唐揚げ
休みが明けて学校に登校してくると、昇降口で妙なものを目撃してしまった。
侍である。
腰に刀を帯び鎧兜を装備した仁王立ちは、百戦錬磨の貫禄を感じた。光沢のある黒い胴は剣道部のそれと似ているとどうでもいいことに気付く。
完全に異質な存在だが、周囲は誰も注目していない。つまり、あれは霊的な存在だということだ。何故学校に侍が……。
下手に凝視などすると目をつけられる可能性がある。僕は極力意識しないようにした。
「あれはほんの少し骨がありそうね。ま、私の敵ではないけど」
とりあえず力関係を明らかにしたトリカである。僕にしてみれば侍の方が圧倒的に怖い。存在感が違う。横を通ったら上半身と下半身がバイバイしてそうな雰囲気がある。
だからトリカも変に挑発しないでくれよ。
「私をなんだと思ってるわけ? そんな野蛮じゃないわ」
本当かよ。
下駄箱に行くためには、まるで門番のように立っている侍の横を通る必要がある。
正直、尻尾巻いて逃げたいのだが、授業があるのでそういうわけにもいかない。
平静を装い、素知らぬ顔で横を通り過ぎる。なんとなく息を止めてしまっていたが、何事もなく抜けることができた。
と思ったら、誰かに声をかけられた。
「そこのお前! ちょっといいか?」
「はあ」
取り立てて特徴のない男が現れた。初対面でお前呼ばわりとは失礼なやつである。しかも侍が近くにいるこのタイミングで声を掛ける間の悪さ! 迷惑極まりない。
この男の背後に一人の女子が控えており、僕のことをじろりと睨んでいる。嫌な感じだ。
中肉中背の男は僕の目をまっすぐに見つめて尋ねてきた。
「最近、何か変わったことはないか?」
「変わったこと……? いや、ないけど」
しいて言うならお前に声をかけられたこと、と嫌味を言いたかったが、小心者なのでできなかった。
僕はもう早く教室に行きたかった。この謎のカップルも嫌だが、近くにいる侍が怖いのだ。
「そうか……。何か疲れやすいとか、肩が重いとか、食べ物がなくなったりしてないか?」
「いや、別に」
そういえばコーラがなくなったことはあったな。誰かさんに飲まれて。オレンジジュースもなくなったな。誰かさんに飲まれて。
“根に持ってるの?”
嫌味的冗談だ。
というか、急に脳裏に語りかけられたので、そっちの方に驚いた。
“こういうこともできるって言ったでしょう?”
確かに出会って間もない頃にそんなことを言われた気がする。しかし、なぜ今?
“この子たち、多分私のことが見えてる”
無表情で驚く。つまりこの男の質問は、トリカが憑いていることによる影響を探ったということか。見えるということは、多分聞こえるということでもある。こういうときトリカとは内緒話ができるので便利だなと思った。
それはそれとして、魔力を認識できる仲間は歓迎である。しかし、ファーストインプレッションがよろしくない。魔力を認識できるなら、この侍も二人の身内なんだろう。
もしかすると、トリカが悪霊かなにかと勘違いされているのではないか。今後の展開としては、あの侍にトリカが斬られるなんてこともあるかもしれない。
“この姿に攻撃されても、魔力が消費されるだけで本体には何の影響もないわ。もちろん斬られるつもりもないけど”
表に出ているトリカは魔力によって投影された姿である。攻撃を受けると、その投影している分の魔力を失うということらしい。
しかし、その魔力は僕が日々少ないながらも与えている魔力である。それを無駄に消費されるのは気分がよくない。まあ、トリカと僕がおとなしくしていれば理不尽は避けられるはず。
“理不尽は避けられないから理不尽なのよねえ”
それはごもっともな意見だった。
そんなことを話している間、特徴のない男は何やら考え込んでいた。この隙に逃げよう。
「僕もう行っていいすか。ホームルーム始まっちゃうから」
「ああ。引き止めて悪かった。あ、名前は?」
そっちから名乗れよ、と言いたいが小心者なので言えない。
「守谷」
「俺は一年六組の春待。よろしくな」
何をよろしくされているのかわからないので、適当に苦笑いで返しておいた。
昼休みになると、僕は真っ先にモロとトシに尋ねた。
「春待ってヤツ知ってる?」
その名前を出した途端、二人は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「春待藤次だろ知ってるよ。あのモテ男だろ?」
