スイートガール月子 前編
エアコンが程よく利いているリビングで、僕とトリカとミカは仲良くソファに座っていた。お昼前ののんびりとした空間に情報番組の音が流れている。
『今回は今話題沸騰中のとあるスイーツを食べに行きたいと思います――!』
テレビの中の若い女性タレントが元気いっぱいに宣言していた。ぼんやりロケの模様を眺めていると、その話題のスイーツが登場する。
「変な色……。おいしいの? これ」
「どうだろね」
食べたことがないのでミカの質問には答えられなかった。
そのスイーツはインスタ映えを意識したもののようで、へんてこな見た目をしていた。これは僕の個人的な意見だが、そういうものに限って特段おいしそうとも思わないのだ。なんでもかんでも話題になりゃいいってもんじゃないと、インスタに興味のない僕は冷ややかな目で見ていた。
ところで僕はインスタというサイトを見たことがないのだが、本当に自撮りをアップしている一般人って存在しているの? 有名人はわかるのだ。しかし一般人も上げているとなると、それは相当の自信に満ち溢れている人間だなと思うのだ。僕のような人間とは相反する人間と言えるだろう。もちろん客観的に見て僕の方が雑魚であることは明白である。凄いよなぁ、自撮りなんて一生上げないだろうし、なんなら撮ることもないだろうな。でも自撮りやってるやつは絶対ナルシストの一面あると思う。多分やばいと思う。
そんなことを考えていると、隣から声が飛んできた。
「そういえば、月子がスイーツを要求したのよね?」
足を組んで優雅に座っているトリカが、僕の陰思考には触れずに言った。
先日、倫さんたちと遊びに行った際、月子には廃病院で助けてもらった。その見返りにスイーツを希望されたのである。
和菓子ではなく洋菓子が良いと言っていたので、頭の片隅でゆるーくそれを意識しながら日々を過ごしていたのだが、僕がスイーツに興味がないこともあり、「これじゃん……!」と思うものが見つからないまま今に至っている。
あんまり遅くなると呼ばれてもいないのに月子が出てきそうだ。そうなる前にこちらから呼び出してあげるべきだろう。待っていないとは思うが、もし膝を抱えて待っていたら可哀想だ。
「全く待っておらんぞ。わっぱじゃあるまいし」
家の中に突然月子が現れた。僕はソファの上でのけぞり、膝に乗っていたミカはどこかへ逃げていった。
こんな真夏のときでも着物纏う月子は、僕の前に仁王立ちして無表情で言う。
「わしは長い年月を生きる妖狐じゃぞ? よもやこんな数日を待ち遠しく思うなど、あるわけなかろ? ん?」
「で、ですよね」
そして月子は右足をソファに乗せ、僕の左肩に右手を置きながらぐっと顔を近づけてくる。その顔はやはり無表情だった。
「まあ、まともな人間なら二日と経たずに連絡を入れるものかと思ったがの。あれだけわしに感謝していたならなおのことじゃ。しかし不思議じゃのう。なぜだかもう五日も経っておる」
「あの、」
「あの夜わしに信仰心が高まってると言ったのは嘘じゃったということかの。悲しいが、今の世の中ならそれが普通なのかもしれんな。神にしろ妖にしろ人には見えておらんのじゃから。おや? ときに陽はわしと目が合うようじゃな?」
月子は切れ長の目で僕の目を射抜くように睨んでくる。その金色の目を見ると、人ならざるものだということを強く意識させられた。
僕はソファの上で限界までのけぞりながら必死に謝罪しようとする。
「ごめ、んむっ!」
しかし、その謝罪はトリカの手によって塞がれた。
トリカはもう片方の手で月子を押し戻し、目線を台所に向けた。
「サトミがいるわよ」
聡美とは僕の母親のことである。
うっかりしていた。いきなり虚空に向けて謝罪するヤバいやつになるところだった。
リビングでは話しにくいので、僕の部屋に移動しよう。
その声なき提案に月子も同意したようで、僕の手を引っ張って無理やりソファから立たせようとしてくる。わかったわかった。
僕のベッドの上に金髪の少女と銀髪の少女が座っていて、部屋の主である僕は床に座っている。男のベッドなんか座るもんじゃないよと言ったが、「私は別に気にしないわ」「わしがそんな些細なことを気にするような女に見えるのか?」と言われてしまった。この二人に慣れると、普通の女を家に呼んだときに支障が出そうで怖いよな、と思った。
普通の女を家に招く機会なんてあるのかしら? はい牽制成功。
「ふふふふっ、牽制が早すぎて笑っちゃったわ」
「陽の苦労が窺えるの……」
