賽銭箱の隣に
森の中の石段を登りきると、鳥居とはまた違う門が待ち構えていた。
そこを抜けると広いスペースがあり、左手の授与所に数人並んでいるのが見えた。おみくじを結ぶところや、絵馬が掛けられているところにもまばらに人がいる。
僕は自然体を装っているつもりだったが、多分普段よりキョロキョロしているのだろうと思う。
奥に本殿があり、ご年配の方々がこぞって拝殿に並んでいた。ナニかいるとしたらあそこになるのだろうか。
それらを遠巻きに眺めて、僕はトリカに聞いた。
「どう? 一応パワースポットと呼ばれる場所に来たわけだけど」
聞かれたトリカは左右に目をやって頷いた。
「そうね。確かに比較的魔力が濃い場所と言えるわ」
「そっか。じゃあもう吸収してるの?」
「かるぅくね。露骨に吸収したら悪い影響を及ぼしかねないから」
「なるほどなぁ」
こういうときにはトリカの優しさというか、気遣いが窺える。自分が逼迫している状況にあっても、むやみに魔力を吸い取るようなことはしないのだ。人としての器が大きい。
トリカは常々「今すぐに元の世界に帰りたいわけじゃない」という旨の言葉を口にしている。今のトリカの行動はそれの証明とも言えるかもしれない。何がなんでも帰りたかったら、どうせおさらばするこの世界のことなど気にかける必要はないのだから。
「何がなんでも帰りたかったとしてもそんな蛮行はしないわよ。私は気高い女なの」
「そっか。凄いよトリカは」
「ふふ、今頃気付いたの?」
淡く微笑むトリカに僕もまた笑みを返す。
さて、せっかくここまで来たのだからお賽銭の一つでも入れてお参りしようか。
僕はトリカを引き連れて拝殿の方へと向かう。
最後尾について順番を待っていると、賽銭箱の隣に女の子が立っているのが見えた。
それを見て僕は息を呑む。
その少女が普通の人間ではないことは一瞬でわかった。なぜなら頭に獣の耳が生えていたからだ。そして周りの人間がその少女に一切関心の目を向けていない。見えていないのだ。
ならば僕がすることはひとつだ。見えていないふりをする。
トリカも合わせてくれよな。
“別にいいけど、私が魔力体であることは向こうもわかりそうなものだけどね”
そうかもしれないが、僕のような無辜の民と一緒にいるわけだから見逃してくれるだろう。とにかく僕らに非はないのだ。
それにしてもあの耳は何の動物の耳だろう? そもそもここは動物を祭神としていただろうか。そういう説明はここに来る道程に掲示されていたと思うが、あまり関心がなかったのでスルーしてしまっていた。
これはまさか罰当たりになるのだろうか。否、神社の由緒を全員が全員知っているわけではない。こんなことで罰とされたらたまったものではない。
いよいよ順番が僕らに回ってきそうだ。僕は財布から五円玉を二枚取り出し、トリカに一枚渡す。
「これを賽銭箱に入れて、二礼二拍手一礼するのが作法な」
「ふぅん」
「あと帽子も取ったほうがいいな」
「わかったわ」
「……一応聞くけど、頭下げられる?」
「できるわよ。……一応」
前のご老人の長いお祈りが終わると、僕らに順番が回ってきた。
できるだけ獣耳の少女を見ないように意識していたが、目の前に何の障害もなくなるとイヤでも目に入ってくる。
背丈は小柄で服は何やら和装な感じがする。焦点を合わせずに少女を捉えているので詳細な姿は把握できないが、この神社の神様な感じもする。
トリカと並び立つと、少女がこちらを窺っているような気がした。僕というよりはトリカの方だろうか。
僕は五円玉を賽銭箱に入れて、二礼二拍手一礼をする。トリカも同様だ。
願い事をするほどの余裕はなかったが、なんとかこの場を無事に切り抜けたいとは思った。
目を瞑って祈っていると、ふと前方からがっかりしたような溜息が聞こえた。
「しけた額じゃな。それならこんなものか」
