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銀色の少女と僻み男  作者: ぽん
四章 エクスプロー ザ パワースポット
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どうせ行くなら皆で!

 中間テストが終わって初めての休日を迎えた。何も憂うことのない休日に僕は心身から力が抜けて、言いようのない解放感を覚えていた。

 カーテンの隙間から日差しが差し込むのも気にせず、僕は二度寝を敢行しようとしていた。この意識が落ちる寸前の、ゆっくりと流れるような時間の感覚が心地よい。


「アキラ、ひまー」


 何やら頭に刺激を受ける。

 黒猫のミカが僕の頭をふみふみしているようだ。それを鬱陶しく思いつつ、身体の覚醒には至らず。今日はずっとまどろみのなかにいるのかも……。


「あ、ユリからメッセージだ」

「マジ!? 何用で!?」


 ガバッと起き上がってスマホを見るが、何の着信もなかった。一応、ロック解除して確認してみるが、吉岡さん関連の通知はなにもなかった。ゲームのスタミナ満タン通知しかなかった。

 じろりとミカを見ると、すまし顔でしっぽを振り、


「う・そ」


 などとのたまった。こいつめ……。

 まあ、意識も身体も覚醒したのでよしとする。ミカをなんとなく抱き上げて一階に降りる。

 下に降りてくると、呆れ声が飛んできた。


「いつまで寝てるのよ。まったく」


 リビングにはすでにトリカがおり、ソファに座ってテレビを見ていた。窓から入る日差しで、彼女の銀髪がキラキラと白く光っていた。糸の素材として使えそうだなと馬鹿みたいなことを思った。


「もっと寝てる予定だったけど、ミカに起こされた」

「あなたね、アロヴィロフじゃないんだから……」

「え? え? なに?」


 謎の言葉になぞらえられたが、それが何なのかテレビに夢中のトリカは教えてくれなかった。

 トリカが自由にテレビを見ているということは、家には僕ら以外誰もいないようである。

 時刻は午前九時二十分。軽く朝飯でも食べたいところだ。

 台所を物色していると、ミカが足にひっついてきた。


「アキラー、わたしもごはん」

「おー、待ってろ」


 吉岡さんから貰ったキャットフードを皿にあける。その音を聞いてミカは不満そうな仕草を見せたが、猫の飯ならこれが一番真っ当である。

 ミカはトリカと違ってある程度食事が必要とのことだが、魔力でも代替できるとトリカが言っていた。僕の魔力を、トリカを介してミカに渡すことで食事の代わりになるというのだ。なぜトリカを介すかといえば、僕が魔力を扱えないからである。

 実際にミカには僕の魔力だけで二日ほど過ごしてもらったが、特に不都合は起きなかった。しいて言うならトリカに渡す分の魔力が減ったことと、ミカが食事をできないストレスを抱えたことか。その試みが二日で終わったのも、ミカが「何か食べたい。もうネギでもチョコでも食べる」と猫における自殺行為に及びそうになったからである。妖怪化してからのミカは猫とは似て非なる存在になったこともあり、大概のものは食べられるようなのだが、やはり見た目は黒猫なので僕に抵抗があるのだ。もうほんとビックリするから変なの食うのはやめてほしい。

 一方で、「実際は問題ないのにミカが食べたいものを制限するのはどうなの?」というトリカの意見もある。それもごもっともな意見である。

 でも見た目黒猫だし、と結論づけて、僕は今日の朝食を決めた。


「グラノーラにするか」


 深皿にグラノーラをあけていると、ミカが興味深そうに言った。


「アキラもカリカリ食べるの?」

「はははっ、カリカリだけどカリカリじゃない。僕はここに牛乳を足す」


 グラノーラ全体が浸る程度に牛乳を入れる。この欧米スタイルな朝食もたまにはいい。

 ミカのご飯とグラノーラを持ってリビングに行く。床にミカの皿を置いて、僕は食卓につく。

 テレビはワイドショーを流していた。トリカは芸能にはまるで興味はなさそうだが、なんでも知識を吸収する姿勢を貫いているようだ。こいつ順応しすぎだよな……。

 最初こそトリカもこちらの世界の科学や技術に驚いた様子を見せたが、今は慣れたものである。

 出会った当初を思い出すと、特にインターネットについては感心した様子を見せていた。あらゆる人間がアクセスできる環境、膨大なデータなど、その仕組みについていろいろ聞かれたものである。とはいえ、僕もたいして解説できなかった。ほとんどの人間はその仕組みを完全には理解せず、ただ便利という理由で使っているだろう。