月子の同情的な物言いに少し救われた気持ちになる。やっぱり月子はトリカと違って優しいよな。
私の方が明らかに寛容で優しいと思うけど? はい牽制成功。
「あなた……まるで私の考えていることが読めるみたいね。これが以心伝心ってことなのかしら」
トリカがにやにやしながら白々しいことをのたまう。こんなものは傾向と対策である。
とはいえトリカが寛容というのは事実だ。僕の日頃の陰的思考を覗き続けてなお普通に接してくるのだから、その器の大きさは計り知れない。多分、僕の三倍以上は生きてると見た。
だからこそ、食に対する器の小ささに驚く。
「前から思っておったが、二人は仲が良いんじゃな」
月子が感心したようにつぶやいた。
「悪いよりは良いに越したことはないよね」
僕がそう言うと、そうじゃなと月子は苦笑いした。そんな様子が見た目の幼さに反して年季を感じさせる。
その月子からこれから小言をいただくのかと思うと気が重くなる。
「ほほほ、さっきのは冗談じゃ。いやなに、冗談を言える相手がおること、わしはそれが嬉しいのじゃ」
月子は穏やかな顔でそう言った。そこに少しの寂しさを感じた。
「そっか。……そんなに視える人って少ないの?」
「うむ。もう亡くなったが、前の宮司は気配くらいは感じ取れるようじゃった。調子がいいとわしのことが見えたようじゃの」
「調子の良し悪しがあるのか」
「ちなみにわしの名付け親じゃ」
「へー! そうなんだ!」
月子という名前は初めて聞いたときから素敵だなと思っていた。
その宮司の調子が良かった日はちょうど満月の夜だったようで、月明かりに照らされる金色の狐がまさに月から舞い降りたかのように美しかったことから、月子と名付けられたそうだ。
「そのときは狐の姿だったんだ」
「うむ。化ける必要もなかったのでな」
オスだったら、とその宮司は考えなかったのかな? これが渡辺先輩だったら安定進行で中性的な名前をつけたに違いない。安定進行ってなんだよ。
「ちなみに今も狐になれるの?」
「見たいのか?」
「見たい」
「仕方ないのう。ほれ」
ぼん! という音とともに少女の姿は消え、中型犬くらいの狐の姿となって現れた。
「うわぁ、かわいー」
「ほほ、めろめろか?」
「うわ! 喋ったらなんか違う」
「ワンワン!」
「かわいー。常に家にいてほしいくらいだ……」
その感想を言った直後、ベッド上には着物を着た金髪の少女がいた。
「それほどまでにわしのことを好いておったとはの」
「いやちげーわ。あなたはどちらさま?」
「月子様じゃ! ほれ、この尻尾を見よ!」
「ふわぁ、しっぽかわいー。なんかよくわかんない女にめっちゃ可愛いしっぽついてるー」
「よくわかんない女じゃと!?」
狐はイヌ科だったと思うが、顔は猫っぽいよなと思った。いわばハイブリッドだな。
僕と月子がわいわいやっていると、トリカが話を戻す。
「で、あなたは何しに来たの?」
話を振られた月子はにこっと笑った。
「遊びに来たのじゃ。今日は参拝客が少ないようでな」
「こんだけ暑けりゃ昼間は避けるかもなぁ」
「しかも平日じゃ。そうなればわしは暇になる」
学生は夏休みだが、社会人は違う。
「物好きな爺婆が来ないこともないが、そのときはわしの子分が知らせてくれる」
「子分?」
僕が聞くと、月子はあたりを見回した。
「陽の家にも黒猫がおったじゃろ。わしの神社にも猫が住み着いておってな。参拝客が来たらその猫につけとる鈴が鳴るのじゃ」
「その猫が呼び鈴ってこと?」
「そうじゃな。世の中には賽銭箱のところに鈴をつけとる神社もあるようじゃが、わしのところにはないからの」
「そういえばなかったね」
さて、月子は遊びに来たということだが、特別うちで何かできることもない。ただこうして話しているだけでいいなら構わないのだが、せっかくだしどこかに出かけようか。出先でスイーツについてもクリアできるだろう。
その思考に月子が目を光らせる。
「くふふ、でーとじゃな」
「そうかなぁ」
「トリカは留守番を頼むぞ」
言葉を向けられたトリカは、ふっと笑った。
「用心棒の私が家で留守番なんておかしな話でしょう? アキラ? なにしてるの?」
指輪を机の引き出しにしまおうとしているところを見咎められた。もちろん冗談である。
ボディバッグに指輪や財布を入れて部屋を出ようとすると、トリカに少し待っているように言われる。
「ユリからもらった服を着ていくことにするわ。デートだものね」
実体化するの? ちょっと気が重くなってきた。
というか、家の中を実体化して通ったらお母さんにバレるのでは?
