ライン考察の先輩
砂浜の端に到達し、そこから引き返して拠点に戻ってきた。
拠点には先輩方が勢揃いしており、二人で戻ってきた僕らを見てお団子先輩あたりがニヤニヤしていた。
そしてゲスい声色でからかわれる。
「あらら~? お二人さんは何をしていたのかな~?」
「お散歩ですけどー?」
「ふ~ん? そうなんだぁ?」
お団子先輩はもっと茶化したいようだったが、倫さんが睨みを利かせてそれ以上はさせなかった。
さて、どうやらそろそろお昼にしようという流れだったようだ。どこで食べるのだろう? もし自由なら僕は一人でファストフードでも食べに行こうかな?
根暗もとい孤高な構想を練っていると、山本妹がクーラーボックスから大きめのタッパーをいくつか取り出した。
「はーい、今日は女性陣による手作りのお弁当でーす」
それを聞くなり、先輩方の歓声が上がる。
お弁当はまったく想定していなかったので結構驚いた。ラインナップもおにぎりやサンドイッチといった主食に加え、唐揚げや卵焼きと定番のおかずも揃っていて嬉しい。小学生時代の運動会を思い出す。
“おいしそうね”
食べ物に誘われてトリカが目を覚ましたようだ。なんという食い意地。ていうかこいつ起きてただろ。
“失礼ね。ちゃんと眠ってたわよ。あなたと倫がどんな卑猥な話をしていたか知らないもの”
そんな話はしていない。まあ、トリカの言葉を信じよう。嘘は嫌いと言っていたしな。
パラソルを中心にみんな集まり、盛大な「いただきまーす!」の挨拶とともに昼食は始まった。
僕はすでに疲れていた。というのも、本来僕のような一年坊がやるべき雑用を、先輩たちがやってしまうからだ。
例えばシートを広げるだとか、飲み物を紙コップに注ぐだとか、取り皿と割り箸を配るだとか、そういう仕事は後輩の役割である。僕自身それは理解していたので、最初から積極的に動き始めたのだ。しかし、先輩方は「あ、いいよいいよ、座っててー」などと言って僕に仕事を振ってくれなかったのである。これだけ見ると優しい先輩なのだが、先輩がやっているのに後輩がなにもしないという状況はあまりにも苦痛なのだ。だから最後の方は無理やり仕事をかっさらって後輩としての面目を保ったが、精神的に疲労がたまった。
もしかして新手の嫌がらせだった……? などと被害妄想を全開にしつつも、とりあえず昼食が始まってほっとしているところである。
おにぎりを頬張っていると、背の高い広田先輩が感心した様子で言った。
「いやー加納も一ノ瀬も料理できるんだなー。めっちゃ美味いわ」
「なんで私をハブいたの!? 私も参加してるんですけどー!?」
「がはははっ! すまん忘れてた。山本は弁当箱を用意したんだよな?」
「違いますぅー! 卵焼いてますぅー! なめんな!」
そんなやりとりで先輩たちが大いに沸く。ちょっと大げさなほど。
それは二人の会話が単純に面白かったからなのか、それとも――。
「広田と山本の間にラインあるからな」
不意にそう囁かれてビクッと驚く。隣を見ると、岡本先輩でも広田先輩でもない男の先輩がいた。名前はなんだったかな。
「今の二人の会話で周りがやけに盛り上がったのを見て不思議に思ったんだろ? それはあそこの二人の間にラインがあるから。もう周りに透けてんだよな。あ、俺、渡辺志郎ね」
渡辺先輩は淡々と説明して、ついでに自己紹介をしてくれた。
倫さんの話を聞いてバイアスがかかっていたわけではなく、やはり二人はアツアツな関係であり、周りもそれを察していることがうかがえた。
さて、渡辺先輩の話でわからないことがある。
「あの、“ライン”ってなんですか?」
「ラインは、そうだな。要は繋がりだな。守谷と一ノ瀬にもラインあるぞ」
この言い回し、どこかで聞いた覚えがある。こんなことを言い合うゲームをしたような……。
頭を巡らせハッとなる。この人、おそらく“人狼”フリークだ。
そう当たりをつけたとき、脳裏にトリカの声が響く。
“人狼って何?”