年若い声色でありながら年季を感じさせる物言いが前方から聞こえてきた。やけに古風な言葉遣いである。
何がこんなものなのかはわからないが、顔を上げた僕はそそくさと横にはけた。トリカもちゃんとついてきている。
拝殿から早足で離れると、歩きながら帽子を被っているトリカに聞いた。
「何かされた?」
「ええ。魔力を貰ったわ」
「あ、そうなの?」
「大した量じゃないけどね。あの箱にお金を入れた人間に魔力を与えているようだわ」
お賽銭の見返りに魔力を与えているということだろうか。
「五円入れたらしけた額って言われたな。金額が高ければもっと魔力を貰えるのかね?」
「そうかもね。私たちの前の老人は、私たちより多く魔力を貰ってたから」
「はー。現金な神様だ」
そんなことをぼやいた後、僕はハッとなって辺りをみる。
……ふう、聞かれてはいなかったようだ。悪口と捉えられかねない発言は境内を出てからにしよう。
「聞いておったぞ」
「おぎゃああああああああああああ!!」
突如、僕の目の前に獣耳の少女が舞い降りてきた。僕は恥も外聞もなく叫び声を上げ、即座に逃げの一手を打った。
しかし、トリカに腕を捕まれ逃走は失敗に終わった。
少女は僕の全身を舐め回すように見ると、ひとつ頷いた。
「わしのことが見えるようじゃな」
僕は未だに見えていないことにしたかったので、反応せずに黙っていた。
「悪あがきはよしなさい。で、何か用かしら」
僕の腕を掴んでいるトリカは、泰然として少女と対峙していた。このトリカの落ち着きっぷりは見習いたいものがある。かっこいい。
「いやなに、わしを認識できる人間は珍しいと思ってな。お主らに興味があるのじゃ」
獣耳の少女は僕に目を向けてそう言った。
この少女が神様なのかと思うと、僕は何も言葉を発することができなかった。何か礼を欠くことを言うくらいなら黙っておいた方が賢明である。
僕が押し黙っていると、獣耳の少女は慈愛を感じさせる笑みを浮かべた。
「わしはここに棲みついとる狐の月子じゃ。お主らは?」
「私はトリカ。この男はアキラよ」
「も、守谷陽です」
名前を聞いたのを機に改めて少女の姿を眺める。
背丈はトリカより小さく、中学生くらいの歳に見える。山吹色の長い髪と耳は狐のそれと言われれば納得だ。そして少女は赤を基調とした着物を着ていた。こう見ると神々しさのようなものはあまり感じられない。
この神社の祭神は知らないが、少なくとも狐ではなかったはずだし、狐を使いにするような神でもなかった気がする。「棲みついとる」という発言からもわかるとおり、神様ではないのだろう。
それがわかると少し気が楽になった。しかし、なぜ人間の姿をしているのだろう。人間に化ける能力を持っているということだろうか。耳が出ちゃってるけど。よく見たらふっとい尻尾も出てた。
狐の月子は値踏みするように僕とトリカを見た。
「陽とトリカか。陽は人じゃな? トリカ、お主は何じゃ?」
その月子の視線には警戒の色が見える。僕は落ち着かない気持ちでことの行く末を見守っていた。
「私は異世界から舞い降りた一兆年に一人の超絶美少女天才魔法使いのトリカよ」
「……そうか」
月子はピンと来ていないような顔をしていたが、トリカの自信満々の表情を見たからか追求はしなかった。
口上でふんぞり返っていたトリカが、月子に視線を落とす。
「で、あなたはここで何をしてるの? 魔力を与えていたようだけど」
「まりょく? ああ、妖力のことじゃな。あれは賽銭の見返りに与えているのじゃ」
「どうしてそんなことをしているの?」
「そりゃあ信仰を集めるためじゃよ。寂れた神社では力も溜まらん」
信仰を集めるために人に魔力を与える。ここにどういう繋がりがあるのだろう。そして月子は妖力派のようだ。
トリカは質問を重ねる。
「あなたが力を与えることで人間にどんな利益があるの?」
