てて僕も持つ。
そして春待が挨拶を始める。
「みんな今日はわざわざこんな会を開いてくれてありがとう。本当に嬉しいよ。こんなにうまそうな飯も作ってくれて、梨奈と皙と美野里ありがとな。この三人が作った飯はマジでうまいから、みんなもたくさん食ってくれ。それじゃまあ、とりあえず乾杯!」
かんぱーい! お誕生日おめでとー!
春待の音頭で祝福の声が飛び交う。みんなが春待のグラスに自分のグラスを合わせに行くのだが、僕は遠いのでその場でグラスを掲げるに留め、ついでに一口飲む。ジンジャーエールか。
それにしても未だかつてこんなおめでたい席でこれほど肩身が狭い思いをしたことはない。そもそもこんなに祝ってくれる人がいるなら僕が来るまでもないではないか。
「それよりアキラ、どうせならたくさん料理を食べましょう。私が話し相手になってあげるから」
トリカは目の前のパスタやらオードブルやらを見て目を輝かせていた。
そんなトリカを見て思わず笑ってしまう。マイペースなやつだ。
春待たちが話に花を咲かせる一方で、僕は取り皿にパスタやパイ生地を使った小洒落た料理なんかを取って、もそもそ食べ始める。
「あ、うめえ」
「本当? 私も食べたい」
パイはすでに切り分けられていて取りやすいので、トリカの分も取る。
みんなの目線はほとんど春待に向けられていたので、トリカも比較的食事がしやすそうだった。
「あら、おいしいわね」
うまいよなー。これなんて料理だったかな。無知ゆえに名前がわからない。
ともあれ、料理はとにかくうまい。あんまり食べたら顰蹙を買うかもしれないが、見た感じかなりの量があるので、ひたすら食べ続けても多分大丈夫だろう。
オードブルやサラダなどを取り皿に取っていると、僕の隣に座っている女子が笑って言った。
「めっちゃ食うじゃん」
「ははは、腹減ってて……」
愛想笑いを浮かべてそんな言葉を返す。なんだかみじめだった。
春待の誕生日などそっちのけで飯を食いに来てるやつみたいに思われたに違いない。そしてそれは間違った認識でもない。もはや僕は飯を食いに来てる。
「気にしないの。食事の時間に食事をして何が悪いの?」
トリカはフォローしたつもりだろうが、多分自分が食いたいだけだ。
ポテトサラダを食べつつ、春待の周囲を眺める。
春待に「あーん」を仕掛けようとする女子、春待に「これすっげーうまい」と言ってもらって顔を赤らめる女子、春待の「こりゃいいお嫁さんになるな」という言葉に妙な緊張を走らせる女子、春待の一挙手一投足で場が熱を帯びていた。
その様子にちゃちゃを入れている男女、談笑している男女、そして余ったのが僕だ。対面も空席だしな。
面識のある人間が一番遠くに位置しているのだから、僕がだんまりになるのも仕方ない。ましてやカースト下位である。話す内容もきっと合わないだろう。
「よかったわね、私が居て」
トリカがどや顔でそんなことを言う。それに全く反論できないのは悔しいが、本当に居てくれてよかった。
トリカのご満悦顔に苦笑いを返していると、対面の空席に誰かが座った。
いかにも清楚といった感じの女の子だ。ブラウスにリボンタイをつけて、まるでお嬢様のような装いである。真っ直ぐな長い黒髪をいわゆる姫カットにしている。
「あなたが守谷さんですか?」
開口一番、尋ねられる。
「はい」
否定する理由もないので肯定しておく。守谷a.k.a超絶イケメンです。というかキミは誰なんだよ、あーん?
