かき氷 前編
「トリカー。今日の昼はそうめんな」
「ええ。……そうめんってラーメンよりおいしい?」
「どうかな?」
現在、土曜日の正午。
両親は出かけており、弟は部活に精を出している。家の中にいるのは怠惰を極めたような僕と、ソファで優雅にくつろぐトリカしかいない。
こういうときにはトリカと一緒に飯を食べる。僕が作れる料理のレパートリーは硬派なラーメン屋のメニュー並みに少ないが、トリカは文句を言わずに食べてくれる。
大きめの鍋で水を沸騰させ、そうめんの束をばらけさせながら入れる。
「細いのね」
いつのまにか僕の背後に浮遊しているトリカが、茹でられるそうめんを見ながら言った。
「そう。それに冷たくて食べやすいから、夏はこれが多くなりがち。そうめん連投の地獄ローテね」
「ふぅん。私の世界にもそういうのあるわね。暑い季節はヒカスラ地獄、寒い季節はとりあえずアンハイみたいな」
「ヒカスラってなに?」
「鳥の名前。暑い時期になると大量に来るのよ。おいしいからいいんだけどね」
「へぇ~。ちなみにアロヴィロフは?」
「あ、吹きこぼれるわよ」
「うわわわ!」
慌てて火力を下げる。
指定されている茹で時間より気持ち短めに切り上げて、ザルに移す。冷水で洗ってはい完成。
テーブルにはそうめんとめんつゆと希釈用の水が並べてある。あとひとつの薬味。
トリカはめんつゆのボトルをまじまじと眺めていた。
「これは醤油ではないのよね?」
「うん。醤油を甘くしたようなやつ。これをお椀に入れて水で薄める」
「ふぅん」
トリカはめんつゆの蓋を開けてお椀に注ぐ。透明なガラスの入れ物はうちにはない。あれちょっと憧れる。
「あ、もうそんくらいでいい。うん、オーケー」
「水はこれくらいでいい?」
「うん。ベスト」
「味見もしてないのにいい加減なこと言ってるわね」
「はははっ、食べてから微調整だよ」
僕も自分のつゆをテキトーに作り、そうめんを入れる。
「はい、いただきます」
「いただきます」
ふたりで挨拶をして、そうめんをすすった。
普通にうまい。安いそうめんだが、麺を茹ですぎなければコシ的なものもある。
向かいのトリカを見ると、大して使う機会のない箸をきれいに使って、ちゅるちゅるとそうめんをすすっていた。
「どうトリカ? うまい?」
「ええ。結構好きな味だわ」
「めんつゆが?」
「そう」
確かにめんつゆはうまい。正直、そうめんはめんつゆを味わうためのものだとすら思っている。刺し身における醤油もそうだし、お好み焼きのお好みソースもそうだ。僕は調味料大好き人間である。
「私はそこまで極端じゃないわよ」
「えぇ? 僕らって仲間じゃなかったの?」
「大切なパートナーだけど、ここは明確に線を引かせてもらうわ」
トリカはいたずらっぽい笑みを浮かべて言った。
さて、めんつゆがうまいのは間違いないが、ずっと同じ味というのも飽きる。特にそうめんはそれが顕著だ。
そのために薬味がある。
「ネギとかみょうがとか入れるとうまいよ。まあ、今日はネギしかないけど」
「ふぅん。そうなのね」
そうして食事をしながら午後は何をしようかなと思案する。
目下のところは夏休みの宿題をこなすのが最善だと思うが、いかんせんやる気はない。かといって無為に過ごすのもよくない。やはり宿題か。
ちらっとトリカの顔を窺う。
トリカは指輪に封印されていることもあって、僕が指輪を持たないと移動ができない。そして僕は出不精な人間である。つまり、トリカは死ぬほど退屈なんじゃないかと思うのだ。
そういう懸念は結構前からあって、だから出不精な人間の割にはここ数ヶ月は外出が増えてはいるのだ。映画を映画館に観に行ったり、モロたちとゲーセンに行ってみたり、ちょっと公園を散歩してみたり。
それでも毎日というわけにもいかない。せいぜい週一レベルのものだ。