「それはまさしく人間が言うご利益じゃて。交通安全、安産祈願、無病息災、そういう効果じゃな」
「信じがたい話ね。あなたの力にそういう効果があるとは思えないけど」
トリカは納得できない様子だった。
微笑を浮かべた月子は僕に目を向けてきた。
「のう陽、お主はわしの力を受けて何か変化を感じたか?」
「いや、特には……」
正直に答えると、月子は微笑んだまま頷いた。
「そうか。まあ五円程度じゃ感じ取れんかもしれんが、わしの妖力には精神を安定させる効果が込められておる。じゃからほとんどの願いに対して効果があるといっても嘘ではないのじゃ。活力があれば日々の生活は充実するじゃろ?」
「あー、なるほどー」
言われてみれば多少活力を貰ったような気がしなくもない。いや、思い込みかな。
とはいえ、そういう効果があるのならば月子の言うこともあながち嘘ではない。即物的な人だったら首を傾げるだろうが。
僕が納得している横で、トリカが質問していた。
「五円程度と言ったけど、もし私が五億円渡したら、五億円分の見返りがあるのかしら?」
「それは無理じゃな。わしにそこまでの力はない」
「そう」
トリカは少し気を落としたような声を出した。
しかし、これは光明と言えば光明かもしれない。五億とまではいかなくとも、ある程度お金を出せばその分の魔力を提供してもらえるということだ。
まあ、僕はもうほとんどお金を持ってないので、その手段は使えないが。
ふと疑問に思ったことがある。
「信仰を集めることで何かいいことがあるんですか? 賽銭以外に」
「ある。ここに来て賽銭を入れて祈る。このとき、人間の力がわしに流れてくるのじゃ」
「え、そうなんですか?」
「うむ。人間の多くは妖力を持ちながらそれを意識的に使うことはできない。じゃが、こういった場で祈ることで持て余した妖力が外に吐き出されているのじゃ。全ての人間がそうというわけではないがな」
そう語る月子の視線の先にはトリカがいた。
祈るという行為で魔力を放出していることに驚く一方で、確かにそう言われればと納得できる面もある。もちろん魔力を出していることなんて僕は認識していないが、熱心に祈るようなことは日常でそうあるものでもない。せいぜいガチャをしているときくらいだ。
そんなことを考えていると、トリカが不満そうな顔で月子を見ていた。
「じゃあ、あなたは賽銭を貰った上で力も貰っているのね。それならここで祈った人間は損をしているんじゃないの? ご利益なんてあるのかしら」
「馬鹿者。わしがただの妖力を活力に変えて還元してやっているのじゃ。損ということはない」
僕らはそういう未知の力を認識することはできないし、行使することもできない。持て余しているそれをプラスに変えて還元してくれているのなら確かに損はしていない。もとは自分の力ではあるのだが。
「なら賽銭に応じて力を与えるのはどういうことなの? 皆平等に与えたらいいじゃない」
そのトリカの言葉に、月子は意味深な笑みを浮かべた。
「……金というものは不思議なものでな。人の手を渡り歩いているからか妖力が込められておる。普段はまったくそんな気配もないが、ここに来て賽銭として入れるとき、祈りが引き金となって金に込められた妖力が解放されるのじゃ。じゃから額に応じた妖力を活力として与えておる」
賽銭にも魔力が込められている。なんだかお金という存在が不思議なものに思えてきた。
「わしが貰う妖力も祈りより賽銭の方が比重も大きい。じゃから、額に応じた活力を与えてその人間の成功を後押しをする。そして神、つまりわしを信仰する。またここに参拝に来る。これが良い循環となるのじゃ」
満足気に語る月子の話を聞いて、トリカがつまらなそうに言った。
「ふぅん。それなら私も神になろうかしら。そんな簡単に魔力を集められるなら」
「くふふ、お主が思うほど簡単でもないし効率的でもないのじゃ。この神社に人が来るようになったのも最近のことじゃぞ」