「そこはうまくやるわ」
気が気じゃないので部屋の外でトリカが着替え終わるのを待って、一緒に外に出た。結構危なかった。
◇◇◇
家を出た瞬間、むわっと熱気が肌を撫でる。高温多湿な日本の夏といった感じだ。
相も変わらずセミは鳴いていて、聴覚でも暑さを感じさせてくる。太陽に照らされたアスファルトの道は靴越しでも熱を感じそうな気がする。
そんなふうに暑気に辟易している一方で、着物を着た妖狐と得体の知れない銀髪少女は涼しい顔をしていた。このときばかりは僕も霊体になりたいと思った。
「トリカはわかるけど、なんで月子は平気なの? 見るからに暑そうなのに」
「月子様じゃからじゃ」
月子様だからか……。
暑さを和らげるように力を使っているってことなのかな。
「そういうことじゃ。ちなみにわしも見えるようになっておるからの。よろしく頼むぞ」
そう言ってバチッとウィンクをかます月子。
「マジ!? どうりでさっき信号待ちの車の中の人がこっちを見てたわけだ」
「それはトリカがおる時点で変わらぬことじゃろ」
「二人も変なのがいたらやっぱ目立つよ」
「変なのじゃと!?」
「聞き捨てならないわね」
トリカと月子がじろりと見てくる。
「……つまり、二人も美少女がいたら目立つでしょ、ってことです」
その回答に満足そうな顔をする二人である。
心を読めるくせにこういう言葉に満足するのはちょっとよくわからない。ちょろいってことなのかな?
その思考に月子がにやりと笑う。
「ふふ、今の言葉が丸っきり嘘じゃないとわかっておるからじゃ」
「なるほどね」
これ以上この件に触れるのはバツが悪いので、思考を切り替える。
「こう暑いと冷たいもんが食べたいよな」
誰にともなくつぶやくと、隣を歩く月子が同意した。
「もうかき氷の季節じゃな」
「だなー。月子は宇治金時とか食べてそう」
「うむ。近所に和菓子屋があるのじゃ」
そういえばスイーツは洋のものをご所望とのことだった。今の話を聞くと、月子は近所の和菓子屋に出入りしているらしい。
「それは人の姿で食べに行ってるの?」
僕の質問に月子がじろりと見上げてきた。
「当たり前じゃろ……。狐に和菓子を食わせる人間がおると思うか?」
「すみません。浅はかでした……」
ということは、月子は神社周辺の人間には認知されているのだろうか。着物を着た謎の金髪少女として。
その思考に月子が反応する。
「わしは妖狐じゃぞ? もっと平凡な人間の姿にも化けられるのじゃ」
「そうなんだ。じゃあその金髪の姿はなんなの?」
「単純にわしが“人”に化けようと思ったときはこの姿になる。……んーむ、わしの言いたいことわかるか?」
「えっと、意識して金髪の少女になろうとしているわけではなく、人に化けた結果そうなったってこと?」
「うむ! そういうことじゃな」
つまり、月子のデフォルト人間設定が金髪少女の姿なのだろう。意識的に別の人間の姿にも変えることができると。
「ちなみにどういう姿で和菓子屋には行くの?」
僕が質問すると、月子は周囲を見回した。通りから脇道にそれたので車も通らなければ近くに人もいない。
「こうじゃな」
ぼん、という音とともに少女の姿は消え、くたびれたおっさんが現れた。
短髪で少し白髪が見え隠れする無精髭を生やした見事なおっさんだ。少しよれたシャツなど哀愁すら感じる。
「え……。月子?」
「紛れもなくわしが月子じゃ」
自信満々におっさんが言う。声も中年男性のそれになっていた。
月子はこれが世を忍ぶ仮の姿としてもっとも適切だと判断したのだろうか。まあ、確かに現代社会においてはありふれたおっさんである。特別他人の気を引くこともないだろう。
その思考に月子は苦笑する。
「若い女に時折嫌悪の目を向けられるがの」
「悲しいね……」
ともあれ、月子が和菓子に馴染みがある理由はわかった。
それにしても姿を自在に変えられるなら、このおっさんの姿でいてもらったほうが僕にとっては都合が良いかもしれない。金髪着物少女よりは明らかに自然だし、僕としても対応が楽だ。
