邪神教の神殿<ラピス視点>
<ラピス視点>
これから私たちの向かう火の神殿のラスボスを倒すに当たって、アリアの『輪廻の剣』が最終兵器となる。この『輪廻の剣』は本来、悪役令嬢のエライザがアリアを邪神教に売り渡すことによって生じる、アリア救出イベントで入手することができるのだが、肝心のエライザが学院で素敵な貴公子とリア充になっていて全く機能していない。
やむなく今回は、私が皆を少し騙して邪神教に乗り込むことにした。
作戦はこんな感じだ。
・アリアを人質に取って、それ以外の三人は牢屋に入ってもらう。
・アリアを邪神教に引き渡すことによって信頼を得、邪神教徒の指輪を手に入れる。
・こっそりと牢屋から三人を逃がす。
・三人がアリアを救出している混乱に乗じて宝物庫に行き、手に入れた指輪で宝物庫の扉を開いて『輪廻の剣』を入手する。
あまり演技力に自信のない私には少しハードルの高い作戦を立ててしまった・・
鬱蒼としたジャングルに踏み入れること数時間、私たちはジャングルの中に隠れるように現れた古代遺跡のような建物に忍び混んだ。
門を抜け、周りを回廊に囲まれた石畳の空間に入ると、私たちは音もなく現れた邪神教の教徒に取り囲まれた。邪神教の教徒は白い法衣を身につけ、虚な目で私たちに弓と刀を向けている。
私は側にいたアリアを左腕で捕まえ、ナイフを彼女の喉元に突き付けて皆に伝えた。
「アリアを傷つけられたくなかったら、大人しく捕まってください」
「え? ラピス様?」
捕まえられたアリアがキョトンとしている。私の迫真の演技はあまり効いていないようだ。
「ラピス! な。何を言っているんだ!?」
「ラピス様!?」
カイルとエライザが驚く。こちらは結構リアルな反応を示してくれた。
「ふふ。私の計画に誰も気が付かないとは・・」
少し棒読みだっただろうか・・
でも実際、私は以前から市中で邪神教教徒と接触し、彼らが喉から手が出るほど欲しがっていた『イベリスの乙女』を引き渡す約束を取り付けていた。彼らの信用を得るまであと一押しである。
カイルとエライザとローガン先生は大人しく、邪神教徒に後ろ手を縛られて連行されていった。
私は、邪神教にアリアを引き渡すことによって、邪神教の白い法衣と準二位の位を示す邪神教徒の指輪を手に入れることができた。邪神教は世界の破壊と混沌をもくろむ集団で、この星の生命の循環を担うとされるフェニックスの復活を阻止することが悲願であったため、今回の功績は大きかったのだろう。
アリアを生贄にする儀式は早速今晩日が沈むとともに執り行われるらしい。
邪神教の建物の窓から夕日が刺してきたので、私は皆が捕まっている牢に出向いた。
地下へ続く石の階段を降りて行くと、一人の看守が椅子に腰掛けていた。
看守が見守る牢には、後ろ手を繋がれたままの三人が牢の壁を背に座っている。
私が牢の前に立つと、
「ラピス様!? どうゆうことですの!?」
エライザが未だ信じられないといった目で問いかける。
彼女にはここに来る前に魔法封じの術符をポケットに忍ばせておいた。
きっと魔法が発現しないことにもびっくりしているだろう。
カイルが硬い表情でこっちを見ている。少し怖くてカイルの目を見ることができない。
「アリアはもう一時間もすると祭壇にて生贄として捧げらます。
残念ですね」
私はそう言いつつ、エライザに向けて魔法封じの解除を小声で唱えた。
「(アンロック)」
エライザが「?」という顔で私を見た。
「それでは私は、ゆっくりと儀式を見学させてもらいます」
私はそう言うと看守の肩をポンと叩き、
「祭壇は中央階段を登った先ですよね?」と問いかけつつ、看守のポケットに眠り草の種を忍ばせた。