……こう振り返ってみると、まるで女と付き合っている男みたいな行動だ。飽きられないように嫌われないように定期的にデートをするやつのそれである。
もちろん僕はそういう意図があってしているわけではない。トリカのストレス軽減、気晴らし、娯楽、そんなイメージだ。なお、効果を発揮しているかは不明。
「ちゃんと楽しんでるから大丈夫よ。アキラの愛をたっぷり感じてる」
それには反応せずそうめんをすする。
愛ではない。僕の保身である。トリカの不満が爆発したら僕の身が危ない。
まあ、トリカとの行動が楽しかったりするのは否定できないけどぉ。
「そういう気持ちでいてくれたほうが私は嬉しいわね。私のご機嫌取りじゃなくて、アキラが私と遊びたいと思ってくれる方が」
トリカは柔らかな笑みを浮かべて言った。
確かにご機嫌取りで交遊されてもトリカとしてはいい気分じゃないよな。
……でもまあ、それだけじゃないことくらいトリカならわかるだろ。
「ええ、もちろんわかってるつもりよ。つまり、あなたは愛情たっぷりで私に接してくれてるってことよね?」
「友情くらいにしといてよ。なんで露骨に重くするのさ」
「こっちの世界で好きな言葉ができたの。“大は小を兼ねる”……友情も愛よね?」
「凄い。感情にその言葉を当てはめるやつ初めて見た」
基本的には物に使う言葉だと思うんだよな。僕も好きな言葉だけど。
ともあれ、現状ではトリカもそこまで不満を抱えている様子はない。いや正確に言えば、不満を抱えている様子はないように見える。
「……なんかあったら言ってくれな。僕そういうの全然気付かないタイプだから」
「ええ」
そのトリカの返事で、この話題は終わった。
「ごちそうさん」
「ごちそうさまでした」
そうめんを食べ終えて流しに食器を置いていると、なんだか甘いものを食べたい気分になってきた。
「……よし、そろそろあれを使うか」
僕がぼそっと呟くと、同様に食器を流しに入れていたトリカが目を輝かせた。
「氷?」
「そう。ちょっと準備するから待っててくれ」
「楽しみだわ」
以前、倫さんたちと海にいったときにトリカがかき氷に興味を示していたので、そのうち自分でつくろうと思っていたのだ。
数日前からかき氷用の氷も凍らせているし、シロップも購入済みなのだ。こんな暑い日に食わずしていつ食う。
「毎日暑いじゃない」
「ははは、それはそう」
トリカの突っ込みに笑いつつ、手動のかき氷機を棚から取り出す。トリカはリビングのソファに腰掛けて本を読み始めていた。僕が勧めた推理小説かな。
冷凍庫から氷を取り出そうとしたところでふと思い立つ。
「どうせなら月子も呼ぶか」
「やめなさい!!」
トリカがソファから大きな声で制止してきた。あんまりにも鋭い声だったので、僕は慌ててトリカのもとに向かう。
「なんで? なにかまずいことでもあるの?」
月子を呼んではいけないやんごとなき事情とはなんだろう。
トリカは本に目を向けたままいたって真剣な顔で言う。
「私の取り分が減る」
「……」
なんて食い意地の張ったやつだ。心配した僕が馬鹿みたいではないか。
というか、こういう会話をしている時点で月子なら飛んでくるものかと思ったが、そんなことはないらしい。
よし、ならば“喚んで”みよう。
僕はリビングの中央に立ち、両手を広げた。
「我が呼び声に応じよ! 潮騒響く社に宿りし金髪金眼の神“満月の大妖狐”月子――!!」
……。
…………。
セミの鳴き声、顔を本で覆うトリカ、心臓の音が聞こえる僕。
時が止まったかと思った。もう恥ずかしすぎて死にたい。
「うふふふふっ! アキラのそういうところ本っ当に面白くて大好きよ」
「……楽しんでもらえましたか?」
「ふふっ、ええ、こっちの世界に来て以来最も笑った出来事だわ。ふふふ、あははははっ!」
僕は顔を真っ赤にしてトリカの笑い声を聞いていた。
いたたまれなくなり台所に引っ込もうとすると、月子が突然音もなくリビングに現れた。