人狼はゲームだな。村人の中に潜む人狼を会話で探すゲームなんだけど、おそらく渡辺先輩はそれにハマっているのだろう。一時期モロもこんな状態になってうざかった。
渡辺先輩は、僕と倫さんの間にラインがあるなどと言ったが、それは確かにそのとおりである。なにせこの中には知っている人が倫さんしかいないのだから。
“私とアキラの間にもラインがあるわね”
魔法のラインがありますね。そのおかげでこうして会話ができているわけだ。
トリカとは人狼ゲームできないなーなどと思いつつ、渡辺先輩に問いかける。
「あのー、人狼が好きなんですか?」
「おー。人狼好きCOするよ。守谷も?」
「そうですね。好きですね」
否定するのもアレかなと思い同調しておく。ちなみにCOとはカミングアウトのことである。
「今のはすり寄りっぽいから黒目に見るね」
「え、えぇ……」
確かにすり寄ったけども。うぜぇー!
ちなみに黒とは人狼のことであり、白が村人陣営のことである。
「ていうか、この場合の黒ってなんですか?」
「ははは、なんだろうな。そりが合わない人とか?」
「なるほど」
「でもさっきのはテキトーな殴りだから本当は白で見てるよ。反応が白っぽかった」
「そうですか」
渡辺先輩は人狼用語を使わないと会話できない人のようだった。
しかし、僕に話しかけてくれたことから優しい先輩だと予想する。僕とラインを繋ぐメリットは薄いから、おそらく渡辺先輩は白だろう。だから白ってなんだよ。
「ところで渡辺先輩は、広田先輩と山本先輩のラインを見てどうするんですか? 吊るんですか?」
人狼ゲームにおいて、狼だと思われる人間は多数決により殺される。
「吊りたいけどなー。実際に吊れるわけじゃないから考察してるだけだな」
「吊りたいということは、僕も渡辺先輩と同陣営ってことですかね」
「おーっと、それはもしかして広田と対立しているということかな……?」
「あ、いえ、恋人陣営に勝たせたくないだけです」
「おー! わかってるねぇ!」
しょうもないことを言っているなーと思いつつ、この先輩がどちらかというと陰よりなのがわかって僕は少しうれしかった。陰よりとは言っても陰よりの陽なのだが。
そしてふと先程の渡辺先輩の発言に違和感を覚えた。僕は単純にカップルが憎いという理由で同陣営と言ったが、渡辺先輩は僕と広田先輩の対立を見ていた。その発想が出てくるということは、もしかしたら渡辺先輩は広田先輩と対立、つまりは山本妹を狙っているということにならないだろうか?
“何の考察をしてるの……”
確かに。先輩方の恋愛はどうでもいい。とにかく玉砕してくれればそれでいい。
心の中で悪い笑みを浮かべていると、紙コップを持った倫さんが寄ってきた。
「陽くんと渡辺くんでなに話してるのー?」
「なんだ、気になるのか?」
渡辺先輩が不敵な笑みで返していた。
それに対し倫さんはムっとする。
「陽くんに何か変なこと吹き込んでないか気にしてる」
「はい俺守谷の友達COするわ。ただの雑談にそこまで突っかかってくる一ノ瀬を黒目に見るね」
勝手に友達COされた。友達って役職だったんだ……。
と、思っていたら倫さんが食い気味にかぶせてきた。
「はい対抗CO。私が真の陽くんの友達です。よって渡辺くんは人外確定。陽くん、こっちで一緒にご飯食べよ」
「はい破綻。一ノ瀬人外確定。なぜなら男女の友情は成立しないから守谷の友達にはなりえない。今日は一ノ瀬吊りで」
「それは渡辺くんの個人的な考えであってセオリーでも何でもないよね。男女間の友情もあるので私が真」
「そんなレアケは追いません」
倫さんも人狼をやっている側の人間だった。僕はこの会話を聞きながら引いていた。というかこの人たちの言い分だと僕の友達は一人しか存在できないらしい。渡辺先輩は男女の友情をレアケースと捉えているらしい。
“あなたがへんてこな歌を披露しているとき、周りの人間は今のあなたと同じ反応をしてるわよ”
そういうことを言われるとラップできなくなるからやめてよね。
僕は二人の言い合いを止めるため、一つの案を提示する。
「じゃあ、あのー、ここは友達ローラーでもしますか!」
「ダメだ。ここは決め打ち盤面だから」
「いや盤面ってなんですか!」
「あははははっ! 友達ロラって響きやばー」
渡辺先輩は大真面目な顔で、倫さんは楽しげに笑っていた。
それから倫さんも混ざって三人で雑談をしていた。渡辺先輩はよく昼休みに人狼を開催しており、それに倫さんも時々参加しているとのことだった。
「なんかうちのクラスって昼休みによくみんなで遊ぶよねー。前はトランプが流行ってたし」