これで間もなく看守が眠りに付き、エライザの魔法で脱出できるはずである。
順調、順調と思って階段を登っていく私には、まさか牢の中でカイルが自身の持つ闇属性の魔法に侵食されつつあることなど全く想像もできていなかった。
日も沈み、アリアの生贄の儀式が始まる時間となった。
祭壇の前面には狂気の表情をした等身大の女神のブロンズ像が有り、その足元の台には眠らされたアリアが横たえられている。
祭壇の両側の階段状の席には五十人程の白い法衣を纏った教徒が静かに座っている。武器は持っていないようだ。
私は階段状の席の最上段に座り、皆が救出を開始するのを待っていた。
『バン!』と勢いよく祭壇の扉が開いたかと思うと、エライザの最大級の雷魔法が邪神教徒達に放たれた。
私も漏れなくエライザの雷魔法のダメージを受ける。これは、キツイ。魔法耐性は高めておいたつもりだけれど、体力の半分は持っていかれたかもしれない。
邪神教徒たちは雷魔法でよろめいており、一部体が動かせるものは祭壇から逃げつつある。
カイルとローガン先生が祭壇の上のアリアに向かって走って行った。
私はそれを横目に、痺れる体を引きずりつつ横の扉に向かった。
「アリア!」
ローガン先生が駆けつけ、アリアを抱きかかえた。
「脱出しましょう!」
エライザが叫ぶ。
ローガン先生とエライザが祭壇の出口に向かう中、カイルが怒りを湛えた目で言った。
「私はラピスを探してきます」
ローガン先生はカイルの全身からモヤっと立ち上りつつある黒い瘴気を見て、
「カイル君、だめだ。君も一緒にまず脱出しよう」
と言ったが、
カイルはローガン先生の方を振り返ることもせず、ラピスが出て行った扉に向かった。
私はエライザの雷魔法による痺れがやっと取れてきた体で、急ぎ邪神教の地下の宝物庫に向かって走った。
宝物庫の扉は高さ五メートルはあろうかという重厚な扉で、取手に赤い宝珠が嵌め込まれている。
赤い宝寿に邪神教徒の指輪をかざすと、カチリと音がした。
重い扉を開けると、中は大広間となっていた。
広間の中央奥の一メートル程の高さの祭壇に、柄に渦巻の文様が一面に掘り込まれた『輪廻の剣』が置かれていた。
(よし! 手に入れた!)
『輪廻の剣』を手に取り振り返ると、そこにカイルが立っていた。
カイルの全身にはうっすらと黒い瘴気が立ち上っている。
そしてその目は暗い怒りを湛えており、いつものカイルではない。
「カイル・・」
私の背筋に冷たいものが走り、脈が速くなる。
そういえばちょっと前にカイルが『高出力の闇属性の魔法を使えるようになったが、制御ができないので使い物にならない』と言っていた。
「ラピス・・ワタシヲウラギッタナ・・」
カイルが抑揚のない声で言う。
「カイル、騙してすいません。
どうしてもこの剣をアリアに渡したかったのです」
『輪廻の剣』を持つ手に冷たい汗がにじむ。
表情を変えないカイルの右手に、黒く渦巻く瘴気の塊が現れ始めた。
右手に現れたそれはどんどんとその大きさを増していき、黒い渦の中にチカチカと赤い閃光が瞬いた。
一瞬カイルの表情が歪み声が漏れる。
「ラピス・・逃げろ・・」
しかし、私の体は硬直して動かなくなってしまった。
カイルの右手が私に向かってゆっくりと振られると、黒い瘴気の塊が私に向かって放たれた。
黒い瘴気の塊は私の胸の中にズズズと入り込んでいき、胸を突き刺すような痛みと、内臓を吐き出すような嘔吐感が私を襲った。
急速に遠のく意識の中、もう取り返しのつかない後悔の念が込み上げてきた。
(私は間違えた・・
初めからカイルに作戦を伝えておけば、こんな事には・・)