ご利益がある神社だと人間に認知されるのに時間が掛かるということなのだろう。まさか狐が広告を打つというわけにもいかないだろうし。
トリカは納得がいかないようで、月子に食って掛かる。
「それなら元から有名な神社を使えばいいじゃない」
「そういうところにはすでに先客がいるものじゃ。有名であるにはそれなりの理由があるはずじゃし、近寄ろうとも思わん」
苦笑を浮かべた月子に僕が尋ねる。
「そこにいるのは、いわゆる神なんですか?」
「どうじゃろう。妖の類だと思うがな」
「月子、さんは神なんですか?」
「わしは北の方から流れてきたただの狐の妖じゃ。じゃから陽、そう畏まるでない」
「あ、そう」
「切り替えが早いのう……」
本人から神ではないと言われたので気が楽になった。ミカと同じような存在なのだろう。
緊張が解けた僕の隣で、トリカが顎に手を当てて何か考えていた。
そして月子に尋ねる。
「ねえ、お金に力があるなら五億円を払ったらその力を還元することもできるはずよね? さっきあなたはそんな力はないと言っていたけど」
「その額に見合うほどの妖力を与えることはできん。それが全て硬貨ならそれなりの力になるかもしれんが、紙幣にはそれほど妖力がこもっておらんのじゃ」
「そうなの?」
「うむ。そもそも額面通りに妖力が込められているわけでもない。五円玉一つとっても妖力の濃い薄いがあるのじゃ。さっきのも陽の入れた五円玉の方が濃かったんじゃぞ」
僕の入れた五円玉の方が力はこもっていたが、額は僕もトリカも同じ五円なので、同じ量の力を還元したと月子は言う。
「硬貨によって妖力はまちまちじゃから、額が高くなる、つまり硬貨の数が多ければその分妖力も増える傾向にあるというだけの話じゃ。それに加えわしは受け取った妖力を人間に還元しておるから、時には手元に残らない上にわしの自前の妖力を与えることもある」
月子が言うことには、大概はその人の祈りと賽銭だけで還元するだけの妖力を賄うことができるようなのだが、たまに紙幣の賽銭があると、その額の割に妖力はこもっていないので、その分月子が与える妖力が大きくなるということらしい。高額になればなるほど懐は潤うが妖力的には赤字になるというのが月子の弁だ。
その話を聞いて僕が質問する。
「還元の基準を賽銭の額じゃなく貰った魔力の量にすればいいんじゃないですか?」
「くふっ。それではこの神社に人は寄り付かん。長い目で見た時、こうしておくほうが良いのじゃ」
妖の寿命がどれほどかはわからないが、長期的な方針を見るにそれなりに長く存在できるのだろう。
大金を賽銭箱に入れるような人間はやはり成功者だろうし、その人間が懇意にしている神社だと知れ渡れば多くの人が訪れる効果が期待できるのかもしれない。もちろん実状は知らないが。
トリカもどこか神社を根城にして神様の真似事をすれば、封印を破って元の世界に帰るだけの魔力を得ることも可能だろうか。
しかし待てよ。信仰で魔力を得るという点で考えるなら、そんな神様という仰々しい存在になるよりも、それこそアイドルにでもなればいいのではないか。アイドルもまた偶像であるし、そのファンからの信仰は熱狂的なものがある。短期的に見れば相当な金も動く。
トリカの美貌は万人受けしそうだしアイドル的存在になるのは難しいことでもなさそうだが、顔が日本人のそれではないので海外の方がウケるかも知れない。日本でもウケるだろうけども。
そんなふうに想像を働かせると、やっぱり指輪の封印はネックだなと改めて思う。もしトリカが偶像として活動するなら、僕は指輪を手放してその筋の人に託すべきだろうな。
“あなたがその筋の人になればいいじゃないの”
僕の思考にトリカが割って入ってきた。僕はそういう業界に入りたいとは思わない。
“私のためでも?”
