火の神殿<ラピス視点>
<ラピス視点>
私たちは火の神殿が見える草原までくると、フェニックスが復活するというその日まで野営をして日程を調整した。
そしてとうとうその日となり、私たちは最後の朝食を取ると火の神殿に向かった。
火の神殿は左右急な岩山に挟まれて建っており、神殿の向こうから日が昇ってきている。
神殿へ続く回廊の両側には赤茶けた壁が続いており、その壁には今はもう失われた文字と、枯れた草花、死んだ動物の絵が掘られている。教会の言い伝えによると、もう何千年もの昔にフェニックス復活の儀式に失敗し、世界の動植物と多くの人類が死に絶えた時代があったという。
回廊を抜けると、そこは天井のない石畳の広間となっていた。
「やっと着きましたね」
アリアが明るい笑顔で言った。
「この広間何にもないですが、これから何か起こるのでしょうか?」
エライザも特に緊張はない。
おそらくこの中でやたらと緊張しているのは私だけだろう。
ラスボス戦では回復役に徹しようと、魔力を高める魔術師のローブを着てきたし、接近戦用の小手ではなく魔力を高める腕輪をはめた。
アリアに輪廻の剣も託し、その使い方も伝えたし、できることは全てやったと自分で自分をほめてあげたい。
私たちが火の神殿の広間で随分と長い時間待っていると、日がちょうど真上に昇る頃、空から『キィー』という鳴き声が聞こえ、黄金に輝く大きな鳥が舞い降りてきた。
(フェニックス・・本当に目にするとは・・)
フェニックスは広間の先の壁に囲まれた空間に降り立つと、こちらを見た。
その目は鳥ではなく、全てを見通している様な目であった。
フェニックスは、少し身震いすると全身から黄金の炎を発現させた。
どんどんと黄金の炎は勢いをあげ、強い眩しさを放ったかと思うと、そこに一羽の小さな黄金の鳥の姿が残った。
(なんと弱々しい幼鳥・・)
私は小さな不安を感じた。
その時、広間の方から『ゴゴゴゴ・・』という地響きが起こった。
皆が広間を振り返ると、石畳の床から黒い液体の塊が染み出してきた。
黒い物体はどんどんと大きさを増し、二メートルほどの蠢く塊となった。
黒い物体のあちこちに人の顔の様な凹凸が浮かんでいる。
(これがラスボスか)
吐き気を催すおぞましさだ。
「アリア、『輪廻の剣』にエネルギーをため始めてください」
私がそう言うと、アリアは背後のフェニックスの幼鳥を守る位置で胸に『輪廻の剣』を掲げ、目を瞑り集中した。
黒い塊はブルブルッと震えると、体内から爛れた黒い人型の様な物を次々に生み出した。
カイルが剣を抜き、前に出る。
「エライザ嬢、全体に魔法での攻撃をお願いします。溢れた物は私が倒します」
エライザが攻撃魔法、カイルと私が接近戦、ローガン先生はアリアを守る形で戦う。
しかし、黒い塊は更に次々と黒い人型を生み出していき、キリがない。
黒い塊本体にはほとんどダメージを与えられず、黒い塊が生み出す人型を倒しているだけで私たちは消耗していった。戦いを続けるほど、黒い人型はむしろ数を増してきている。
前にいるカイルが黒い人型に取り囲まれたと思うと、黒い人型が持っている剣に背中を刺され倒れこんだ。
「エライザ、援護を!」
私がそう言うと、エライザがカイルの上にわらわらと集まった黒い人型に雷魔法を放った。
私がカイルの上に残っている黒い人型を切り捨てると、背中に深く剣が刺さっているカイルが倒れていた。
背中の剣を抜くと、血が溢れてくる。
「キュア」
背中に手をあて回復魔法を唱えるが、血が止まらない。
(この体の回復魔法では弱すぎる)
私はカイル仰向けにすると、その唇に口付けた。
私の体が歪み、女性に変化していく。
(早く・・)
エライザが魔法を連続して放ち、こちらに黒い人型がくるのを防いでくれているが、その表情は苦しそうだ。
私は体に魔力が満ちるの感じると、すぐさまカイルに『キュア』をかけた。
カイルの全身が強く発光した。
「う・・」
カイルが目を開けた。
「ラピスが回復してくれたのか」
カイルが私の姿を見て少し驚いた。
(よかった)
少し表情を崩した私は、続けてカイルに『バリア』と『フォース』の魔法をかけた。
大幅に防御力と攻撃力が上昇する魔法だ。
カイルは体を起こし、
「ラピス、ありがとう」と言って立ち上がった。
カイルの顔は久しぶりに私の大好きなあの優しい目をしていた。
前線に戻ったカイルの放つ攻撃は先ほどよりも明らかに攻撃力を増しており、勢いよく黒い人型を駆逐していっている。
私がエライザとローガン先生の所に駆けつけると、彼らは大きな傷は負っていないが疲労の色を濃くしていた。
「ライフ」
私が二人同時に生命力を回復する魔法をかけた。
空中にキラキラ光る粒子が現れ、彼等の中へ吸い込まれていった。
「すごい・・」
エライザがぽかぽか暖かくなった体にびっくりして言った。
私は更に全員に『バリア』と、ローガン先生と私に『フォース』をかけた。
(ひとまず、体制は持ち直したか)
アリアを見ると、まだ苦しそうに輪廻の剣にエネルギーをためている。
(後、どれくらいかかるだろうか・・)
私はその後、弓で黒い人型に応戦していたが、二体の接近を許してしまった。
懐のダガーを取り出して黒い人型に突き刺すが、この体ではダガーが重く、浅くしか刺せない。
もみ合っていると、黒い人型の一体に腕を掴まれ動けなくなってしまった。
(まずいっ)
そこに、もう一体が私の胸に向かって剣を突き刺した。
「うっ・・」
胸に灼熱の衝撃が走った。
「ラピス!」
目をやると、恐怖で青ざめたカイルが駆けつけてくるのが見える。
(カイル・・もうダメかもしれない・・)
私の視界はカイルを中心に狭まってゆき、そして全てが闇に包まれた。