「あんな平凡な感じで、意味わかんねーくらいモテんだよな」
どうやらモテる男らしい。じゃあ敵じゃん。
弁当を広げながら、そのモテ男について具体的なことを聞く。
「なに? 春待はモテ男として有名なの?」
「いや、有名なのは女の方。二年の先輩に辻村梨奈っていう美人がいるんだけど、これが春待にべったりらしいのよ」
モロが言う辻村という先輩は、春待の背後に控えていた女だろうか。睨まれた印象が強いが、確かに美人だったような気がする。
「アキラの印象に残ってないのも仕方ないわ。私の方が美人だったから」
トリカは僕の記憶力をフォローしながら格付けを済ませていた。恐ろしい女である。
それはさておいて、モロたちに話を振る。
「辻村って人が美人ってだけで有名なの?」
その僕の質問に「いや」とトシが言い、補足してくれた。
「普段すっげー無愛想なんだけど、春待に対してだけはデレデレなんだって。そのギャップがやばいことで有名って卓球部の先輩が言ってた」
「へー。やべーな」
「やべーのよ」
トシの情報を頭に入れていると、モロがぼやいた。
「しっかしどうしてモテるのかが謎だわ。まだ四月の下旬だけど、春待の周りにゃ常に女がいるんだってよ。飯も女子と食ってるらしいし。辻村先輩だけじゃねーのよ」
女子と昼飯ってそれもうカップルだろ。しかも一人じゃないってハーレムじゃん。女友達すら幻想だと思っている僕には考えられない話だ。
「私がいるじゃない」
トリカが自身の胸に手を当てて言った。フォローはありがたいが、ちょっと特殊過ぎるかな。
僕の思考が気に食わなかったのか、トリカは目に止まらぬ早さで僕の弁当から唐揚げをさらっていった。メインはやめろ!
それにしても、なぜ今頃になって彼らは接触してきたのだろう。モロが言うように今は四月の下旬。そろそろゴールデンウィークという時期だ。接触してくるならもっと早いタイミングがあったはず。
「害がないから放置してたんじゃない?」
トリカはそう推測した。そうかもしれない。
春待は一年六組だと言っていた。僕のクラスである一組とは教室が離れているので、そう関わることもない。案外、トリカを目にする機会もなかったのかもしれない。
彼らとはおそらく同じ境遇だと思うので、霊の類について色々と共有したい願望もある。ただ、あの辻村という女の先輩は好意的ではなかったし、春待は何か品定めするような雰囲気があった。だから関わりたくない気持ちもある。
と、ここまで考えてふと思ったが、トリカの気持ちはどうなんだろう。僕は平穏に過ごしたい一心で霊の類に関することを避けて通ろうとしているが、トリカにしてみれば自分を認識してくれる人間が増えることは嬉しいことかもしれない。多くの人間に認識されない現状を、僕は深く考えていなかった。
トリカはわかりやすくプライドの高い女である。こちらの世界に飛ばされて孤独の身であっても、泣き言ひとつ言わないし、そんな様子も見せない。それゆえに僕はトリカのことを軽視してしまう傾向にあるのだが、本来はもっと思いやる必要があると思うのだ。
「……そうね。あの二人とちょっと話してみたいかも」
トリカがぼそっと呟いた。
それなら、次に会ったときには腹を割って話してみよう。
そんなことを考えている間に、モロとトシが結論を出していた。
「とにかく、春待は男子の敵ってこったな。教室が遠くてよかったよ」
「ま、春待がいなくても可愛い子に縁はないけど」
「おまっ、悲しいこと言うなよトシ……」
その会話を笑いながら聞いていると、「お前も笑えないだろ!」と突っ込まれた。
その通りだった。
放課後。
モロは用事があると言って先に帰ってしまった。今日はトシの部活がないので、二人で帰ることになりそうだ。
下駄箱で靴を履き替えていると、トシが何かに気付いた。
「陽、あれが噂の辻村先輩だ」
「あー、あれが」
トシの目線を追うと辻村梨奈先輩の姿を確認できた。春待の後ろに控えていた女と同一人物だった。
サイドテールが印象的で、眼差しは冷たく、いかにもクールな雰囲気を感じる。引き締まった身体をしており、スタイルが良い。美人は無愛想でも美人だとわかる一例である。同性にいじめられそう。