 スプーンでグラノーラを掬いながら、今日は何をするか考える。

 中間テストも終わったので、勉強はしなくていい。モロとトシを誘ってどこか遊びに行こうか。いやトシは部活があるんだった。モロもテスト期間中に録画していたアニメを消化すると言っていた気がする。

 やべー、暇だ。


「ねえ、アキラ。このパワースポットって魔力もあるのかしら」


 トリカがテレビを指して言った。

 どうやらパワースポットの特集をしているようだった。芸能人が神社に行っている様子が映されている。

 パワースポットに魔力があるかどうかはわからないが、一度行ってみる価値はありそうだなと前々から考えていた。今日は暇だし、いい機会かもしれない。


「魔力があるかはわからないけど、行ってみる?」

「この近くにあるの? パワースポット」

「ちょっと足を伸ばせばあるでしょ。まあ、神社ならそこらにあるし、滝なんかもちょっと遠いけどある。暇だし、行ってみようぜ」

「ええ」


 今日の予定が決まると、ミカが僕を見上げていた。


「わたしも行きたい」

「おー、行こう行こう」

「うん」


 久々にミカもついてくるようだ。

 たまにはこいつらと出掛ける休日も悪くないな。いつも一緒にいるけど。



 朝食を済ませて出掛ける準備をすると、僕らは揃って家を出た。

 とりあえず、駅に向かって歩き始める。

 僕の斜め前をトコトコ歩くミカが、こちらを振り返る。


「どこ行くの?」

「なんたら神社っていう、このあたりでは比較的有名な神社があるから、そこに行くよ」

「ふーん」


 それにしても傍目には一人というのがなんとも寂しげである。

 そう思っていると、トリカが不意に笑いだした。


「うふふふふ、そんなアキラのためにすでに諸々再現しておいたわ!」

「なに?」


 そういえばこいつ、家を出たときから僕と同じように歩く素振りを見せていた。珍しいな、と思っていたが、すでに周りから認識される状態にあるようだ。


「え、マジで実体化してんの?」

「ええ。ほら」


 トリカは僕の左腕を取って自身の腕と絡めた。肌の質感や体温などを感じた。

 僕はやんわりそれを解く。


「わかったわかった。はー、マジか」

「なぁに? 私と一緒にお出かけできて嬉しいでしょう?」

「嬉しいけど、トリカ目立つしなー」


 細かい装飾が施された黒いワンピースに癖のない煌めくような銀髪、嘘みたいな美貌。はっきり言って浮いているのだ。


「せめて格好だけでも普通ならな」


 僕がぼやくと、トリカは口を尖らせた。


「だって、私これしか服持ってない」

「いや、魔力で再現してるわけだし、自分の好きなように投影できるんじゃないの?」

「無理。私のこの見た目は封印されたときと同じものなの」


 それなら疑問がある。


「前に風呂に入ってきたときには服が消えたけど?」

「この服なら消せるわよ。引くことはできるけど新たに足すことはできないの」


 どうやらそういうことらしい。

 いや待て。


「前に僕の黒タイツ好きがバレたとき、『穿いた姿を再現してもいい』みたいなことを言ってたよな?」

「よく覚えてるわね。そんなこと」


 蔑むような目で見られた。理不尽である。

 トリカは嘆息した。


「さっきの発言を撤回するようだけど、違う服を着ているように見せることも一応できる。でも、それは魔力の消費が大きいの。元からあるものを映すのは楽だけど、無から生み出すのは大変ということ。まして魔力が自然回復しないならなおのこと。お分かり?」