その思考におっさんが眉をひそめた。
「わしとて女じゃ。陽に中年として扱われるのも見られるのもごめんじゃ」
「そんなつもりはないよ? 見た目おじさんでも月子は月子だし」
「ほう? ならばわしが迷わぬように手を引いてくれるか?」
「それは無理。きっしょ。おえ」
「おい! 中年として見ておるじゃろが!」
ぼん、という音がして、見慣れた月子の姿が現れる。その顔はわかりやすく怒っていた。
僕は猫なで声でご機嫌を伺う。
「月子さぁん。冗談じゃないっすかぁ」
「トリカよ、この男は確かに性格が悪いようじゃの」
「だから言ったでしょうに」
そうこうしているうちに駅の近くまで歩いてきてしまった。ここまで来たからには繁華街まで足を伸ばそうか。
◇◇◇
「陽よ、絶対にわしから離れるでないぞ」
「おー」
月子は初めて乗る電車にビクビクしていた。
長生きはしているようだが、こういう人間の世界にはあまり足を踏み入れていなかったようである。僕の右腕を掴んで離してくれない。
ミカも初めて電車に乗ったときはちょっと怖がっていたことを思い出す。ただ、それはどちらかと言うと電車ではなく乗客にビビっていたようだった。月子は逆だ。
「そんなことはない。どうにも見られているような気がするのじゃ」
月子はちらっと目線を上げて周りの乗客を見た。
いやそりゃ見るだろ。着物は目立つ。
だからできることなら僕もこの場を離れて、遠くからトリカと月子を見ている立場にいたかった。
その思考に月子が小声で忠告してくる。
「お主のその我関せずな姿勢は改めたほうが良い。さもなくばわしの加護を失うことになるぞ」
「事なかれ主義なだけです」
「同じようなものじゃろ」
言葉は強気だが、うつむき加減な姿勢を見ると可愛いなと思ってしまう。
その月子の向こうに座っているトリカが嘲笑した。
「ふふ、そんなに怖いなら神社に戻った方がいいんじゃないかしら」
「おのれ……! わしを見くびるなよ」
「それならアキラの腕を離してあげたら? 手首から先が壊死しちゃうわ」
どんだけ強く掴まれてんだ僕の腕は。
そのトリカの言葉に絶望したような顔をする月子である。
「トリカもあんまからかうなって」
「からかってなんかないわぁ。真っ当なアドバイスをしたまでよ」
ねっとりとした口調でトリカは言う。からかってるじゃん。
月子はぐぬぬと唸るが、何も言い返さなかった。
月子とトリカがバチバチなのを除けば、車内は快適だった。エアコンがすこぶる効果を発揮していて涼しい。
……それにしても意外だったのは、月子が財布を持っていたことだ。この電車に乗る際、切符代がかさむなぁなどと思っていたのだが、月子はどこからかがま口を取り出して僕に渡してきたのだ。「わしは機械については門外漢じゃ。必要なら使っておくれ」と言われたので、そのがま口に入っていたお金で月子の切符は買った。
考えてみれば和菓子屋におっさんの姿で出入りしているのだからお金は持っていて然るべきである。
月子は神社に棲み着いていることからその気になれば賽銭を着服することも容易だろう。しかし、あの神社は月子のおかげで参拝客が増えたということだから、着服という表現はふさわしくないかもしれない。そもそも賽銭の金かどうかも不明だ。
「わしが勝手に賽銭をくすねたと思っておるのか?」
月子が憮然とした顔で聞いてきた。
僕は慌てて否定する。
「いやいや違うけどさ。単純にどうしてるのかなって」
「うむ。わしを見ることができた宮司の話はさっきしたな? その宮司とそのあたりについては契約をしておる」
「へぇ~。参拝客を増やしたら、その分報酬として貰ってOKみたいな?」
「大雑把に言えばそういうことじゃな」
月子の話だとその宮司はすでに亡くなっているはずだが、契約は生きているらしい。本音を言えばそのへんをめちゃくちゃ言及したかったのだが、いかんせんお金についての話なので突っ込みづらかった。
「じゃが、金などあっても使い道がないからの」