「そうだな。わいわい盛り上がるのが好きな連中ばっかだしな」
「ほえー」
最後のバカ丸出しの声は僕のものである。僕が先輩方のクラスに居たら、あの禁じられた言葉の民としてカテゴライズされていただろうな。
“インキャね。インキャ”
禁じられているのだから連呼するな。
倫さんと渡辺先輩の会話で、他の先輩方もその話題に食いついたので、僕は自然とフェードアウトする。
取り皿に唐揚げと卵焼きとサンドイッチなどをキープし、少しその場から離れる。そしてあんまり先輩たちの視界に入らないような場所に位置取った。なんだかんだいっても馴染んだわけではないのだ。
よしトリカ、気付かれない自信があるなら食べていいぞ。
“あら、嬉しい。じゃあ食べるわね”
指輪から姿を現したトリカが、僕のすぐそばに座り込んだ。なんじゃい。
僕が怪訝な目を向けると、トリカがきょとんとした顔で首を傾げた。
「あーん、ってするのが定番なんでしょう?」
そもそも定番ではないし、どこでそんな知識をつけてくるのだ。なにもない空間に食べ物を差し出してたら明らかにやばいだろ。しかもそれが消えるのだ。
「大丈夫、バレないわ」
えー? なんでそんな自信満々なの?
「いいから。ほら、あーん」
トリカは軽く口を開けて待機していた。認めるのは癪だがそんな姿も可愛らしかった。
なぜバレないかの根拠はまったく教えてくれなかったが、トリカがそこまで言うなら大丈夫なのだろう。僕は割り箸で卵焼きを取り、恐る恐るトリカの口元に寄せていく。
その瞬間、僕の視界の端に水鳥の姿が映った。つられてそちらに目をやると、水鳥は先輩たちの輪の中心に着地し、またすぐに飛び立っていった。
「びっくりしたぁ!」
「え、なんでここに降りてきたの?」
「飯目当てかー? なんも取らなかったっぽいけど」
そんな先輩たちの会話が聞こえる。トリカは水鳥がここに飛来してくることを知っていたのか? あるいは呼び寄せた? いずれにしてもこうなることをわかっていたことは間違いない。
トリカに目を戻すと、彼女は卵焼きを堪能していた。トリカが食べる瞬間は、食べさせた僕すら見ていなかった。バレないと断言しただけのことはある。
満足気なトリカに尋ねる。
「……美味い?」
「ええ、甘くておいしい」
それならよかった。
トリカの感想と、周囲にバレなかったことにホッとしていると、トリカが妙なことを言ってくる。
「じゃあ今度は私が食べさせてあげる」
「いやいやいや、いいから」
思わず声に出して拒否してしまった。慌てて口をつぐみ、周囲に目をやる。気づかれていないようだ。
トリカはあたふたする僕を見てくすくす笑っていた。
「なぁに? 照れてるの?」
そうだよ。
「無駄に素直ね……」
それに可視化されていない状態でそんなことをするのはリスキーすぎる。やる意味もない。
僕は皿に乗っているものをあっという間にたいらげ、トリカのちょっかいをかわす。
「なぁんだ。つまらないわね」
つまらないのはごめんとしか言いようがないが、とにかくリスクは回避したい性分なのだ。
さて、腹も満たせたし、これからが本番だ。肝試しというからにはある程度暗くなってから行われるはず。まだ真っ昼間だからまだイベントは半分も終わっていない。とにかく無難に、かつ隠密気味に行動していかねばなるまい。
「そうなると暇ね……」
そうだな。だから眠っててもいいよ。肝試しのときに起きてくれるなら。
「ふふ、アキラが寂しそうだから起きててあげるわ。優しいでしょう?」
優しい優しい。
まあ、そんなことを言いながらも、何も起こらないということはないような気がするのだ。トリカや倫さんが場を引っ掻き回すような、そんな予感がしてならない。なぜなら今は夏休みであり、場所は海だからだ。この状況で何か起こらなかったらそれは嘘である。
「荷物番以外で何かあるといいわね」
もちろん僕は平穏を望んでいるが、こんなことを思っている少年にこそハプニングは起きてしまうものなのだ。漫画や小説を読む限り、こんなシチュエーションなら確実にハプニングは起こる。
もちろん僕は平穏を望んでいるのだが――。
◇◇◇
昼食から二時間ほど経った頃。
僕はパラソルの下にいた。もちろん荷物番としてである。
驚くべきことに事は何も起こらず、平穏に時間が過ぎていた。それすなわちめちゃくちゃ暇ということである。誰だよハプニングが起こるとか言ったバカは。
午前はときどき倫さんが様子を見に戻ってきてくれたのだが、午後は一度も戻ってきていない。おそらく岡本先輩にモーションをかけられていると思われた。モーションって! 古っ!