心の中でイキっているとそれを見透かしたかのように自己紹介をしてきた。
「はじめまして。私は……藤次の妹の理央です」
これはどうもご丁寧に。
そういえば妹がいると言っていたな。兄に似ず綺麗な感じだ。多分ブラコン。
“根拠もなく……”
春待という存在が根拠になるんだ。素人はだぁっとれ。
“これは失礼したわね。インキャの玄人には敵わないわ”
トリカの皮肉にダメージを受けながら、理央ちゃんの話を聞く。
「あの、守谷さんは兄さんと同じタイプの人ですよね?」
質問の意図が不明なのでテキトーに答えることにした。
「見てわからないかな? どう見ても別タイプの人間でしょ」
否定の言葉がすっと出てくる。なぜならこれは本心でそう思っているからだ。
理央ちゃんはきょとんとしていた。
「……そうなんですか?」
僕は春待の方を一瞥してうなずく。
「うん。ほら、この状況を見たらわかると思うんだけど、春待の周りにいっぱい女子がいるでしょ? なんなら男子もいる。一方僕サイドはどう? 誰もいないでしょ? これを見て僕と春待が同じタイプの人間だと思うならそれは目が死んでるか脳が死んでる」
「それは兄さんが今日の主役だからではないですか?」
「“今日の主役”になれる時点で僕とは違うんだよね」
僕の誕生日にこんなに人が集まることはないだろう。
理央ちゃんはちょっとたじろいだ様子だった。年上の正体不明の男がいきなり卑屈になったらそりゃ困るよな。陰キャの悪いところがモロに出てしまった。反省しなきゃ。
「……でもお友達ではあるんですよね? こうして誕生日会に来たわけですから」
「それは誘われたからとしか言いようがないよね。キミのお兄ちゃんの友達が、僕に義理立てて呼んでくれたの。それを無下にするのもどうかなって思って、ちゃんとプレゼント持参してやってきたんだよ」
「そうでしたか」
反省した一秒後にすぐ反故って僕は馬鹿なのか?
理央ちゃんは明らかに引いていた。「あ、面倒な人間に話しかけちゃったな」という雰囲気を感じる。
多分、“兄さんと同じタイプ”というのは霊感があるかどうかのことを聞かれたと思うのだ。別に同じタイプの人間と答えてもよかったのだが、この子の立ち位置が不明だったので濁しておいた。
というか、それを聞いてみることにした。
「妹ちゃんはお兄ちゃんと同じタイプの人間なの?」
「違います」
「あ、そうなの。陰の者なんだ……」
「インノモノ……? 多分違います」
「あ、そう」
どうやら霊感がないということらしい。
そもそも初っ端から兄さんと同じタイプの人間かと聞いてくるあたり、春待からなにかしらの話を聞いているのだろう。しかし確証がないからちょっと遠回りに聞いてみたといったところか。
ちらりと理央ちゃんの様子を伺う。
妙に大人びた少女である。あの少年のマインドを持った兄がいてどうしてこんなふうに育つのだろう。不思議である。
「ていうか、春待側の人間だったら何かあったの?」
「いえ、特には。聞いてみたかっただけです」
「ふーん」
「……兄は優しいですけど、あんなふうにたくさんの人に囲まれているのが不思議で……前は全然そんなことなかったのに」
理央ちゃんは遠い目をして言った。
そういえば辻村先輩は春待に出会う前まではかなり辛い日々を過ごしていたようだが、春待は特に聞いたことがない。だが、今の理央ちゃんの言葉から察するに孤立していたのだろう。
“兄の友達は霊に理解がある、すなわち霊感がある”と彼女は考えているのかもしれないが、この場には霊感のない人間の方が圧倒的に多い。みんな単純に春待のことが好きなのだ。きっかけは霊だったとしても。
「春待は無駄に善人だからね。これだけ多くの人を惹きつけるんだよ」
「そう、なんですか」
「好きでしょ? お兄ちゃんのこと」
「ええ!? べ、別にそんなことありませんけど!」
顔を赤らめて否定する姿はツンデレにしか見えなかった。
幸せモンだねー、なんて多くの人に囲まれている春待を見ながら安直に思ってしまうが、それに至るプロセスを知らないのであんまり簡単に言うものでもないのかもしれない。
否! 僕は今の春待しか見ていないのだから、今の春待を妬むのはごく自然と言える。ふざけやがってよぉ……どんだけの人を囲えば気が済むんだぁ? おぉ?
“客観的に見たらあなたも囲いの一人よね”
マジじゃん。僕も春待のことが好きだった……?
確かに嫉妬の対象ではあるが、嫌いというわけでもない。これこそ複雑なオトコゴコロというものだろう。
“なにかしら……寒気がするわね”
大丈夫? 僕の服羽織る?