彼女は誰かを待っているようだった。昼休みの話から察するに、春待だろう。あるいは僕らかもしれない。
手持ち無沙汰な彼女の近くに、もっと気になる存在が立っていた。
侍である。相変わらず威圧感が半端ない。兜をかぶっていることもあって顔はよく見えないが、それがかえって怖さを助長させている。侍は辻村先輩に付いていると思われる。守護霊か何かだろうか。
“目が合うわね。やっぱりあの子は私が見えてる”
辻村先輩のことを言っているようだ。というか僕とも目が合う。
その彼女の眼差しは関わるのを躊躇わせるほど鋭い。しかし、こう目が合うと僕らを待ち構えている様子は明らかなので、シカトというわけにもいかないだろう。
「ごめんトシ、僕あの先輩に呼び出されてるんだ」
「辻村先輩に? やるな陽」
トシは何か勘違いしてるようだったので、適当に理由をでっち上げる。
「違うんだよ。実は春待にちょっかい出しちゃってさぁ。それを見られてたんだよ」
「マジかよ。てか春待にちょっかいって何してんだよ」
「ははは、いや女とイチャコラしててムカついたからさ」
「ならしゃーないな。じゃあ俺は先帰るよ」
「うん。じゃあまた明日」
「おう」
トシの背中を見届けると、辻村先輩に向き直る。無愛想な顔がそこにはあった。
すぐに話をするのかと思ったが、先輩は僕に背を向けて移動を始めた。さすがに下駄箱付近で話すことでもないか。
校門の近くまで歩いてくると、辻村先輩は侍を従えてつまらなそうに口を開いた。
「あんた、武蔵が見えてるよね」
「ムサシ?」
どうやら侍の名前らしい。まさか宮本武蔵の霊?
僕はもう霊が見えることを明かすつもりなので、意識的に侍に視線を送る。
その反応から察したのか、辻村先輩が答えた。
「一応言っておくけど、本人じゃないから」
「あ、そうすか」
「それより」
辻村先輩はふわふわ浮かぶトリカを指差した。
「それ、何? フィギュアの付喪神?」
僕は腹を抱えて笑いたい気持ちになった。なるほど、トリカはフィギュアの付喪神だったのか。
「違うでしょうが」
スパーンと頭を叩かれた。
トリカは一度咳払いをすると、高らかに名乗りを上げた。
「私はトリカ。神に等しき実力を持つ、異世界から来た超絶天才美少女魔法使いよ」
相変わらず自己評価が高いやつだと思っていると、辻村先輩はきょとんとしていた。
「……そういうアニメのヒロイン? のフィギュアの付喪神?」
確かにアニメっぽい見た目かもしれない。
しかしながら、トリカの出自については僕もよく知らないし、こちらに飛ばされた経緯を説明するのも面倒くさい。フィギュアの付喪神と認識されても僕に不都合はない。
“私はイヤ”
トリカがそう言うならちょっと説明しておく。
「いや、僕も詳しいことはわからないんですけど、トリカは本当に異世界から来たみたいなんすよ。付喪神じゃないっす」
「そんなことあるんだ……」
辻村先輩は驚きに目を見張っていた。
先程から彼女は付喪神という言葉をバンバン使っているが、この侍がそうなのだろうか。
今度はこちらから質問する。
「その武蔵はどういう存在なんですか?」
「武蔵は、木刀の付喪神」
真剣じゃないのか、と拍子抜けしたが、トリカが忠告してきた。
“でもあの刀はちゃんと切れると思うわよ”
やべーな。銃刀法違反じゃん。
そんなどうしようもないツッコミをしていると、辻村先輩がじろりと睨んできた。
「で、その魔法少女は無害なの? それ使って何か悪さをしてない?」
なんて言い草だ。
害なんて何もないと僕が否定するより先に、トリカが口を挟んだ。
「失礼ね。こっちの世界の人間には礼儀というものがないのかしら」
世界単位で一括りにされると否定したくなるが、この先輩の態度が好意的ではないのは明らかである。初対面の相手に対する言葉ではない。
言われた辻村先輩は面食らった様子だったが、すぐに強気な顔になる。
「あんたみたいな正体不明の存在を尊重する必要ある? まあ、男なら見た目に騙されて丸め込まれちゃうかもしんないけど。そこの冴えない陰キャみたいに」
それはつまり、僕がトリカに籠絡されたと言いたいのか。
これは明らかに失礼である。僕は決してトリカの見た目にほだされたわけではなく、自分の損得、そして良心を天秤にかけて、こうして共存する道を選んだのだ。ほんといい加減にしてほしい。
“インキャってなに?”