どんだけ自分に自信があるんだこいつ……。
ま、多くの人間を虜にするなら僕のような高校生一人服従できて然るべきだろう。「トリカ様のために働かせてくださいぃぶひぃ」というマインドになったらそのときはトリカのために身を粉にして働こうじゃないか。
まあ、ありえない話である。僕は吉岡さんや倫さんのような素敵な女性と結婚して一緒にパン屋さんを開くんだから。
“生娘みたいなことを言い出したわね……”
そんなふうに声なき会話をしていると、月子が不審な目を向けていた。
「……お主ら、急に黙ってどうしたのじゃ」
「あ、いや。じゃあ、僕らはこれで失礼しようかなと」
魔力を得るための手がかりも見つけたし、もうそろそろ日も暮れる。夕飯に間に合わなくなってしまう。
僕が帰る雰囲気を醸し出すと、月子は手のひらを向けて制止してきた。
「まあ待て。先の口振りからして、そっちの、銀髪のトリカは妖力を欲しておるのじゃろ」
「んー、まあ、そうね」
目を向けられたトリカは曖昧に肯定していた。
「なんじゃ、歯切れが悪いのう。提案なんじゃが、わしの願いを聞き届けてくれたら、賽銭五万円分の妖力を与えてやってもいいぞ」
「ふぅん? まあ、話くらいは聞いてあげてもいいわよ」
お金と魔力のレートがわからないので、賽銭五万円分がどれほどの魔力量かわからない。トリカにとっては端金のような魔力にも思えるが……。
しかし、トリカはきょう一日中実体化をしている。それを取り戻すことができるほどの魔力なら、トリカの言ったように話くらいは聞いても良い。
僕とトリカが月子に目を向けると、着物を着た少女は楽しげに語りだした。
「実はな、ここのところ毎日わしのもとに恋愛成就を願う小僧がおるのじゃ。その小僧が今日想いを告げるらしいのじゃが、わしはその結果が気になる。お主らにはその様子を見届けてわしに教えて欲しいのじゃ」
「いやーすみません僕らちょっと時間がなくて今回は失礼しますぅ」
僕が即答して帰ろうとすると、トリカに首根っこを掴まれた。
「その程度のことはお安い御用よ。アキラ、こんな割の良いお使いはないわよ?」
「僕は何の得にもならないんですけど?」
そんな僕とトリカの言い合いを見て、月子が手を叩く。
「安心してよい。陽にもちゃんと報酬は考えておる」
「どんな?」
「それは後のお楽しみじゃ」
「報酬を聞かされずに仕事する奴とかいる?」
「報酬は五万円分の妖力で、陽のはおまけじゃ」
「あ、そっか」
否、そうじゃない。僕はその仕事の内容が嫌なのだ。
恋愛成就を願う小僧の告白を見届けるって、そんな出歯亀みたいな仕事あります? 今日は土曜日であり、そのプライベートタイムに会うことができるほどの関係であるなら、結構高い確率で告白が成功しそうな気配がある。他人の恋愛成就の瞬間を非モテの男が見届けて何か楽しいことがあろうか、いやない。
僕がそんなふうに僻んでいると、月子が説明を始めた。
「その二人じゃが、小僧はこの近くにある展望台で告白するようでな。夕暮れどきに海を眺めて良い雰囲気を作ると息巻いておった。もうじき日も沈む。あ、小僧の特徴は坊主頭のちびじゃ。よろしく頼んだぞ」
月子はそう言うと、僕らに背を向けて拝殿の方に戻っていった。拒否もできなくなってしまった。
その背中を見届けながら、呆然としてつぶやく。
「……え? マジでやんないとダメ?」
「この社の神に逆らうことになるけど、別にいいんじゃない? 帰っても」
トリカはこともなげに言ったが、そう言われるとこれを無視するのは罰当たりになりそうで怖い。
仕方ない。告白の失敗を見られるかもとポジティブに考えることにするか。
「それってポジティブなの?」
「僕の気持ちが上向きになるからポジティブ」
そんなふうに強がり、そのへんをうろついていたミカに声を掛けて神社の階段を降り始めた。