今日は夏らしく青を貴重とした薄手の着物を着ていた。金髪と着物のマッチがなんだか海外の観光客を思い出す。
いつもは堂々とした態度の月子だが、今は気まずい顔をしている。
そして開口一番、謝罪した。
「すまぬ。声は届いておったのじゃが、妙に仰々しい口上で呼ばれたのでな……少し出てくるのを躊躇してしまったのじゃ。陽に恥を、くふっ、恥をかかせてしまって、すまんな」
「最後までシリアス顔を貫いてくれよ」
「くふふふふっ! あれほど無音の間が心地よいと思ったことはないのじゃ。ほほほほ!」
僕はさらに顔を赤くして月子の笑い声を聞いていた。
これじゃあ魔法使いと狐じゃなくて鬼と悪魔だよ。それも陰湿な。
「くふふふふ! そう拗ねるでない陽よ。少し出てくるのに時間が掛かっただけじゃろ?」
「そうだね。僕が変な喚び方をしたのが悪いよね」
「変な喚び方などとは思っておらんよ。じゃから、もう一度だけ聞かせてくれんか? すこぶる達者な口上だったと思うのじゃ」
「ええ、私もまた聞きたいわ」
「……あれ、なんか僕も心を読めるようになった。ふたりとも僕を馬鹿にしようとしてるだろ」
「はて?」
「なんのことかしら」
すっとぼけた顔をした二人をにらみつけるが、ずっとすっとぼけた顔をしていた。メンタルの強さが違う。
そういえばミカがいないな。どうせだから妖怪を一同に集めてかき氷を食べようじゃないか。
トリカに尋ねる。
「なあ、ミカってどこにいる?」
「さあ。ユリの家じゃないの?」
吉岡さんの家、あるいはその近辺にいるならちょっと出ていこうか。近所だし。
そんな思考に月子が反応した。
「ミカとはあの黒猫のことじゃな? わしと同じように喚んでみたらどうじゃ?」
「我が家を仮宿にしている黒猫ミカ、今ここにいでよ――!」
「ほほほほほ!」
月子のゲラ笑いを聞きながら玄関の方に向かう。Tシャツにハーフパンツというラフすぎる格好だが、誰に会うわけでもないしこれでいいだろ。
サンダルをつっかけて外に出ようとすると、トリカに呼び止められる。
「指輪は?」
「まあ、すぐそこだし大丈夫だよ」
指輪は僕の部屋にあるが、取りに戻るのも面倒だ。
玄関の扉を開けたところで、月子がいつの間にか僕のすぐそばにいた。
「わしがついていこう」
「え、別に大丈夫だよ」
「万が一ということもあるじゃろ」
「なんか悪いなぁ。お客さんなのに」
「友達なら当たり前、じゃろ?」
「それめっちゃ古くない?」
二人で家を出て、カンカン照りの中を歩き出す。
いくら化け猫といえど、この炎天下で日向にいるとは思えない。日陰に注意しながら吉岡さん家方向に向かおう。
ふと隣に目をやると、月子がいつの間にか赤い和傘を差していた。
「雅だねぇ」
「そうかの? ただ眩しいのが嫌なだけなんじゃが。陽も入るか?」
和傘を傾けて少し顔を覗かせる月子である。その顔には挑発的な笑みが浮かべられていた。
「日傘で相合い傘ってやばいね。いまだかつて見たことない」
「ほほほほ、わしのことは見えんからそうはならんじゃろ」
「あ、たしかに」
だからといって入ろうとは思わない。月子が和傘を差している姿を傍から眺めるのがいいのだ。
「くふふ、わしは陽と相合い傘してみたいがの」
「綺麗な絵に不純物が入って最悪だよ」
軽く笑って言うと、月子が真剣な目を向けてきたので面食らう。
「陽よ、そう自分を貶めるでない。そこはお主の悪いところじゃ」
「えぇ? 貶めるっていうか事実」
「事実ではない。陽のどこが不純物なんじゃ?」
食い気味に否定された。いや否定してくれた。
しかし意見は変えない。
「見たまんまみすぼらしい人間だと思うけど?」
「わしはそうは思わん。無闇に卑屈になるでないよ」
月子って優しいんだなと思った。
ただ、そう簡単に自分の意識を変えられるなら苦労はしない。
というか普段めちゃくちゃからかってくるのにそれはおかしくないか?