え、そこに疑問を持っちゃうの?
陰キャとは陰気なキャラのことであり、根暗などと同義の言葉である。もちろん僕は陰キャではない。
“そうかしら?”
そこは素直に頷いておけと言いたい。確かに陽気とは言い難いが。
辻村先輩とトリカがバチバチ睨み合っていると、満を持して春待藤次が登場した。
春待は辻村先輩に駆け寄り、その腕を掴んだ。
「梨奈! なにやってんだよ」
「藤次……」
「勝手に一人で動くなって言ったろ」
「でも、あれが危険だったら藤次が」
「馬鹿! 俺は大丈夫だっつの。俺がいないところでお前が傷つく方が嫌だ」
「藤次……! ごめんね」
え、なにこれ?
今の話の流れから察するに、“あれ”とはトリカのことであり、もしそれが危険だったら辻村先輩が一人で処理をしようとしていたのだろう。
トリカをどうこうしようというのは無理な話だが、何よりもムカつくのはこの会話を僕の前でしたことだ。厚い信頼関係が見て取れて腹立たしい。妬ましい。僕は男女間でそんなものを築いたことがない。
なぜ僕はこんなところで時間を無駄に消費させられている上にイチャイチャを見せつけられているのだろうか。やべえ、このイライラをラップにしてえ。
「Ey-Yo 用が終わったんなら帰っていいすか。絆、見せつける春待&辻村。
道草食ってる場合じゃない実は、ディスカウントショップにトリカと行くわ。
昼間から胸焼けするラブ戦、深夜のコト想像するlike a “実話”。
ミスターモテ男とゴリに言っとくわ、シルバーな髪でも優しいlittle girl alright?」
僕の衝動的ラップにふたりともぽかんとしていたが、辻村先輩がはっと我に返る。
「え、キモ……ってゴリ!?」
辻村先輩は露骨に蔑み、春待は笑みを浮かべた。
「その娘はトリカって言うのか。よろしくな!」
春待に笑顔を向けられたトリカは、にやりと口角を上げた。
「ふふ、そこのインキャな女と違って爽やかね。よろしく」
嫌味を言われた辻村はぐぬぬぬっと唸っていた。春待の前だとあまり強く出れないらしい。猫をかぶっているのかもしれないな。
僕は春待に尋ねる。
「春待も見えるんだよな」
「ああ。まあ、俺は大した力はないけどな。梨奈は付喪神がいるから、霊に対抗できるけど」
あの侍は霊に対し力を行使できるようだ。あんな見た目で無力という方が不自然か。
春待は大した力はないと言っているが、まったくないというわけでもないのだろう。僕のように見えるだけの完全無力マンとは違うと見ていい。
「対抗とか言ったけど、霊と関わることあんの?」
「あるよ。家の中に入ってきたりするし、たまにたちの悪い霊に付き纏われたりするし」
「なんで? 普通に過ごしてたらそんなふうにならんだろ」
その僕の疑問には、辻村先輩が答えた。
「藤次はエネルギーに満ちてるみたいで、それを吸い取るために霊が寄ってくるの」
それはトリカが言うところの魔力だろうか。
“そうね。確かに普通の人間と比べたら魔力は多いと思うわ”
ちなみに僕と比べてどう?