 そんな韻も踏みつつ説明されれば、納得である。


「理解したよ。じゃあ、その格好も仕方ないか」

「そんなに変? 私の格好」


 トリカは自分の格好を見て聞いてきた。


「いや、すっげー完成されてて素晴らしいと思うけど……もっとカジュアルな感じだといいんだよな」

「カジュアルって、どうしたらいいのよ」

「わっかんねー……」


 僕はファッションについては疎い。それが女子のものともなればなおさらだ。

 僕が唸っていると、ミカが提案してきた。


「ユリに聞いてみたら?」


 それは妙案である。いっそ服など貸してもらえればすべての問題は解決する。

 しかしそれはあまりにも図々しい。とりあえず、電話でいろいろご教示願うに留めておこう。

 スマホを持つ手が震える。画面には吉岡祐里という名前と電話番号が表示されているが、なかなかそれをタップできない。

 こんな個人的な用件で電話をしていいものだろうか? この番号はもっと緊急性のある用件にのみ使うべきではなかろうか。


「アキラ?」

「早くしてくれる?」


 ミカとトリカが急かしてくる。

 そんな二人に僕は憤る。


「ええい、少し待たんか! こちらから女子に電話をかけるなど初めてのことであるぞ!」

「何その言い方。はい、押してあげたわよ」


 横からスマホを覗き込んだトリカがタップした。


「あぁっ!? なんてことを!」

「なんてことってあなたね……」


 トリカは呆れていた。

 数回の呼び出し音の後、一瞬の沈黙。


『もしもし』


 ときめきを覚える声がスマホから出てきた。wavで何度も聞きたいと思った。


「あ、もしもし。吉岡さん? 朝早くにすみません。掛け直します」

『えっ!? 全然大丈夫ですよ。どうしました?』


 なんとか吉岡さんと電話を繋ぐことに成功した。気が動転して切ってしまいそうになった。

 僕は簡潔にトリカの格好のことについて話し、アドバイスを求めた。


『なるほど。……今お二人はどこに?』

「駅に向かって歩いているところだけど」

『そうですか。あの、もしよろしければ私もご一緒してもいいですか?』


 どうやら吉岡さんがコーディネートをしてくれるらしい。


「え、もちろんいいけど、わざわざ申し訳ないな」

『いえいえ、私も暇でしたし。じゃあできるだけ急いで行きますので、駅で待っててくれますか?』

「うん。一日くらいなら余裕で待てるよ」

『そんなに掛かりませんから大丈夫です』


 そうして電話を終えると、トリカがじとーっとした目で見てきた。

 しかし何も言ってこないので僕が突っ込む。


「なんじゃい」

「私たちだけで出掛けるんじゃなかったの?」

「それはごめん。でもいくらでも機会はあるし、いいだろ?」

「はぁ、仕方ないわね」


 口では不満そうなトリカだが、柔和な表情を浮かべていた。なんだかんだいっても優しいトリカである。

 さて、駅までゆっくり歩いていこう。女子の準備は数時間掛かるらしいしな。


「それはさすがに掛かり過ぎだと思う」


 トリカに突っ込まれたのを機に、僕らはまた歩き出した。




 駅の待合スペースで吉岡さんの到着を待つ。

 その間、トリカがずっと売店に目をやっているのだが、気付かないふりをした。

 トリカの服を見繕って、その後神社に行って適当に帰るというのが今日の予定だが、吉岡さんをどう迎えるべきだろう? トリカの服を見たらはいさよならというのも印象が悪くないか? かといって僕らの予定に付き合わせるのも意味不明だし。

 まあ、それは吉岡さんが来てから話すことにしよう。


「あ、ユリきた」


 椅子の上でぺたりと伏せていたミカが、立ち上がってそう言った。

 こちらに向かって歩いてくるおかっぱのシルエットが確認できた。軽く手を上げてアピールする。

 当然だが、吉岡さんは私服姿で現れた。

 ゆったりとしたシャツとフレアスカートという出で立ちの吉岡さんは、いつも以上に可愛らしく見えた。制服姿と違って非常に新鮮である。


「おはようございます。お待たせしました」


 吉岡さんは少し息を切らした様子だった。本当に急いで来てくれたようだ。


「おはよう。ごめんね、いきなり電話しちゃって」

「いえいえ、私も暇でしたから。むしろよかったです」


 そう言ってにこっと微笑む吉岡さん。天使か?

 そして僕の隣に座るトリカにも挨拶をした。


「おはようございます、トリカさん。先日はお世話になりました」

「ん、今日はよろしく」

「はい。頑張ります」


 相変わらずエラそうなトリカである。

 挨拶を済ませた吉岡さんは僕の方を向いた。


「今日はどういう予定なんですか?」

「えっとね、トリカの服をアレした後は――」


 パワースポットとしてちょっと有名な神社に行くことを伝えると、吉岡さんはうんうんと頷いた。


「わかりました。では、その途中の駅の近くにいい古着屋がありますので、そこに行きましょう」

「了解」


 方針が決まると、僕らは改札を抜けてホームに降りた。

 ていうかちょっと待って。意図せず女を侍らせる春待みたいな状態になった。


“こういうのを両手に花って言うんでしょう?”


 花が強すぎて僕の手に余る。

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