「わしらがからかいすぎて陽から自信が失われているんじゃないかと思ったのじゃ。あくまで冗談じゃぞと」
「ありがたいねぇ」
「ほれ、またそうやって上辺の返事をする」
「いや、気持ちはありがたいと思ってるよ本当に。ありがたやありがたや」
「……それならいいがの」
そもそも僕には自信がある。自分のしょぼさに自信がある。ある意味ぶれない芯がある。
月子が溜息をついた。
「それを卑屈というのじゃ」
「それなら月子は安心してほしいんだけど、月子やトリカと出会う前からこんな性格だから。からかわれすぎて自信喪失ってのはないから気にしなくていいよ」
「ほほ、ならばわしが矯正してやるのじゃ。色男にな」
「うわー、めちゃくちゃいい女じゃん。やっぱ妖狐ってそういうとこあるのかな」
「わしが特別なんじゃ」
得意げに胸を張る月子である。こいつ可愛すぎるな。
とはいえ僕にそんな労力を費やすくらいなら、参拝客に還元してあげてほしいところである。
それから他愛のない話をしつつ歩いていると、吉岡さんの家が見えてくる。彼女と会うわけでもないのに少し緊張してしまうのは初恋のせいか。
その思考に月子が反応してくる。
「前に写真を送った娘じゃな? 可愛いのか?」
「僕の主観だと可愛い」
「まどろっこしい言い方じゃのー。わしが見たら醜いのか?」
「極端すぎるだろ」
「わしとどちらが好みじゃ」
「吉岡さん」
「なんじゃと!」
不満そうな声を上げる月子だが、しょうがないじゃん。
吉岡さん家の植え込みの影に黒いものが見えた。ミカだ。
万が一、吉岡さんの妹の美咲ちゃんに聞かれたらまずいので、気持ち小声で呼びかける。
「おーい、ミカー」
すると、ぴくんとミカの耳が反応する。
そして立ち上がりこちらに歩いてきた。
「アキラ、どうしたの? ツキコも」
「今からかき氷作るんだけど、ミカも食べるかなって」
「食べる!」
そう言って僕の身体を駆け上がってきた。目の前が真っ暗になった。
顔に張り付いたミカを剥がして抱きかかえる。
「ほんと食欲旺盛だよな。氷食っても大丈夫なの? 猫ってそんなに水飲まないらしいじゃん」
「だからもう猫じゃないって言ってるでしょ。アキラってバカなの?」
「天才だよ? だってかき氷作れるし、ミカ以外の」
「わー! アキラ、テンサイ! テンサイだからわたしの分も!」
「そこまで言われちゃしょうがないなぁ」
へっへっへと笑ってミカの顎の下を揉む。
そうしながら自分の家に戻ろうとすると、ミカが素っ頓狂な声を上げた。
「ユリは?」
「え?」
「ユリは呼ばないの?」
ユリとは吉岡祐里さんのことか? どうして僕のような雑魚が吉岡さんを呼べるのだ?
「いやー、吉岡さんは忙しいんじゃない?」
「ううん、今は暇そうだったよ。『ひまだー』ってゴロゴロしながら言ってたし」
うわーそれ見たすぎるー! 家で完全リラックス状態の吉岡さんなんてレアすぎるー!
僕が密かに興奮していると、月子がにやにやしながら言ってくる。
「わしも是非とも見てみたいの。陽がわしよりも好みだとのたまう女の顔を」
「そんなこと言われて会わせたいと思う奴いる?」
「ほほほほ、冗談じゃ。単純に陽の初恋の女が気になるのじゃ」
しかしねー、みんながいるとはいえ仮にも男の家である。吉岡さんも流石に気まずいんじゃなかろうか。当然僕も気まずいし。
というか呼ぶ口実がかき氷っていうのも弱いよな。かき氷て。
「無理だ無理。僕には無理。帰ろ」
「やだ、ユリも一緒がいいっ」
ミカが駄々をこねたかと思えば、僕の腕から脱出した。
そしてぴょんと塀の上に一足飛びである
「ユリを呼ぶまでここから動かない」
「そうですか、じゃあさよなら」
軽く切り捨てようとすると、ミカが塀の上からジャンプして僕の顔に覆いかぶさった。またか!
「いたたたた! 爪が食い込んどる!」
「ユリを呼ばないと離さないよ!」
「わかったわかった!」
僕が慌てて了承すると、覆いかぶさっていたミカが地面に降り立つ。アスファルトが熱かったようで、すぐさま僕の肩に駆け上がってきた。
爪が食い込んだ頭をさすりつつ、スマホを取り出した。
「じゃあ一応誘ってみるけど、断られたら諦めろよ?」
「うん」
スマホをタップし、無料通話アプリを立ち上げる。
画面上には吉岡祐里という名前が表示されている。この電話のマークをタップしたら最後、電波を通じて僕らはつながってしまう。果たして僕は吉岡さんをスマートに誘うことができるのか?