“あなたの十倍と言ったところかしら”
結構な差だった。
仮に春待から魔力を分けてもらえれば、十倍の早さでトリカの魔力が溜まる。
これすなわち、僕は用済みなのでは……。
“ふふ、見捨てないから安心しなさい”
トリカはいたずらっぽく笑って言った。なぜかほっとしている自分がいる。
いや、もう少し合理的にものを考えるべきだろう。十倍は明らかに大きい差である。
“合理的な結論を述べるわ。あなたと出会ったときに線を結んだのを覚えてる? あれをやるのに結構魔力が必要なの。その労力を考えると、現状のままで充分”
その線について僕は詳しく知らない。魔力の受け渡しに必要という話だったが、これまでにトリカは霊の魔力を吸っている。線を通して僕から魔力を受け取るのと、霊から魔力を吸い込むこと、ここにどんな差があるのだろう。
“例えて言うなら、あなたから魔力を貰うときはパックにストローを差して飲む感じ。霊から吸い取る場合は果物を搾って直接飲む感じ。後者は無理矢理なのよ”
理解はできる。普通の人間が後者の方法で吸われるとどうなるのだろう。
“まあ、長生きしないでしょうね”
線があることで僕の身体に負担がないことはわかった。しかし、その線を再び形成することはそれほど魔力が必要なのだろうか。春待が僕の十倍も魔力を持っているならすぐにリカバリーできると思うのだが……。
“あなたね、私に離れてほしいの?”
そうじゃない。心が読めるんだからそれはわかるだろう。
“ならいいでしょう? せっかく仲良くなってきたのにそれを無にするなんて馬鹿のすることだわ”
トリカがそれでいいなら、僕がこれ以上言うことでもない。確かに仲良くなってきたしな。
春待がトリカを受け入れるかどうかもわからないことである。まあ、線を繋いでしまえばなし崩し的に話が進むだろうけど。
「守谷。おい守谷! 急に黙ってどうしたんだよ」
「あ、ああ、ごめん。考え事してた」
春待が僕の肩を揺すってきたことで意識がこちらに戻る。
何の話をしていたんだったか……。ああ、春待の魔力が多いから霊が寄ってくるという話だった。
「それで春待に霊が寄ってくるから、辻村先輩が守っていると?」
「いやー、まあ、情けない話だけど、そうなんだよ」
春待は頭をかいてそう言い、気を取り直したように咳払いした。
「梨奈が勝手に突っ走ったみたいだけど、俺らが気になってんのはそのトリカのことなんだ」
「はあ」
「その娘はいったい何なんだ? 霊なのか?」
それに対してトリカが答える。
「私は生きてるから霊ではないわ。わけあってこんな状態だけどね」
「わけ?」
「そこは乙女の秘密」
トリカは意地の悪い笑みを浮かべ、二人を煙に巻く。春待は苦笑いし、辻村先輩は眉間にしわをつくっていた。
変に誤解されたくないので、すかさずフォローを入れる。
「トリカはこんな感じですけど、人に危害を加えるようなことはしないので、何も気にする必要ないっすよ」
「こんな感じってどんな感じよ。それより、そこのサムライはどうなの? 私なんかよりよっぽど物騒な見た目をしてるけど」
トリカは僕に突っ込みを入れつつ、話の矛先を変えた。
その問いに辻村先輩が淡々と答えた。
「武蔵は付喪神だから悪いことはしない。高潔な精神を宿した武士よ」
付喪神だから、は理由になっているのか定かではないが、悪いことはしないらしい。辻村先輩に従属しているのだろうか。
黙して語らない侍を見ながら、辻村先輩に尋ねる。
「喋らないんですか、武蔵は」
「当たり前でしょ。武士なんだから」
武士だから、は意味不明だが、この場では納得しておいた。
春待が笑顔で僕と肩を組んでくる。
「いやー何も悪いことがないならいいんだよ。てか見えるなら言えよ守谷! 同じ境遇のやつがいて嬉しいわ!」
「お、おー」
この春待という男、非常にフレンドリーである。こういう男が人に好かれるんだろうなとぼんやり思った。
「この後暇か? あ、ディスカウントショップに行くんだっけ?」
「いや、あれは韻を踏むためで……」
「じゃあ一緒に飯でも食いに行こうぜ! いろいろ話したいことあるしさ」
「ああ、うん。いいけど」
「よっしゃ! じゃあ何食う? 俺めちゃくちゃ腹減っててさ――」
春待に言われるがまま、僕らは飯を食いに行くことになった。
辻村先輩は不服そうな顔をしながらついてきた。




