10話(端話)恋敵……?
10話(端話)恋敵……?
リアナは赤茶色の髪を揺らしながら、廊下を歩いていた。
まだ頬が少し熱い。
「本当に素敵な方だな……。」
思わず呟く。
そこへちょうどクラウディアとオーウェンがやって来る。
「リアナ。」
「あ、お疲れ様です。」
クラウディアが柔らかく笑う。
「ずいぶん長くお話ししていたわね。」
その一言だけで、リアナの表情がぱっと明るくなる。
「聞いてください。アシュフォード様、本当に素敵な方なんです!」
オーウェンが苦笑する。
「それは知ってる。」
「違うの!」
リアナはぶんぶん首を振る。
「お綺麗なのはもちろんだけど、それだけじゃなくて、本当に博識で、お話も分かりやすくて、それにすごく優しくて!」
息継ぎも忘れる勢いだった。
「地下神殿のお話を聞いていたら、私までそこにいたような気持ちになって……。」
「しかも、全然偉ぶらなくって!」
「私なんて騎士なのに、逆に勉強させてもらっちゃったわ!」
クラウディアが小さく笑う。
「ふふ。すっかり惚れ込んじゃったのね。」
「はい!」
リアナは即答した。
「また王城に来てくださる機会があったら、もっとお話ししたいなぁ。」
「その時は仕事を忘れないようにね。」
クラウディアが優しく釘を刺す。
「わ、忘れません!」
「何の話だ。」
背後から低い声。
三人が振り返る。
シリルだった。
オーウェンの口元がにやりと上がる。
「リアナがすっかりアシュフォード嬢に惚れたらしい。」
「惚れたって言い方は違うって!」
リアナは慌てて否定する。
「でも、本当に素敵な人だよね。綺麗だし、優しいし、古代文字のお話もすごく面白くて。」
「明日も私がご実家まで送ることになったから、またお話しできるんだ。」
シリルは少しだけ目を伏せる。
「……そうか。」
短く返す。
「明日も楽しみだなぁ。」
リアナは無邪気に笑う。
「もっといろんなお話を聞いてみたい。」
その一言に、シリルはほんの一瞬だけ黙った。
「……任務中だ。」
ぽつりと言う。
リアナはきょとんとする。
「え?」
「送り届けるまでが任務だ。」
「それはもちろん分かってるわよ。」
リアナは首を傾げる。
「私だってちゃんと任務として送るんだから。」
「……そうか。」
シリルはそれだけ言って歩き去る。
オーウェンはその背中を見送り、肩を震わせる。
「クラウディアさん。」
「ええ。」
「今の、完全に牽制でしたよね。」
クラウディアは微笑む。
「本人は護衛として当然のことを言っているのだけれどね。」
「無自覚って怖い。」
「ふふ。」
◇◇◇
翌朝――。
リアナと並んで船着き場へ向かったエレノアは、小さく目を瞬かせた。
「あら……?」
小舟の前には、すでにシリルが立っていた。
「おはよう。」
淡々とした挨拶。
リアナは目を丸くする。
「シリル? なんでいるの。」
「勤務だ。」
「昨日休めって言われてたでしょ。」
「十分に休息は取った。」
シリルは静かに答える。
「それに、送り届けると約束した。」
「約束したの私だから!」
リアナはすかさず突っ込んだ。
「フローリア嬢に『必ずお送りいたします』って約束したのは私! シリル、その時ほとんど話してなかったでしょ!」
「……そうだったか。」
「そうだったわよ!」
リアナは頬を膨らませる。
「エレノア様に昨日のお話の続きも聞きたかったんだけど。」
「……任務だぞ。」
「だから、それは分かってるって!送る途中で少しくらいお話したっていいじゃない。」
「任務だ。」
二人のやり取りを見つめながら、エレノアは困ったように小さく笑う。
「お二人とも、とても仲がよろしいのですね。」
「「違う。」」
ぴたりと声が重なる。
エレノアは思わず、くすりと笑った。