“遠慮しておくわ。インキャがうつる”
うつらねーわ。
トリカとやいのやいのと言い合いしている一方で、理央ちゃんが居心地の悪そうな顔をしていた。考えてみれば妙なところで話を切ってしまった。お兄ちゃんLOVEな姿勢が透けたのを気にしているのかな? かわいいね。
さて、そろそろ直球で聞いてみようか。
「さっきは否定したけど、実は春待側の人間だよ。何か聞きたいことがあるんでしょ?」
僕の言葉に理央ちゃんは目を見張った。
「と、言うことは、やはり守谷さんも視える人であると……」
「そういうこと」
「……聞きたいことは、学校での兄のことです」
「学校で?」
理央ちゃんは固くうなずいた。
「高校に入ってからの兄は、妙に女の子を家に連れ込むことが増えたんです。今日だって、辻村先輩と犬井先輩と沖田先輩に加えて、さらに三人もいるじゃないですか。これは一体どういうことなんでしょうか。学校で何をしたらこんなことになるんでしょうか」
そんなこと僕に聞かれても困る。
しどろもどろになって答える。
「いや、あのね、それはさっきも言ったけど、無駄に善」
「守谷さんも霊が視える人なんですよね? 守谷さんも女の子に好かれる性質とかあったりします? 同じ立場の人だから、そういうこともわかるかなと思って……」
隣でトリカがずっと笑い続けている。
確かに魔力を認識できるという共通点はある。
しかし、別に僕の家に女の子が来ることはないし、囲いがこんなにたくさんいることもない。誕生日会が開かれることもない。え? もしかしてこの子、僕のことを馬鹿にするつもりでこんなことを聞いてる?
そんな邪推を抑え込みつつ、懇切丁寧に教えてあげる。
「……結論から言うとね。キミのお兄ちゃんがモテるだけ。霊絡みのことで女の子を助けて、それで好かれてるだけ。霊が視えるからって女を引き寄せる能力なんてものはない。人助けした結果ってだけ。しかも、あの女子たちが全てそうかといえば多分そんなこともない。霊とか関係なく惹かれてるヤツが多いってだけ。わかる?」
「そうなんですね……」
話しているうちに僕の中で何かが盛り上がってしまい、どんどんまくしたててしまう。
「あいつの凄いところはとんでもない口説き文句を無意識かつクリティカルに打ち込むところにあって、もう半分クリミナルだろって感じなんだよね。そうやって惚れさせておきながらそういう恋愛感情がないのが罪深いわけ。辻村先輩とか見たらわかると思うんだけど、あの人精一杯アピールしてるのに春待はそれを全スルーするわけ。生殺しってこういうのを言うんだって思ったね。もうね、さっさと誰かとくっついてくれれば今みたいな狂った男女比の誕生日にはならないわけ。だけど春待って男子にも嬉しい言葉を言ってきたりするから天然の人たらしなんだろうね。中学以前の春待は知らないけど、もし孤立してたならそれは霊感持ちという先入観があって、なおかつそれが全員に浸透していたからだと思うんだよね。多分公立でしょ? それでまあ高校に上がったら全員がそういう認識でもないし、精神も多少は成長してるだろうから、霊感よりも人柄に惹かれるやつは多いんじゃないかな。だから現状の多くの人に囲まれる春待っていうのは必然というか、別に敵意や悪意を持って集まってきてるわけじゃないから妹ちゃんは安心して大丈夫だと思うよ。まあ、僕は春待に対して異常な嫉妬心があるから、唯一僕だけ悪意を持ってここにいるのかな。とはいえ害をなすようなことはしないけどね。真っ当な人間だと自負してるからね。わかる?」
「は、はい。わかりました。すみません、私そろそろ失礼します。ありがとうございました」
理央ちゃんは席を立ち、そそくさと食堂を出ていった。
トリカがめちゃくちゃ冷めた目で見てくる。
「あんなおとなしい女の子を怯えさせる人間は真っ当なのかしら」
真っ当じゃねえだろ。今から追いかけて泣いて詫びよっか。
「先週見たホラー映画よりも怖いわね。これが本当の異常者なんだわ」
くっくっくっ。やっぱ女の子の怯える顔を見るのは最高なわけ。わかるか?
「まあ、怯えるというよりは気持ち悪がられたけどね」
そうね。
はぁ、とため息をついていると、誕生日会は次のフェーズへと移行するようだった。