「……」
宙に浮かぶトリカが悲しげな顔で僕を見ていた。一人ツッコミがそんなに哀れに見えるか。おい。無視するな。
現在の状況は僕が望んだことではあるが、暇なものは暇である。何か面白いことはないだろうか。
ないんだよなぁと自嘲しながら砂をすくっていると、トリカが「あら」と声を上げた。
「あそこにいるの、あなたのクラスメイトじゃない?」
そう言ってトリカが指さした方向には、クラスのカースト上位グループがいた。しかも男女混合である。どうなってんだようちのクラスは。カップルでもない男女が海に来るってそんなに普遍的なことなの?
翻って、僕の状況は確認するまでもなく荷物番をしている哀れなぼっちである。こんなところを連中に見られたら、「あ、やっぱそういう役回りなんだな」「かわいそ」「陰キャ」などと不本意な印象を抱かれてしまう。
日よけを装ってタオルを頭に被る。絶対にバレるわけにはいかないのだ。
そうして嵐が過ぎるのを待っていると、拠点の近くで立ち止まる影が見えた。先輩の誰かだろうか。
「大丈夫? 体調悪いの?」
僕がタオルを被って下を向いているものだから無用な心配をさせてしまった。
慌てて顔をあげると、そこにはお団子先輩もとい加納マドカ先輩がいた。
「いえ全然! ちょっとうとうとしてただけです」
「そ? ならおっけ! てかそろそろ替わろっか?」
「ありがとうございます。でもこういうのは一年に任せておけばいいんですよ」
「そっか。できた後輩だ」
お団子先輩はそう言いながら僕の隣に腰を下ろした。
え、なに?
「そこで不審に思うあたりが“アレ”よね」
トリカの呆れ声を聞きながら、しょうがないじゃん不審じゃんと反論する。
僕がだんまりを決め込んでいると、お団子先輩が口を開いた。
「このあと肝試しやるの知ってるよね?」
「はい。聞いてます」
「そこでね、計画があるんだよね」
「計画?」
僕が怪訝な目を向けると、お団子先輩はにやりと笑った。
「実はね、岡本くんが倫といい感じになりたいんだって。だからペア決めのくじ引きで岡本くんと倫をペアにしてあげようっていう計画」
「ははぁ、なるほど」
「倫以外はみんな知ってるんだけど、守谷くんも協力してくれる?」
上目遣い気味に尋ねられる。何か試されている雰囲気を感じた。
しかし僕は即答する。
「いいですよ。どうしたらいいんですか?」
「あ、協力してくれるんだ。守谷くん、倫のこと好きなんだと思ってた」
お団子先輩は真顔でそう言った。
直球! 遊び球なし! これが上位層から下位層に対する遠慮のなさ! 先輩と後輩という関係もそれに拍車をかけているだろう! ナイーブな話にもかかわらずこれ!「好きなんだと思ってた」はぁ?