「早く押したらどうじゃ?」
「アキラ、早く」
月子とミカが急かしてくる。
そんな二人に僕は憤る。
「だまらっしゃい! こちらから女子を誘うなど乾坤一擲の大勝負であるぞ!」
「何を言っとるのじゃ。ほれ、押してやったぞ」
月子が無慈悲にタップした。
「ああっ、なんてことを!」
「背中を押してやっただけのことじゃ」
月子は呆れた顔をしていた。
数回の呼び出し音がして、少し沈黙。
『はい。どうしました? 守谷さん』
なんかスマホから心地よいアルトボイスが流れてきた。え、なにこれ文明すご……。
「あ、もしもし、真っ昼間にすみません。掛け直します」
『大丈夫ですよ!? ふふ、お昼でだめだったらいつ掛けるんですか』
動転した僕にも優しくしてくれる吉岡さんこそが女神である。
『それで、どうしました? トリカさんの服についてですか?』
「ではなくて、あのー、今からうちで大かき氷パーティーを開催する予定なんだよね」
『わー、楽しそうですね』
「ええ、それでミカが吉岡さんも来てほしいと。トリカも色々話したいということで」
トリカについては捏造だが、今は許して。
『そう、ですねー。ちょっと、待ってください』
「あ、無理な場合は全然に気にしなくて大丈夫だから。いやミカにちゃんと言ったんだけどね? 吉岡さんは僕と違って暇じゃないから無理だよって。それに女子は準備に一週間掛かるから急に誘ったって無理だよって。でもミカってやっぱり人間事情に疎いから、そういうことがわからないんだよね。だから予定がある場合は僕がミカに言って聞かせますから大丈夫なんで、どうかお気になさらず。ね?」
「陽よ。ちょっと躊躇われたからって矢継ぎ早に取り繕うのはどうかと思うのじゃ」
だって言葉が止まらないんだもの。この気持ち、止められないんだもの。
「アキラださい。めちゃくちゃわたしのせいにしてくる」
確かにだいぶミカに責任転嫁してて印象悪いけど、実際ミカのせいだろ。
というかミカをダシにして吉岡さんを誘った男みたいに思われたらどうしよう。それこそ最悪ではないか。
悪い想像を膨らませまくっていると、吉岡さんの声が戻ってくる。
『あの、私行きたいです! ですけど準備があるので、一時間ほど頂いても良いですか?』
「それはもちろん、三時間でも三日でも」
『ですから一時間ですって。では、一時間後に伺います』
「あれ、僕の家わかる?」
『はい、知ってますよ』
そうなんだ。なんかちょっと嬉しいかも。
「じゃあミカとトリカと月子と待ってるんで、ゆっくり来てねー」
『はーい、失礼します』
そして通話を切る。
「あー緊張した! 疲れた!」
「アキラ、汗すごい」
「ほほほ、下着まで湿ってそうじゃな」
ミカと月子はまったく緊張感がない様子だ。当たり前か。
家に向かって歩きだしながら、しみじみと思う。
「いやー、まさか本当に来てくれることになるとは思わなかったなぁ」
「だから暇だって言ったでしょ」
僕の耳元でミカが得意げに言った。
「暇だからって必ずOKしてくれるわけでもないんだよ? 僕も前にめちゃくちゃ暇だけど先輩の誘いを断ろうとしたし」
「それはアキラの性格が悪いからだよね」
「辛辣だよこの猫」
ミカの発言に苦い顔をしていると、月子がしたり顔で言う。
「うむ。暇だからといって無関心な人間と付き合う愚か者もいまい。とどのつまり、その吉岡なるものは陽に好意を抱いているということじゃな」
「月子さー、それは恋愛脳がすぎるよ」
「なんじゃと!?」
おそらくトリカとミカがいるから誘いを受けてくれたのだと思う。というかそれ以外に思い当たる理由はない。
しかし、意外な角度からミカが切り込んできた。
「たぶん、ユリはかき氷が大好きなんだと思う。それが一番の理由だと思う」
「……マジぃ?」
にわかには信じがたいが、可能性としてはゼロじゃない。ずっと一緒に暮らしていたミカが言うのだから、信頼性としてはそこそこ高いものがある。
……マジぃ?