月子が寂しげに笑った。
しんみりした空気はどうにも苦手なので、ちょっとおちゃらける。
「そっか。じゃあ今日はゴチになります」
「ほほほ、あれだけで足りるかの?」
「いや冗談ね。後々のこと考えたら怖すぎ」
「こんないたいけな女を捕まえて何を」
いたいけって僕より長生きしてるだろうに。
そもそも月子のがま口には中学生の小遣い程度しかなかったので、奢られるには心もとない。これがうん十万とか入ってたら冗談ではなく奢ってもらおうかと思ったが。
「ちょっとあなたたち、さっきから私を放置して何を楽しげに話してるわけ?」
トリカが不満顔で言ってきた。
「ん? 陽、見知らぬ女に声をかけられたのじゃ」
「しっ! 目を合わせちゃダメ」
「危ない女じゃったか」
「ああ、銀髪の時点でまともじゃない」
これ見よがしにのけもの扱いすると、トリカは拳をぷるぷる震わせて笑みを浮かべた。
「今日はとっても良い天気ねぇ。人間と狐の皮を天日干しするには絶好の日だわぁ」
こいつの脅し文句、怖すぎる。
繁華街につくと、とりあえず大きな通りを歩いてテキトーに店を探す。
僕が想像するスイーツというものは、安直だがケーキなのだ。ケーキこそが甘味の王だと信じて疑わない僕である。しかし、今日は暑い。事前にアイス系を食べたいと言ったこともあり、気分的にはアイスクリームなのだ。
アイスの店といえば、モロ風に言えば“サーワン”だが、この辺にあるのかどうかは定かではない。そもそも僕は行ったことがない。いつだったかそのことをモロとトシにカミングアウトしたときは、「え? あのー、アイスクリームって……知ってる? 冷たくて甘いやつなんだけど……」などと失礼極まりない態度を取られた。さすがにそれくらい知っとる。
ただ、そういう店って女子が行くイメージなのだ。僕のような漢の中の漢がそういう店に立ち入ったら店内にいる女が何事かと動揺してしまうかもしれない。そういうことを僕は危惧している。
「陽は心配性なんじゃな……」
「絶対違うと思うけど……」
僕の背後で月子とトリカがそんな言葉をかわしていた。僕は心配性である。
スイーツといえば、以前トリカと一緒に喫茶店に入ったときには激ウマパンケーキを食べた。つまり選択肢としては喫茶店、もっと洒落て言えばカフェも入ってくる。カフェならアイスクリームもなくはないのではないか。
そんなことを考えながら歩いていると、ちょうどおしゃれな外観のカフェが目に入る。めちゃくちゃ良さげだ。
しかしおしゃれすぎて中学上がりの高一が入れる店じゃない。というか多分大学生でも怖くて行けないと思う。
素知らぬ顔でその店は通り過ぎる。ちらっと背後の二人に目をやると、興味深そうな顔でそのカフェを眺めていた。見るな見るな、立ち止まるな、外観だけだよきっと。
酸っぱい葡萄理論を展開していると、今度はいかにも女子が好みそうなケーキ屋が目に入る。しかも中で食べられそうな雰囲気だ。
なぜそれがわかるかというと、壁がガラス張りで中が見えるからだ。すけすけの店内は案の定レディース&ガールズで埋まっていた。席には余裕がありそうだが、僕の心の余裕はなくなりそうだった。ここも無理かな。
「ていうか腹減ったな……。朝飯食ってないしな」
ぼそっと呟くと、トリカがぬぅっと左側から現れる。
「それならあそこにしましょうよ」
そう言ってトリカが遠くを指差したのは、見慣れたハンバーガーショップの看板だった
わざわざここまで来てファストフード? と思ったのだが、それは僕の見栄であり、本来の僕であればむしろ喜んで選択している店である。もしかしたらトリカが気を遣ってくれたのかもしれない。
それを少し情けなく思いながら、しかしあそこならスイーツもあるし、月子もあの店がどんな立ち位置の店かわからないだろうし大丈夫か、と思い直す。
「わしはどこでも構わんぞ」
月子が僕の右側にするするっと現れてにやりと笑う。
なんとも言えない居心地の悪さを感じながら、ファストフード店へと向かった。