なんだか腹が立ってきた。要は舐められているのだ。
「いえ、僕はお団子先輩のことが好きですよ」
「えっ!? うそ? いきなり告白? 意外と大胆……」
「嘘ですよ。あんまりにもデリカシーに欠けるので下品な冗談を返しただけです」
「……もしかして怒ってる?」
「まさか! お団子先輩のことが好きなのに怒るなんてあるわけねーだろ」
「めっちゃ怒ってるじゃん!」
勢いでここまで言ってしまったが、今日はまだ肝試しが残っているのだ。ここで関係を悪化させるのは馬鹿のすることである。ましてやこの先輩は倫さんの友達だ。今日限りの関係とも言い切れない。そもそも僕の陽の者に対する沸点が低すぎる。
“インキャゆえにね”
これには僕も何も言い返せなかった。
後悔と反省をしつつ、すぐさまお団子先輩に頭を下げる。
「すみません。ちょっと調子乗りました。さっきのはすべて冗談です。それより計画について教えてくれませんか」
「変わり身やば! 守谷くんの本心がわからないよ……」
「僕の本心は他人の恋路を楽しみたい、それだけです」
「それはそれで野次馬根性がやばいけどね……」
もともとはそちらの計画ではないか。
ともあれお団子先輩が気を悪くしなかったのは幸いである。ほっとした。やはり陽の者は余裕がある。
お団子先輩が計画について話す。
「計画はまあ守谷くんがやることは特にはないんだよね。くじの工作は男子がやるみたいだし」
「じゃあ僕は適当に引いて良いんですね」
「そうみたい」
「しかしまあ凄いですね。そうまでして」
僕が岡本先輩の熱に感嘆していると、お団子先輩は苦笑した。
「ほら、倫には井上がいるじゃん? こういう機会でもないと良い雰囲気作れないみたいだしね」
「なるほど」
井上先輩は倫さんのこととなると途端にしゃしゃり出てくるともっぱらの噂である。男子と二人きりなどさせないのだろう。幼馴染は特別なステータスだが、かといって特別な権限があるわけでもないのに出過ぎた男である。
しかし、井上先輩が倫さんと付き合っているなら話は別である。そのあたりをお団子先輩に尋ねる。
「実際、井上先輩と倫さんは付き合ってるんですか?」
「どーなんだろーね? 倫は口では全否定だけど、本心はわからないよね」
「僕はもうデキてると思ってますけどね」
「あ、そうなんだ?」
「だって幼馴染ですよ? コナンを見たらわかると思うんですけど、勝ち確じゃないですか」
「あははははっ! たしかに!」
お団子先輩はさすが陽の者らしくノリがよく、僕の話に良い反応を返してくれた。デリカシーに欠ける面もあったが、やっぱり優しい先輩だなと思う。
そうして穏やかに話していたが、ふいにお団子先輩が「そういえばさ」と切り出す。
「お団子先輩ってなんなの? 今日の髪型はお団子だけど普段は違うんだからね?」
「すみません。心の中で勝手につけたあだ名を口に出してしまいました。えーと、加納先輩ですね?」
「うん。まあ、どっちでもいいんだけど。急にお団子先輩って呼ばれたからさー。びっくりしたよね」
「すみません。どっちでもいいならお団子先輩と呼びますね」
「そっち取るんだ!? あ、それか倫みたいに名前で呼んでもいいよ」
「遠慮します」
「即答なの!?」
そんなことをお団子先輩と話していると、他の先輩方が拠点に戻ってきた。砂浜を歩いてくる先輩方の表情は充実感に満ちていて、妙にキラキラして見えた。
最後に戻ってきたのは倫さんと岡本先輩だ。楽しげに話しながら歩いてきたことから雰囲気は良さそうだ。
僻みの目でそれらを眺めていると、トリカが囁いた。
「あなたは玉砕を期待してるけど、案外成功しちゃうんじゃない?」
そんなバカな。そうなったら井上先輩と僕はどうなっちゃうの?
「発狂しちゃうんじゃない?」
あぎゃああああああああああ!
さて、発狂の予行演習が済んだところで、そろそろ海を後にする流れのようである。
女子の先輩方が更衣室の方に向かい、男子の先輩方はビーチテントの中でタオルを巻いて着替えていた。せせこましい絵面に苦笑いしてしまう。
パラソルの下でのんびり先輩たちを待っていると、宙に浮かぶトリカが思い出したように言う。
「そういえば、あなたのクラスメイトだけどね。アキラに気付いていたわよ」
「え、マジ?」
「ええ。『守谷が女子と一緒にいるとかめっちゃ意外なんだけど。ウケる』って言ってたわ」
「めっちゃ下に見られてるね。腹立つー」
一人で居てもぼっちだし、女子と居ても「意外でウケる」なら、どのみちカースト下位の認識からは逃れられなかったようだ。
ぐぬぬと僕が憤慨していると、トリカが呆れた顔で言った。
「事実だから仕方ないんじゃない? エイケージだものね」
「ん? エイケージってなに?」
「インキャ。私の世界の言葉で」
「おい!」
そんなこんなでいよいよ肝試しのフェーズに突入する。




