23話(端話)近衛騎士団、極秘会議(?)
23話(端話)近衛騎士団、極秘会議(?)
野営地へ戻ったその夜。
焚き火から少し離れた場所で、リアナは腕を組んで深いため息をついた。
「……見た?」
隣で干し肉をかじっていたオーウェンが首をかしげる。
「何を?」
「何を、じゃない!」
リアナは思わず声を潜めた。
「シリルよ、シリル!」
その名前に、少し離れて剣の手入れをしていたクラウディアも顔を上げる。
「また何かしたの?」
「また何か、どころじゃありません!」
リアナは勢いよく立ち上がった。
「祠の中で、ずーっとエレノア様を気にしてたじゃないですか!」
「……ああ。」
クラウディアは何かを納得したかのように星空を仰ぎ、オーウェンは苦笑する。
「まあ…、護衛だからな。」
「違う違う!」
リアナは即座に首を振る。
「護衛なら普通は周りを警戒するでしょ? あの人、危ない場所になるたびにエレノア様の隣へ行ってたじゃない!」
クラウディアが静かに頷く。
「それは私も見ていた。」
「ですよね!」
「床の仕掛けを見つけた時も、真っ先に腕を引いていた。」
「そう、それ!」
リアナは指をぱちんと鳴らした。
「それだけじゃありません。祭壇へ行く時なんて、『俺も行く』ですよ?」
オーウェンが頷く。
「あれは俺も驚いた。」
「でしょう!?」
リアナは焚き火の向こうで見張りをしている黒髪の騎士をちらりと見る。
「シリルがよ? あのシリルが!」
オーウェンは懐かしそうに笑った。
「この前なんて、入団したばかりの女性騎士が思いっきり転んでも『前を見て歩け』で終わりだったからな。」
「ええっ!?」
「しかも助けなかった。」
「助けなかったの!?」
「本人いわく、『自分で立てる』だった。」
リアナは額を押さえた。
「ひどい……。」
クラウディアが淡々と付け加える。
「以前、貴族令嬢が城で倒れかけた時もあった。」
「あ、それ聞いたことあります!」
「シリルはどうしたと思う?」
リアナは少し考えた。
「……支えた?」
クラウディアは首を横に振る。
「一歩下がった。」
「下がった!?」
「令嬢が侍女に支えられるよう場所を空けた。」
オーウェンが肩を震わせる。
「『俺が触れる方が騒ぎになる』だと。」
「……確かに騒ぎにはなりそうだけど。」
リアナは呆れ顔になる。
「じゃあ今回、エレノア様には何回触ってた?」
三人はしばらく黙る。
リアナが指を折り始めた。
「床の仕掛けで腕を引いた。」
オーウェンも一本折る。
「祭壇まで手を繋いだ。」
クラウディアが静かに続けた。
「石板のとき背中を支えた。」
「出口でも腕を掴んでた。」
全員が顔を見合わせる。
「……多いな。」
「多いわね。」
「異常。」
三人の意見は完全に一致した。
「しかも全部、本人は無意識なんだよね?」
「ああ。」
オーウェンが焚き火を見つめながら言う。
「本人は本気で『任務』だと思ってる。」
リアナがにやりと笑う。
「そうそう!」
オーウェンも頷いた。
「帰り道なんか見たか? エレノア様が周りを見ながら歩くたびに、あいつも速度を落としてた。」
クラウディアが静かに口を開く。
「しかも本人は気付いていない。」
「そこが一番面白いんですよ!」
リアナは笑いを堪えきれず肩を震わせた。
「本人は『任務だ』って言ってるのに、態度だけ全部『大事です』って言ってるんですから。」
オーウェンが吹き出す。
「違いない。」
「エレノア様も気付いてないみたいでしたし。」
「気付く方が難しいだろ。」
オーウェンは苦笑した。
「シリルはこれまで自分から女性を遠ざけてたからな。エレノア様もそういうところは鈍そうだし。」
「先は長そうだねぇ。」
リアナが空を見上げる。
「確実に長いわね。」
クラウディアも珍しく同意した。
その時だった。
「何の話だ。」
背後から、低い声が聞こえた。
三人の肩が同時に跳ねる。
振り返ると、いつの間にかシリルが立っていた。
「シ、シリル!」
「聞いてたの?」
リアナがおそるおそる尋ねる。
「途中からだ。」
「ど、どこから?」
「『異常』」
三人は固まった。
数秒後。
オーウェンが盛大に吹き出した。
「ははははっ!悪かった!」
「笑ってる場合か!」
リアナが肘で小突く。
シリルは三人を順に見回した。
「くだらない話をしている暇があるなら、休め。」
「はいはい。」
オーウェンは笑いながら手を振る。
「お前も早く寝ろよ。」
シリルは短く「ああ」と答え、そのまま踵を返した。
三人は彼の背中を見送る。
しばらく沈黙が流れ――。
リアナが小声で呟く。
「……怒ってなかったね。」
「だな。」
「いつものシリルなら、『無駄話だ』で終わってた。」
クラウディアは少しだけ考えるように視線を上げた。
そして一言だけ言う。
「図星だから。」
沈黙。
次の瞬間、
リアナとオーウェンが同時に吹き出した。
一方その頃。
見張り場所へ戻ったシリルは、小さく息をつく。
――異常、か。
自分でも分かっている。
これまでなら、誰か一人をこれほど気に掛けることはなかった。
危険があれば真っ先に庇い、足元を気にし、歩幅を合わせ、無事かどうか何度も確認してしまう。
(……確かに、いつもの自分ではない。)
そう考えた、その時だった。
少し離れた焚き火の向こうで、エレノアがアルヴィンと何かを話し、柔らかく笑っていた。
自然と、その姿を目で追ってしまう。
笑顔を見れば安心する。
無事でいると分かれば、肩の力が抜ける。
(……任務だから。)
そう言い聞かせても、どこか腑に落ちなかった。
「……。」
シリルは小さく息を吐いた。
◇
「議事録。」
リアナの言葉にオーウェンが吹き出す。
「あるのかよ。」
リアナは指を一本立てた。
「本日の結論。」
クラウディアが静かに続ける。
「シリルは重症。」
「「異議なし。」」




